【祝勝/船旅】今宵一晩、君は僕の(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 その日の夜。
 豪華客船でのひとときをいったん終えて、客室に戻ってきたあなた達。
「わあ……すっごい綺麗」
 部屋の窓を覗けば、大海原の上に、満天の星。
「私、貴方とこれを見られただけでも幸せだわ」
 客船にふさわしくスーツを着ている相棒は、微笑しながら、あなたの隣へとやってくる。
「そんな君に、もうひとつプレゼントがあるんだけど」
「えっ?」
 クリスマスプレゼントならもう貰ったし、こうして楽しい時間まで貰っているのに、これ以上何が?
 あなたは相棒を振り仰ぐ。
 すると彼は、スーツの胸ポケットから、小さな紙の袋を取り出した。
「もう聖夜は終わって、新年がきた。そんなとき、年長者が年下に渡すものがあるんだって。僕も今年初めて、知ったんだけどね」
 そんな言葉とともに渡された袋を、あなたは不思議な気持ちで見つめる。
 年長者が、年下に……これは、子供扱い?
 それともただの説明事項?
 そう考えていることがわかったのだろう。相棒は、開けてごらん、と言った。
 言われるままに開けば、中には何も書いていない、一枚のカード。
「本当は、お小遣いをあげるらしいんだけどね。それじゃ無粋だなあって思って……。代わりに、今晩一晩、君を特別な人として扱ってあげる。大人でも、お姫様でも、僕の恋人でも、君はなりたいものになっていいんだ。ただし効果はこの部屋の中に限り。どう? お小遣いより、スリルがあっていいでしょう?」

解説

まずは、豪華客船『ラピスラズリ・プリンセス』の中で過ごす代金として、500jrいただきます。

お年玉ではなく、カードを貰ったあなた。
相棒に、どんな自分として扱ってほしいですか?
お姫様? 主? 恋人? それとも下僕?
カードにひとつ書くか、相手にひとつ、伝えてください。

お願いは年齢に関係なく、どちらがしても大丈夫です。
困惑する相棒に「じゃあ僕を、一晩君の恋人にしてよ」なんていうのもありかと。

間取りは、ツインベッドのベッドルームに、テーブルセットやテレビ、冷蔵庫などがあるリビング用の部屋の2部屋がくっついたものです。
今はリビングの部屋から、外を眺めていました。
この部屋にありそうなものならば、何を使っても構いません。

が、公序良俗の範囲内でお願いします。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。

こちらはウィンクルムごとの執筆になります。
また、お正月でお忙しいかと思い、相談期間が長めですので、ご注意ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
最近何だか不安なの
理由は分からないけれどエミリオが離れていってしまう気がして
彼のお父さんの事で私焦っているのかな

☆リビングにて
本当になんでもいいの・・・?(赤い顔でもじもじ)
だったら私の・・・旦那様になって・・・ほしいな
あ、あのね、まだ気が早いのは分かっているの
でもね、私もっとエミリオに近づきたい
私エミリオのことになると欲張りになっちゃうみたい

(精霊の微笑みの中に悲しみの色を見つけ心配そうに彼の顔を覗く)エミリオ?
私も貴方の傍にいられて幸せ

☆ベッドルーム
大好きな人に抱きしめられているんだものドキドキしちゃうよっ
エミリオは違うの?
~っ、(珍しく自分からキス)
・・・エミリオ、ずっと傍にいてね






かのん(天藍)
  夜も更けた時間
もう少し早く渡しておくんだったなの言葉とカード受け取る

天藍が普段どおりにいてくれればそれ以上望む物はないのですけれど…
姫の我が儘を叶える騎士に?
そんなに甘やかしたらいけないんですの返しに頬が染まる

考えて
天藍の時間を少しだけ私のために使ってください
隣に座り抱き締めて貰う
天藍の腕の中にいる時が一番安心する気がするんです

もう、このまま眠れるわけないです
天藍が眠ったようなのでベッドにより寝顔を覗く
触れたら起こしてしまうでしょうか…

いつも私の事を考えて幸せを渡してくれる天藍に
私も貴方の我が儘を叶えたいんです
大好きですと一言そっと呟いて、起こさないように気を付けて前髪にキスを贈りベッドに戻る


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  楽しげに袋を渡し
あたしの方が年上なんだし、たまにはこういうのも面白いかと思って
何でも言って、お姉ちゃんとかでもいいわよ

伴侶って…奥さん!?
そ、そんなの駄目!無理!(真っ赤
何でもとは言ったけど…こ、恋人じゃダメ?

