赤いぱんつに幸福宿る(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 新年を赤い下着で迎えると、その人は一年幸せに過ごせるという。
 そんなジンクスを、ご存じだろうか。
 実際毎日赤い下着をつけたとて、それで幸せになるとは限らない。
 だが、タブロス市民に密着した下着屋の店主にとって、それはどうでもいいことだ。
 だって下着……いや、オブラートに包むのはやめよう。
 ぱんつが売れれば、問題はない。
 ぱんつ。恥ずかしい単語ではない。
 なにせ店主はこれを売って、妻や子供を養ってきたのだ。

 さて、その店主。今ピンチである。
「……そんな、みんながそろって、仕事放棄なんて!」
 タブロス市内、中央付近の某広場。
 そこで彼は途方に暮れた。
 手にはさまざまな赤いぱんつ。
 そう、彼はここで今日、ぱんつのファッションショーを行うつもりだったのだ。
 ……寒風吹きすさぶ、外で。
「だってその方がみんなに見てもらえるし、盛り上がるでしょう?」
 うん、こんなんだから、みんな仕事放棄したんだと思う。

 まあそれはおいといて。
 彼は負けなかった。
 なにせもう何十年も、ぱんつと付き合ってきたのだ。
 今年こそは赤いぱんつを売りたいし流行らせたい。
 ということで目をつけたのが、道行く立派な体の男子たち。

「あ、お兄さんいい筋肉してそうだね!」
 そう言って、身体をたしたしなでなで、さすさすり。
「ほらやっぱいい体つき。ね、今からファッションショーやるんだけど、参加してもらえない?」

 残念ながら、あなたは店主に捕まってしまった。
 いやだいやだという間もなく、あっというまにぱんつを渡される。
 そしていざ外へ出たのだが……。
「寒いっ! これ、待機場所とかないんですか!」
「ああごめんね、分厚いコートを持ってきてるからそれで……ん?」
「……どうしました?」
「あ、うん、ごめん! コート忘れちゃったみたい。ホントごめんね。いいじゃない君達ウィンクルムでしょ? ほら、抱っこでもしてもらって、暖とっといて!」

解説

あなたは下着屋の店主に捕まってしまいました。
どうやら今から、ファッションショーに出なくてはいけないようです。
しかもぱんつは強制買い取り、お気の毒さま。
ぱんつ代300jr頂戴いたします。
(実際の配布はございません。妄想の中でお使いください)

ぱんつの種類は以下の通り。せっかくですからお好きなものをどうぞ。
他の人とかぶっても平気です。そこは店主に諦めてもらいましょう。

1、真っ赤なブリーフ
お尻が、サルのお尻の絵柄になっています。
取り外しできるもふもふサル尻尾付き。

2、真っ赤なトランクス
前面中央がサルのお尻の絵柄。
大切なものをしまうポケットが、サルの尻尾になっています。

3、真っ赤なボクサーパンツ
全体に小さなサルのプリント。
そして前面中央はむきかけバナナのイラストが描いてあります。

4、真っ赤なハイレグパンツ
腰骨のあたりがなぜかレースになっている、ちょっとセクシー使用。
背面中央には、ひらひらのリボンがついています。

5、真っ赤なTバック
前面中央に黒い薔薇が印刷されています。

話の流れとしては、相棒にあっためてもらおうというところがメインですので、ファッションショーの記載はなくても大丈夫です。
もちろん肉体美を見せたい方は、そちらメインでも構いません。

場所は公園。
一応着替えのためにカーテンで区切られた場所がありますが、防御は布一枚。
しかも今日はわりと風が強いです。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。

こちらは基本的に、ウィンクルムごとの描写になります。
ショーに参加するのは、ウィンクルムの片方のみです。
上半身は裸が望ましいですが、どうしてもというならば、ぱんつを邪魔しない丈の上着を羽織ってもかまいません。
裸がいいですが。
裸がいいですが。

