我ら、あなたを癒し隊!(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 我ら、あなたを癒し隊!
 こんにちは、あるいはこんばんは。ウィンクルムの片割れ様。

 愛を分かつウィンクルム、大切な相棒とはいえ、多少の不満や悩みはありましょう。
 ええ、ええ、わかっていますとも。
 あなたが悪いことでも、相方様がいけないことでもないのです。
 人と人の付き合いですから、うまくいくときも、そうでないときもございます。

 その憂さを、我ら癒し隊とともにはらしませんか。
 なにをするかって?
 もちろんご説明いたします。

 こちらに取り出した、パンチングバルーン。
 あれです。底に重しが入った風船。
 地面に置いてある物を殴ると、ぼよーんと戻ってくる感じのあいつですよ。
 その、相方様・等身大サイズがこちらです。
 ここに相方様のお写真を拡大プリントいたします。
 想像しにくければ、抱き枕のバルーン版と思っていただければよろしいかと。

 それを、殴るなり蹴るなり、普段は言えない愛を語るなり、どうぞお好きにしてください。
 ええ、あなたを癒すためのものですから、ご自由に使っていただいて構いません。
 ただし、武器の使用はご遠慮くださいね。あと、お持ち帰りも厳禁です。
 そして申し訳ないのですが、お部屋が一部屋しかご用意できなかったので、ウィンクルム御一行様、同じ場所での使用になります。
 はい、バルーン放置でみなさんで語っていただいても、一向にかまいませんよ。
 もちろん、ほかの方とは絡みなしでも大丈夫です。

 どちらにしろ、必要ならば、我らにお声かけください。
 愚痴も聞かせていただきます。慰めもいたします。
 癒し隊の目的は、みなさまを癒すことにありますから。

 素敵な時間になるといいですね。
 我らあなたを癒し隊、心を尽くしておもてなしいたします。

解説

癒し隊に癒してもらいましょう、というエピソードです。
バルーン制作料及び何かあった時の保険で300jrいただきます。

説明しますと、ウィンクルムのどちらか片方が、この癒し隊に癒されることになります。
神人・精霊どちらでもかまいません。

そうして癒しの時間を過ごしている最中に、相棒がやってきます。つまり癒しタイムを見られてしまうわけですね。

全員は同じ部屋で過ごしますが、交流必須ではありません。
絡みご希望の方は、プランに記載をお願いします。


ゲームマスターより

全力でコメディです。
誰にでも、言えない不満のひとつやふたつやみっつや……まあいっぱいありますよね。
ためてはいけません。解放するのです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  ランスの写真をペタリ
じっと見る

殴るほど屈折したモヤモヤは無いんだよな(つんつん

最近は家事も手伝ってくれるし(壊す事もあるけどようは気持ちだ
この前なんて弁当作ってくれたし(真黒だったけど愛はこもってた
所構わずハグしたり好きって言うけど(TPOさえ弁えれば悪い気はしないよ
ご家族も良い人達だし(俺を嫁と決め付けなければもっと良い

良い部分とそうでもない部分は物事の裏と表じゃないかな
ランスの困った部分を見つけるたびに、
そういう考え方も有るとか、
それは良い部分の別側面だとか、
考える事にしてるんだ

たまにズボラなのは愛嬌のうちだし(たまって言うか頻繁だけど、おおらかなのは良いことだ

な、そうだろ?ランス?(にこ



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
 
癒される方

パンチングバルーンを軽くパンチ
フィンの馬鹿野郎
子供扱いするなよな
怒ったなら、怒ったって態度に出して言えばいいんだ
俺に遠慮せずに…

今朝、偶には掃除くらい手伝おうとして…フィンの大事な仕事の書類に水を掛けてしまった
なのに、フィンが怒らなかった事に腹が立ったんだ
…恋人、なのに
駄目な時は叱って欲しい
俺ばかりがフィンに素の姿ばかり見せて…我儘言って
フィンはそれを受け止めてばかり…何だか遠く感じた
だから、素直に謝罪の言葉も出て来なくて
部屋を飛び出してしまった

そんな話をその場に居る皆にして悩み相談

殴ったバルーンを撫でて呟く
「フィン、ごめん……」
「でも、もう少し俺に対して本音をぶつけてくれても…」


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  ※外出から帰宅後テーブルの上に走り書きのメモ見つけて来た

