【枯木/船旅】二人の夜にナニするの?(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 さてここは、夜中の豪華客船アクサ。スイートルームである。
 クイーンサイズのベッドに相棒と二人。
「おやすみ、また明日の朝ね」
 なんて言いながら、眠りについた。

 にもかかわらず。
 あなたが夜中に目覚めてしまったのは、一緒に眠っていたパートナーが体を起こしたからだ。
 どうしたんだ?
 聞きたいけれど、覚醒したのは意識だけ。
 体は重いし、唇も動かせない。
 最近任務が続いていたし、昨夜床についたのも遅かったから、仕方がないだろう。
 それにしても。
 相棒は、隣でもぞもぞ、何をやっているんだろう。
 喉でも乾いたのかな。
 それともトイレかな。
 暗いから、気を付けて行ってくるんだぞと、寝ぼけ眼で考えた。
 ――のだが。

 ん?
 ベッドの上で、相棒が移動するのはいいとして、体重が……。
 なんで、俺の上にかかるんだ?
 しかも、呼吸音がすごく近いんだけど!
 ねえ、ほんとに何をするつもりなの?

「好きだ……」

 うん、それ知ってる。
 知ってるけど。
 相棒の手が、優しく頭を撫ぜてくる。
 かと思ったら、額にキス。
 その後は頬に。
 耳元で名前を呼ばれて。

 この時には、すでに意識も体もしっかり起きていたあなた。
 起きてる……よ?
 言うのももったいないやら怖いやらで薄目を開ければ、相手がにやりと口角を上げた。
 これ、起きてることばれてる!
 ひゅっと心臓が縮まる思い。

 このまま付き合う?
 それとも控えめに「起きてる」ってアピールする?
 それともむしろ、睡眠妨害でぶっとばす?

 っていうか付き合うって何するの?

解説

さて、こちらはこんなエピですが、らぶてぃめは全年齢対象ですので、そこをお忘れなく。
ですが、限界を試すの大いに結構。
かかってきなさい。
でも限界超えたら容赦なくマスタリングします。
それと、親密度によっては成功しない可能性もあります。

親密度の判定は、二人の心境を想像して判断します。
ケンカしてても楽しそうならオッケー、静かにしてても内心もやっとしてたらアウト。
独断です。

寝ている相棒にうさ耳つけたいとかだったら、うさ耳持っていってもいいですよ。
ただ、こちらは本当にちょっとした子供向けのおもちゃのみ持ち込み可です。

あとこちら、お財布に厳しいEXエピになっております。
アドリブ多めになりますので、明確なラインを示したい方は、プランの頭に「ロマンス」「コメディ」「シリアス」などはっきりご記載いただけると、そっちに持っていくようにがんばります。

少しでも(いろいろな意味で)疑問や不安を感じたら、ウィッシュプランへ書いてください。
入れ替えたことがわかるようになっていれば、神人→ウィッシュ、精霊→アクションでも構いません。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。

お財布に厳しいがゆえに、瀬田の傾向を確認したい方への過去リンク
ロマンス→https://lovetimate.com/scenario/scenario.cgi?type=1&seq=819&gender=1
シリアス→https://lovetimate.com/scenario/scenario.cgi?type=1&seq=1032&gender=1
コメディ→https://lovetimate.com/scenario/scenario.cgi?type=1&seq=1050&gender=1
対年齢制限→https://lovetimate.com/scenario/scenario.cgi?type=1&seq=1068&gender=1

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  眠れなくて、起きてたら、桐華さんの気配
何してるのか気になるけど、暫くは寝たふりで様子を窺おう
僕が本気で騙せば、桐華さんには見抜けないもんね

……あ、待とうか
寝てるのをいいことに何する気!?(すぱーん
…カマかけるとか、桐華さんにしてはやるね

ん…?遊んだよ。楽しんだ
桐華さんと一緒だから、なんでも楽しいよ
ふふ、優しいなぁ、桐華さんは
そういうこと言うと、目一杯甘えちゃうぞ

…なんだよ
なんか、俺ばっかりが欲しいみたいじゃないか
それ、桐華がして欲しいんだろ
ぐぬ…ぐぬぬ…

きす、して
嫌な夢なんて見なくなるくらい
桐華で、満たして

う、ううう、そういうこと言うなら、もう言ってやんないんだからな!
ばーか!
…おやすみ、桐華


ハティ(ブリンド)
 
煙草の匂いがしなくなったのはいつからだろう
リンからやめるともやめたとも聞いていないし、俺も問わなかった
代わりにポケットに入ったタブレット(57)も今は俺の枕元にある
最近まで気付けなかった色々な事もこいつは頭より早く知ってたんだろうか
契約の紋章を眺め手を伸ばす
これが繋げた縁とわかってるのに
それが気がかりになるとは

質問の意図がわからず思案
…抵抗した方がいいのか?
…じゃあアンタは俺と、その特別な事をしたってことか?
そうか
特別だと思ったら駄目だと思ってた
リンの心配事についても聞こうと思ったけど
傍近くに心音を聞いていれば眠気がおりてきて
リンにも布団をかける
…睡眠不足は酔うって聞いた
アンタだよと忍び笑い


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
 
出先は寝れない事が多いけどタイガのおかげかな…今日はゆっくり


んっ 首はやめ…
(夢じゃない?!)
■寝たふり。混乱。頭まっしろ赤面
(タイガに悪戯されてる…の?キスは囁きは良いけど…

良くない!)

(考えるんだ。一緒のベットなのは船旅で、早々に眠てしまって
……やっぱり何で!?また待たせ過ぎた?
先日拒んだから無理強い…?いやまさか)


(タイガに…限って

言ったけど
全部…?こんな形で?