ということで、どうぞよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

 
どれがいいと思う
買い物にはうるさいだろう?
アンタの気に入るものがあれば間違いはないと思ったんだが
せっかくだから正月に履こうと思っている
パンツ一枚でいるわけじゃないからいいだろ
…ああ、無難に無地の
聞き慣れない単語に眉を顰める
ハイレグ?(復唱)
ハイレグ(確認)
ハイレグ(再確認)

・着替えて
寒さに慣れた方がいいだろうとそのままの格好
出来るものなら一周走ってきたいくらいだが
リンを宥めて風除けになってもらう
それを判断するには気が早すぎるぞ
今年が始まって何日目だと思ってるんだ
…いいのか?
他人のふりされると思ったからじんわり嬉しい
出番まで温まる

呼ばれた時は風に負けまいと目を開き
荒ぶる髪とリボンのように堂々と


アイオライト・セプテンバー(白露)
  「新年を赤い下着で迎える」と「新年を赤いぱんつ一枚の姿で迎える」とは別だと思うんですが…
なんだかもう、全てがどうでもよくなってしまいそうです……
いや、よくないです
アイ、さすがに全部は勘弁してください

メイクですか
そういえば、最近練習してましたね
期待してますよ(撫で撫で
…だから、私にこっそりぱんつを落書きするのはやめなさい

【3】ということは、このへんにむきかけバナナが来るわけで
当分、バナナは食べたくなくなってきました…
って、アイーーっ
食べ物を粗末にするわけにもいきませんし
アイの優しさが甘くて苦しいです

ファッションショーではせめて背筋をピンと伸ばしましょう
「倒れるときは前のめり」と言いますし、ははは


李月(ゼノアス・グールン)
  デザインに絶句
(宣伝した所でこれは‥

最近相棒がヒトダスケというキーワードに引掛りやすくて
ウィンクルム→ヒトダスケ→オレ強くなる
という短絡思考に嵌っているんじゃと怪訝
やる気満々なので止めないが

突進姿に戦慄
相棒は水泳選手よりも更にありえない逆三体型マッチョ
そんな奴がエグイパンツ一丁で向ってくるから
逃げる!
捕まる!
ぎゃー!
懐に潜り込まれたとたんに心臓跳ね上がる
顔が目の前

(何が起こってるんだ
混乱羞恥と
鼓動?

額合され
思考停止
ただ相棒の整った顔見つめ

はっ

人目に気付
羞恥爆発

早く着替えて来いー!

帰り道
お前に言っとく
無暗矢鱈なヒトダスケ禁止だからな!!

上着抑え
治まらない鼓動
笑顔に複雑



咲祈(サフィニア)
  今日は一段と寒いようだけれど、……大丈夫かいサフィニア?
…まあ、店主さんも困っているようだし協力してあげたら良いだろう
僕かい? 黙って見ている
……のは、冗談さ。こっちに来るかい? 温めてあげるよ?
 ……なんだいその反応。僕は女性が言われたらきゅんとする言葉を言ってみただけさ
見たらわかる、それは。ただ本に書いてあったんだ。こう言えば良いと

え、冷たい…?(自分の手のひらを眺め
ふむ。自分だとよく分からない
…あ! じゃあ、こうすれば良いんじゃないかい(ぎゅー
なにって……寒いんだろう?(きょとん
普通に考えてもこうしたらあたたかい
…? フケンゼン?

咲祈はサフィニアの言っている意味が理解できないようだ


葵田 正身(いばら)
  風も気温も和らぎそうにありませんね
中々に寒いです。
恐縮するいばらには、構わないよ、と。

薔薇には縁があり、つい選んでしまったのは
真っ赤なTバック。前面を見て手に取りましたが
裏返せば布地の少なさに僅かに目を瞠り。

でも履き心地は悪くありません
フィットするので動き易いですし。
普段使いにも検討の余地有りです

いばら。気遣いは有難いが
下着男が少年に抱き付く構図は誤解を生む気がする
……そう来るか。暖かいよ

普段ならこのような事はしないのでしょうが
非日常的な状況にいばらも感覚を狂わされているようです

尚ショーでは堂々と。
前面背面余さず見せ観客には微笑んでおきます

二人共と云うならいばらも赤い下着を?
そういう事だろう?