声掛けねぇ方がいいかな
何か可愛いこと言ってるが、特に意識してねぇ部分言われてもなぁ

(背後で聞いてたが、リボンに話が移り)
「気づいてるに決まってんだろ」

やっぱ硬直した
情報源のメモは返すか
女物だし、リボンは遺品だろうとは前から思ってた
俺とそうなったから、前進の意味で外したのだろうと
「これで髪は纏めとけ。食品関係の仕事だろ」
(アイドグレースが飾られた銀の透かし彫り自作髪留め(リボン飾る余地もある)差し出す)
それが理由で仕事限定しようって…ぶっ
「そんな可愛い理由が来るとは思ってなかった」
癒されたし可愛いから頭撫でておく
「って、それは駄目だ、死ぬ」


セラフィム・ロイス(トキワ)
  ?遠くでよく分からなかったけどトキワ?
どこ行くんだろう

■こそっ
Σ(僕のバルーン!?何で)
…(声かけても?帰った方が見なかった事にした方がいいかな…!?)
目が合って隠れ……ちらり
覚悟を決めていく。正座


え…?(あっけ
いや構うよ。久々に再会できたし色々あったんだ。大学も通ってウィンクルムの仕事でも役立てて
鏡も写真もね平気になって会話も普通にできて
■視線に慌て照れ。語りは慣れてない

じゃなくて、その
恋愛事)気づいてたんだ…?(赤面
(反対しないんだ)…内緒にしてね

うん
…でも最初に外や他人への興味をくれたのはトキワだから(居てくれた事、感謝してるんだ
甘えバルーンと戯れ

◆タイガが励まし、トキワは隣に座るタイプ


咲祈(サフィニア)
  ・精霊は勿論、神人もいじりおーけー!
・参加者様との絡みも歓迎

(部屋の本は読み終えた。…そうだ、本屋に)心の声
まあ、構いはしないけれど、サフィニア、少しばかり遅くはないかい

(たまたま通りかかり)
……見て見ぬふりして通り過ぎようかと思ったが…ふむ、興味深いね

細長い風船に不満混じりに語り掛けるサフィニア……どうしたんだい一体(振り回してる自覚は…ないわけでもない

…夜更かしするな、かい。ふむ…要望には答えられない(真顔
本を読むことが、生きがいだからね



「さあ、私たちに、お疲れのあなた様方を癒すお手伝いをさせてくださいませ!」
 にっこりと笑う癒し隊に一室に詰め込まれたのは五名。
 アキ・セイジ、蒼崎 海十、トキワ、イェルク・グリューン、サフィニアである。

●アキ・セイジの場合

 用意されたパンチングバルーンは、いつも相棒を見上げているのと同じ高さのものだった。
「本当に等身大なんだな」
 セイジはヴェルトール・ランスの写真の、肩のあたりをつんつんとつついてみる。
 なぜだか誘われるままに癒し隊についてきてしまったけれど、別にランスを殴りたいと思うほどのもやもやはない。
 まあかといって、抱きしめて「愛してる!」と叫びたいほどの愛情は……あるかないかは置いといて。
 無邪気に微笑んでいる写真のランス。こんなものがあれば、当然本人のことを考えてしまう。
 セイジはふむ、と呟いて、彼との日常に思いをはせた。
「最近は家事も手伝ってくれるし、この前なんて弁当作ってくれてたし。所構わずハグしたり好きって言うけど」
 そこで、ふと、そう言えば彼の家族もいい人達なんだよなと思いだす。
「あれで俺を嫁だと決めつけなければ、もっと良かったな」
 自分で言った『嫁』の単語に少しばかり赤面し、セイジは足元へと視線を下ろした。
 その目線の先で、ちらと揺れたものに、瞬きを一度。
 まあ、嫁云々を含めたとしても、自分はなかなか幸せ者のようだ。
 セイジは口角を上げた。同時に顔も上げ、バルーンの胸のあたりに手を添える。

「家事で物を壊したり、真っ黒な弁当を作ったり、TPOを弁えない行動をとったり……」
 セイジは指先で、心臓のあたりをつついた。いつもなら、鼓動が聞こえる安心の源だ。
「そういうランスの困ったところも、俺は嫌いじゃないよ。だって要は気持ちだろ?」
 少し恥ずかしくなって、視線を逸らして。
「それに、そんな考え方もあるとか、それは良い部分の別側面だとか、考えることにしてるんだ」
 足元を見てから。
「たまに……いや、結構頻繁にズボラなこともあるけど、これだって愛嬌のうちだろう。大らかなのはいいことだ」
 やっぱりと、顔を上げた。風船ランスをとんと軽く押す。

