君の好きなところ(雨鬥 露芽 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●アンケート参加募集の貼り紙を見た
それは確かに不思議な貼り紙だった。
A.R.O.A.の本部での貼り紙だったので、完全に信じ込んでいた。
貼り紙の内容はシンプルだ。
指定の館でアンケートに答えてくれる人を募集している――というだけだった。

回答後は安全安心な個室で、茶菓子がついて一時間ゆっくりできると書いてあった。
たまにはいいだろうと参加した。

もちろん、身に危険は及んでいない。
貼り紙通り、茶菓子付きの個室に案内されて、ただ座っていただけだ。

個室は緑茶からジュースまで色々揃って、菓子も和菓子やクッキーなどが置いてある何とも贅沢な部屋だ。
壁紙もおしゃれで机や椅子もアンティーク調。部屋との統一感がある。
まるでホテルの一室だ。
これなら日頃の疲れも癒せそうだと思っていた。

なのに何故、今、このような状態になっているのか。


「今日はアンケートありがとうございました!」

そう言って部屋に入ってきたのは、ごくたまに見かける受付嬢だった。
それはとっても満足そうな笑顔。
アンケートに答えてもらえてさぞ嬉しかったのだろうと、俺は思った。

「集計が終わりましたのでこちらお返ししますね!」

先ほど書いたアンケートが渡される。
俺はその内容を見た。


先ほど答えたアンケートは、至って単純なものだった。

日頃のウィンクルムとしての活動にどう思っているか
活動のスパンや、どんな依頼が楽しかったか辛かったかなど
ごく一般的なアンケートだ。

最後に、自分のパートナーについて書く部分があった。
パートナーについて、どう思うか。
好きなところを3つ、気になるところを2つ書けとのことだった。

アンケートだ。思った通りに書いたさ。


――しかし、今俺の目の前にあるアンケート用紙には、俺が回答した内容が書かれていない。
と、いうことは。

「ねえ、こんなこと、思ってたの?」

これは、受付嬢のドジか?
それとも、あの笑顔はこれを狙ってやったからか?

「それなら、俺も、聞きたいことがあるんだが……」

お互いに思っていることが相手に伝わってしまったこの状況で
残りの時間、一体どうしろっていうんだ――

解説

ドジにしろ故意にしろ酷すぎる。
今回完全個別。

■目的
お互いの本心を露呈させてお互いを理解しよう、とのこと

■PC情報
・A.R.O.A.で貼り紙を見つけ、応募
・数日後、指定の館に参上
・アンケートには回答済み
・個室で茶菓子を頂きながらまったりしていた

・そこにA.R.O.A.の受付嬢が回答を持って来る
・精霊の回答は神人に、神人の回答は精霊に渡される
・受付嬢は満足げに部屋から出て行く

その直後から始まると思ってください。

個室からは出られません。
どう足掻いても出られません。鍵閉まってる。窓には鉄格子。何か壊せない。
なんてこったい。

あと館が山奥だったので交通費に300jrかかりました。


■アンケート
大事なのは下記の部分のみ
(↓の文面で載っていたとお考え下さい)

○現在共に来ているパートナーについてお答えください※必須
・好きなところを3つ
・気になるところを2つ

こちらが相手に筒抜けになります。
気になるところは好きじゃない所でも嫌いな所でもいいです。
直してほしい所でも。設問通り、気になる所でも。


■注意
・館内に職員は多数いる
・アンケート回答の際、精霊と神人は別の部屋で回答している(一室につき一人で回答)
・回答が返却されることは知らなかった
・相手に見られる可能性を考慮することは皆無に近い


■プラン
●アンケートに答えた内容
神人の回答は神人側に、精霊の回答は精霊側に書いてください。
【今回の省略記号】
・好きな所→○
・気になる所→△
【例】神人のプラン(=神人が精霊に思うこと)
○優しい
いつもアイス買ってくれる
背が高い
△何考えてるかわからない
色々細かい

「相手の○1の回答に喜ぶ」「△の回答がぐさりと刺さる」のように省略して使っても大丈夫です。
(○1=好きな所1つ目の回答、△=気になる所の回答全部)等

●行動
回答を見てどう思ったか
どう行動するのか
どっちからアクションが起きるか等

●アドリブ
満載の予感
プラン頭に×で回避可能

ゲームマスターより

お久しぶりです雨鬥露芽です。
シリアスになってますけどコメディでもロマンスでも何でも大丈夫です。
思ってることが露呈さえすればいいんです。

適当に答えてたのに見られて結局言及されるとかいうのも面白いなとか思うし、素直に答えても面白いことになるだろうなと思うし。
プロローグの二人は、顔が赤くなったのか青くなったのかどっちなんでしょうね?

