プロローグ
●星を紡ぎ、絆を紡ぐ
「星のお祭りに興味はない?」
そう問いを零して、ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターはにっこりとした。
「スノーウッドの近隣に、ポトクっていう名前の村があって。その村では例年冬になると、『星祭り』っていうお祭りが開催されるんだ」
祭りの夜、小さな村は星をモチーフにした数限りないランプの灯りに包まれる。自分の瞳と同じ色のランプに出会えたならば、そのランプは願い事を一つ、夜空に瞬く本物の星に囁いてくれるのだと言い伝えられているのだとか。
「だから祭りの夜は、皆ランプを探して村を歩くの。隣を歩いてくれる人がいるなら、互いの小指と小指を、『星巡りのリボン』って呼ばれる凝った意匠のリボンで繋いで」
金糸銀糸を織り込んだ濃紺のリボンは、まるで雪国の澄んだ夜空と、そこに輝く星たちのよう。小指と小指を結わえたままで祭りの灯りが消えるのを見送ったなら、2人の縁は末永く結ばれるだろうと、そういうおまじないがポトク村にはあるのだ。紡ぐ縁は、どんなものでもいい。星模したリボンに誓う縁は、愛でも、友情でも、ウィンクルムの絆でも、若しくはそれ以外の何かでも。
「ただこのリボン、とっても解けやすいんだよね。祭りの夜を乗り切るための一番メジャーな対策は、手を繋ぐこと。そうしていたら、よっぽどのことがないとリボンは解けてしまわないから」
そういう次第で、祭りの夜には沢山の屋台が村中に姿を現して、片手が塞がっている状態でも楽しめる甘味を提供してくれる。昨年はスティックパイだったけれど今年はスティックケーキの屋台が数多並ぶようだと、青年ツアーコンダクターは嬉しそうに笑った。
「ふふ、とっておきの情報でしょ? 味もねぇ、チーズケーキにブラウニー、ティラミスにモンブラン。それから、色鮮やかなフルーツのケーキもたっくさん!」
色々な味のスティックケーキを、一つの屋台につき1種類だけ商っているのだとか。だから、とりどりの味を求めて村中を散策するのもまた一興。
「ツアーのお値段は、ウィンクルム様お一組につき300ジェールだよ!」
リボンで小指と小指を繋ぎ、甘い物やランプを探して歩く星祭り。気が向いたならば、星の綺麗な夜にランプの灯り煌めく村でどうぞとびきりの時間を。
解説
●今回のツアーについて
ポトク村の星祭りを楽しんでいただけましたら幸いです。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき300ジェール。
(『星巡りのリボン』やスティックケーキをお求めの場合、そちらは別料金となります)
時間は夜で、天気予報ではちらちらと雪が舞っているそうです。
●屋台の食べものについて
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターくんがご紹介しているスティックケーキがあります。
プロローグにある以外にも色んな種類がございますので、食べたい味がございましたらプランにてご指定ください。
ご指定がない場合はお任せと判断させていただきます。
なお、スティックケーキは1本30ジェールです。
●『星巡りのリボン』について
プロローグにあるようなおまじないです。
挑戦する場合は、プランにてご指定くださいませ。
おまじないを希望される場合、リボン代20ジェールをお支払いいただきます。
またその際、リボンは村に着いてすぐに互いの小指に結わえます。
リボンはつるりとしていて、手を繋いでいないと十中八九解けてしまいますのでご注意くださいませ。
●星のランプについて
プロローグにあるようなおまじないが言い伝えられている、色とりどりの美しいランプ。
探せば、瞳の色のランプは必ず見つけられます。
ランプ探しをする場合は、瞳の色にこだわりがあればプランか自由設定欄にてご指定をお願いいたします。