 反動ですぐにかえってくるバルーンは、いつもランスがくっついてくるよりも穏やかな勢いで寄ってくる。
 それがなんだか、物足りない。
「やっぱり違うな……本物じゃないと……そうだろ? ランス」

 振り返り微笑むセイジに、ランスはびくりと肩を揺らした。
「……って!? いつから気付いてた!?」
 自分のバルーンがあるのを見た時は驚いた。
 でも、それを殴ったり、愚痴ったりしないセイジにもっと驚いた。
 しかもなんだかノロケみたいなことを言っていて、抱きしめたいやらもっと聞いていたいやら。
「もしかして、考え方がどうとか言ってた時は、もう……?」
 別の視点というのがなかなかできないからこそ、ランスには役立つ独り言だった。
 気持ちがありがたいと思えれば、「でも」とか、「だって」とつい始めてしまう反論だって、確かに減らせるだろう。
 もしかしてあれはセイジからのアドバイスだったのではと思った。
 だから聞いたのだが、彼は「企業秘密だ」と笑うだけ。
 しかしそう言いながら、自分の気持ちを察してくれたらしい相棒に、セイジは目を細めた。
 床に伸びた影を見て、本当はもっと前から、彼がいることに気付いていた。
 面と向かって言いにくいことを伝えるのには、いいチャンスだったと思う。
「もう、敵わないな、セイジには」
「御免御免」
 困り顔をしつつの笑顔は、人懐こくて愛らしい。
 セイジはランスの金色の髪にぽふりと手を置くと、その髪をくしゃくしゃと掻き混ぜた。

●トキワの場合

 さて、その隣で、セラフィム・ロイスのバルーンに困惑している男がいた。トキワである。
 実は、突然現れた癒し隊のことは、最初は新手の悪徳商法かとも思ったのだ。
 ただそれにしてはあんまりに残念な雰囲気なので、いろいろと考えることを放棄した。
 とりあえず癒したいのだろう。癒し隊の存在はそれでいいことにする。
 しかし、だ。
「こんなもん出されても……」
 トキワはため息をついた。こんな風船相手に囁くのも練習台にするのも論外で、殴りたいなんて思うはずもない。
 というかどうせなら。
 ……本物がいい。
 これは口には出さない。
 それぞれが相棒のバルーンに夢中とはいえ、この場にいるのは同僚ウィンクルムだ。
 壁に耳あり。余計な尾ひれがつかないとも限らない。
「あの……我々のご招待が、ご迷惑だったでしょうか」
 トキワの反応に不安を感じたのか、癒し隊が近付いてきたので、それには問題ないと首を振ってやった。
「愚痴などあればお聞きしますが」
「てきとーに過ごしとく、ほかの奴らの癒しを頼むわ」
 それよりも。
「タバコ、いいか?」
「お煙草ですか」
 部屋は広いが念のためと、男はトキワの隣でバルーンを相手にしているイェルクに声をかけてくれた。
 彼はトキワを振り返り「構いませんよ」と言う。
「私の相棒も、タバコを吸いますから」
「そうか。じゃあ吸わせてもらうぜ」
 もちろん目の前のセラフィムバルーンは文句を言うはずもない。
 トキワはタバコに火をつけ、煙を吐いた。写真をまじまじと見つめ、一度押す。
「ったく、冷静な顔しやがって。独身男、一応もう一人の相方ほおっておいて、デート三昧で緩んだ顔してるくせに」
 慣れた味に気が緩み、これくらいなら許されるだろうと、少しばかりの恨み言。
 その後もう言うことはないとばかりに、その場に腰を下ろした。
 その時に振り返ったのは、なんとなく気配を感じたからだった……としか言えない。ほとんど直感ではあった。
「セラ坊?」
 トキワはひらひらと手を振って、セラフィムを招いた。彼が来るまでの間にタバコの火を消すことも忘れない。
 こんなもの、もと病弱青少年には百害あって一利なしだ。
 セラフィムは一瞬驚いた顔を見せたが、素直にトキワの方へとやってきた。
 そして隣でなぜか正座をするものだから、トキワは思わずふき出してしまう。
「なんでそんな緊張してるのか、今の聞いてたか知らねえけど……」
 セラの肩にトンと手を置き、顔を覗く。
「俺がお前に言いたいことはこれだけだぜ? たまには構え。気遣え。以上」
「え……?」
 セラフィムはぽかんとトキワを見上げた。しかし直後、ふるりと首を振る。
「いや、構うよ。だって久々に再会できたし……」
 最初はためらいがちな口調だったが、それはだんだん明るいものになっていく。
「色々あったんだ。大学も通って、ウィンクルムの仕事でも役立てて、鏡も写真も平気になってね、会話も普通にできて……」
 語るセラフィムを、トキワはじっと見つめている。
 タイガ以外にこんなに話すのは珍しくて、セラフィムは自分の顔が熱くなるのを感じた。
 そこでふと、彼が言っている『構え』というのは、こういう会話のことではないと思った。だとすれば。
「もしかして……気付いてたんだ……? タイガのこと」
「バレバレだ」
「……内緒にしてね」
 セラフィムは小さな声を出した。反対されるとは思わなかったけれど、反対されないことが嬉しい。
 トキワは苦笑する。
「これでも弟をとられた兄の心境なんだぞ。変えたのは虎坊主だろうが、今があるならいいこった」
「うん。……でも、最初に外や他人への興味をくれたのはトキワだから。居てくれたこと、感謝してるんだ」
 セラフィムが、少しばかりトキワに寄り添う。
「なんだ、子供のころよりよっぽど素直だな。これもあの単純そうな虎坊主の影響か」
「単純って……たしかに、そうだけど!」
「まあ、お前が元気なのが一番だよ、俺は」
 反論しようとしてできないセラフィムに笑いながら、トキワは彼の頭を優しく撫ぜた。