気を取り直して、恋人らしく寄り添って空を眺める
心なしか背中の感触がいつもより大きな気がする
そうね、いいお部屋だし星も綺麗…え?
…バカ、言われなくたってレム以外の人に背中を預けたりしない
そのまま甘えるようにもたれかかり、振り向いて微笑み
大好きよ、レム
…い、今のは『一晩は恋人』だからよ

こんなに幸せな時が一晩だけだなんて
分かっていたのに終わりが来るのが怖い
このまま時が止まってしまえばいいのに


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  もうすぐ、お誕生日なので…プレゼント、です
主人とメイドでも…何にでも

こ…子猫…っ?
予想外の答え
腹を括ってソファへ近付き
恐る恐るジューンの膝に乗る

…にゃあ
赤面しつつ見上げれば
見たことがない表情のジューン
何か違ったかと心配になり
にゃ?
と小首をかしげて呼びかけると
今度は顔を逸らされる

(やっぱり、間違っていたみたい…です)
赤面して慌てて降りる

真っ赤なジューンと目が合う
なぜか彼が可愛らしく思えてふふっと笑いが

子猫がするように首元にすり寄れば
優しい指が髪を滑る
不思議な安心感と満たされる心

もし聞こえなくても、この言葉が私からの本当のプレゼント
…ジューンさんが、好き…です
小さく呟き、温もりに包まれて目を閉じた


ユズリア・アーチェイド(ロラン・リウ)
  それでは私をお嫁さんにしてくださいまし
血筋も家も何も関係ない、ただの兄様のお嫁さんに

そ、そうですわね、で…では、ロラン
なんだか気恥ずかしいけれど嬉しいですわ

ロランの手は優しいのですわね
昔から知っていたけれど、その優しさを久しぶりに素直に受け取れた気がします
この手に何の謀略もないのですから

この夜のこと、忘れたくありません
でも、もう二度とないのでしょう
血筋や家がなければ私達は出会わず、婚約もなかったのでしょうから
寂しいけれどそれが貴族の定め
私が誇りある貴族の娘として受け入れている運命ですから