一人称視点なのはプロローグだけです。リザルトはいつも通り書きます。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  わー、私の字にそっくりですねー
一体誰のアンケートでしょうねー(現実逃避)

○1優しい
○2一緒にいて落ち着く
○3頼りになる
買い物で重たい荷物とか持ってくれてますし、
道に迷っても探し出してくれますし

△1最近スキンシップが激しい
嫌ではないんです!
ぎゅってしてもらったりするのは嬉しいんですけど
心臓が持ちませんっ
△2戦闘で危ないことをさせたくない
怪我をしたらって心配になってしまって…

・好きなところを言って貰ったのは初めてで照れる
対○2:それ見たさにからかってくるのは止めてください!
対○3:(更に照れる)

・自覚なし、きょとんとしてる
対△1:警戒心くらい持ってます!…多分
対△2:が、頑張ります…


久野原 エリカ(久野木 佑)
  心情:
……まぁ、これは……気にされない方がおかしい、か。(静かに回答を見やりながら

回答:
○優しい所、
常にまっすぐで明るい所、
ちゃんと合わせてくれるところ(歩幅とか
△突っ走るきらいがあるところ
無茶しそうなところ

行動:
佑の△1にポツポツ答える。
・昔屋敷の離れに軟禁されてたこと。(家が古い考えを持っている上に神人を災いと見ていた
・そこで助けてくれたのが現二人目のパートナー・ヤスカ。
・ある夜の日外に出れたもののタイミング悪くオーガ襲来。屋敷壊滅死傷者多数。その時の父親の「お前のせいで」という最期の言葉がトラウマ(ここはトラウマぶり返してちゃんと話せないかと
○3に照れる
「か、可愛いって臆面もなく……!」


水田 茉莉花(八月一日 智)
  ○企画力、行動力、料理の腕前
△片付けしない、食べ物につられる

(手近に有るもの片っ端から投げつけ)
何ですかこの、このっ…思いっきり分かり易い回答はっ
そーじゃねーって、何がそうじゃないんですかぁ!(顔面鉄拳グー)

適当?!
ほー、あなたは適当で下着が…とか書くんですかこのバカちび!(すっぱぁん)

事故でも何でも良いです!今回はよーくわかりました!
明日から職場と家とで大片付け大会やりますから、文句言わないで下さい!

…真面目?
参考までに聞いておきます、何ですか?
ふえっ、ほづ、ほづほづ、ほづみさん、よく分かんないですもう一回

あのー、そのー…あたしもほづみさんと一緒に
ケーキバイキング行けるようにした方が…いい?


和泉 羽海(セララ)
  ○優しい
ポジティブ


△思い込みが激しい
メールがうざい

■赤面からの顔面蒼白
…なんとなく予想はしてたけど…誰が見るかもわからないアンケートに…
ここまで正直に…書かなくても…
これ、匿名だよね…?あたしのことだって、分からない、よね…?
…………待って、ここにこの人の回答があるってことは…
あたしのは……?(おそるおそる視線を上げる

か、返して…!そういうことしなくていいから…!
(無理やり奪い取る)

見られた…!こんなことなら、正直に書くんじゃなかった…!
あたし、なんて書いたっけ…変なこと書いてな…そこは気づかないでほしかった!