…(いつものタイガだ)ぎゅう抱き
ちが…嫌じゃない。驚いて顔がみえなくて怖くて、先が怖くて
(こんなに想われてるのに僕は)

初めては、顔を見てしたい(消え入る声
何でもない


…いいよ。怖がりな僕が躊躇しない内に

好きだよ。全部あげるぐらい


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  俺ばっかり酷い格好させられてきたから、今日はフィンを同じ目に!
エピ10女体化、66魔女・79ウェディングドレス等

とはいえ、ドレス持ち込んだり着替えさせたりは無理だから、リボンを持ってきた(どれくらいの長さがいいか分からないからたっぷり1巻)

寝ているフィンの頭にカチューシャみたいに結び付けてみる
…フィン、起きたのに全然動じない…寧ろ楽しそう?これじゃ面白くない

って、何して?
いや、そういうつもりで持って来たんじゃ…
って、俺?
ちょ、おい!
…うう、何だコレ、恥ずかしい…
完全に目論見の逆で…でも、フィンが嬉しそうにしているのを見ると…
ああ、俺、本当にフィンに対しては駄目だ
フィンじゃなければ殴ってる、バカ


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  ※動く気配で起きた

可愛いのは中身、外見はイケメンだろ
年末だしアクセサリーの依頼多くて、ここに来る為前倒し納品出来るよう徹夜してたし、少し様子見

頭触ってる
撫でるからか?
撫でられるの好きだろうが

掌にキス…それ懇願
囁き…やりたかったのか?
普段もやっていいけど

間が開いて薄目で見たら、角触って…
…てめぇの方が反則だ
可愛くてやべぇ
俺に気づいたが続行しろと言いたげ
どうしようかな(にや

…乗っかってきた
壮大な計画の返しにイェルを抱きしめる
「イェルがここにいる…いい夢だ」
寝言もアリだろ?
可能なら角にキスし、それから寝る

朝、腕の中に好きな奴がいるって幸せなもんだ
おやすみ、イェル
いい夢見ろよ
俺はお前の夢に邪魔すっかな


●イェルク・グリューンの企み

 ベッドのマットレスがわずかに傾いだことで、カイン・モーントズィッヒェルは覚醒した。
 しかしはっきりしているのは意識ばかり。起きた、と思ったのに、目を開けるのすら面倒だった。
 連日の徹夜のせいだ。
 クリスマスに年末とくれば、アクセサリーの注文も多い。しかもこの客船に乗るためにと予定を前倒しにしたから、それが負担になっていたのだろう。
 そんなことを漠然と考えていると、ふ、と小さく息を吐く音がする。
 ――イェル?
 この部屋にいるのは、同じベッドで眠りについたイェルク・グリューンだけ。
 そうか、イェルが動いたから目ぇ覚めたのか。
 半ば、寝ぼけた頭で思った矢先。
「私も成人男性です」
 きっぱりと断言する声が聞こえた。
 そんなこと、今更主張してくれなくても知っている。
 イェルが可愛いのは中身、外見はイケメンだろ。
 言ってやりたかったが、相変わらずカインの体は動かない。
 そこに、ふわり。
「まず頭……」
 おそらくは、イェルクの手のひらが載せられた。
 それはゆっくりと、カインの髪を梳く。
 こんなことをするのは、普段自分がイェルクの頭を撫ぜるからだろうか。
 彼に触れる時。
 手指に感じる地肌の熱も、指をすり抜ける髪も心地よくて、カインは好きだ。
 それになんと言っても、あの恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな表情。それを見たくて、カインは何度も手を伸ばしてしまう。
 イェルクは、飽きもせずにカインの髪を撫ぜている。
 初めてそこに触れたのは、ジャック・オー・パークのアトラクションの中のことだったか。
 幸せになるという彫像を探す中で、カインはイェルクの髪をくしゃりとまぜて、言ったのだ。
 触るんだったら、こっちだな、と。
 それにならって、自分も彼の頭に、手のひらを置いた。
 ティエンとも自分とも違う、固い質感の髪だ。
 ――と。
 カインがもぞりと動いて、イェルクはとっさに手を引いた。
「……起きて……ないですよね?」
 目を閉じたままのカインの顔を覗き込む。部屋の闇の中では細かなところまでは見えないが、そもそも起きたのならば、黙っているはずはない。
 そう一人納得し、イェルクは、掛け布団の上に無造作に放られているカインの手をとった。
 太い手首を持ち上げて裏返し、分厚い手のひらに唇を寄せる。
 キスは、軽く押し付けるだけだ。
 腕を戻して、カインの脇に置いた片手で自分の体重を支えながら、ゆっくりと背中を丸めていくイェルク。
 短髪で丸見えの耳元に囁くのは――。
「あなたは優しい人ですね」
 その一言に、懇願のキス以上に、カインは驚いた。しかし無言であるから、イェルクには届かない。
 彼は再び、唇を開く。
「しっかり者で、頼りがいがあって、格好良くて」
 並べられる褒め言葉を聞きながらも、カインの頭には、疑問符が浮かんでいる。
 囁き……やりたかったのか?
 普段もやっていいけれど、などと思っていると。
 不意にイェルクの声のトーンが落ちた。
「……いつも私を甘やかすんです」
 そこでカインは、はたと気付く。
 この言葉から、きっと最初に繋がるのだ。「でも私も、成人男性ですから、そんなことをされても」云々。
 しかしイェルクは、小さく息を吐いただけ。想像するならそれは、微笑……あるいは、苦笑、だろうか。
 彼は言う。
「どんなカインも素敵ですが……私だって、翻弄されてばかりじゃないんです」
 イェルクの、もう見ずともわかる白い指は、カインの頬から顎にかけてを、そっと辿った。
「私だって、あなたを翻弄したいんです」
 カインは思わず、息を飲む。
 いつもはちょっとしたことで真っ赤になるイェルクがどんな顔で、とうっすらと目を開ければ。
 ……真剣な眼差しだった。
 イェルクは、カインから離した指を自らの角に這わせた。そして次に触れるは、自身の唇。
「角は反則ですから、ここで悪さは駄目ですよ?」
 艶然と笑ってそう言うイェルクから、カインは目が離せない。
 ――てめぇの方が反則だ。可愛くてやべぇ。
 カインの脳内で呟かれる言葉など、いざ知らず。
 イェルクは、唇に留めた指を、今度はカインの唇へと運んだ。乾いたそれをすっとなぞって、とんとつつき――。
 ここで、薄目を開けているカインに気付く。
 しかし慌てることはせず、片目をつぶって小さく合図。カインならこれで、わかってくれるだろう。空気を読んで、明日も知らなかったことにしてくれるはず。
 そしてどうせここまでやったのだからと、イェルクは仰向けになっているカインの腰の部分に乗りあがった。そのままゆっくりと身体を倒せば、カインの胸に、自分の頭が載るかたちだ。
「これで起きたらカインの所為に……」
 そう、思ったのに。
「わ!?」
 いきなり、抱きしめられた。
「カイン、起きてますよね!?」
 イェルクはとっさに背を起こし、カインを見上げようとした。
 が、それは叶わない。カインの逞しい腕が、イェルクの身体を押さえこんでしまったからだ。しかもカインが、まったりとした口調で言うのはこんな台詞。
「イェルがここにいる……いい夢だ」
「夢ってあなた……」
 さっきちらっと目があったのに。絶対に、起きているのに。
 苦しいと思う直前で、カインの抱擁が、少しばかり緩くなる。
 その隙を逃さず、イェルクは十センチほど上半身を持ち上げた。しかしカインは知らない素振り。どうやら本気で、寝たふりをつづけるつもりらしい。
 動けても、逃がしてはくれないのなら、仕方がない。
 イェルクは身体から力を抜いた。そして、カインの胸に頬をつけようとしたのだが。
 ちゅ、と小さな音が、ごく近く。
 角にキスをされたと気付いたのは、一瞬の後だ。
「カイン!?」
 伸び上がろうにも、またもカインに、強く押さえつけられてしまう。
 え、待って!? 朝までこれ!?
「カイン、ちょっと離してください」
 言うもカインは動かない。それどころか、彼からは、落ち着いた呼吸すら聞こえた。イェルクの体温が、カインに眠気をもたらしたのだ。
 手放しそうな意識の端で、カインは思う。
 朝、腕の中に好きな奴がいるって、幸せなもんだ。
 おやすみ、イェル。良い夢見ろよ。俺は、お前の夢に邪魔すっから。
 呟いたつもりの言葉は声にはならず、カインの脳内で溶けていく。
 そのうちに、イェルクはカインの腕の中から抜け出すことを諦める。
 本気になれば、どうにでもなる。でもそれをする気が、イェルクにはなかった。
 きっと起きたら恥ずかしくて、仕方がなくなるのだろうけれど。
 ここは温かくて、優しくて、何より安心できるから。
「おやすみなさい、カイン」
 耳の下。最愛の人の命が紡ぐ音が、自分を望みの場所へと導いてくれる。
 ――あなたの夢へ、会いに行きます。
 イェルクは、ゆっくりと目を閉じた。