●バナナ×ボクサーぱんつ

「やったーぱんつだーファッションショーだ―♪」
 アイオライト・セプテンバーは風の子強い子になって踊っている。その理由は、先ほど喜び叫んだ言葉にすべて凝縮されていた。
 一方傍らの白露は、肩を落としてがっくりだ。
「『新年を赤い下着で迎える』と『新年を赤いぱんつ一枚の姿で迎える』とは別だと思うんですが……」
 しかし嬉しそうなアイオライトを見ていると、もうなんだかどうでもよくなってしま……。
「……いませんね。よくないです」
 それどころか「パパのはあたしが選んであげるねっ」と店主の差し出すぱんつを見比べているアイオライトに、ちょっと、いやかなり……育て方を間違えたかもしれない気はしている。
 しかもアイオライトは一言はっきり「えっとね、全部!」
「アイ、さすがに全部は勘弁してください」
 ということで、結局アイオライトが選んだのは、真っ赤なボクサーぱんつだった。
 小さなサルがたくさんプリントされていて、前面の真ん中、大事なもののあたりには、むきかけバナナのでっかいイラスト。
「おサルさんがいっぱいでかわいいよー。どっかに隠しキャラでゴリラさんとかいないのかな」
 大きな瞳をぱちぱちりして、アイオライトはぱんつを見ている。ただし白露が穿いているやつ。
 店主は「その案、来年にいただきますね」とか言っているし、ほんともう……。
 しかもアイオライトは、いないゴリラ探しで興味を失ってはくれなかった。
「ファッションショーだからキチンとしなきゃ」
 とか言いだしたのだ。
「あたしがパパのメイクしたげる。シンプルな格好だからって、手を抜いたらいけないんだよ」
「……シンプルな格好……」
 というレベルですか、これは。
 顔を上げる元気がなくて俯いていると、目に入るのは自身の下半身の真ん中らへんの、むきかけバナナ。
 バナナのイラストのインパクト半端ない。
「……とりあえず、当分バナナは食べたくなくなってきましたね」
「パパ、ちゃんと前向いてくれないと、メイクできないよ~」
 つんと唇を尖らせるアイオライトに嘆息し、白露はすっかり下を向いていた顔を上げた。
 そうすると周囲の人の目が視界に入って、さらにもういたたまれない。
 いっそ来年の年末は、ぱんつを見ないように家にこもっていたい。初詣は夜中にこっそり行ってきたい。
 そんな憂い顔の白露に素早くメイクをし、アイオライトは満足げだ。
「パパはもとがかっこいーから、メイクしてもかっこいーね。仕上げに、はいこれ!」
 たぶんその時、白露は一瞬は絶望した。
 アイオライトが差し出したのは、串に刺さった15センチほどの果実に、黒くて甘いものがかかった代物。
 それを手に、愛らしい子は無邪気に笑う。
「チョコバナナの差し入れだよ! 甘いもの食べて、寒さに負けないようにしてねっ」
 それこのへんで売ってました? なんでわざわざチョコバナナ。
 言いたいことは頭を駆け巡ったが、ありがとうございますと受け取り、口に入れてしまうのが、白露という男である。
 チョコバナナに罪はないのだから、食べ物を粗末にするわけにはいかない。
「どう? パパ、おいしい?」
「……アイの優しさが甘くて苦しいです」
 もっしゃもっしゃとバナナを噛んで飲み込んで、たぶん白露はチョコの涙を流した。

 だが、ファッションショーで彼は見事、むきかけバナナボクサーぱんつをアピールした。
 白い体に風を受けつつ背筋を伸ばし、くるりと一回転までしたのだ。
 倒れる時は前のめりと言いますし、と固まった表情で思ったのは、白露の中だけの秘密である。
 ちなみにアイオライトは、チョコバナナを食べつつ、そんな父を応援していた。
「パパすごい! さいこー! あ、他の人はどんなぱんつなのかな」
 なんて。チョコのついた唇で、にっこりと笑いながら。