特にご指定ない場合は、プロフィール欄の『目の色』を参照させていただくことになります。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでお気をつけくださいませ。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますのでご注意を。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
小指に結わえる星のリボン、瞳の色のランプ探し、デザートは甘いスティックケーキ。
気になったものを心の赴くままに満喫していただけますと幸いでございます。
また、星祭りについては『星巡りのリボン』に詳しいですが、ご参照いただかなくとも今年のお祭りを楽しんでいただくのに支障はございません。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
フィンと星巡りのリボンに挑戦 凄く綺麗なリボンだな… フィン、手を貸せ 解けないように仕方ないからなと手を繋いでいく 少し恥ずかしいけど、周りも皆やってるんだろうし… スティックケーキを一本ずつ買ったら、食べながら「星のランプ」を探そう (叶えたい願いがあるんだ) (瞳の色:夜空を彷彿とさせる黒) スティックケーキの味はオレンジ ああ、フルーティで美味い 食べてみるか?(物欲しそうな視線に差し出し) ば、バカ言ってないでランプ探せよ ランプを見つけたら願い事をランプへ 『フィンが今年も健やかに幸せに過ごせますように』 フィンの傍に居られますように…はリボンのおまじないと、自分で何とか出来るかも…だし どうしても願いたかった |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
ケーキ2つ購入 リボンをもらって結び、手をつなぐ 解けないようにするゲームだと思えばできる …なんて言い訳したけど、本当はただ手をつなぎたいだけなのは秘密 早速琥珀色のランプ発見…ダメ出しされた どれも似たような色だろ 探し回ってようやくネカのお眼鏡に叶うものを見つけた 願い事はそうだな、犬だな 実家で犬飼ってるから、犬嫌いを克服しないと帰れない いや、だから…そうじゃなくて か、家族に紹介したいんだよ! 照れ隠しにケーキを頬張る 食べたら次は緑色のランプ 何となく、祭りが終わるのが名残惜しくてゆっくり探す 見つかったら、ランプを掲げて願いを言うネカをじっと見つめ 俺も同じ気持ちだ 握った手をそっと持ち上げて自分の頬に寄せる |
鳥飼(鴉)
星巡りのリボンに挑戦してもいいですか? ありがとうございます。(微笑む 「じゃ、僕が左手で」鴉さんは右手。手も繋ぎましょう? 色がたくさんありますね。 僕のはこれでしょうか?(首傾げ 「こっちのは鴉さんの色ですね」 はい、僕には鴉さんの目はこの色に見えます。 【願い】鴉さんも、隼さんも。『皆さんが楽しく過ごせますように』 「綺麗なリボンですよね」(視線に気づき、笑いかける 鴉さんがどう考えてるのかはわかりませんけど。 もっと縁が深くなると良いな、って。僕は思います。 後はランプの灯りが消えるまで食べ歩きですね。 「僕はブラウニーのスティックケーキが食べたいです」 鴉さんは何にしますか? お祭りですから楽しむのが一番です。 |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
星巡りのリボン…(リボンガン見 こっちは専門じゃねぇけど、こういうのもいいな っと、おまじないだったな、小指に巻いて…(恋人繋ぎ 今日は俺が翻弄しないとな?※EP32 スティックケーキはビーネンシュティッヒで イェル、シェアしようぜ(あーんし合う 俺が甘いのガキの頃から平気だったのかって? いや、両親甘いの苦手で殆ど食ってなかった 嫁と付き合うようになってからだ 兄弟もそんなもん(4人兄弟次男 イェルついてんぞ(口元のクリーム拭ってやった指先舐める 恥ずかしいって…(言い掛けキスした後唇舐めて ここにもついてた(にやり 翻弄されたか? なら、ランプ探し 俺の黒目やイェルの葉っぱみてぇな緑の目と同じ色のランプはどこだろうな |
カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
手を繋がなくては解けるリボン? コレ(エルディス)とは、とても手を繋ぐ様な仲ではな……エルディ、何故持って来ているのか詳細を説明してもらおうか (精霊の言葉に) 成る程『この様な機会を得ておいて、やらなかったり、他の方法を試して失敗する位ならば、きちんと手を結ばねば損』か 確かに一理ある。ような、気がする… だがしかしエルディスが持って来なければ解決する問題だった様な気も き、極めて気恥ずかしいが…これで、歩くのか(ギクシャク) ふとランプ探しで透き通った深い蒼色のランプを見つけた。これが自分の瞳の色… 夜空に瞬く本物の星に囁いてくれる、か 流れ星に願いを3回では余りに届かない。そう考えると素敵な祭りだと思えた |
●守護の誓いは灯火の下に
「手を繋がなくては解けてしまうリボンか……」
星思わせるリボンが纏う『縁を結ぶ』という言い伝えを想い、カイエル・シェナーは、どこまでも真面目に顎に手を宛がった。相棒には、戦場において深い信頼を抱いているカイエルである。けれど。
(コレとは、とても手を繋ぐ様な仲では……)
ない、と胸の内に断じかけて、カイエルはエルディス・シュアの手の中、星のように煌めく濃紺のリボンを見留めその双眸を見開いた。その後で、じとっとした視線を彼へと向けてみせる。
「……エルディ、何故持って来ているのか詳細を説明してもらおうか」
カイエルの強い言葉と眼差しを受け流すように、肩を竦めるエルディス。彼がリボンを購入するに至った理由を説明するのは非常に難しい。
(男二人の祭りだろうと、手を繋いで歩けば寂しさも少しは薄れ……るかと思ったがそんなことはなかったな、うん)
などというこの複雑な心境、一体どんな言葉に乗せれば、歩く天然記念物と言えなくもないマイペース人間のカイエルに確りと伝わるというのだろう。侘しさに陰でこっそりと目頭を抑えたエルディスの気持ちは、それでなくとも形容し難い。なので、
「ホラ、こんな機会を得ておいて、やらなかったり、他の方法を試して失敗する位なら、きちんと手を結ばないと損だろ?」
なんて、エルディスは尤もらしいような理屈を捏ねてみせる。「成る程」と、カイエルが真摯な顔で頷いた。
「確かに一理ある。ような、気がする……だがしかし、エルディスが持って来なければ解決する問題だった様な気も……」
「ああもう、細かいこと言ってないで観念しろって! 問題があるっていうなら、この村にこういう祭りがあって、風習があって、リボンが用意されてるのが悪い!」
こうなってしまえば、ここはもう勢いである。エルディスは素早く己と、それからカイエルの小指にリボンを結わえると、握り込んだその手をぐいと引いた。驚きに目を丸くしたカイエルの表情は、エルディスの双眸に息を飲むほど鮮やかに焼きついて。
(こんな顔するのか。初心というかなんというか……)
エルディスの胸の内など露知らず、カイエルは緊張しきり、まるで操り人形のようにギクシャクとしている。
「き、極めて気恥ずかしいが……これで、歩くのか」
「……手と足が一緒に出ないようにな?」
何だかんだと手を繋いだまま、2人は星のランプが照らす通りを行く。とりどりのランプの中に自分の瞳の色を探していたカイエルが、ふと足を止めた。視線の先には、透き通った深い蒼色。カイエルの眼差しを追って、エルディスが軽く笑う。
「目聡いな。カイエルの瞳の色だ」
「これが、自分の瞳の色……」
エルディスの言葉をしみじみとして繰り返し、星のランプに見惚れるカイエル。そんなカイエルへと、エルディスはふと問いを零した。