●ハティの思案

 彼から煙草の匂いがしなくなったのは、いつからだろう。
 ハティは、眠るブリンドを見下ろしていた。
 とくに禁煙を宣言された覚えもなければ、ハティ自身、問いかけもしなかった。
 代わりにポケットに入るようになったのは、ミント味のタブレット。
 眠気覚ましのそれはぴりりと舌を焼き、船酔いの体に清涼感を与えてくれた。
 そのおかげか眠ったためかわからないが、とにかくディナーは食べることができた。
 ブリンドは柔らかい枕に後頭部を埋めて、健やかに寝息を立てている。
 小さく開いたままの口が、普段の彼にはない幼さを見せていた。
 眼鏡がないのも、そうか。
 一緒に暮らしていても、気づけないことはたくさんある。
 そのいろいろなことを、こいつはとっくに知っていたのだろうか。
 ハティは、布団の上に放り出されたままのブリンドの手――正確には、甲にある契約の紋章に目を向けた。
 窓にかかる厚いカーテンは、月の光をさえぎっている。室内に明かりはついておらず、ハティの目では、その赤い印を視認することはできない。
 それでもハティは、そこにあるものを知っている。当然だ。自分達は、ウィンクルムなのだから。
 ハティは、ブリンドの手をそっと持ち上げた。
 契約がつなげた縁。それが、気がかりになるとは。
 さらりと紋章を撫ぜると、ブリンドは喉の奥から、ん、と言葉にならない声を漏らした。
「……起こした、か?」
 一瞬焦って手を離せば、ブリンドはただたんに、寝返りを打っただけだった。
 ハティの目に映るのは、彼の背中と、灰の髪。
 ほっと、息を吐く。