●運命に背きし夢の一夜

 ユズリア・アーチェイドは、ロラン・リウから受け取ったカードを胸に押し当てた。
 一夜限りとは、なんて甘い響きだろう。
 叶うはずのない願いを口にしても、今夜ならば戯れと許されるのだから。
 ユズリアはロランをまっすぐに見上げた。
「それではわたくしをお嫁さんにしてくださいまし」
「お嫁さん? 今しなくともいつかはそうなるのでは?」
 ロランは怪訝な顔を見せた。
 なにせ彼女は既に婚約者と決まっている。時が経過すれば、いずれは自分の隣で、真っ白なウエディングドレスを着ることになるのだ。
 しかしユズリアは「違うのです」と首を振る。
「血筋も家もなにも関係ない、ただの兄さまのお嫁さんにして欲しいのです」
「……なるほど、それは特別なお嫁さんだ」
 ロランは口の端を上げた。
 貴族が護るべきものをすべて捨ててというならば、彼女の願いの理由がわからぬでもない。
「では兄様ではなく、是非名前で読んでくれ。夫を兄と呼ぶのは滑稽だろう? 俺も貴方に……いや、お前に敬語で接するのは、今はやめる」
 その言葉に、ユズリアは薄らと頬を染めた。
「そ、そうですわね。で……では、ロラン」
 躊躇うように名を呼んで、わずかに目を逸らし、彼女は再びロランの顔を見る。
 いつも気丈なユズリアの年相応な戸惑いが愛らしく、ロランは彼女に手を伸ばした。
「さあ、もっと近くにおいで」
 にこりと微笑みかければ、彼女は小さく、一歩を踏み出す。
 そしてそのまま、ロランに導かれるようにして、ユズリアはソファに……ロランの隣に腰を下ろした。
 傍らに彼がいるのは珍しいことではないのに、こうも胸が落ち着かないのは、先ほどの言葉のせいだろう。
 自分が発した『お嫁さん』ではない。彼が発した『夫』という単語だ。
 ――今だけは、兄様はわたくしだけの旦那様なのですね……わたくしだけを見てくださる。
「ユズリア、そんなに連慮することはない。もっとこちらへ」
 二人の間にあいた、拳二つほどの距離。それすらを埋めるように、ロランはユズリアを抱き寄せた。
 ユズリアのぬくもりを腕に感じながら、彼は彼女の髪を撫ぜる。
 聞こえない波の音に耳を澄まして、二人は輝く星空を見つめた。
 しんと静まり返る、室内。
 その沈黙を破ったのは、ユズリアだ。
 彼女は紫色の瞳を、うっとりと細めて言う。
「ロランの手は優しいのですわね」
「優しい? 出会ったころと変わらないが」
 ロランははたと、髪を辿る動きを止めた。
 ユズリアは夜の世界から視線を戻し、傍らの『夫』を見つめる。
「昔から知っていたけれど、その優しさを久しぶりに素直に受け取れた気がします。この手に何の策略もないのですから」
 ――今は、と。彼女の中ではついていているのかもしれない。
 そんなことを思いつつも、ロランは「そうだな」と返した。
 なにせこれは一夜の夢。
 紅茶に入れれば溶けてしまう角砂糖のように、儚く甘い非現実なのだから。
 ロランは問いかける。
「二度と無いお嫁さんごっこは、楽しゅうございましたか?」
「……この夜のこと、忘れたくありません」
 ユズリアは俯き、そう口にした。
 だが彼女は知っている。彼が言ったように、このような時は二度と訪れないということを。
 血筋や家がなければわたくしたちは出会わず、婚約もなかったでしょう。
 寂しいけれど、それが貴族の定め。
 わたくしが誇りある貴族の娘として受け入れている運命、ですから。
 あえて言わない決意を胸に、ユズリアは今宵だけと、ロランに寄り添う。
 彼もまた、知っている。
 小さなユズリアは、強く見せていてもけして強靭ではなく、いつも女傑ではいられないということを。
 だから、次はない……という言葉はあえて飲み込み、「そうだな」とだけしか、返さなかった。
 哀れで可憐で美しいユズリア。
 その髪を、ロランは撫ぜ続ける。
 この夜が儚くも楽しい夜であったというならば、夜明けに共に、紅茶を飲みほそうではありませんか。
 それが、今宵の夢の終わり。

●罪を隠した希望の一夜

「ねえ、ミサ。俺にどうしてほしい?」
 エミリオ・シュトルツは、ミサ・フルールに問うた。
 鼓膜を震わせる低く甘い声も、寄り添い触れる肩の温もりも、ミサにとっては初めて感じるものではない。
 ……それなのに、こんなにも心が波立っている。
 ミサはおずおずと、エミリオの赤い瞳を見上げた。
「本当に何でもいいの……?」
 あの赤ほどではないけれど、きっと自分の頬も色濃く染まっていることだろう。
 でもそれは仕方無いことだ。
 エミリオが真っ白なカードを渡してくれたとき、ミサが思い描いたことはただひとつ。
 それを今、告げるのだから。
「だったら私の……旦那様になって……ほしいな」
 恥ずかしいのだろう。はにかみ揺れる瞳を、エミリオは見下ろしている。
「あ、あのね、まだ気が早いのはわかっているの。でもね、私もっとエミリオに近づきたい」
 身体の横でぎゅっと握られた手に、彼女の想いの強さがわかる。
 純粋で、まっすぐで、愛らしいミサ。
 少しばかり目を逸らして、彼女は呟く。
「私エミリオのことになると欲張りになっちゃうみたい」
 ミサが願うのは、希望だ。
 こんなの、欲でも何でもない。
 自分を欲してくれることが嬉しくて、しかし言えない事実が、エミリオを静かに追い詰める。
 もちろんミサに罪はない。彼女はただ純粋に、エミリオを愛してくれているだけだ。
「エミリオ? どうかしたの?」
 答えないエミリオに、ミサの瞳が不安色を映す。
 自分を見つめるエミリオの穏やかな微笑みの中に、悲しみを見た気がしたのだ。
 しかしエミリオは、彼女に名を呼ばれた瞬間に、憂いの欠片を隠してしまう。
「……なんでもないんだ。ただお前が俺にそう言ってくれたことが、嬉しくて」
 そう言う様子は、もういつもの優しいエミリオだった。
 エミリオは、乞う。
 たとえ胸中が嵐の海のように荒れていたとしても。
 許されない罪ゆえに、ミサという温もりを手放なす未来が来ようとも。
 いや、そんな日が来るとわかっているからこそ。
 どうか今この瞬間だけは、彼女の夫になることを許してほしい。
 なにも知らないミサは、いつもの鮮やかな笑みを見せた。
「私も、貴方の傍にいられて幸せ」