「そういえば、カイエルの願いは何なんだ?」
「世界に平和が訪れますように」
「え……」
淡々と紡がれた願いに、エルディスは唖然として寸の間声を失う。その後で、彼は僅か難しいような顔を作った。
「無理だろ、俺達は聖者じゃない」
「だから、願いを掛けるのだろう? オーガがいてもいなくとも関係のない、理不尽な死が減るように」
やはり、カイエルは真剣そのものだ。エルディスの胸に、苦いものが満ちる。
(ああ、こいつは『本当にバカ』なんだな)
だから。
(……俺が護ってやらなきゃ、簡単に死ぬな)
数限りないランプの星の下、エルディスは繋いだ手にぎゅうと力を込めた。その意味は知らぬままに、カイエルはそっと目元を和らげる。
「夜空に瞬く本物の星に囁いてくれる、か。流れ星に願いを3回では余りに届かない。そう考えると素敵な祭りだ」
その真っ直ぐさに今は何と応えればいいのか分からなくて、エルディスはただ、カイエルの清々しいような横顔を見つめるのだった。
●星の灯りが消えるまで
「『星巡りのリボン』に挑戦してもいいですか?」
受け取ったリボンを手に双眸を輝かせる鳥飼へと、「そういうと思いました」と鴉は軽く肩を竦めてみせた。
「そんな目で見られては断るのも憚られますよ。構いません」
「ふふ、ありがとうございます」
嬉しい返事に柔らかく微笑して、鳥飼はリボンの片端を自身の左手、その小指に括りつける。ゆらと靡くリボンのもう一方の端っこを鴉へと手渡して、
「じゃ、僕が左手で。鴉さんは右手です」
と、鳥飼はおっとりと声を零した。何を返すでもないままに鴉がリボンを小指に結わえたのを見て取るや、その右手をぎゅっと握る鳥飼。
「鴉さん、手も繋ぎましょう?」
温もりを右の手のひらに感じながら、
(いつも、私の右手を握りますね)
なんて、鴉は胸の内だけに呟きを漏らした。そうして2人は、瞳と同じ色のランプを求めて村を歩く。
「色がたくさんありますね」
「そうですね。尤も、私の目は……黒紫など灯りには不向きですが」
あるかどうかも怪しいと零す鴉に、
「大丈夫です。僕が見つけてみせますから」
と、鳥飼はにっこりとして請け負い、楽しそうな、それでいて真剣な様子で星のランプをあちこちに探した。そして。
「うーん、僕のはこれでしょうか?」
小首を傾げながらも、鳥飼は見つけた青のランプと真面目な顔で睨めっこ。そんな彼へと、鴉は静かに声を掛ける。
「主殿の色はもっと水色に近いでしょう」
「成る程。鴉さんが言うなら、きっとそうなんでしょうね。……あ、見てください、こっちのは鴉さんの色です」
鳥飼が示す先を目で追えば、そこには確かに黒紫のランプが瞬いていた。けれど、
「私の色はこれだと?」
と問うた鴉の声には、怪訝な色が滲んでいて。何せ、そのランプの光は、鴉にしてみれば華やかに過ぎたのだ。そんな鴉の心境を知ってか知らずか、鳥飼は「はい」と声を弾ませる。
「僕には、鴉さんの目はこの色に見えます」
「……そう、ですか。ああ、ほら。あれなど主殿の目と同じですよ」
「えっ、どれですか?」
黒紫の星の眩さ以上に鳥飼の言葉は鴉の心をむず痒くさせて、なので彼は、流れるように話を逸らした。鳥飼は、視線の先のランプと同じ薄青の瞳をぱあと煌めかせている。
「願い事、しなくっちゃですね」
「ああ、そういう話でしたね、そういえば」
鴉の言葉を耳に、鳥飼は願った。
(『皆さんが楽しく過ごせますように』)
その中には鴉と、それからもうひとりの契約精霊も含まれている。一方の鴉は、
(『右腕をまともに動かせるようにする』……願いというよりは、目標ですが)
と、傍らの鳥飼に倣うようにランプへと願いを掛けた。そうして、ふと思う。解けることないまま静かに光っている、末長い縁を紡ぐというリボンのことを。
(今は無理でも。アレがマシになれば、いつか)