 そして、しばらく後。
 ブリンドが目を覚ましたのは、暑かったからだ。
 空調管理の行き届いた部屋でいったいどうして、と思いきや、すぐに背中に引っ付いているモノに気付いた。
「……こいつか」
 横向きの肩越しに、赤い髪の端を見る。
 以前も、こんなことがあった。
 高級温泉旅館『鴻鵠館』で、共に雪景色を眺めたときだ。
 ちゃぷん、と揺れる湯が、ハティの白い肌にはじけていた。
 そこで馬鹿みたいな――ふざけた、という意味でない――話をして、床に入って。
 ブリンドは、今回と同じように、背中に触れる熱に気付いたのだ。
 あの時は確か「背中でいいのか」と、ハティの顔の横に手をついた。
 見開かれた翠の目。
 固まる男に一言を投げかけて、布団から蹴飛ばした。
 あれからずいぶん、時がたっている。
 勘違いするほどこいつのことを知らないわけじゃないが、と、ブリンドは細く息を吐いた。
 ……このまま安心されるのも、腑に落ちない。
 気配で、隣の男が起きているのはわかっていた。
 くるりと身体を反転し、抱き枕状態から形勢逆転。
 ブリンドはあのときのように、ハティの顔の両側に手を置いて、囲い込んで見下ろした。
「学習しねえな、お前は」
 ハティは相変わらずきょとんとした顔で、ブリンドを見上げている。
 そう、見上げるだけ。動かない。
「抵抗しねえのか」
 と、聞けば、
「……抵抗したほうがいいのか?」
 ときたものだ。
 緑の双眸に映るだろう自分は、まだ見える距離ではない。
 それをキープしたうえで、ブリンドは口を開いた。
「そういうわけじゃねえが、何でもなく受け入れるような事でもねーからな」
 なんでここで自分はこんなことを言っているのか、とは思う。
 だがその答えは、既にブリンドの頭の中にあるのだ。
 相手が、ハティだから。
 真面目で変なところに考えを巡らし、そのくせ言葉足らずな天然男。
 ハティはブリンドの下で、眉を寄せた。
「……じゃあアンタは俺と、その特別な事をしたってことか? ……特例?」
「特例っつーか……。いややっぱ特別なもんだろ。一般論だが」
 したというかこれからなんだが、ってのは蛇足だろうか。
 なにやら考えるハティを黙って見ていれば、彼は納得したように。
「そうか」
 と一言、頷いた。
 緑の目が迷いなく、戸惑いもなく、まっすぐにブリンドを見つめている。
 そうかじゃねえよ、特例だの特別だのっつったら大概一人だろうが。そこんとこ気付けよ。
 つっこみたいが、墓穴を掘る気しかしない。
 ハティが呟く。
「特別だと思ったら、駄目だと思ってた」
「心配事が解決して、良かったじゃねえか」
 ブリンドはハティの上からどくと、さっきまで横になっていた場所に、ごろりと転がった。
 その隣にハティが行儀よく並ぶも、すぐに、そこでいいのか? と聞かれる。
「おら、もっとこっち来いよ」
 ブリンドはハティの首の下に強引に手を突っ込むと、彼の肩を引き寄せた。
「おい、リン……!」
 逆らう間もなく、ハティの頬は、ブリンドの胸の上。
 とくとくと聞こえる鼓動は耳に心地よく、なぜか安心を覚える。
 ハティはほうっと息を吐いた。すると頭上からはちっと小さな舌打ちが。
「リン?」
 不思議に思ったらしいハティが顔を上げようとするのを、ブリンドは手のひらで押さえつける。
「なんでもねえ、大人しくしてろ」
 ……そう、なんでもない。ハティが自分の横で心穏やかにできるのならば、喜ばしいことではないか。
 ただそれでも、心の片隅で思ってしまう。すっかり安心しやがって、と。
 ハティは既に、睡魔に襲われ始めている。
 子供じみたとろけた顔に、ブリンドは嘆息した。
 これじゃ、寝かせねえわけにはいかねえだろうが。
 しかし掛け布団に手を伸ばそうとするも、ハティという重しを載せたままでは、いかんともしがたい。
 だがそこは、重し自身が動いてくれた。
 ハティが、ブリンドの上からどかないまま身体を動かして、掛け布団を引っ張り上げたのだ。
 それを二人の上に器用にかけて。
 赤髪頭はまた、ぽすりとブリンドの硬い胸の上に落ち着いた。
「このまま寝るのか」
「……睡眠不足は酔うって聞いた」
 若干、答えになってない気はしないでもないが。
 ハティの頭は正直けして、軽くない。これが朝までかと思いもしたが、引き上げたのは自分である。ハティがいるせいで布団は肩までかからないが、ハティがいるから暖もとれるし、まあ何とかなるだろう。
 ってか、余計なとこまで熱く……、と。
 もちろんそれは、言うべきではない。
 だから代わりに、根拠のない理屈に問いを投げた。
「お前、誰から聞いてくんだ、そういうの」
 ハティはもごもご口を開き。
「アンタだよ」
 ブリンドは失笑する。
「……俺じゃ、しょうがねえな」
 ったく。船酔いはうつるって言ったのも、ひょっとして俺か?
 言った本人が忘れていることを、こいつはよくもまあ、覚えているものだ。
 ハティがとろりと目を閉じる。
「……もう眠い。おやすみ、リン」
「おやすみ、ハティ」
 ブリンドは、ハティをゆるく抱きしめたまま、ゆっくりとまぶたを下ろした。

●桐華の願い

 音がない。
 叶は明かりのない部屋で一人、ぼんやりと天井を見上げていた。
 広いベッドの傍らには、桐華がいる。
 おやすみ、と挨拶をして横になったのは、もうしばらく前のことだ。
 それなのに、桐華の寝息は聞こえない。
 起きてるんだろうな、とは思う。
 べつにいつも同じ屋根の下で眠ってるのに、なんで今日に限って二人とも。
 考えていたら、むくりと布団が持ちあがった。少し離れた隣では、桐華が動く気配。
 もぞもぞと、衣擦れの音。
 何をしているのかは気になったが、しばらく寝たふりをして、様子を窺うことにする。
 僕が本気で騙せば、桐華さんには見抜けないもんね。
 開いていた目を閉じて、視界は本当に真っ暗闇。
 さあ、何をするの、桐華さん。