●サル×トランクス

 びゅんっと吹いた風に、辺りを歩く人が「わっ」と小さな声を上げた。
 ぐるぐる巻きのマフラーに鼻まで埋めて、手袋に包んだ手は、隣に歩く恋人と繋ぎ。
 そんな微笑ましいカップルを横目に、サフィニアが身につけているのは真っ赤なトランクスのみである。
 しかもただの赤ではない。前面中央には、ぷるんと滑らか(かは知らないが)おサルのお尻がおっきくどん!
 そしてそこには筒状になった尻尾がくっついていて、大事なものをしまう感じになっている。
 ちなみに万人にあうように、丈は長めなので心配ない。
 びゅううう!
 吹き抜ける風に震えるサフィニアに、咲祈は持っていた本から顔を上げた。
「今日は一段と寒いようだけれど、……大丈夫かいサフィニア?」
「大丈夫じゃない。ってか最悪なんだけど本当に」
 サフィニアは自分を抱きしめるような格好で、恨めし気に咲祈を見る。
 咲祈ってほんとにのんきだよもう、とか聞こえるが、本人はちょっと肩をすくめただけだ。
 そんな彼に言っても仕方がないことはわかっているけど、どうしたって不満は出る。
 だってなにせここは外。そして自分は半裸……というか、ぱんつ一枚寒すぎる。
「それにしても、協力がこんなファッションショーなんてね」
「……まあ、店主さんも困っているようだし、協力してあげたら良いだろう」
「協力、ね。咲祈はどうするの?」
「僕かい? 僕は黙って見ている――」
 と、言いかけて。咲祈はすぐに「……のは、冗談さ」と付け加えた。
 こんなショーにも真面目に対応している彼が少々気の毒だし不憫だし、うん、やっぱり心配だ。
「こっちに来るかい? 温めてあげるよ?」
 咲祈は震えるサフィニアに向けてすっと手を伸ばした。
 サフィニアは、その場でぴしっと固まり、直後。
「あたため……ッ!? ちょっと待った咲祈。そんな風に教育した覚え俺ないんだけど!?」
 ずかずかと大股に、咲祈に詰め寄った。
 しかし咲祈には、彼の動揺の意味がわからない。
「……なんだいその反応は。僕は女性が言われたらきゅんとする言葉を言ってみただけさ」
「いや俺男だし!」
「見たらわかる、それは。ただ本に書いてあったんだ、そう言えばいいと」
「そんな本、渡した覚えもない!」
 咲祈は騒ぐサフィニアを無視して、彼の手をぎゅっと掴んだ。
「ちょ、咲祈、手冷たっ!」
 ひんやりとした感触に思わず叫べば、咲祈はすぐに手を引いて、まじまじと自分の手のひらを見つめる。
「冷たい……? ふむ、自分だとよくわからないな」
 ぐっぱーぐっぱーとしてみるけれど、これではすぐに温かくなりはしないだろう。
 でもサフィニアは今現在ぱんつ一枚で寒さと戦っている。
 どうしたものかと考えて、咲祈ははっと閃いた。腕を開いてサフィニアに一歩寄り。
「じゃあ、こうすれば良いんじゃないかい」
 ぎゅーっと思い切り、彼を抱きしめる。
 それなのに、サフィニアは「ちょっと待ってよ」と咲祈の肩をぐいと押して、身を離した。
 なにしてんのと言われるが、むしろその問いの意味が、咲祈には理解できない。
 サフィニアの顔を見上げて一言。
「なにって……寒いんだろう?」
 確かに寒い。すごく寒い。
 だけどサフィニアには、やっぱりこの状況を認めることはできなかった。
 だって自分は半裸。ぱんつだけ。それで人目もあるし、いや、なくても。
「不健全だよ……!」
「フケンゼン……?」
 読書家の咲祈が、言葉の意味を知らないはずはないだろう。ということは、今自分たちがしている状況が、人目をはばかる行為だということが理解できないのか。
「だって普通に考えても、こうしたら温かい」
「だから駄目だって! 気持ちだけ、受け取るから!」
 腕を開いた咲祈と、後退るサフィニア。
 彼らの出番は、まだ少し先である。