 しばらく海を眺めた後、二人はベッドルームへと向かった。
 ひとつのベッドに身を横たえ、エミリオはミサを抱きしめる。
 だがミサは、腕の中でもぞもぞと落ち着かない素振り。
「何を恥ずかしがっているの。夫婦たるもの、一緒に寝るものでしょ」
 エミリオはミサの耳元で、いかにも真面目な口調で囁いた。
「大好きな人に抱きしめられているんだもの、ドキドキしちゃうよっ。エミリオは違うの?」
 聞けばエミリオは小さく笑って、ミサの胸の上にそっと耳を押し付ける。
「本当だ、ドキドキしてるね。……それにしても、ミサは温かいな」
 とくとくと弾む鼓動を聞かれていることが、恥ずかしい。
 けれど。
「エミリオ」
 ミサが呼ぶと、エミリオはミサの身体の両脇に手をついて、ゆるりと身体を持ち上げた。
 ちゃんと目を合わせて応えようとしてくれるところが、彼だ。
 二人の瞳の距離は、わずか数センチ。
 ミサはくいっと顔を持ち上げ、彼の唇にキスをする。
「なっ……」
 思いがけないミサの行動に、エミリオの顔がいっきに赤く染まった。
 しかしそれには構わず、ミサは彼の首に腕を回すと、その身体をぐっと引き寄せる。
「……エミリオ、ずっと傍に居てね」
 これは彼女にとって、お願いではなく、懇願であった。
 なぜかはわからない。でもいつか、エミリオが離れていってしまう気がしたのだ。
「大丈夫、傍に居るよ。お前が許す限り」
 いつも通り、穏やかな声音の返事に、ミサは微笑む。
 たった一人の、大切な人。
 彼女のためならば、どんな願いだって叶えてあげたい。
 エミリオはミサのぬくもりを感じながら、彼女を抱きしめ続けていた。
 彼女が寝入るまで、ずっと。