 白いベッドの上を膝と手をついて移動して、桐華は今、叶を見下ろしている。
 寝顔を覗く程度のつもりだったけれど、これは多分。
 規則正しい呼吸と、身動き一つしない身体。
 それでも、桐華には、叶が起きているのだとわかった。
 なんだよ、寝たふりなんて。
 俺をからかう気か?
 それならいっそこちらからと、桐華は叶の首筋に唇を寄せた。
 いつぞやの戯れの吸血鬼。その逆ではないが、無防備な肌にかりと小さく歯を立てる。
 それでも叶に、表情は生まれない。
 なかなかやるな、さすが叶。
 桐華は布団をはぎ、叶が着ているパジャマの裾に、手を置いた。
 肌のぬくもりを堪能するのは今はやめ。
 すっと手を差し入れようとしたところで――。
「寝てるのをいいことに何する気!?」
 すぱーん、とこぎみ良い音とともに頭頂部を叩かれた。痛い。
 桐華は頭をさすりながら、叶の上から少しばかり、身を起こす。
「……やっぱり起きてた。そろそろお前の嘘も見抜けるようになってきた気がする」
 叶はぱちぱちと瞬きをして、こちらもにやり。
「……カマかけるとか、桐華さんにしてはやるね」
「眠れないのか?」
 桐華は叶の顔を覗き込んだ。結んでいない長髪がパラリと垂れて、横になったままの叶の頬に、一筋かかる。
 それを叶の指先が、くるりと搦めとった。
「桐華さんは?」
「別に、折角だからもう少し起きて過ごしたいって思っただけ。めったにない機会だろ」
 ねじって離して、まっすぐに流れた髪に、叶は再び手を伸ばす。
 まるでおもちゃを見つけた子供のように。
 そんな叶に、桐華は問う。
「ちゃんと遊びつくしたか?」
「ん……? 遊んだよ。楽しんだ。桐華さんと一緒だから、なんでも楽しいよ」
 叶が、柔らかく微笑む。
 その表情を見てしまえば、深く聞くことはできるはずはない。
 ただ、黙っていることもできなくて、桐華はゆっくりと、口を開いた。
「起きてたのは、嫌な夢でも見たからだろ」
 叶は問いには答えず、桐華の髪をいじっている。
「ふふ、優しいなぁ、桐華さんは」
「そりゃ、お前……」
 求められた気がしたから、と言おうとして、桐華はやめた。
 それはあくまで気がしただけで、本当のところはわからないからだ。
 飲み込んだ台詞の代わりに、あえてふざけた言葉を返す。
「ろくでもない夢見て寝不足で、また酔われても困るし」
「もう船にもだいぶ慣れたから、大丈夫だよ」
「万が一ってこともあるだろ。ほら、見ててやるからさっさと寝ろ」
「そういうこと言うと、寝るまで目一杯甘えちゃうぞ」
 えい、と声を上げて、叶は両腕を桐華の首に絡めた。それをぐいと引けば、彼の頭は、とすりと叶の肩口へ。
「これで桐華さん触り放題だ」
「ったく、俺はお前の抱き枕か」
 まるで犬猫を構うように、何度も何度も、髪を撫ぜられる。
 桐華だって文句を言いながらも、それは本意ではないのだ。
 何をされても、それで叶がぐっすり眠れるというのならば、いい。そう思ってしまうあたり、自分もなかなかのものだとは思う。
 だが、もし、このまま眠るというのならば。
 桐華はからみつく腕にあえて囚われたまま、叶の耳元で囁く。
「……なぁ。おやすみのキスくらいなら、ねだってくれてもいいだろ」
 言葉にして、聞かない代わりに。
 抱きしめたいのを、抱きしめられている代わりに。
「……ねだれよ、叶」
 首の腕をほどいて、桐華は顔を上げた。
 真正面から叶を見つめるも、相手は明らかな不満顔だ。
「……なんだよ。そんなの、俺ばっかりが欲しいみたいじゃないか。それ、桐華がして欲しいんだろ」
 叶はそう言って、ごく近い、桐華の瞳を睨みつけた。
 して欲しいか、なんて。
 そんなの、桐華にとっては隠す必要もない。今更だ。
「ああ、そうだ。俺がして欲しい。俺はいつだって、お前に俺を望んでほしい」
 悔しそうに唇を噛みしめる叶の額にかかる髪をかきあげて、叶、と呼んで促せば、相手は、ぐぬ……ぐぬぬ……と眉間にしわを増やしていく。
 悩んでいるなら、もう一歩。
 桐華は言葉を重ねた。
「もっと、好きになってくれていいから。ちゃんと、幸せにしてやるから。お前がしてほしいことも、言ってみろよ」
 叶の紫の瞳が、揺らぐ。
 そして躊躇いながらもゆっくりと開いた唇は、小さな音を紡いだ。
「きす、して。嫌な夢なんて見なくなるくらい、桐華で、満たして」
 叶にしてはらしからぬ、というべきか。
 それとも、らしい、というべきか。
 すぐにそらされた視線を捕まえるべく、桐華は叶の顎に指先を添えた。
 そっと力を込めて、正面を向かせ、望んでくれるなら遠慮はしないと、唇を重ねる。
 しかしそれは眠る前にふさわしく、触れるだけのものだ。
 熱が離れ、しっとりと甘さをはらんだ叶の唇に、桐華の吐息がかかる。
「はい、よくできました」
 その目の前の余裕の笑みに、叶は頬を膨らめた。
「う、ううう、そういうこと言うなら、もう言ってやんないんだからな!」
 ばーか! と続くのを、「これくらいで拗ねんな」と頭を撫ぜて、桐華は身を離す。
 移動先は、叶の隣。手を伸ばせば触れられる距離だ。
 とんとんと宥めるように何度か身体を叩いてやって、うーうーと聞こえなくなった頃に、一言。
「おやすみ、叶」
「……おやすみ、桐華」
 拗ねたままの子供が、明日の朝には機嫌良くなっているように。
 明日も明後日も、その先だって、叶が欲しがるなら、何度でも与えてやるから。
 隣からそろそろと伸びてきた手をぎゅっと掴んで、桐華は目を閉じる。
 そうして二人の部屋に聞こえるのは、健やかな寝息ばかりとなった。