今はまだ『もうひとり』に任せようとは思えないけれど、自分といるのは鳥飼にとって良くないと鴉は思っている。その想いとまじないの矛盾を感じたからこそ、眼差しは自然と星のリボンに吸い寄せられた。視線に気がついた鳥飼が、鴉へと笑みを向ける。
「綺麗なリボンですよね」
「……ええ」
秘める想いこそあれど手を離そうと思えない自分自身に対して、鴉は密やかにため息を漏らした。本当に絆されたものですね、なんて思う鴉の傍らで、鳥飼もまた胸に想いを沈める。
(鴉さんがどう考えてるのかは、わかりませんけど)
もっと縁が深くなると良いな、と、それが鳥飼の心底からの気持ちだった。
「さて、後はランプの灯りが消えるまで食べ歩きですね」
「……まだまだ満喫する気満々なんですね、主殿」
「勿論ですよ。僕はブラウニーのスティックケーキが食べたいです」
鴉さんは何にしますか? とにこやかに問われて、鴉は薄く笑った。
「そうですね。モンブランにしましょうか……主殿は本当に催し物を好みますね」
「お祭りですから楽しむのが一番です」
鳥飼がふわりと微笑む。祭りの灯りは、まだ消えない。
●ケーキより甘い幸せを
「凄く綺麗なリボンだな……」
「うん。それに、おまじないも素敵だよね」
星を織り込んだようなリボンを見つめて蒼崎 海十が感嘆の声を漏らせば、そんな海十を見遣るフィン・ブラーシュのかんばせにも優しい笑みが乗る。
「フィン、手を貸せ」
可愛い恋人にそんなことを言われれば、おまじないの意味を知っているフィンに否と応える理由は欠片もなく。差し出した手の小指には、願い込めたリボンの片端が結ばれた。そうして、どちらからともなく繋がれる2人の手の温度。
「絶対手は離さないよ。解けたら困るものね」
「俺も……し、仕方ないからな。少し恥ずかしいけど、周りも皆やってるんだろうし……」
確りと指を絡めれば、海十の指先は、緊張のせいか少し冷たくなっていて。そんなささやかなことさえも、フィンの胸に愛しさを運んで仕方がない。
「……ふふ」
「何だよ、フィン」
「何でもないよ。ちょっと嬉しかっただけ」
問いに言葉を返せば、海十は照れ隠しのように視線を村に溢れる屋台へと移した。フィンも、その眼差しを追う。
「スティックケーキか。オニーサンはブラウニーがいいな」
「俺はフルーツケーキがいい。一本ずつ買って、食べながらランプを探そう」
そう提案した海十の胸の内には、決意にも似た想いがあった。
(叶えたい願いがあるんだ)
だからどうしても、瞳の色のランプを見つけたい。2人は共に目当てのスティックケーキを買い求めて、繋いだ手は離さぬままに見知った色を探して村を行く。
「んっ、濃厚なチョコレートが美味しい」
海十のも美味しい? とブラウニーを口にしたフィンが問いを向ければ、海十はこくと頷き一つ。ちなみに、海十が選んだのは爽やかなオレンジのケーキだ。
「ああ、フルーティで美味い。……食べてみるか?」
そんな言葉が口をついたのは、フィンの青い双眸が物欲しそうな、強請るような色を帯びていたから。口元に運ばれたケーキを、フィンは「有難う」と微笑んでぱくりとした。
「ほんとだ、こっちも美味しいね。ほら、海十もどうぞ」
勧められるままに、海十もフィンのブラウニーを一口。ケーキを頬張る様子さえあまりにも愛おしいから、
「これって……間接キスだね」
なんて、悪戯めいた言葉が零れるのもしょうがないこと。
「ば、バカ言ってないでランプ探せよ」
「ふふ、了解」
真っ赤になった海十も可愛いな、という本人が聞いたら益々赤くなってしまいそうな感想は胸中だけに呟いて、フィンは星を模したランプを一つ一つ目で追っていく。やがてその双眸に、吸い寄せられるようにして、夜空を彷彿とさせる黒が映った。
「あ、海十の色」
「見つけた、フィンの色だ」
期せずして重なった声に、2人は思わず顔を見合わせる。海十が見つけたのは、青空の色を映したような青のランプ。それぞれに自分のためのランプが見つかれば、次に頭に過ぎるのは願い事のことだ。
(海十は何を願うんだろう?)