●言葉失くして甘える一夜

「もうすぐ、お誕生日なので……プレゼント、です。主人でもメイドでも……何にでも」
 秋野 空は躊躇いはにかみながら、ジュニール カステルブランチにカードを差し出した。
 白い頬が薄桃に染まっているのが可愛くて、ジュニールはつい意地悪を思いつく。
「……では」
 荷物の中から、赤いリボンのついた猫耳カチューシャを取り出し、空の頭につけて言うのは。
「俺がご主人様、ソラはペットの子猫です」
 ジュニールはソファに座り、空を誘うように、手を伸ばす。
「さあ、俺の膝へどうぞ」
 驚いたのは、空である。
「こ……子猫……っ?」
 まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった。
 しかし何にでも、と言った手前、できないなんて、軽々しく口にしたくはない。
 ごくりと喉を鳴らし覚悟を決めて、空はジュニールの前へと踏み出した。
「し、失礼します……」
 恐る恐るソファにのる。背中を丸めて、手――否、前足と上半身はジュニールの膝の上。
 折りたたんだ後ろ足までのせることはできなかったから、それはソファのクッションに置いた。
 猫というなら鳴かねばならぬと、染まった頬でジュニールを見上げる。
 選んだ声はもちろん「……にゃあ」
 しかし喜んでくれると思ったジュニールは、今までに見たことのない表情をして硬直している。
 水色の瞳がじっと空を見ているものの、唇はひくりと震えているばかり。
 なにか違ったことをしたのだろうかと問いたくても、子猫の空に言葉は話せない。
「にゃ?」
 変でしたか? の意味を込めて小首を傾げれば、いよいよジュニールは、口元に手を当てて、顔を逸らしてしまった。
 やっぱり、間違ってたみたい……です。
 空は俯き、ジュニールの膝に視線を落とした。
 しかしジュニールが思わず呟くのは、こんな言葉。
「反則の……愛らしさです」
 本物の猫よりずっと可愛いし、とんでもない破壊力だ。
 空にはわからないように細く息を吸ってゆっくり吐いて、心を落ち着かせていると、急に膝がふっと軽くなった。
 空が、下りようとしているのだ。
 その肩を引いたのは、もはや反射も同然だった。
「ダメ、ですよ。ちゃんと俺のそばにいてください」
 はっとこちらを振り向いた空は、真っ赤。しかし空が見上げるジュニールの頬も、同じくらい見事に染まっている。
 空がふふっと小さな笑みをこぼし、ジュニールもまた唇をほころばせた。
 ――今日のジューンさんは、可愛いですね。
 ――いつもと違うソラも、大変尊いです……!
 空は笑いながらジュニールのもとへと戻り、膝に両前足をついて、上半身を持ち上げた。
 子猫がそうするようにジュニールの首元にすり寄れば、彼の手が優しく髪を撫ぜてくれる。
 何度も何度も、往復する彼の指。
 声がないのに、彼が自分を大切に想ってくれているのがわかる。
 空はジュニールの胸元に、ぎゅっと顔を押し付けた。
 聞こえなくてもいい。伝えたい。
 この言葉が、私からの本当のプレゼントになったら……。
「……ジューンさんが、好き……です」
 そのくぐもった声は、確かにジュニールの耳に届いていた。
 彼女の想いは、既に知っている。
 それなのに泣きたい気持ちになったのは、素直な気持ちが嬉しくて、愛おしいからだ。
 思わず、ジュニールは空の伸びた背を、抱きしめる。
「俺も、です」
 ほとんど吐息の答えを返し、びくりと身体を硬くした空の髪に、口づけを落とす。
「ソラ……お願いします。恥ずかしがらないで、少しだけ顔を上げて」
 先ほど震えた肩と、今潤んでいる瞳は、ジュニールの想いが届いた合図。
「ありがとうございます、ソラ」
 ジュニールはすっかり熱くなっている空の頬に、唇で触れて、囁いた。

●想い抱えて寄り添う一夜

「あたしの方が年上なんだし、たまにはこういうのも面白いかと思って」
 出石 香奈は、実に楽しそうに笑いながら、カードを差し出した。
「何でも言って、お姉ちゃんとかでもいいわよ」
 そう言われても、とレムレース・エーヴィヒカイトは思案する。
 それはそれで悪くはない提案ではあるが、レムレースは別に、彼女に母や姉としてのなにやらを求めているわけではない。
 それよりは。
「一晩俺の伴侶になってほしい」
 一夜ならば、互いに願ったっていいはずだ。彼女を傷つけることもないだろう。
 そう思ったのに。
「伴侶って……奥さん!?」
 何でも言ってと言った割に、香奈の顔はいっきに完熟してしまった。
「そ、そんなのは駄目! 無理!」
 駄目よ駄目、と手をパタパタと振って繰り返し、上目遣いに。
「……こ、恋人じゃダメ?」
 レムレースは微笑み頷く。
「……わかった、なら恋人にまかろう」
 無理強いをしたかったわけではないし、慌てるさまも悪くなかった。
 この年になってもらったお年玉も、なかなかいいものだ。