●火山 タイガの期待

 出先は寝れない事が多いけど、タイガのおかげかな…今日はゆっくり眠れそうだ。
 セラフィム・ロイスはふわ、と小さなあくびをした。
 ふかふかのベッドは柔らかく、彼の体を包んでいる。
「タイガ、まだかな」
 自分に先にシャワーを譲り、今は浴室の中にいるだろう相棒……いや、もうとうに恋人になっている火山 タイガを想う。
 ちゃんとタイガが出てくるのを待って、おやすみを言って眠りたい。
 だけどもう……。
 抗いがたい眠気に、セラフィムは目を閉じた。

 一方タイガはその時、ちょうどシャワーを止めたところだった。
 脱衣所で体を拭い、パジャマを纏って、いざ寝室へ。
 気持ちが弾んでいるのは、これがクリスマス以来のお泊りだからである。
 浴室を出て、まっすぐにベッドルームに向かえば、落とされた明かりの中、ベッドの真ん中で、セラフィムが横になっている。
 でっけえベット! 果たせなかった野望実現なるか!?
 高まる期待を胸に隠し、しかし尻尾はぱたぱたと、タイガは歩を進めた。
 そしてセラフィムの顔を覗き込み……。
「……ちぇー寝てらー」
 思わずそう、口をついて出た。
 起こしてしまうか? と焦って自らの口元を手で覆うも、セラフィムは微動だにしないまま。どうやらぐっすり眠りこんでいるようだ。
 すうすうと聞こえる穏やかな寝息。
 わずかに開いた唇と、閉じられた瞳を彩る、長いまつげ。
 いつも耳元や首筋を覆っている髪は枕の上へと落ちて、白く細い首があらわになっている。
 その様子に、タイガはごくりと息を飲んだ。
 眠ってるセラって……!
 気付けば無意識に、手を伸ばしていた。指先がセラフィムの頬に触れる瞬間前、はっと気づいて動きを止める。
 駄目だ、俺! ここは紳士に紳士に。
 思うけれど、どうしたってなかなか、抑え切れるものではない。
 クリスマスの夜は、セラフィムとは別室で休んだ。客間のベッドはとても寝心地が良かったけれど、やっぱりセラと一緒が良いなんて、思ったりもして。
 そんな彼が、今は目の前で、無防備に眠っているのだ。
「……ちょっとくらいは、いいよな」
 タイガはセラフィムへと、再度手を伸ばした。

 さわさわと、何かが首に触れている。
 ……なんだろう? 動物?
 夢心地のセラフィムは、それが小動物か何かだと思った。
 自分は今太陽が昇る芝の上に横たわっていて、そこに動物が戯れているのだと。
 動物はセラフィムの頬をぺろりと舐めて、さらには唇にも小さな口をくっつけた。
 思わず口元を緩めるが、今度は、別の子だろうか。滑らかな毛並みが、ずりり、といっきに首を駆けあがった。
「んっ、首はやめ……」
 自分が出したその声で意識が覚醒し、覚醒したと思ったときに、眠っていたのだと知った。
 ただ、まぶたは重く、目はまだ開かない。
 でもこれは夢じゃない?! じゃあ、一体……。
 考えられる理由はひとつ。
 ――タイガ?
 タイガに悪戯されてる……の?
 そこでどうして、自分はせめて、彼の名を呼ばなかったのか。
 タイガはセラフィムが目覚めたことには、気付いていない。
 先ほどの声は、寝言だと思った。その前のキスに、すっかり興奮していたからだ。
 最初は髪を撫ぜるだけ。それが、頬に触れるだけ、身体をなぞるだけとなり、結局、唇まで重ねてしまったという流れ。
 眠っているにもかかわらず、反応を返すセラフィムは扇情的で、つい、そうだ、つい、弱い首筋に、尻尾で触れた。
 びくりとセラフィムの肩が揺れる。
「ほんっと、セラって可愛いな……食っちまいたい」
 セラフィムは、耳元で聞こえた吐息交じりの声に、呼吸を止めた。
 いつもの明るくて元気なタイガとはまるで違う。
 どうしてタイガが、こんなこと。
 きつく目を閉じたまま、セラフィムは考える。
 一緒のベッドなのは、船旅で早々寝てしまって……やっぱり何で! また待たせすぎた? 先日拒んだから無理強い……? いや、まさか。
 タイガの分厚い手のひらが、セラフィムのうなじから首を辿り、頬に触れる。そして、それを追うように、柔らかくて温かい、もふもふしたものもまた。
 限界、だった。
「あっ……」
 セラフィムははらりと首を振った。枕の上に、彼の髪が舞う。
「タイガ……」
 目を開けて名を呼び見上げれば、タイガは悪びれた様子もなく、にこりと笑った。
「ははっ、よかったか? 本番しようか」
「本番って……!」
 セラフィムの顔が、一気に熱くなる。しかし心安らぐ猶予は与えられない。
 すぐにタイガの唇が、セラフィムの唇に重ねられたからだ。
 息をする間も与えない深い口づけを、受け止める方法がわからない。
 セラフィムは手を伸ばし、ベッドに両手をついている、タイガの腕に触れた。
 タイガはゆっくりと唇を離して、じっとセラフィムを見つめる。
「『独占』していいんだもんな? 好きだから、全部していいよな……?」
「言った、けど……」
 全部……? こんな形で?
 暗闇に慣れない目では、タイガの顔もはっきり見えないのに。
 じわり。セラフィムの瞳に、涙が浮かぶ。
 別に、ロマンティックななにかを想像していたわけではなかった。
 タイガを待たせている自覚もある。
 でも、こんな、いきなり……。
 ううん、タイガにとってはいきなりじゃないかもしれないけれど!
 きっと何を言っても、タイガを責める言葉になってしまう。
 セラフィムは口をつぐんだまま。しかし焦ったのは、タイガの方だ。
「えっ、セラ馬鹿っ、泣くな! 嫌ならしねぇ! 絶対に」
 そう言ってタイガは、セラフィムを思い切り抱きしめた。彼の上に体重をかけないように、立てたままの膝で調節しつつ、彼の背面の腕を差し入れる。
「悪い……あんまり色っぽいから、つい出来心で……。大事にするって決めてたのに」
 セラフィムは、タイガの背におすおずと腕を回した。きゅっと力を込めると、タイガの体温が、身体に染み入るよう。それがあまりにも温かくて優しかったから。
 セラフィムは、言えたのだ。
「ちが……嫌じゃない。驚いて、顔が見えなくて怖くて、先が……怖くて」
 こんなに思われているのに、とは思う。でもこれが、セラフィムの正直な気持ちだった。
 セラフィムはタイガの肩口に顔を埋め、くぐもった声で呟く。
「初めては、顔を見てしたい」
「へっ?」
 タイガは緑色の大きな目を、見開いた。
 空耳、かと思った。けど今、たしかに。
 ――嫌じゃない……って! 初めては、って!
 恥ずかしかったのだろう。狭い腕の中で強引に背を向けたセラフィムを、タイガは再度、優しく抱きしめる。
「いいのか……?」
「……いいよ。怖がりな僕が躊躇しない内に」
 うつむき答えたセラフィムは、しかしすぐに、振り返った。
「好きだよ。全部あげるくらい」
 真剣な眼差しには、先ほどの涙の跡。
 残る滴を指先で拭い、タイガは微笑んだ。
「俺も。セラが好きだ。優しくするから」
 二人の手が、そっと重ねられる。
 夜は、ここから始まるのだ。