『他に書くことがなかっただけ』(筆談

ちらりと精霊を見て
『ほ、本当だから!』(口パク



「これはお前のか?」

 にやりと笑うグレン・カーヴェルが向けてきた用紙を見て
 ニーナ・ルアルディは笑顔のまま固まった。

「わー、私の字にそっくりですねー。一体誰のアンケートでしょうねー」

 思いっきり現実から背こうとしているが
 どう足掻いてもそれはニーナの回答であり
 どう足掻いてもグレンに見られてしまっているのだ。


「返して下さい!」
「えーと気になっているところは……」

 用紙を見つめながら、慌てるニーナをからかうグレン。
 身長差に勝てるわけもなく、跳びはねた所で手は空を掴む。

「最近スキンシップが激しい、ね」
「い、嫌ではないんです!」

 グレンの言葉に、反射的に説明を始めるニーナ。
 もちろん、嬉しいに決まっているのだ。
 ただ、グレンが好きすぎて鼓動が鳴りやまないだけで。

「あの、心臓が持たなくてっ」
「一々可愛いことするのが悪い、諦めろ」

 ズバッとニーナの主張を切り落とすグレン。
 可愛いと言われたニーナは顔を赤くして黙ってしまう。

「まぁ戦闘については、一人で前に出ないように気をつけるさ」

 拒否するだけではない。
 二つ目の気になるところを受け止めてくれたグレンに、ニーナがとても嬉しそうな表情をする。

(そういうところが見てて飽きないんだけどな)

 先程まで真っ赤になって黙りこくっていたのに
 グレンの言葉一つで今度はとっても嬉しそうに笑う。
 怒ったり泣いたり笑ったり、喜怒哀楽の激しいニーナ。
 それがグレンの思う好きなところ。
 今だってぶんぶん振り回す尻尾が見えそうなくらいだ。

「で?俺のは何て書いてあった」

 見られても全く動じていないグレンは
 むしろ反応を見たいのか、この状況を楽しんですらいるのか、自分から回答について尋ねる。

「えっ……」

 ニーナは回答を見なおして、直接的に書かれた『見ていて飽きない』の文字に再び顔を真っ赤にする。

「は、反応見たさにからかってくるのは止めてください!」

 好きな所を言われるのは初めてだったニーナ。
 こうして言われるのは嬉しいような、恥ずかしいような。
 でもからかわれるのは勘弁してほしい。
 なんとも複雑な心境。
 先程のことも今起きていることも、それの一つだ、とニーナはわかっているのだろうか。

「ふ、二つ目も、あの……!」

 恥ずかしさのあまり、言葉にならないニーナ。
 もごもごと口を動かして何か言いたそうにしているが、結局形にはならない。
 そんなニーナを見て、グレンは多分心で笑っている。

 ニーナは嘘をつかない。というかつけない。
 表情に声に反応に、全部出てしまう。
 グレンはそれが可愛くて、そして大好きなのだろう。

 そうしていつもニーナを想って考えているのに。

(安心って断言されんのも複雑だよな)

 ニーナの回答を見て、改めて思う。
 『一緒にいて落ち着く』と、はっきり書かれてしまっているのだ。
 グレンも男だ。
 さすがに気を許され過ぎるのも辛いものがある。色々と。

「他のところは?」
「あ、えーと……」

 座り始めたグレンにつられ、ニーナも回答を見ながら一緒になって横に座る。
 全体的に探しているニーナを、グレンがじっと見る。

「人を信用しすぎ。俺も信用しすぎ」

 目の前にある文章が隣から飛んできたことに、ニーナは驚いた。

「その内誘拐されても知らねーぞ、ちったぁ警戒心くらい持て」
「警戒心くらい持ってます!」

 ばっとグレンを見ると、座った故に近くなったお互いの目線。
 グレンからしてみればその言葉は信用できなかった。

 実際ニーナは、グレンを見かけたと聞いて見ず知らずの男についていったことがある。
 簡単に人を信じていた証拠だ。
 その時は、本当に危なかったのだ。
 あんなこと何度もあってはたまらないし、それを心配しつづけていてはグレンも気が気ではない。

 そんなグレンの視線を受けて、段々と自信がなくなったニーナ。

「……多分」

 小さく付け加えて、ちょっとだけしゅんとする。

「それからお前な、家で無防備な格好あんま晒すなよ」
「が、頑張ります……」

 顔を赤くしながら、どんどん小さくなるニーナ。
 グレンが『俺も』と付けたもう一つの気になるところ。
 ニーナを本当に大切に想うからこそ、もう少し警戒してほしいのだ。
 自分の身を、守ってほしいのだ。

