プロローグ
豪華客船アクサは、スクルージとキャロルの愛の結晶と言っても過言ではない。
思えば結婚した頃から、苦労の連続だった。
それを何とか乗り越え、事業を起こし拡大し、やっとの思いで手に入れたのが、このアクサなのである。
その就航が、もうすぐだった……のだが。
なんたることか、『黒き宿木の種』が植え付けられてしまったのだ。
これでは一般人をのせることはできない。
「……というわけで、ウィンクルムにのってほしい、という連絡を受けました。ええ、スタッフもウィンクルムが務める予定です」
A.R.O.A.職員はそう言って、一冊のパンフレットを差し出した。
アクサの施設や楽しみ方がのっているものである。
「こんな豪華な船は、なかなかのることがないでしょうねえ。私がウィンクルムならぜひ行きたいくらいです」
職員はほうっと息を吐き、パンフレットをウィンクルムに押し付ける。
「まあせっかくですから、楽しんできてください。オーガが出るわけじゃなくて、相棒と時間を楽しむだけでいいんですから、ね?」
――といういきさつで、あなた達は豪華客船アクサに乗りこんだ。
今夜のお楽しみは、なんといってもダンスパーティーだ。
※
光を押さえた薄暗いダンスホールの中を、あなたは相棒と並んで歩いていた。
互いに手に持っているのは、入口で係の者から受け取った一輪の赤い薔薇。
「これをパートナーの方と交換してから、ダンスを始めてくださいね。二人でいらしているのですから茶番と言えばそうなのですが……せっかくですから、愛の言葉でも捧げたらどうでしょう?」
おそらくは新人ウィンクルムなのだろう。若者に微笑みながら言われてしまい、正直困っている。
簡潔に言えば「何を今更」だ。
相手も同じ様子で、薔薇を弄りはしても渡す素振りはない。
だが「確かに」とあなたは考える。
とても船内とは思えない、豪華なダンスホール。そしてドレスコードにのっとり着飾った相棒。こんな状況が、この後またあるだろうか。
A.R.O.A.職員も、受付の新人も「せっかくだから」と言っていた。
だったら――。
あなたはゆっくりと口を開く。
命を預け支えあってきた相棒に、本気で愛の言葉を告げるために。
解説
『黒き宿木の種』をなくすために乗り込んだ船ではありますが、諸経費もかかりますので、
600jrほどのカンパをお願いします。
なおこちらは例の種の影響で本来の船のスタッフは乗っていませんので、飲食物等のサービスはございません。ご了承ください。
今回の目的は、薔薇を渡して相棒を口説き落とすことです。
もうくっついているウィンクルムも、そうでないウィンクルムも、頑張って愛の言葉を伝えてください。
とりあえず最終的に相棒が薔薇を受け取ってくれれば、成功とします。
ダンスホールですが、ダンスはしなくても構いません。
それと今回は、みなさまそれなりの正装でご参加ください。
男性ならば一般的にはダークスーツやタキシードと言われますが、こだわりによりいろいろあると思いますので、お好きなように考えてくださって大丈夫です。
ゲームマスターより
こちらは白羽瀬マスター主催の連動エピ【船旅】に関わるものです。
今後、ほかにも豪華客船のエピソードが出てくるかと思います。
みなさま、素敵なクルーズをお楽しみくださいね。
なお、今回は個別エピのため、ウィンクルムごとの描写になります。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
豪華客船だなんて何だか緊張しちゃうな 彼が選んでくれた衣装が崩れていないか、つい確認してしまう ダンスの経験も無く愛の言葉と聞いて思わず口籠る ?ええ、と…ラセルタさんが捧げる側って事かな 照れながら薔薇二本を仕舞い誘われる儘に歩き出し 惑う時間はほんの一瞬で 凄いね、初めてなのにちゃんと踊れているみたいだ 安心感に体を委ね 一瞬の違和感と全く違う雰囲気のダンスに慌てる 力が籠った手は振り解けず 見上げた彼の顔は、まるで獲物を狙うかのようで …ラセルタ、さん? (貴方に切望される価値があるような隠し事は、ないのに それがラセルタさんの幸せなら、受け入れたい …俺以外の人に貴方を渡したくは、ないから そっと薔薇を彼の胸に差す |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