●イェルク・グリューンの場合

 一方、トキワに喫煙を許可したイェルクは、目の前のバルーンに向かって優美な笑みを向けていた。
「言いたいことたくさんありまして」
 そう言って、カイン・モーントズィッヒェルそのままのむっつり顔を模した写真を見た。しかしすぐに視線を下ろしてしまう。
 面と向かってなんて、とても言えない。しかしそのくせ、言わなければどうにかなってしまいそうだった。
 だって、知りたいのだ。彼の心が。
 気付いてほしい。気付かないでほしい。
 相反する想いのはざまで、動けない。今回はそれを開放するいい機会だと思った。
 細く長く、息を吸う。
 バルーン相手に何を大げさなと、人は思うだろう。だが、そうしなければ勇気が出ない。
 想いを通じ合わせ、立ち止まっていた過去から未来を与えてくれたカインに、さらなる将来を欲するなどと。
 イェルクは相棒の顔を見つめるべくわずかに顎をあげ、口を開いた。
「私の心臓、考慮してます?」と。
「普通に恥ずかしいこと言ったりやったり……死にそうです」
 カインのバルーンは当たり前だが、相変わらず眉間にしわを寄せた顔のまま、イェルクの方を見ている。
「あの日から、リボンで髪結ぶのやめてるの、気づいてます? あのリボンは彼女の遺品です」
 イェルクは頬にかかる髪に触れた。タッセルが揺れ、かすかな音を立てる。
「この……最後のプレゼントの伊達モノクルは、あなたがケースを贈ってくれたからつけたままですけど、意味わかってます?」
 答えなど、かえってくるはずはない。だからこそ聞いたというのに。
「気づいてるに決まってんだろ」
 突如聞こえた声に、イェルクは硬直した。それでもなんとか動かした唇で、カインさん、と名を呼ぶ。
 カインはイェルクの正面へとやってくると、彼が家を出る前に残したメモを差し出した。
「内緒で来るなら、こんなもの置いとくなよ」
「あ……」
 思わず目を逸らす。そんな彼の気まずさに追い打ちをかけたのは、カインの「予想はついていた」という言葉だった。
「あのリボン、女物だったしな。遺品だろうとは前から思ってた。俺とそうなったから、前進の意味で外したのだろうと」
 なんだ、わかってくれていたのかと思う反面、ひどく複雑な気分でもあった。
 しかしなんとも答えがたいこの状況を、カインはあっさりと覆す。
「これで髪は纏めとけ。食品関係の仕事だろ」
 そう言って、ポケットに差し入れた手が取り出したのは、アイドグレースが飾られた銀の装飾品だった。
「髪留め……?」
 彼がアクセサリー職人だと知らなければ、とうてい彼の指が生み出したとは思えないほど、繊細な透かし彫りが施された物。
 白い手のひらの上に何気なく転がされたその美しさに、イェルクは見入った。
「それなら、仕事中大切に使います。普段は頭撫ぜられるから、このままでいようと思いますって……なんで笑うんですか」
 バルーンとは違う表情の相棒を睨んでやれば、彼は目だけは真剣だ。そして言うには。
「そんな可愛い理由が来るとは思ってなかった」
 目の前。艶やかな黒髪の上に、カインは手を置く。これが好みならば、いくらでも撫ぜてやりたいと思う。
 しかしイェルクは相変わらず拗ねたまま、ふん、と目を逸らした。
「あなたなんて、ティエンと世界中の猫から、キライって言われたらいいんです」
「って、それは駄目だ、死ぬ」
「ちょっとそんな、死ぬなんて嘘でもやめてくださいよ」
 イェルクが、カインを向く。その間も、カインの手のひらがイェルクの髪から離れなかったのは、言うまでもない。