「グレンは本当に頼りになりますよね」

 いつも守ってくれて、こうしてニーナの事を考えてくれる。
 優しくて、頼りになる。だからこそ安心する。

 そんなニーナの気持ちを回答から汲み取っていたグレンは、表情には出さずともどこか嬉しそうで。

「買い物で重たい荷物とか持ってくれてますし、道に迷っても探し出してくれますし」
「お前が迷う場所は大体予想がつくようになってきたぜ」

 グレンの返事から、ニーナが何度も迷っている事が伝わってくる。
 そうして申し訳なさそうにするニーナに、グレンが呟いた。

「探すのも大変なんだ。あまり離れんなよ」

 その言葉に、ニーナが幸せそうな表情をする。
 ころころと変わるニーナの表情。

 グレンは、やはり楽しそうだった。



(……うっ……そぉ)

 久野木佑は自分が渡された回答を見て、顔を青くした。

 それは自分の物ではない回答。パートナーである久野原エリカの物と思われる回答。
 つまり自分の回答は相手の手元にあるというわけで
 結構な事を書いてしまった佑は、やってしまったと言わんばかりの顔をした。

 そのエリカといえば、自分の向かい側で回答を静かに見つめているだけだ。

(……え、エリカさん怒って……る?!)

 ただじっと回答を見ているエリカ。
 一切の反応がないエリカ。
 そこには踏み込んだ内容が書いてある自分の回答。
 もしや内容に怒ったのかもしれない。

 佑はそう思ったと同時、ガバッと勢いよく謝った。

「踏み込んだこと聞いてすみませんでした……!」

 その勢いに、机に乗っていたティーカップがカチャンと音を立てる。
 エリカが少しだけ驚いたような表情で、顔を上げた。

「エリカさんアイツと引き合わされた時その、尋常じゃなかったし、心配で、その」

 アイツ――
 新しいパートナーである、ヤスカ・ゼクレスだ。
 ヤスカとの契約の時、エリカは相当なパニックだった。

 エリカが大切で仕方がない佑。
 それを見てしまった以上、何かあったのではと心配になる。
 今までずっと、気になって仕方がなかった。
 自分は、エリカの過去を何一つ知らないと、悔しかった。