今更…だと2人共思った だって俺達もう…さ… けど同時に伝えたい一つの想いがあふれ出すから ランスの言葉より先に 「いつもランスに先を越させはしないさ」なんて茶目っ気たっぷりに口を開く 一つの想い それは… 俺さ…好きってよく分からなかったんだ 大切な者を喪いすぎていて 作ることを怖がってたんだと思う もうあんな想いはしたくないって 常識とか同性とか建前ばかり並べて、結局は傷付くのを怖がってた 曝け出す覚悟も正直になる勇気も…なかったのかもしれない そんな関係を手に入れてしまったら、 もう放せなくて溺れてしまいそうで 今は別の意味で怖がってる だから確かめたくなるんだ 言葉でも体温でも 何時の間にか ランスを求めている(手を伸ばす |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
夜でダンスなら燕尾服を着ていくぜ。久しぶりだこんな格好。 (実家はそれなりのお家柄、社交ダンスもバッチコーイ) 「白のローブに赤い薔薇はとても映えるぜ。オレの愛を受け取って欲しい」と薔薇を差し出して告げよう。真剣な眼差しと共に、だ。 言葉で飾るのって苦手だし。 愛してるって言葉はシンプルだけど偽りない気持ちだし。 偽りないからこそストレートに告げたいじゃん。 「うん、いつまでも一緒だ、オレ達」 そのままラキアの手を取って、音楽に合わせてダンスを踊るぜ。 社交ダンスは得意だ。(小さい頃に叩きこまれたから) ラキアをリードして踊ろう。 オレ達がずっと一緒にいる姿を、色々な花達に見せてやらなくちゃ。季節が変わろうとも。 |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
☆ 愛の言葉ねえ… 告白するには絶好のシチュエーションだが お膳立てされたこの状況での告白は果たして『最高のタイミング』と言えるのか 薔薇を手で弄びながら考える ネカはどうすんだろう(ちらちら見る まああいつからの愛の言葉とか、今更過ぎるけどな! …とはいえ、やっぱりそうはっきり言われると照れる 何でこいつ、こうも軽く言えてしまうんだろうな 嫌なんじゃなくてちょっと羨ましい 結局まだ言わずにデッキの近くで波音を聞く …あのな、そう期待の目で見られても「じゃあ告白します」じゃ言えるもんも言えねえから それとな、 沈んだネカの髪に薔薇を差してまっすぐ見つめ …好きだ フェイントだ、驚いたろ お気に召さなかったらまた今度言ってやる |
●約束していた愛の言葉
ライトを落としたダンスホールでは、隣に並ぶネカット・グラキエスの表情の、細かなところまでは見えない。
それでもちらちらとその様子を見ながら、俊・ブルックスは先ほど係の者に渡された薔薇の茎を、指先で弄んでいた。落ち着かないのだ。
愛の言葉ねえ……。
耳聡い相棒に聞かれたら嫌なので、無言のままに考える。
ネカットならいざ知らず、自分はそうそう乗らない豪華客船。さらにはいつもは着ない白いスーツに、赤い薔薇。告白するには絶好のシチュエーションだ。
だがここまでお膳立てされた状況で――しかもスーツはネカットが選んだ――果たして『最高のタイミング』と言えるのか。ただの『できすぎた状況』ではないのか。
――ネカはどうするんだろう。
普段とは違う黒いスーツが、彼を常以上に凜と見せている。そう、黙っていれば好青年なんだ、ネカは。
赤い薔薇も、やっぱりよく似合っているし。なんか落ち着いてるみたいだし。
相棒がそんなことを考えているとは露知らず、そわそわしている俊を全力で意識しながら、ネカットは何でもない風を装っていた。
これは告白ワンチャンあります……! が、こちらから何かを言えば、また「絶対言わねえ」と言われてしまいますからね。今は黙って観察です。
ただ耳は大きく目も大きく、彼の一挙手一投足を見逃さないようにしなければいけない。
そんな時、ぼつりと聞こえた独り言。
「……まあ、あいつからの愛の言葉とか、今更過ぎるけどな!」
シュン、欲しいんですか、私からの愛の言葉……!