真っ先にそんなことを思ったフィンの耳に、海十の唇から漏れる微かな呟きが届く。
「……『フィンが今年も健やかに幸せに過ごせますように』」
それが、海十のどうしても願いたかったことだった。
(フィンの傍に居られますように……は、リボンのおまじないと、自分で何とか出来るかも……だし)
そんなことを思う海十の傍らで、フィンは口元をそっと緩ませる。
(……ああ、もう海十は俺を幸せにする天才だね)
ならば、フィンの願いも一つだ。
「『海十が今年も健やかに幸せに過ごせますように』」
尤も、海十は自分が幸せにするつもりで居るフィンなのだけれど、大切な人の願いに自身の願いも重ねられるのはきっと素敵なことだ。願い事を口にした後で、フィンはリボンで繋がっている方の海十の手を引き寄せると、彼の身体をぎゅっと抱き寄せた。
「今年も宜しくね。俺の可愛い恋人さん」
こっちこそよろしくとごく小さな声で返した海十の顔は、またも朱に染められていた。
●永遠を星に願う
「新年初、いえ恋人になって初めてのデート……ウキウキします♪」
俊・ブルックスが照れ臭さを露わにするのも何のその、ネカット・グラキエスは言葉の通りに弾んだ声を零す。そんな2人の小指は星を抱いたリボンで結ばれていて、それが決して放たれてしまわぬようにと2人は手を繋いで村の通りを歩いていた。
「手、あったかいですね。しかも、シュンが自分から手をつないでくれるなんて」
「解けないようにするゲームだと思えばできる」
やけにさっぱりとしたことを言う俊だが、その言葉は所謂言い訳だ。本当はただ手を繋ぎたいだけなのだけれど、それは傍らの恋人には秘密である。
「それにしても、ランプたくさんありますね」
「そうだな……あ」
ティラミスのスティックケーキを口にしながら、星のランプに溢れる通りを見渡してネカットが呟き、俊がその言葉に応じた、その時だ。
「なあ、これなんかどうだ?」
俊が見つけたのは、自身の瞳を思わせる琥珀色のランプ――の、つもりだったのだが、
「ダメです、これはちょっと光り方が淡いです」
と、ネカットの厳しいダメ出しがとんだ。
「って、どれも似たような色だろ……お、あれならどうだ?」
「それはちょっと色が濃いです」
バッサリである。ネカットのお眼鏡に適うランプを見つけるのは、中々に骨が折れそうだ。
「こ、これでどうだ!」
「……うん、それならいいです」
ネカットがようやっと頷いたのは、村中を探し回った後だった。やれやれと一つ息を吐いて、俊はランプに掛ける願いを音にして零す。
「願い事はそうだな、犬だな。実家で犬飼ってるから、犬嫌いを克服しないと帰れない」
「実家?」
思いがけずとび出したワードに、首を傾げるネカット。
「シュン、もしかして実家に帰っちゃうんです?」
問いを投げれば、俊は決まりの悪いような顔を作ってみせる。
「いや、だから……そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「か、家族に紹介したいんだよ!」
皆まで言わせるな! という気恥ずかしさと共に、俊はスティック状のチーズケーキを咀嚼して飲み込んだ。照れ隠しというやつである。
「良かったです……それに、『家族に紹介』なんて言われると、付き合ってるって実感できて嬉しいです」
にこにことしてネカットが言えば、冬の色が濃い季節だというのに、頬が熱を帯びるのを俊は確かに感じて。気づけば、彼の分のスティックケーキはなくなってしまっていた。ちなみに、それどころではなかったために味は殆ど覚えていない。初々しいような俊の様子を見遣りそっと微笑するネカットは、
(実はシュンママさんとはお知り合いなんですけど、これは黙っていた方がいいですね)
と、そんな秘密を胸の底に沈めた。
「よし、次は緑色のランプだな」