●リボン×ハイレグ

「どれがいいと思う」
「なんでお前のぱんつを選ばなきゃなんねえんだ」
「買い物にはうるさいだろう? アンタの気に入るものがあれば、間違いはないと思ったんだが」
 ハティの言葉に、ブリンドの眉間のしわは深くなる。
 信頼されているのは悪い気はしない。だが。
 目の前には、真っ赤な奇抜ぱんつが五枚。こんなの、妥協すらできやしない。
 だがハティは平然と、信じられない一言を放った。
「ああ、折角だから、正月に穿こうと思っている」
「……この期に及んで前向き過ぎんだろ。そのケツ見たら蹴りとばしそうだわ」
 ブリンドが思ったままを単刀直入に伝えてやれば、ハティは一度、ぱちりと瞬きをした。
「ぱんつ一枚でいるわけじゃないからいいだろ」
 確かにブリンドは、ハティのぱんつな尻を、正月早々見ることはないだろう。
 だがほっとけば全身真っ黒にするハティのことだ。正月も自分がハティの服を選ぶ可能性はある。その下にこのぱんつかと思うと――。
 ぞぞっと寒気を感じた気がして、ブリンドはぱんつから目を逸らした。
 その間に、ハティが一枚をとる気配がする。
 どれを選んでも恐ろしい。だが気にならないわけではない。
「で何にした」
「……ああ、無難に無地の」
 これを、とブリンドの前にぱんつを差し出してくるハティ。
「どこが無難だってアァン?」
 レースですけすけ、リボンまでついてんぞ。
 ブリンドがハティの胸倉を掴んでしまっても、これは仕方がないと言えるだろう。
「リン、離せ。店主が驚いている。あとこのぱんつの名前は……」
 別にそんなことは聞かなくても判るのだが、ハティはどうしてもブリンドに言いたいらしい。
 しかしその単語に、今までは縁がなかったのだろう。
 眉をひそめてハ、ハ、と言っているので、ブリンドが先を言ってやる。
「ハイレグ」
「ハイレグ?」
「ハイレグ」
「そうか、ハイレグ……」
「いいからさっさと穿け!」

 着替えたハティは、ハイレグぱんつ一枚でブリンドの前に現れた。
「上着くらい羽織って来いよ!」
「ああ、でも寒さに慣れたほうがいいだろう? できるものなら一周走ってきたいくらいだが」
「その格好でか!」
「まあ、さすがにそれはしない。リン、風よけになってくれないか」
 そう言ってハティが平然と、いつも通りブリンドの身体の陰に、身を寄せる。
 考えてみて欲しい。
 人が行き交う広場で、目の前に、ぱんつ一枚の相棒がいる姿を。
 ブリンドは思いっきり、盛大な舌打ちをした。
「なんなんだ待ってる間のこの間はよぉ今年最悪の気分だよ」
 そんなブリンドを、ハティは不思議そうに見る。
「リン、それを判断するには気が早すぎるぞ。今年が始まって何日目だと思っているんだ」
「うっせーそれで隠れてるつもりかよ」
 尻のリボンが風になびいて、ひらひら、ひらひら。
「ったく、後ろから丸見えだぞ」
 ブリンドは自分が着ている上着の前を開け、「ん」とハティに向かって顎を引いた。
 ハティが少しばかり驚いた顔をする。
「……いいのか?」
 さっきまでのブリンドの様子から、てっきり他人のふりをされると思っていたのだ。
 ブリンドは不満顔のまま、返事は待たず。
 ハティを抱きしめるようにして、その白い身体を上着で包んでしまった。
「……あたたかいな」
 呟くハティに、ブリンドは心癒され……たりはしない。ぱんつ一枚の相棒を抱きしめるというのは、なかなか微妙である。
 俺も相当焼きが回ったな、としか思えない。