そう思ってしまえば、うきうきと振り向くしかないだろう。
「私ですか? もちろん好きですよ、はいっ」
ネカットは手に持っていた薔薇を、そっと俊の胸ポケットへ差し入れた。
「お好きでしたよね、薔薇」
言えば俊は一瞬目を見開いて、しかしすぐにそれを逸らしてしまう。
「……なんでこうも軽く言えるんだお前は」
別にネカットの告白が、嫌なわけではない。
ただ、どうしてこんなにはっきりと、且つさらっと言えてしまうのかと……照れるうえに、ちょっと羨ましい。
結局、ネカットに想いを告げられないまま、時間だけが過ぎていく。
告白の場として整えられたダンスホールに踵を返し、デッキへと出てきたのは、あの雰囲気がいたたまれないからだ。
ざ、と耳に届く波音。ネカットが自分を見つめているのがわかる。
そわそわ、そわそわ。
あのダンスホールでの落ち着きはどこ行った。
風に髪をなびかせるネカットを見、俊は苦笑した。
「……あのな、そう期待の目で見られても『じゃあ告白します』じゃ言えるもんも言えねえから」
ネカットが、一瞬しゅんとする。だけど、そんな彼もまた、俊を惹きつける。
日常で笑っていても、戦闘で真剣な顔をしていても、ちょっと残念なところも……彼が、彼であるゆえに。
――言わなくては、ならない。
俊はネカットにはわからないように、すっと息を吸った。
「それとな」
ずっと手に持ったままだった薔薇を、沈んだネカットの髪に差す。
驚き顔を上げる彼の目をまっすぐ見つめ……。
「好きだ」
その時の、ネカットの表情と言ったら。
大きく開いた目、そしてぽかんと開いた口で。
「……は?」
「フェイントだ、驚いたろ」
「驚きました。驚いたけど、シュンこそ軽いじゃないですか」
俊は実に楽しそうに笑っている。
まるでネカットのその表情が見たかったのだとでもいうようだ。
「お気に召さなかったら、また今度言ってやる」
ここまでの告白を散々ためらっていたとは思えない力強い言葉に、ネカットは唇をほころばせた。
「それは嬉しい言葉ですね。でもこれが、シュンの最高のタイミングなんでしょう? まったく、一瞬私を出し抜いたくらいで、そんな嬉しそうにして……」
言いながら手を伸ばし、俊の頬に触れる。
「本当に可愛い人ですね」
ここで、奪ってしまいたいものがあるけれど。
いっきに緊張する相棒の身体に、手を引いた。
――今日は、嬉しい言葉だけで良しとしましょうか。
ネカットはくすりと笑い、俊が髪に差してくれた薔薇に手を添える。
黒いスーツに、赤い薔薇。
白いスーツの胸ポケットに赤い薔薇を指した俊は、とても魅力的だ。
私は、シュンの目にどう見えているんでしょう。
聞きたいような、聞きたくないような。
相棒を見つめ、ネカットは柔らかく微笑んだ。
●奪い捧げる愛の言葉
「豪華客船だなんて、なんだか緊張しちゃうな」
いつものようにはにかむ羽瀬川 千代は、しかし常のような装いではない。だからこそ余計に、肩に力が入ってしまう。
「大丈夫かな、おかしいところはない?」
自身を見下ろしてから、千代は相棒のラセルタ=ブラドッツに尋ねた。この日のために彼が選んでくれたのは、ほとんど黒に見えるダークグリーンのスリーピースである。ラセルタのように黒色のほうが無難な気はしたのだが、それには首を振られてしまった。
「どちらでも千代なら似合うだろうが、ときには遊び心も必要だろう」
それにラセルタのスーツは、けしてそれ一色ではない。一見はいたってシンプルであるが、ベストにはシルバーで繊細な刺繍が施されている。
タイの色は、ラセルタがワインレッドで、千代がスーツと同色のダークグリーン。
「俺好みに着飾る千代が見れた事は役得だな」
ラセルタは口角を上げた。そしてしなやかな指を伸ばし、千代の胸のポケットに、赤い薔薇を差す。
「せっかくの機会だ。お相手願おうか?」
すかさず手をとられるも、千代は戸惑うばかり。