際限なく湧いて出る面映ゆさを誤魔化すように殊更勢いよく俊が声を上げる。ネカットはそれに、「私の瞳の色ですね」とにこやかに応じた。ランプを探して村を行く2人の足取りは、先ほどまでよりもゆったりとしている。何となく祭りが終わるのが名残惜しいという、俊の気持ちの表れだ。けれどもやがて、
「あっ、見つけた!」
俊の双眸が、見慣れた色を視界の端に捉える。愛しい恋人が見出したランプ、それが放つ光の色合いを確かめて、ネカットはふっと口元を緩めた。
「私の願いは単純です」
俊の眼差しが、ネカットへとじぃと注がれる。
「シュンといつまでも一緒にいられますように。リボンはいずれ解けますけど、この手はずっと離したくないです」
ぎゅうと、繋いだ手に力が込められた。握った手をそっと持ち上げて、俊は重ねた温度を、そのまま自身の頬に寄せる。
「……俺も同じ気持ちだ」
零すのは、短い、けれど真摯であたたかな言葉。祭りの灯りはじきに消えるけれども、2人の絆は、きっと想いのままにどこまでも繋がっていく。
●甘い口づけを貴方に
「『星巡りのリボン』……こっちは専門じゃねぇけど、こういうのもいいな」
星を織り込んだリボンをしげしげと観察するカイン・モーントズィッヒェルの姿に、
(カインはこういうの本当に好きだな)
と、イェルク・グリューンはあたたかな微笑を零す。くすりと小さく音が漏れれば、カインの視線がイェルクへと移った。
「っと、おまじないだったな」
「はい、見つめすぎてリボンに穴が開いてしまう前に」
互いの小指に同じリボンの端を結べば、解けぬようにと絡められる指と指。
「今日は俺が翻弄しないとな?」
なんて、あの夜を思い出させる言葉も恋人繋ぎも格別照れ臭くはあるけれど、
(おまじないは恥ずかしいが……カインの手はいつも温かい)
と、密か口元を緩めるイェルクだって、満更ではないのだ。手のひらを伝う温もりをしかと感じながら2人は星のランプが照らす通りを行き、それぞれにスティックケーキを買い求めた。カインが選んだのは、キャラメルで固めたアーモンドとクリームのハーモニーが堪らないビーネンシュティッヒ。イェルクのチョイスはモカ・チョコレートクリームとカラメルがポイントのドボシュトルテだ。
「イェル、シェアしようぜ」
イェルクのケーキを見て、カインはそんなことを言う。そうして、何の躊躇いもなしに、あーん、と大きく口を開けた。
(あーんは手を繋いでいるから、うん、仕方ない)
照れの色は覗かせながらも、自分に言い聞かせてイェルクはケーキをカインの口元へ。「うん、美味い」とカインが頷いた。
「わ、私も……」
おずおずと所望すれば、すんなりと口元まで運ばれる幸せな甘味。あーんされるのだって手を繋いでいるのだから仕様がないと、イェルクはケーキをぱくりとした。うん、甘くて美味しい。
「そういえば、子供の頃から甘いの好きなんです?」
ふと、疑問がイェルクの口をつく。カインが、緩く首を横に振った。
「いや、両親甘いの苦手で殆ど食ってなかった。嫁と付き合うようになってからだ」
「そうでしたか、そういう理由で……」
「ああ、兄弟もそんなもんだ」
カインの言葉に、ご兄弟全員か、とイェルクは胸の内に呟き一つ。カインが4人兄弟であることは、メールのやり取りで知っているイェルクである。と、その時。
「イェル、ついてんぞ」
ケーキを食べ終えたカインの指が、イェルクの口の端を撫ぜた。見れば、その指にはイェルクの口元を汚していたらしいクリームが付いている。
「え、あ、クリー……」
状況に気づいて、イェルクが礼の言葉を紡ぐその前に。カインは何でもないように、指先のクリームをぺろりと舐めた。見る間に、イェルクのかんばせが朱に染まる。
「……何て恥ずかしい事を……」
「あ? 恥ずかしいって……」
ケーキを食べ終え空いた手で、カインのことをぽかぽかと叩くイェルク。恥ずかしいも何もそれ以上のことだって経験済みだろうと言い掛けた言葉は飲み込んで、カインはその代わりとばかりに口付けを零し、唇を舐めた。