●サフィニアの場合

 サフィニアは、相棒である咲祈の写真が貼られた等身大バルーンを、まじまじと見つめていた。
 写真家に恨みでもあるのかと思うくらいの仏頂面だ。
「そういえば、写真映るの嫌いだったな。咲祈」
 嫌そうなオーラ全開。しかしその表情にさえ納得すれば、このバルーンの完成度はなかなか高いのではないだろうか。
 思わず「よくできてるなあ」と呟いて、相棒の頬を人差し指でつんつんとつついた。
 するといつの間にか傍らに寄ってきていた癒し隊が「そうでしょう!」と声を上げる。
「こちらのバルーンは、どうぞお好きになさってくださいね。あなた様のための相棒なのですから!」
 きらきらの笑顔を見せる癒し隊。サニフィアはふと、彼になら聴いてもらえるのではないかと思った。
 たしか最初に愚痴も聞くと言っていたはずだ。咲祈そっくりのバルーンに話しかけるよりは、よほど建設的な気がする。
 サニフィアはがっしりと癒し隊の腕を掴んだ。そして語るは、もちろん咲祈のことである。
「うちの神人……咲祈、なんですが。顔には出ませんけど」
 ここで二人して、バルーンをちらり。しかし視線はすぐ、互いに向かう。
「記憶がなくて悩んでいると思うんです」
「ほう、記憶が」
「ええ。それで本を読んだら思いだすかもって言ったら、今度は本の虫になってしまって……夜更かしするんです」
 そこでサフィニアは、いつだって本を抱えている咲祈の姿を思いだした。それは本当にいつものことなのだけれど。
「次の日に依頼がある時に限って……。駄目だって言ってるんですけど」
「それはなかなか、悩ましい問題ですね」
「そうなんです。しかも咲祈といると、なぜか面倒事に巻き込まれるし……」
 釈然としない表情で、まがまがしいオーラを秘めるバルーンを見る。
 お母さんと呼ばれることにはいつの間にか慣れたのだから、今不満に思っていることもじきに慣れるのだろうか。
 それでも。
「咲祈ちゃん、たまには俺の言い分聞いてくれないかなあ」
 そこに、ばあん、と空気の弾けるような音が響いた。

●蒼崎 海十の場合

「フィンの馬鹿野郎」
 海十は、フィン・ブラーシュの写真のついたバルーンを、拳で殴りつけた。
 ほかのウィンクルムたちはこのバルーンを手荒く扱っていないようだが、こうでもしないとやっていられないのだ。
 しかし結構な音を立てた割には、文句を言う声は小さく、戻ってきたバルーンにも、もう拳はぶつけない。
 代わりに爽やかな笑顔を向ける風船の胸のあたりを、手のひらで押した。
「子供扱いするなよな。怒ったなら怒ったって、態度に出して言えばいいんだ。俺に遠慮せずに……」
 吐き出す言葉とともに思いだすのは、水浸しになった書類だった。
 あれはフィンの仕事に関する大事なものだったはずだ。
 それを海十のミスで濡らしてしまったというのに、彼は一言も怒らなかった。
 仕方ないと、眉を寄せて笑ってしまったのだ。
「……恋人、なのに」
 自分ばかりが、彼に素の姿を見せている。フィンはいつも、余裕で受け止めてばかり。
 それって恋人としてどうなんだ。むしろ、恋人だって言えるのか?
 彼が先に許してしまったから、謝罪の言葉さえ口にできなかった。
 怒りとも悲しみともつかない気持ちが湧きあがってきて、海十はもう一度拳を振り上げた。それを無言で、目の前のバルーンに叩き込む。
 と、その場を動かぬはずだった風船は、ころりとサフィニアの側へと移動してしまった。
「あ、すみません!」
 相棒に言うよりもよほど素直に口が動く。サフィニアは振り返り、気にしないよ、と笑ってくれた。
 その人懐こい表情に、ふと、相談してみようかと思った。第三者の客観的意見というのも大切だろう。
「あの……」
 海十は口を開いた。