 それは、エリカを守りたいがために。

「……あぁ、別にいいんだ」

 エリカは佑の頭を上げさせた。
 エリカ自身、回答を見てすぐに察していた。
 気にされない方がおかしいことだ、と自分でわかっていた。

 しん……と空気が静まりかえった。
 不安そうな佑の顔に、エリカが小さく息を吸う。


「――私の家は、古い考えを持っていてな」

 ぽつり。
 エリカが語り出した。

 神人はオーガを呼ぶ。
 故に神人は、災いを呼ぶ。
 エリカは軟禁されていた。

「私をそこから助けてくれたのは、ヤスカ先生だった」

 その日を思い出すかのように、目を閉じるエリカ。
 思い出されるのは、あの時の惨状。

 崩れ落ちる屋敷。
 逃げまどう人々。
 叫び声、呻り声。
 そして――倒れた父親の台詞。

「偶然、だったんだ」

 それはある夜だった。
 運良く外に出る事が出来た。

 あったのは解放感だった。安心感だった。
 ひどく、救われた気持ちだった。

 しかしそれは一瞬で消え去った。

「オーガが、来襲した」

 何故かはわからない。
 神人の気配を察知したのか、はたまた本当に偶然か。
 今となっては、何もわからない。

 ただわかるのは、全てが壊れたということだけ。

「屋敷は壊滅し、死傷者は多数いた……」

 エリカの声が、肩が震え出す。
 怖いのだ。辛いのだ。
 まだ、癒えてはいないから。

 佑は、そんなエリカを見て苦しくなった。
 傍にいたいと、守りたいと
 エリカの隣に座った。

 エリカの脳裏から離れない一番の恐怖。
 その時の、父親の最期。

 責める瞳と、血まみれのその姿。
 開いた口から零れた言葉は、自分を捕えて離さない。

――お前のせいで――

「私……」

――私があの家にいたから――

「私、が」

――私が、あそこから出たから――

「無理に全部話さなくていいですよ」

 震えた声を遮った。
 強く握っていた拳に、佑が手を重ねた。

「話してくれて、ありがとうございます」

 にこり、と笑う。

「エリカさんは、優しいですよね。
 エリカさんの答えてくれた気になるところだって、俺の事を心配しての事だってわかりますから」

 それは、エリカの言葉の続きなど知らずに出た言葉。
 だけどそれは、心に刺さっていた言葉に、少しだけでも響く言葉。

「お前だってそうだろう」

 佑は優しい。
 こうして、自分を気遣ってくれる。一番最初に書いた事。

 いつだってそうだ。
 いつも明るくて、前を向いていて。
 眩しいくらいに。

 それでいながら、エリカのペースに合わせてくれる。
 そんな佑だから、救われることもある。

 自分の書いた事を反芻し、改めて佑の回答を見なおす。
 エリカをよく見てくれている。
 しっかりしている、だけど、心配になる。
 そんな佑の優しさが心に滲みる。

「……おい、バカ犬」
「はい!何ですかエリカさん!」

 本当に馬鹿にされているわけではない。
 わかっているからこそ、とても嬉しそうに返事をする。

「何だ、この、か、可愛いって……!!」

 エリカが顔を真っ赤にし、人差し指を回答に突きつける。

「俺、楽しそうにするエリカさん大好きですから!」

 佑はエリカの反応をわかっているのかいないのか、満面の笑みをエリカに向ける。
 恥ずかしそうな様子など全くない。

「これからも沢山、楽しい事見つけましょうね!」

 先程の悲しみは、既にこの部屋から消えていた。
 それに二人は、まだ気付いていない。
 今の感情を、お互いの気持ちを、全身で感じているから。

 過去は、きっとまだ癒えない。
 でもいつか、必ず俺が守ってみせるから。

 佑は、心の中で強く決意した。



 ガン!ゴン!バシン!

 騒がしい物音が部屋の中心で響いていた。

 音の正体は、水田茉莉花――の手から放たれる物達だ。

 茉莉花は辺りの物をとにかく投げまくっていた。
 標的はもちろん、渡された回答の主である八月一日智だ。
 どうやら回答の内容に怒っているらしい。

「何ですかこの、このっ……思いっきり分かり易い回答はっ」
「いでっ、いでぇ! うわっ、あのっ」

 飛んでくるペンやら本やら、果ては帽子まで飛んでくる始末。
 傍にあるものを片っ端から投げているのだ。説明しようとする智の声は、茉莉花の耳に全く届くわけもない。

 智はボスンと顔を覆った白いウサミミパーカーを急いで避け、聞いてくれと言わんばかりに異議を唱える。

「そーじゃねー!」

 ぴたり。
 智の大きな声に一瞬止まった茉莉花だったが
 言葉の意味を把握した瞬間、握っていた拳を突き上げて智へまっしぐらに叩きこんだ。

「そーじゃねーって、何がそうじゃないんですかぁ!」
「ゴブァ!」

 顔面にしっかりと入った茉莉花の鉄拳、グーパンチ。
 カンカンカン!勝者茉莉花――と、ゴングが鳴った気がしなくもない。

 茉莉花は床に倒れた智を放置し、投げつけた物を元の場所へと片付け、自分の回答を智の手から回収していく。

 手に持っていた以上、智も茉莉花の回答を見ているはずなのだが、智は特に気にも留めていなかった。
 至ってシンプルな茉莉花の回答は、智にとって想定の範囲内だったらしい。
 ある種、お互いにわかりやすい回答であるような気がするのだが。


 それから少しして、智はゾンビのように復活。
 ソファーに座る茉莉花の隣に腰を下ろした。

「……あのだなー」

 真っ赤になった左頬を摩りながら、弁明するように言葉を紡いでいく智。

「みずたまりに見られると思ってなかったし、それに何書いて良いかわっかんねーんだもん
 適当に書くしかねーだろ!」
「適当?!」

 放り投げられた智の言葉に、茉莉花がショックな反応を見せる。

「ほー……」

 受け入れたように聞こえる返事。だが恐らく一切受け止めてすらいない。
 笑っているように見える口元。しかし、多分、というか絶対笑ってない。
 膝の上に置かれた手はわなわなと震え、頭には怒りマークが見えそうだ。

「あなたは適当で下着が……とか書くんですか」

 茉莉花の手が空を切った。

「このバカちび!」

 それはすっぱぁんとスタイリッシュな音を立て、智の頭へ命中。

「うでーっ、したっ、下着はしょうがねーだろ!
 一緒に住んでりゃ洗濯物干してるときに見ちまうだろ、事故だ事故!」

 叩かれた頭を押さえて必死な智。

 お互いに家事をやれば起きてしまっても仕方がない事故。
 茉莉花も智の下着を見たことがあるはずだ。
 任務の途中ですら、そういった事故は起きている。
 おあいこ様だ。