当然だ。こんな豪華なダンスホールでダンスをしたこともなければ、薔薇を差し出して愛の告白……などという柄でもない。それはラセルタがするから似合うのであって、と彼を見上げた。
「ええ、と……ラセルタさんが、愛を捧げる側って事かな」
「無論だ。いつもと変わりないだろう?」
ラセルタは悪戯っぽく笑い、ダンスホールの中央へ向けて歩きだす。
「その薔薇は、後で答えとして受け取ってやる。……お前は何も考えず、俺様について来ればいい」
しかし慣れぬ場所で、千代が躊躇ったのはほんのわずかな間だった。
ラセルタは千代の手をとり背を抱いて、ゆったりとリードしてくれる。千代はただ、彼に導かれるままでいい。
「凄いね、初めてなのにちゃんと踊れているみたいだ」
千代は、ごく間近にあるラセルタの顔を見上げて言った。先ほどまでの緊張が、嘘のように解れていく。
「みたいではない。ちゃんと踊れているぞ、千代」
目の前の楽し気な表情を堪能していたラセルタが、艶やかに微笑み――。
腰を引き寄せられたのは、その直後。
「えっ……」
するり。ラセルタの尻尾が千代の下肢に絡みつく。
腕を強く引かれて、二人の間にあった距離はいっきに消えた。
これまでとはまるで違う恋人の様子に、千代は体を硬くする。
しかし掴まれた腕は振りほどけずに、抱かれた身体を引くこともできない。
先ほどまで安堵を与えてくれていたラセルタは、今や獲物を狙う獰猛な獣のようで。
「ラセルタ、さん?」
名を呼び動く喉元に、いつ牙がたてられても不思議ではないと、千代には思えた。
だがしかし、彼が動かしたのは、鮮やかな唇だけ。
千代、と。
目の前ののけぞった首に唇を寄せ、ラセルタが囁く。
「『恋人』の距離を、ずっと考えていた。優しく甘い幸福だけでは、最早足りない。たとえ傷つけ、酷くしたとしても、お前すら知らない全てを暴いて、俺様の物にしたい」
吐息に近い声音を、千代はただ、黙って聞いた。
ラセルタの顔がゆっくり上がり、水色が金色を捕える。
「代わりに、俺様の全ても千代にやろう。……どうだ?」
返事を待たず、ラセルタは千代の首筋に、唇を埋める。
――貴方に切望される価値があるような隠し事は、ないのに。
首を離れて、握られたままの手を引き寄せられた。手首にラセルタのキスが落ちる。
執着と、欲望。
気付いてしまえば、身体の奥底に震えが走る。
……それほどの想いを、この人は。
千代は手首を持ち上げたままのラセルタを、まっすぐに見つめた。
「それがラセルタさんの幸せなら、受け入れたい。……俺以外の人に、貴方を渡したくはない、から」
はっきりとそう言って、胸に二本、差したままの薔薇を一輪とる。
抱きしめられている間に歪になったそれを、構わずに、彼の胸ポケットへと差した。
「存外、ずるい男だな。お前は」
ラセルタが愉しそうに、笑う。
だが、その手は決して、千代を離さない。そしてやはり、こう言うのだ。
「……それでも、手放すつもりなどないが」
●明るい未来への愛の言葉
「夜でダンスなら、燕尾服を着ていくぜ。久しぶりだな、こんな恰好」
姿見に映る自分を見て、セイリュー・グラシアはにかりと笑った。
実家はそれなりの家柄で、パーティーもダンスも珍しいものではなかったから、この服装にも状況にも臆することはない。
だが、久しく着ていないものを着たから、多少の違和感はあるというものだ。
その傍らで、ラキア・ジェイドバインはふむ、と考える素振り。
「ダンスで正装……」
しばし熟考するも結局は、女性じゃないからドレスってわけにもいかないし、聖職者で正装なら白ローブでいいでしょ、という結論に達した。
同じ家で準備をして、一緒に玄関を出て、豪華客船へ向かう。
その一連の流れが、とても嬉しく感じる。
それはセイリューの側にしても同じことだった。
大切な人が、当たり前のように隣にいる幸せ。それを得るまでには、それなりの時間を費やした。
しかしそれこそ朝から晩まで一緒にいても、ラキアが着ているのがいつもの衣装だったとしても、セイリューは当然のごとく、ラキアに目を奪われる。