「さて次は、真っ赤なハイレグぱんつの登場だ! チャームポイントはちょい透けレースとひらひらリボン!」
 ハティではなくぱんつメインに呼ばれた声に、ハティは寒空の下へと飛び出していく。
 風に舞う赤い髪、ひらひらリボン、そしてまっすぐな背中を見送って。
「見事な仕事ぶりだな……」
 その神々しくも堂々たる姿に、ブリンドは気付けばそう呟いていた。
 たしかにあのぱんつは少々イカれているが、赤はハティに良く似合う。
 黙っていれば、彼はなかなか美男子なのだ。ブリンドがハティの服を見繕うのだって、どこぞの魔女っ子でもあるまいし、黒服だけでは勿体ないと思ったから。
 それにしても。
 舞い続けるリボンを遠目に見つつ、ブリンドは思う。
 ウィンクルムとはなんなのだろう、と。
 その自問自答は、たぶん今年も続いていく。

●黒薔薇×Tバック

「ファッションショーですって。葵田さんなら、どんな服でもお似合いになりますよ」
 いばらは確かにそう言った。しかしそれはけして、相棒、葵田 正身にぱんつを穿いてほしかったからではない。
 その証拠に、彼は五枚のぱんつを目にした途端、正身に頭を下げたのだ。
「……すみません、安請け合いしてしまって。まさか寒空の中、ぱ、ぱんつのショーなんて」
 ぱんつ。その単語を口にすることすら恥じらい躊躇った彼を、正身が責められるはずはない。
「構わないよ」
 正身は優しくいばらに微笑むと、すぐに店主が並べるぱんつに向き直った。
 縁ある薔薇に目を止めて思わず選んだのは、赤地に黒薔薇のものだ。
 しかし。
 その小さな布を持ち上げ構造を確認し、正身は目をみはった。
「……なるほど、そうきましたか」
 だがどんなものであれ、選んだ物は身につけねばなるまい。

 そして、着用後。
「……悪くはありませんね」
 カーテンの向こう側で、正身はひとり、呟く。
 フィットするから動きやすいし、これなら普段使いにも検討の余地ありだろう。
 いばらがきっとまだ不安げな顔をしているだろうと、正身は素早くカーテンのこちら側へとやって来た。
 案の定若い相棒は、正身を見るなり安心し……てはくれなかった。
 あっ、と小さく叫ぶなり、両手で顔を覆ってしまったのだ。
「ぱ、ぱんつ一丁……」
 そういう企画だから当然とはいえ、いばらとしてはさすがに動揺する。
 だが正身は特に、恥ずかしがっている感じではなかった。
 ただ「困らせてしまったかな?」と言う声が聞こえたので、正真正銘いつも通りというわけではないのかもしれない。
 彼がどんな様子か気になり、いばらはそろそろと手を開いた。
 指の隙間から正身の身体を見てみれば、筋肉がそこそこついた身体は、意外に逞しい。
 彼はいばらの視線に気付いているのか、いないのか。
 ショーの順番を待ってその場に立っているが、時折びゅうっと吹き抜ける風は冷たく、やはりどうしたって寒そうである。
 いばらはついに顔から手を離し、正身に一歩、近付いた。
「葵田さん、良かったら僕で暖を……」
 とりませんか? とってください?
 どちらにしろ提案する言葉は、最後まで告げられることはなかった。正身がいや、と首を振ったからだ。
「いばら、気遣いは有難いが、下着男が少年に抱き付く構図は誤解を生む気がする」
 下着男。
 さらりと告げられたひどい言葉を、いばらは脳内で復唱した。
 それでも葵田さんはかっこいいと思います! と力一杯言える性分なら良かったが、それはなかなかに難しい。
 代わりにいばらは、さらに一歩正身に寄る。
「じゃあ僕が逆に抱きしめます」
「……そうくるか」
 いばらはさらに、彼に近寄った。
 そしてそろそろと細い腕を伸ばし、正身を抱きしめた――直後。
「お兄さん、出番だよ!」
「……温めてくれてありがとう、いばら」
 するりといばらの腕を抜け、ショーの場所へと歩きだしながら、正身は考える。
 いばらの腕が自分に回されたのは、一瞬だった。
 しかし自分が呼ばれなければ、きっともっとくっついていたのだろう。
 普段なら、こんなことはしない。でもこの非日常な状況で、いばらも感覚を狂わされているのだろう。