●蒼崎 海十の悪戯

 蒼崎 海十は今、暗い部屋のベッドの脇に立っている。
 手には目にも鮮やかな赤いリボンが、ひと巻き。
 これは、相棒兼恋人のフィン・ブラーシュと、この豪華客船に泊まると決まったときから、準備していたものだ。
 広いベッドの上で眠るフィンは、海十がこんなものを用意しているとは知らないだろう。
 ふふふ、と悪戯っ子……いや、それよりはもうちょっと凶悪な笑みで、海十はフィンを見下ろした。
「女の体になったり、魔女になったり、ウエディングドレスを着たり……。今まで俺ばっかりひどい格好させられてきたから、今日はフィンを同じ目にあわせてやる!」
 とはいえ、まさかかさばるドレスを持ち込むわけにはいかない。そんなことをすれば確実にフィンにばれる。着替えさせるのも無理だろう。
 それで思いついたのが、このリボンでぐるぐる作戦だ。
「とりあえず……」
 海十はベッドに乗りあがると、眠っているフィンの頭の横に座り込んだ。
 マットレスが傾いでフィンの体も少しばかり動いたが、彼の目は開かず、覚醒した様子はない。これなら大丈夫だとほくそえみながら、海十は巻かれているリボンを引き出した。
 枕とフィンの首の頭にリボンを通し、側頭部を辿って、頭頂部でちょうちょの形に結んでみるつもり……だったのだが。
 横からでは、なかなか難しいと気付く。
 それならと、無防備に寝息を立てるフィンの腹の上にまたがって、馬乗りになった。
 眠るフィンを望んだとおりの形に飾りつければ、薄暗闇の中でも、まるで少女のような愛らしさ……。
「でもないか」
 だってフィンは、かっこいい。
 こんなリボンをつけていても。
「もっとなにか面白いことを……」
 そう思ったときに、フィンの目がパチリと開いた。
 しかしフィンは実際は、その時点で目を覚ましたわけではなかった。
 暗闇の中、頭のてっぺんでリボンを結ぶ、その手間に集中していた海十は気付かなかったようだけれど、実は彼が馬乗りになってきた時に、意識は覚醒していたのだ。
 可愛い海十がいったい何をする気かと、薄目を開けて見ていたのだが。
 ……これって……どういう状態?
 持ってるのはリボンだよね。
 ああ、成程。それで俺を飾りつけたいと……。
 そう思っているうちに、あれよあれよとこうなった。
「海十、どう? 似合う?」
 フィンは枕元の灯りをつけると、そう言ってにっこりと微笑んだ。
 もちろん海十は、眉を寄せての不満顔。
「……フィン、起きたのに全然動じない……むしろ楽しそうだ」
「もう、なんでそんな顔するの。……そのリボン、俺に貸して?」
 フィンは海十に手を差し出した。
 自分の作戦がうまくいかなかったことが悔しいのだろう。取られまいとする海十の手から、それでもさっとリボンを抜きとる。精霊と神人である。こんなこと、やろうと思えば朝飯前だ。
「で、俺は服を脱いで、リボンを巻けばいいの?」
 笑顔のままパジャマのボタンに手をかけて、首元から、ひとつふたつと外していくフィン。
 その言葉と行動に動揺したのは、悪戯を仕掛けた海十の方だ。
「って、何して……」
「え、だってこれ、いわゆる『プレゼントは俺』的なラッピングリボンじゃないの?」
「いや、そういうつもりで持って来たんじゃ……」
 急に焦り出す海十に、フィンはくすくすと笑い声を立てる
 正直に言えば、心を許してくれているとはいえ、真面目で恥ずかしがりやな海十が、そんなことを言いだすわけはないとはわかっていた。
 でも、真剣に悪戯している彼があまりにも可愛かったから、ついからかってみたくなったのだ。
 海十は当初のやる気はどこへやら、今はわたわたと慌てていて、そんな彼を見ていると、もっと困らせたくなってしまう。
 フィンは顔の前で、ロールに巻かれたままのリボンをすっと引く。
「でもさ、折角だしやってみたいよね。……海十、巻いてよ」
「はっ!?」
 海十は目を見開いた。
 どこまで本気か確認しているような窺う表情に、フィンは「うん?」と首をかしげて見せる。
 海十はリボンを手に取ろうとはせずに、どうしようかと迷っているようだ。
 プレゼントは俺。冗談でも、その先にあることを考えてしまうのだろう。
 まったくもう、本当に可愛いんだから。
 カードの賭けに負けてキスをして怒られたばかりだというのに、どうしたって悪戯が止められない。
 海十は、いつしかリボンがほどけてしまったフィンを、まじまじと見ている。
 フィンがとてつもなく楽しそうで、作戦失敗なのは明らかだ。
 しかも武器たるリボンは相手の手中。どうする、どうやってやりかえす?
 興味を失くしたと背を向けるのも、負けた気がして悔しいし、言われた通りにするのも嫌だ。
 こんなところで負けず嫌いが発揮されて、これじゃまるで、カード勝負と変わらない。