だから、客船のダンスホールで、こう言ったのだ。
「白のローブに赤い薔薇は、とても映えるぜ。俺の愛を受け取ってほしい」
セイリューはラキアへとまっすぐに薔薇を差し出し、その若草を思わせる緑の瞳を、真剣な眼差しで見つめた。
もしかしたら、もっといい言い方があるのかもしれないとは思う。しかし言葉を飾るのは苦手だし、なにより直球の想いを伝えたかった。
そんなセイリューの姿に、ラキアはしばし言葉を失っていた。
真っ正直な瞳に宿る光が、彼の想いがどれほど本気なのかを伝えている。
いつもは着ない燕尾服、そしてこの表情に、ラキアはどくりと胸が鳴るのを感じた。
愛猫たちと賑やかに楽しく暮らす中での、彼の笑顔ももちろんいい。しかしこんな戦場にいる時のような真剣な眼差しで「愛を受け取ってくれ」などと言われたら。
――顔が熱くなっちゃうよね。
見惚れている間も、セイリューの薔薇は差し出されたままだ。それを、ラキアは静かに受け取った。
「もちろん、いつまでも君と一緒に居るつもりだよ」
赤い花弁に染まった顔を近づければ、甘い香りに包まれる。
そこでふと、愛の誓いには証人が必要だということを思いだした。
これが自宅だったならば、愛しいクロウリーやトラヴァース、ユキシロにでもお願いすればいい。でもここでは……と考えたところで、ふと目に入ったのは貰ったばかりの赤い薔薇。
「そうだ、この花達が、証人だよ」
ラキアは自分が持っていた薔薇を、セイリューのタキシードの胸に差す。
「黒に赤い薔薇も、とても映えるよ」
「ありがとう」
セイリューは照れくさそうに笑って、胸元の薔薇を見下ろした。
「うん……いつまでも一緒だ、オレ達」
一緒に暮らし始めた時からわかっていたし、疑うこともないのだけれど、何度聞いても嬉しく、心が満たされる。
「踊ろう、ラキア」
もはやこの喜びを表現するには、身体を動かすしかないと、セイリューはラキアの手をとった。ダンスホールの中央で向かい、音楽に身を任せる。
流れている曲は、落ち着いたワルツ。それなのに、気持ちはまるで跳ねるよう。
これはきっと、目の前のこんな近くに、ラキアがいるからだ。
胸で赤い薔薇が、揺れている。
それを見てセイリューは、オレ達がずっと一緒に居る姿を、色々な花達に見せてやらなくちゃ、と、家にあるたくさんの植物たちを思った。
季節が変わっても、年が変わっても、二人の愛情は変わらない。そう信じられることが嬉しい。
そしてラキアの胸にもまた、喜びは満ちている。
目の前のセイリューが楽しそうでかっこよくて、手は彼の心のように温かい。これが、幸せ以外の何であるだろう。
「来年も、こんな素敵なクリスマスを過ごせるといいね」
「来年も、じゃなくて、これからずっとだろ?」
二人は顔を見合わせたまま、くすくすと笑った。
●繰り返し告げる愛の言葉
渡された薔薇を手に、アキ・セイジはヴェルトール・ランスを見上げた。
きっと、互いに考えたことは同じ。
今更……と。
ただ、それが『今更』だろうと『また』だろうと、何度だって伝えたいと思うのもまた事実。
互いに互いの目を見つめ、赤と金の中に自身の影を見る。
ランスの唇が動き、音を発するより早く、セイジは声を出した。
「いつもランスに先を越させはしないさ」
そう、唇に笑みを浮かべて。
だが、語る言葉は決して甘いだけのものではない。
セイジは、ホールへは出ずに、周囲に設置されたソファに腰を掛けた。隣に並ぶランスに切り出す言葉は。
「俺さ…好きってよく分からなかったんだ」
いつもは明るいランスは、ただ黙って聞いてくれている。顔を見ることはできないが、傍らにある体温が心地よくて、セイジは自然と、彼の方へと身体を傾けた。
「大切な者を喪いすぎていて、作ることを怖がってたんだと思う。もうあんな想いはしたくないって」
「セイジ……」
それがまるで自分のことであるかのように、切なげなランスの声。