 とはいえ、女性の下着のセンスに文句をつけるのは些かデリカシーに欠けるというか
 それを他人が見るものに書くのはさすがに失礼というか。

「事故でも何でも良いです!今回はよーくわかりました!」

 適当に回答をされ、挙句下着についても文句を言われ。
 このままでは気がおさまらないのだろう。

 茉莉花は立ち上がり、智に人差し指をつきつけると
 全く部屋を片付けない智への感情を爆発させた。

「明日から職場と家とで大片付け大会やりますから、文句言わないで下さい!」

 色々なものが捨てられそうな勢い。
 智は、茉莉花があまりにも怒っているのだと理解し「あーもうなんだよー!」と嘆いた声を出す。

「なんだよって何ですか!」

 ぴしゃりと茉莉花が怒る。

「……んじゃまじめに書いておけば怒んなかったんかよー」

 拗ねたように口を尖らせる智に、茉莉花がぴくりと反応した。

「真面目?」

 どうせ大して変わらないでしょう。
 目がそう言っているような気がしないでもない。
 怒っているから言い訳しようとしているだけだ、と思っているのだろう。

「参考までに聞いておきます、何ですか?」

 腕を組んで全く期待しない素振りを見せる茉莉花。
 智はさすっていた手を頬杖に変えて答えた。

「好きなところ『全部』だよ」

 その言葉に、茉莉花が「ふえっ」と素っ頓狂な声。

 それに被さるように「いちいち挙げんのもめんどくせぇ……」と零しながら茉莉花を見ると
 茉莉花は先程までと真逆の表情で、顔を赤くしながら口をぱくぱくさせていた。

 何を言われたのか頭の中で処理しきれていないのか
 それとも聞き違いかもしれないと思ったのか
 もう一度聞きたかったのか
 もしかしたら全部かもしれない。

「ほづ、ほづほづ、ほづみさん、よく分かんないですもう一回」

 回らない口と上擦った声。
 それを受けた智は、今度はしっかりと茉莉花を捉えて言った。

「全部っつったら全部だ。何度も言わせんなでかっちょ」

 先程から赤くなった顔がより一層、どんどん真っ赤になっていく。
 静まりかえった部屋の中。
 何も言わない茉莉花と智。


 熱くなる体温と空気を、どうにかしようと口を開いたのは智だった。

「……とりあえずまあ何だ」

 わしゃっと頭を掻いて、一瞬のリセット。

「おれの寝室兼書斎については、きっちり片付けするから……さ」

 もう怒ってないだろうか、と茉莉花の顔を覗くと、静かにこくりと頷いた。
 お互い、気持ちがわかったことで少しだけ譲歩できるようになったのかもしれない。

 それは甘いものが苦手な事を書かれていた茉莉花も、例外ではなくて。

「あのー、そのー……」

 言いづらそうに切り出しながら、じっと智を見る。

「あたしもほづみさんと一緒に、ケーキバイキング行けるようにした方が……いい?」

 その質問に返ってきたのは、智の嬉しそうな微笑みだった。



(……なんとなく予想はしてたけど)

 渡された回答を見た和泉羽海は、真っ赤な顔で唖然としていた。

(誰が見るかもわからないアンケートに……ここまで正直に……書かなくても……)

 それはセララの回答とすぐにわかるほどの文字と内容。
 好きな所を3つと書かれたはずの質問に『全部』と書いた挙句
 その詳細をずらずらと、3つの欄が文字で埋まりつくすかのように書かれた回答。
 一応三行でまとめているだけマシなのかもしれないが
 集計された際、アンケートの回答としては無効にされるのではないだろうか。

(これ、匿名だよね……? あたしのことだって、分からない、よね……?)

 返却されてる時点で受付嬢には把握されていると思うのだが、どうやら羽海は気付いていないらしい。
 気付いても良いことはなさそうなので、このまま気付かない方が幸せかもしれない。

 そこでふと、別の事に気付いた。

 手の中にあるのは、自分の回答ではなく、セララの回答。
 それは自分から見せてもらったものではなく、受付嬢から『お返ししますね』と渡されたものだ。

(ってことは、あたしのは……?)