 と、悩んでいると。
 目の前の金髪の青年は、実に優美に、微笑んだのだ。
「海十ができないなら……俺が海十にするね?」
「ちょ、おい!」
「大丈夫心配しないで。海十の可愛い姿は、おにーさんしか目にしません」
 他の人に見られるのも嫌だけど、フィンに見られるのが一番嫌だ……とは言えない。
 言えば彼が、喜ぶだろうことはわかるから。
 海十は、下手なことを口にする前にと、ぎゅっと唇を引き結んだ。
 一応抵抗は試みたのだ。でもフィンを本気でどうこうできるはずはなく、むしろしたところで敵わないだろうけど……ということで、こんな状況になっている。
 胸から上に、何重にも巻きつけられた赤いリボン。
 腕もまとめてくるくるされて、鎖骨のあたりで大きく蝶結びだ。
 恥ずかしくて、穴でもあったら埋まってしまいたい。
 目論見とは完全に反対だし、ぜったいこんなこと、予想すらしていなかった。
 でも。
「うん、凄く可愛い。今夜のプレゼントは海十、なんて」
 と、満面の笑みで、フィンが言うから。
 緩く結ばれているリボンを、ほどこうという気がおきない。
 ああ、俺、本当にフィンに対しては駄目だ。
 これが好きになったほうが負け、というやつか。
「フィンじゃなければ、絶対殴ってるのに」
 バカ、と付け加えてやったにもかかわらず、フィンはとても嬉しそうだった。
「うん、俺も海十じゃなきゃ、こんなことしないよ」
 そう言って、海十の手指……自分とお揃いの指輪を撫ぜる。
 聖夜に渡したこれは、『将来の約束』だ。
 海十は、気づいているだろうか。
 たった今海十本人が口にした、「フィンじゃなければ」の台詞。
 これは、フィンが特別だという、強烈な愛の告白にも聞こえるということに。
 もちろん、フィンはそのつもりで、海十に同じ言葉を返したのだが。
 明らかに動揺する海十のリボンに包まれた身体を、フィンはぎゅっと抱きしめる。
「今夜は離さないからね」
「えっ、それは」
「……嫌?」
「……じゃない、けど」
 リボンがほどかれるのは、もうあと数秒後。



依頼結果:大成功
MVP
名前:
呼び名:叶
  名前:桐華
呼び名:桐華、桐華さん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月16日
出発日 12月24日 00:00
予定納品日 01月03日

参加者

会議室

  • イェルク:
    海十さんはリベンジ頑張ってください。
    私もリベンジ頑張ります。

    他の方も夜這い頑張りましょう(きりっ)

    カイン:
    (言ってる意味解ってねぇよな、こいつ)
    ※ごそごそとプランを提出してあげてる。

  • [7]蒼崎 海十

    2015/12/23-23:09 

  • [6]蒼崎 海十

    2015/12/23-23:08 

    蒼崎海十です。パートナーはフィン。
    ギリギリのご挨拶となりましたが、皆様よろしくお願いいたします!

    俺は、諸々リベンジをかねて、コレ(リボン)でフィンを飾り付けようと思います。
    …俺ばっかり、変な格好(女装とか)させられてるから…(拳握り)

    フィン:…。(また可愛い事をしているなぁと思っている)

  • [5]ハティ

    2015/12/23-17:07 

  • [4]セラフィム・ロイス

    2015/12/22-20:22 

    :タイガ
    (もぞもぞ)
    ・・・セラが寝てるからちょっとだけ・・・。と!?俺、タイガだ!と寝てるのがセラ
    (お前らもか。にやりって顔)皆のご武運(?)を祈ってるぜ・・・!

  • [3]蒼崎 海十

    2015/12/20-01:15 

  • [2]叶

    2015/12/19-00:17 

  • イェルク:
    イェルク・グリューンです。
    パートナーは今そこで寝てるチンピr…コホン、カイン・モーントズィッヒェルです。

    …可愛いとはもう言わせません。
    夜這って、私もちゃんとした成人男性だという証明を行います(きらっ)

    ……なので、そのまま寝てる振りをしていただけると助かります。
    あと、無反応過ぎても空しいので適度に反応も。あ、でも、あんまり大袈裟ではないものが希望でして……。

    カイン:
    (注文多いな、オイ)
    「まぁ、皆よろしく頼むわ」
    ※寝てるフリ中なので寝言ちっく


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