 寒空の下ではあったが、正身は笑顔でショーに出た。
 前面の黒薔薇も、Tバックも、余さずに観客に見せつける。
 なにせこれが、今の自分の仕事なのだ。

 ショーの後。正身がいばらの元へ向かうと、彼は穏やかな微笑で迎えてくれた。
「赤い下着効果で一年、葵田さんも僕も幸せですよ」
 そんなことを言うので、正身はつい、真面目な彼に尋ねてみたくなる。
「二人共と云うならいばらも赤い下着を? そういう事だろう?」
 え、と驚くいばらの目は、普段より一回りも大きくなったように見える。
 そのくせ彼は言うのだ。
「僕も……はい、お揃いの穿きますから」
 だが残念。
「すみませんね、子供向けのサイズは用意してないんですよ」
 店主に言われ、二人で顔を見合わせたのは、言うまでもない。

●黒薔薇×Tバック

 宣伝したところでこれは……。
 店主の手前口に出さず、李月は相棒、ゼノアス・グールンが選んだ黒薔薇Tバックを見つめた。
 それなのに、ゼノアスはなぜか上機嫌。
「尻尾通す穴がないから、これにするか」
 と言いながら、鼻歌でも歌いそうな勢いで、着替え場所に向かう。
 ヒトダスケヒトダスケ、と言う声がカーテンの向こうから聞こえて、李月はため息をつくしかなかった。
 最近ゼノアスはこの『人助け』という単語にとにかく弱いのだ。
 ウィンクルムだからヒトダスケ、ヒトダスケしてオレ強くなるという短絡思考が予想されて、どうしたものかと頭を抱えつつも。
 まあ、やる気まんまんだからとめないけどね。
 ――と思ったことを、彼はすぐに後悔することになった。

 さてノリノリのゼノアスは、もちろんそのテンションのままにショーを終えた。
 黒薔薇Tバックの邪魔になってはいけないと、腰にくるりと巻いた尻尾が違った印象を与えたらしく、それなりに好評でもあったようだ。
 だがしかし。
「リツキ寒いぞコノヤロー!!」
 突撃してくる相棒に、李月はずざっと後退った。
 考えてみてほしい。
 ぶっちゃけありえないほどの逆三角形のマッチョが、真っ赤な生地に黒薔薇のプリントされたTバック一丁で、自分の名を呼び突進してくる姿を。
「うわっ! ちょ、来ないでっ!」
 後退したのは最初の一歩だけ。李月は、ゼノアスに露骨に背を向け逃げ出した。
 しかし当然彼は追ってくる。顔面蒼白なのに、目だけが血走っているのが怖い。
 これは充血をとる目薬が必要か。それとも暖が必要かと言ったレベルである。
「あんで逃げんだ!」
 ゼノアスは叫び、李月に向けて全力疾走。
 そうなれば、一般青年の李月が、体温欲するマッチョ精霊にかなうはずはなかった。
 後方から腕を掴まれあっという間に反転されて、気づけば、ぶちぶちっと李月のボタンが飛んでいた。
 抱きついてくると思いきや、服の下に潜り込んだゼノアスに、耐えきれなかったのだ。
「ちょ、えっ!?」
 突如目の前、ごく近くにやって来たゼノアスに、李月の鼓動は高く跳ねた。
 いや、ときめきとかじゃなくて! びっくりしただけだから!
 誰に言っているのかわからないけれど、とにかくいっきに体が熱い。
 なのにゼノアスはがたがたと震えている。
「ザム゛イ゛……シヌ」
 李月のボタンは既に全部弾けてしまっているから、当然李月も寒いのだが、もうなんとも返せない。
 だってゼノアスの、腕やら足やら尻尾やら、とにかく全部が李月に絡みついているのだ。
 しかもそれだけでは足りぬとばかり、ゼノアスは李月を覗き込むようにして、おでことおでこをこっつんこ。
「あったけ……」
 ほっと漏れた吐息が李月の顔に当たって、瞬間、彼ははっと現実に返った。
 ここは広場で、周りにはこちらを見ている人もあって。
 はっきり言おう。こんなことをしていいところじゃないし、もう無理だ。
「早く着替えて来い……!」
 李月は、動揺やら混乱やら羞恥やらで跳ねまわっている心臓を宥める間もなく、力いっぱいゼノアスの身体を押した。
 しかしそれでは相手はとうてい離れてくれなくて。もう最後の手段と、額と額を今度はごつん!
 なかなか痛いがやむを得ない。
「……せっかくぬくぬくしてたのに……風とかどうでもいいとか思ってたのに」
 言いながらも、ゼノアスは渋々身体を離し、着替えに行った。
 なんだかんだ言いつつも、李月は少しの間好きにさせてくれたし。
 ちょっとはご機嫌になっていたのだ。
 しかし帰り道、ゼノアスは李月に「無理矢鱈なヒトダスケ禁止!」を言いつけられる。
 李月はボタンが飛んでしまった上着を前で押さえて、不機嫌顔でそれを口にした。
 しかしゼノアスは「ははは」と高らかに笑うばかり。
 しかも言うには。
「これで一年は安泰なんだろ。良かったじゃねーか」
「良かったって……」
 朗らかすぎる笑顔に、李月は複雑だ。
 鼓動は相変わらず元気なままで、自分ばかりが乱される。
 さてこれから一年、どうなることか。
 笑うゼノアスをよそに、李月は深く息をついた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 糸巻茜  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月25日
出発日 01月02日 00:00
予定納品日 01月12日