「ここにもついてた」
「な、あ、あなたって人は……」
にやりと口の端を上げるカインと、真っ赤になるイェルク。恋人の愛らしい姿に、カインはくつと喉を鳴らす。
「翻弄されたか? なら、ランプ探し」
「ご、誤魔化さないでくださいっ」
「さて、俺の黒目やイェルの葉っぱみてぇな緑の目と同じ色のランプはどこだろうな」
更に言い募ろうとしたイェルクだったが、『葉っぱみたいな緑の目』という言葉が彼の胸を引っ掻いた。
(あ、紙飛行機の色……)
脳裏に浮かんだのは、2人で不思議な紙飛行機を飛ばした時のこと。あの日カインが選んだのも、葉っぱを思わせる緑色だった――。
「ほら、行くぞ」
カインの声が、イェルクを『今ここ』へと引き戻す。繋いだ手の温度が、改めて心の芯にまで染み渡るような心地がした。
(恥ずかしいが、あなたに愛されて嬉しくて幸せだ……)
そっとカインへと寄り添えば、また温もりが近くなる。こうしていればきっと、リボンを解かぬままにランプを見つけることができるはず。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:俊・ブルックス 呼び名:シュン |
名前:ネカット・グラキエス 呼び名:ネカ |
名前:カイエル・シェナー 呼び名:カイエル |
名前:エルディス・シュア 呼び名:エルディス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月28日 |
出発日 | 01月04日 00:00 |
予定納品日 | 01月14日 |
参加者
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- 俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
- 鳥飼(鴉)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
- カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
会議室
-
2016/01/03-23:28
-
2016/01/03-23:11
-
2016/01/03-01:10
-
2016/01/03-01:10
フィン:
フィンです。パートナーは海十。
皆さん、宜しくお願いするね!
素敵なお祭りだよね♪
折角だし、俺達もおまじないしつつ、同じ瞳の色のランプを探すつもり。
美味しそうなスティックケーキも絶対食べたいな!
良い一時になりますように。 -
2016/01/02-00:30
俊・ブルックスと相方のネカだ。
星祭りは参加するの初めてだな、去年から気になってたんだ。
ともあれ皆、楽しもうな。 -
2016/01/02-00:17
改めて、邪魔をする。
カイエル・シュナーに、精霊のエルディス・シュアだ。
『星巡りのリボン』は……気になっているのだが、男同士で手を繋ぐとなると、まだ、なかなかに勇気が足りない。
よって……今回は、瞳色のランプを探す事を目標にしようかと思っている。どうか、宜しく頼む。
-
2015/12/31-22:48
-
2015/12/31-22:48
カインとイェルクだ。
瞳と同じ色のランプ探しとおまじないはするぜ。
リボンの意匠に興味があるからな、結ぶ前にしっかり見ておきてぇ。
あと、ケーキ食うかな。
何にすっかなー。
イェルとシェアしてぇし、食い易いケーキのがいいかなーとは思ってるが。
んじゃ、ま、 -
2015/12/31-15:50
こんにちは。
僕は鳥飼と呼ばれてます。お好きに呼んでくださいね。
瞳と同じ色のランプを探す、素敵ですね。
それと、リボンも挑戦してみたいと思ってます。