こんな相棒……いや、恋人がいてくれてなお、過去の自分は恐れていたのだと、セイジは昔を思い出す。
たいていのことは、何でもできると思っていた。
しかし本当は、常識とか同性とか建前ばかり並べて、結局は傷付くのを怖がっていたのだ。
曝け出す覚悟も正直になる勇気も…なかったのかもしれない。
「でも、ランスが俺に心を開いてくれたから……変わることができたし、信じることができた」
誰を、なんて、言わなくてもランスはわかってくれるだろう。
しかし今度は逆に、そんな関係を手に入れてしまったら、もう放せなくて溺れてしまいそうで……今は別の意味で怖がっている。
ランスに預けている肩が、温かい。
「確かめたくなるんだ。言葉でも体温でも……何時の間にか、ランスを求めている」
セイジはそう言って、手に持ったままだった薔薇を、ランスに差し出そうとした。
だが実際にそうする前に、ランスはセイジの手から薔薇を引き抜いてしまう。そして彼は、あいた手を取り手前に引くと、近くなったセイジの瞳を覗き込んだ。
「俺が映ってる」
「それは……俺がお前を見ているから」
『今更』ながら照れて目を背けようとするセイジに、逃がさないとばかり、頬に口付けを。
驚く彼に、ランスは真正面から伝える。
「セイジがどんなに求めてくれても……いや、千の言葉を紡いでも、百の口付けを交わしても、それでも足りないと思ってしまう。俺は、我侭で欲張りなんだ」
セイジの瞳に、困惑が浮かぶ。なんて答えようか悩んでいるのがまるわかりだ。
だが、真面目な彼に不安を与えることだけはしてはいけない。
ランスは腕を伸ばし、彼をそっと抱きしめた。そして、耳元で囁く。
もう俺たちは、互いが互いの一部になってしまったんだよ、と。
「だから魂が求めあうんだ。体が2つに分かれてはいるけれど、魂が叫んでいるんだ。一つになりたい、確かめたいと」
ランスは、セイジから身体を離すと、未だ彼に渡していなかった、赤い――否、真紅の薔薇を取り出した。
この美しい花の中に、今はもう自分の血潮の中に溶けている、セイジとの愛によって生まれた喜びを、痛みを、注ぎこんでしまいたい。
その後にこれを渡せば、彼はきっと、もう二度と不安にさいなまれることはないはずだ。
だがそれは、到底できることではないと承知している。だからこそ。
ランスはセイジの前に膝をついた。薔薇を胸に掲げ、セイジの顔をまっすぐに見つめる。
皆が見ていると気にする彼には、それがどうした、と、返してやった。
千回で足りなければ、千一回目の睦言を。
百回で足りなければ、百一回目の口づけを。
愛しい人に捧げたい。
「愛しているよ……」
頬を染めたセイジに、薔薇を差し出す。
「ランス……」
震える声音。
彼はゆっくりと、真紅の薔薇に手を伸ばした。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月06日 |
出発日 | 12月13日 00:00 |
予定納品日 | 12月23日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
会議室
-
2015/12/12-23:09
別にそんなのあらたまってわざわざ言うものでもないだろ。
だいたい俺達に、そんな言葉とか、もう、それに恥かしいし人前じゃないか。
なのにどうしてだか、心の奥から何かが出そうになる。
まるで口をつぐもうとする俺を押しのけるように、その感情は言葉の形を取っていくんだ。
とりあえずプランは提出できたよ。
ランスが強引だったりキザなのは今に始まったことじゃないが、溺れてしまいそうだよ。
自分がベツノナニカになっていきそうで、少し、怖い。
-
2015/12/09-21:03
俊・ブルックスと相方のネカだ。
今回もよろしく。
愛の言葉…愛の言葉、なあ……
あんまり引っ張りすぎるのもアレだし、言うしかないかなぁ……