「じゃあ、気を取り直して!」
 自分が発した一言を合図として、香奈はレムレースへと寄り添った。
 窓の外の満天の星を眺めるためだ。
 しかしレムレースは、香奈の隣から後ろへと移動してしまう。
 恋人としていけないことをしたかと思いきや、香奈はすぐに彼に、抱き寄せられた。
「特等席だな」
「そうね、いいお部屋だし星も綺麗……」
 そう言いかけたところに、レムレースの言葉が重なる。
「景色のことじゃない。香奈の背中だ」
「え?」
「いつもバイクの後ろに乗せてくれるだろう。そのときだけはこの背中は俺のものだと……思っていた」
 バイクより距離が近いのは『恋人』だから。
 そう言い訳をして、レムレースは香奈を抱く腕により一層の力を込める。
「ほかの奴を乗せて欲しくない」
 ぎゅっときつくなった戒め。その腕に、香奈はそっと手を添えた。
「……バカ、言われなくたって、レム以外の人に背中を預けたりしない」
 そのまま背中に体重を預けて、レムレースの胸にもたれかかる。
 微動だにしない温かくたくましい身体は、きっとこれからもずっと、自分を支えてくれるだろう。
 今まで出会った、他の男たちのようにはなりはしない。
 そう考えたとき、香奈は既に、彼を振り仰いでいた。
 言葉が自然と、口をつく。
「大好きよ、レム」
 レムレースは、我が耳を疑った。
 自身を見上げる香奈の、花が咲いたかのような満面の笑み。
 その告白に、表情に驚きながらも、腕の中の彼女のぬくもりが、これは現実だと教えてくれる。
 そして気付けば、レムレースはまるで吸い寄せられるようにして、香奈の頬に唇を落としていた。
 口づけた直後、弾力のある感触にはっとしたが、もう遅い。
 恋人ならば、これくらいは許されるだろうか。
 ……許されて、欲しい。
 ゆっくりと顔を離し見つめれば、香奈の目が大きく見開かれると同時に、その頬が薄紅に染まる。
「えっ……い、今のは『一晩は恋人』だからよ」
「……ああ、わかっている」
 短い一言の後は、言葉紡がず。
 レムレースは香奈を抱きしめたまま、暗い海を見やった。
 あの口づけの、もっと先が欲しい。
 こんなことを考えていると知られたら、幻滅されるだろうか。
 再び満天の星を眺め、香奈はそっと息を吐く。
 今は、背中の彼が離れて行かないことに、何よりも安堵していた。
 この海に光が射して、星が見えなくなれば、一夜の戯れは終わり。
 このまま時が止まってしまえばいいのに。
 それか、夜も昼もなくなってしまえばいい。
 香奈はゆっくりと目を閉じた。