 羽海は顔を真っ青にし、恐る恐る顔を上げた。


 一方、向かいに座るセララといえば舞い上がっていた。

(素敵なハプニングをありがとう受付嬢!)

 羽海の回答を握りしめながら、感動と感謝を心で叫んでいるセララ。

 自分の好きな所を答えているのだ。
 あの羽海が。

 嬉しくないわけがない。
 何だかんだ言いながらちゃんとセララを見ていたわけだから。

 もちろん、気になる所の回答も埋まっていた。が、それは見ていないことにしたセララ。
 さすがのポジティブシンキング。羽海も好きな所に挙げるわけだ。見習いたい。
 それが羽海の気になる思い込みが激しい所に、ある意味繋がっているような気がしなくもないが。

 喜びながら羽海を見ると、どことなくダメージを受けているような羽海がいた。
 そこからゆっくりと顔を上げ、こちらを見ようとする羽海に
 セララが「どうしたの?」と尋ねると、羽海は慌てたような表情をした。

『か、返して……!』

 羽海が口を開いて、手をぱたぱたと振る。
 どうやら回答用紙を返してほしいらしい。
 挟んだ机を手が越えようとしてくる。

「わかった、返すよ!でも写メ撮るから、ちょっと待って!」

 急いで携帯を取り出そうとしたセララだったが
 『そういうことしなくていいから……!』と机を乗り越えた羽海の手によってそれは制された。

(見られた……!)

 二度と見られないようにとびりびりに破く羽海。
 集計は終わっているのだ。もうこの紙に用などない。

(こんなことなら、正直に書くんじゃなかった……!)

 わかっていれば、と後悔が押し寄せる。
 自分を責めたい気持ちでいっぱいになる。

「あぁっ破らないでぇ!!」

 セララの叫びは届かず、それは細切れの紙となっていった。


 それでもセララはニコニコと笑っていた。
 画像としては残っていないが、セララの頭の中にはしっかりと残っているようだ。

 しかし羽海はその笑顔が気になって仕方がない。

(あたし、なんて書いたっけ……)

 セララとは違い、羽海の頭の中にはあまり残っていなかった。
 テストじゃあるまいし、自分が書いた事をはっきり覚えている必要もなく、意識的に書いたわけでもなかったためだ。
 とはいえ用紙は破いてしまった。確認のしようがない。
 俯いたまま、必死に頭の中をぐるぐると探しているとセララからの質問。

「ねぇねぇ、ひとつだけ聞いてもいいかな?」

 羽海の頭に、変なこと書いてなかっただろうかと不安がよぎったが
 それはセララの一言ですぐさま崩壊していった。

「羽海ちゃん、オレの『顔』好きなの?」

(そこは気づかないでほしかった!)

 ガーン、と効果音が羽海の頭に落ちて来そうだった。
 隠していたのに。気付かれたくなかったのに。

 メモ帳を取り出し『他に書くことがなかっただけ』と必死に書いて見せるも
 「そっかー」とにやにや笑うセララには何の効果もないらしい。

 セララからしてみれば嬉しくてたまらないのだ。
 顔は、モデルをしている自分の武器であり、魅力だと自負している部分。
 そこを好きだと言われているのだから、嬉しくないわけがない。

『ほ、本当だから!』

 羽海がちらりと顔をあげ、口パクで伝えるもののセララは動じない。
 「そっかー」と再び笑うだけ。

 セララには、頑張って隠そうとしているのが丸わかりなのだ。
 そしてそれはセララにとってはツボなのだ。だから可愛くて仕方ないのだ。
 もう何をしても逆効果だろう。

 現に羽海の顔は真っ赤で、説得力の欠片もなくなっているのだから。

(本当可愛いよね!)

 セララは幸せそうに笑っていた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:水田 茉莉花
呼び名:みずたまり・まりか
  名前:八月一日 智
呼び名:ほづみさんさとるさん

 

名前:和泉 羽海
呼び名:羽海ちゃ~ん
  名前:セララ
呼び名:アレ、あの人、セララ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雨鬥 露芽
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 01月09日
出発日 01月19日 00:00
予定納品日 01月29日

参加者

会議室


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