参加者

会議室

  • [8]咲祈

    2015/12/31-16:45 

    うーん…なんだかものすごく嫌な予感。
    咲祈は本片手にのんきだし。
     皆頑張ってね…!

    咲祈:僕は黙って見ている。邪魔はしないさ(手をひらひら

  • [7]ハティ

    2015/12/31-11:51 

    葵田さんは初めまして、と揃ったみたいだな。
    五パターン見られるのが楽しみだ。
    …俺モデルだった。リン後で感想を(射殺しそうな眼差しの精霊)……ええと…
    その……良いお年を。

  • [6]葵田 正身

    2015/12/30-00:05 

    葵田と申します。宜しくお願い致します。
    大丈夫です、趣旨は理解しています。

    黒薔薇のプリントされた物を流れで選択する事になりそうです。
    寒い中大変ですが、頑張りましょうか。

  • [5]李月

    2015/12/28-20:58 

    プラン提出

    赤いパンツで皆さんよい新年を!

  • 白露:
    私が捕まりました。
    うちの神人のアイはそのへんで「やったーぱんつだーー☆」と踊っています。

    ……本当に、何故こんなことに。

    私はなんにしましょうかねぇ……。
    何を選んでもろくなことにならない予感しかしませんねぇ……。

  • [3]咲祈

    2015/12/28-13:31 

    相棒が捕まる場面を僕は普通に見ていた。結果、見てないで助けろって言われた。
    よろしくね、咲祈だ。その相棒っていうのがサフィニア。
     とりあえず一番無難なの選んでいた。尻尾付きの……既にある尻尾は腰に巻きつけておけばと言ってある。

  • [2]ハティ

    2015/12/28-06:54 

    どのくらい人がいるのだろうか…皆お疲れ様というか何と言えばいいのか。
    どうせ買うなら使えそうなものをと思ったんだが…これはファッションショーだもんな(ハティは納得しようとしている)

    そうかディアボロは尻尾の問題もあるのか…
    俺は無地の(リボンひらひら)……無地の…?

  • [1]李月

    2015/12/28-05:49 

    李月です
    相棒はゼノアス
    よろしくおねがいします

    相棒が捕まった
    尻尾穴関係で一番エグイの履く気満々なのが怖い


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