●愛重なる秘密の一夜

 夜闇を照らす、星の瞬き。
 それをずいぶん長い時間眺めた後になって、天藍はかのんにカードを渡した。
「もう少し早く渡しておくんだったな」
 天藍は、このカードの存在を忘れていたわけではない。ただ、躊躇っていたのだ。
 しっかり者のかのんに、我儘を言って欲しかった。
 けれど、しっかり者のかのんだからこそ、必要ないと言われてしまうのではないかと思ったのだ。
 それでもと渡せば、案の定かのんは、怪訝顔。
「私は、天藍が普段通りにいてくれれば、それ以上望むものはないのですけれど……」
「それなら、俺を姫の我儘を叶える騎士にしてくれないか?」
 答えを見越して考えていた提案を口にすると、かのんの頬がぱっと朱に染まる。
「そんなに甘やかしたらいけないんです」
「……俺は、大いにかのんを甘やかしたいんだけどな」
 ここまで言えば、こちらの好意を無下にするかのんではない。
 少し考え、告げたのは。
「天藍の時間を、少しだけ私のために使ってください」
「……具体的には?」
「……抱きしめて、欲しいです」
 天藍はかのんと二人ソファに座ると、言われた通り、彼女の背中に腕を回した。
 柔らかい体が、緊張するのがわかる。でもそれは一瞬だけ。
 すぐに彼女は、深く息を吐いた。
「天藍の腕の中にいる時が、一番安心する気がするんです」
「それは、いいことを聞いた」
 天藍はかのんから身体を離して立ち上がると、彼女の手をそっと引いた。
 導かれ立ち上がったかのんを、有無を言わさず横抱きにする。
「えっ、天藍?」
 ふわりと浮いた身体に驚き、天藍の胸に身を寄せる彼女を抱いたまま。
 天藍はベッドルームへと向かう。
 そして並ぶ寝台のひとつに丁寧にカノンを下ろし、額に触れるだけのキスをした。
「安心しておやすみ、」
 しかしかのんはそれどころではない。
 胸は激しく打っているし、身体はまだ宙に浮いているようで。
 ――もう、このまま眠れるわけないです。
 だからといって、隣のベッドに行ってしまった天藍に、話しかける勇気もない。
 かのんはしばらく、暗い天井をぼんやりと見上げていた。
 そのうちに天藍のベッドからは、落ち着いた呼吸音が聞こえてくる。
 天藍、眠ったんですね……。
 かのんはゆっくりと体を起こした。床に足を下ろして立ち上がり、並ぶベッドで目を閉じている天藍の顔を覗き込む。
 触れたら起こしてしまうかもしれない。そう思って、伸ばしかけた手を引っ込めた。
 いつも私のことを考えて幸せをくれるのは嬉しいけれど。
 ――私も、貴方の我儘を叶えたいんです。
「……大好きです、天藍」
 かのんは一言、小さな小さな声で呟いた。
 ゆっくりと腰を曲げ、眠る彼を起こさないように気を付けて、前髪にそっとキスを落とす。

 ベッドのきしむ音に続いて、しばらく後。
 規則正しい寝息が聞こえてくると、天藍は右手を持ち上げ、顔を覆った。
 どうしてかのんは、こう心のツボをついてくるのか。
 目を開けて可愛い顔を見てしまわないよう、手を動かして細い体を抱き寄せてしまわないよう、理性で押さえこむのに必死だった。
 深いため息をついて体を起こし、今度は天藍が、かのんの寝顔を覗き込む。
 まっすぐな彼女に、幸せを貰っているのは自分の方。
 今日は大した我儘を許してやれなかった。
 いつかもっと甘えてもらえるように、今宵だけではなく、これからもかのんの騎士であれたらいい。
 白い枕に散らばった黒髪を一筋、天藍は手にとった。
 滑らかな髪に唇を押し付け、囁く言葉は。
「愛している」
 これ以上言葉を重ねれば、キリがない。
 だから想いのすべてをたった一言に詰め込んで、天藍はベッドに戻る。
 目を閉じれば、今宵は終わる。
 明日はまた、かのんとの新しい一日の始まりだ。



依頼結果:大成功
MVP
名前:秋野 空
呼び名:ソラ
  名前:ジュニール カステルブランチ
呼び名:ジューン

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター:  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月29日
出発日 01月07日 00:00
予定納品日 01月17日

参加者

会議室

  • [9]かのん

    2016/01/06-20:46 

  • [8]かのん

    2016/01/06-20:45 

    こんばんは
    豪華客船での一時……とても楽しみです
    素敵な時間を過ごせると良いですよね

  • [7]ミサ・フルール

    2016/01/04-16:26 

  • [6]ミサ・フルール

    2016/01/04-16:26 

    改めまして。
    ミサです、よろしくお願いします!(ぺこり)
    豪華客船だなんて なかなか乗れるものじゃないよね、凄く楽しみ♪
    皆が思い思いの時間を過ごせますように!

  • [5]秋野 空

    2016/01/02-23:32 

    こんばんは、秋野空と、パートナーのジュニール・カステルブランチさんです

    始めましての皆様も、いつもお世話になっていますの皆様も
    どうぞよろしくお願いいたします

    豪華客船でのひととき、とても…楽しみです

  • [4]出石 香奈

    2016/01/02-00:25 

  • [3]かのん

    2016/01/01-18:49 

  • [2]ミサ・フルール

    2016/01/01-09:54 


PAGE TOP