 彼は海十の話をひと通り聞いてくれた後に「俺は彼の考えていることはわからないけれど」と言った。
「彼は海十くんを子供扱いしているんじゃなくて、大切にしているじゃないかな」
「大切……」
「うん。なんなら皆に聞いてみる?」
 茶目っ気たっぷりに言ったサフィニアが、海十の回答を待たずにイェルクに声をかける。
 彼はサフィニアが話す海十の話を聞くと、うっすらと微笑んで、言った。
「大切にされているとわかっていても、なかなかうまくいかない時はありますよね」
 もちろん、傍らの相棒を見ながらだ。
 彼らの間に何があったかを海十もサフィニアも知らないが、ウィンクルムそれぞれではあろう。
 ただ、フィンばかりを責めてしまったのはいけなかったと、海十は思う。
 だからこそ彼は、先ほど力任せに叩いてしまったバルーンの、その箇所に手のひらを置いた。
「フィン、ごめん……」
 本人のもののように温かくはない、写真の肌を撫ぜる。ただその笑顔を見ていると、どうしたってやっぱり思ってしまうのだ。
「でも、もう少し俺に対して本音をぶつけてくれても……」
 思わず不満を呟こうとした、その時。海十の背後から、聞き慣れた声が聞こえた。
「ごめんね、海十」
「え……?」
 振り返る。と、そこには、こんな季節だというのに額に汗を滲ませたフィンが立っていた。
 きっとさんざん探し回ったのだろうことは簡単に予想がつく。
 しかし海十は何も言えなかった。だって自分は、フィンに謝ってほしいわけではないのだから。
 どこからここにいたのか知らないが、フィンにも海十の気持ちはわかっていたのだろう。
 彼は「いや、違うな」と呟くと、すぐにその表情を引き締めた。
 そして握った拳を持ち上げ、海十の額をコツンと叩く。
「駄目でしょ、水なんて零したら。オニーサン、怒ってます」
 とってつけたようなセリフだ。でも仕方がない。
 フィンにとっては、海十が手伝ってくれようとしたことが何より嬉しかったのだ。それこそ書類なんて気にならないほどに。
 故郷と家族を失って、根無し草となった。
 しかし海十と出会い、大切な人と暮らせることが温かく幸せだということを思いだした。
 ――言葉にしなくても伝わってるなんて……どこかで慢心してたのかも。
 そう思うからフィンは、あえて彼が望む怒りを表してみる。互いに慈しみあうとは、きっとそういうことだろうから。
 海十はしばらくは俯いていたが、そのうちに顔を上げた。
「ごめん、フィン。あと……ありがとう」
「俺こそ……気付けなくてごめんね。海十の気持ちが嬉しかった。ありがとう」
 二人は互いの顔を見つめ、唇をほころばせた。

●再びサフィニアの場合

「やっぱり、仲がいいのが一番だよな」
 仲直りをしたらしい海十とフィンの姿に頷いて振り返った先。見知った姿に、サフィニアは目を見開いた。
「咲祈! いつからいたの?」
 咲祈はつまらなそうな顔のまま、サフィニアを見上げる。
「サフィニアこそ、どうしたんだい一体。さっきまで見知らぬ人に、不満混じりに語りかけていたじゃないか」
「いや、それは……」
 まさか咲祈のことだとも言いづらく、ごにょごにょと先を濁す。
 その視線は、自然と咲祈が手にしている書店の袋へと向かった。
「また……」
 ふと漏れた言葉に、咲祈が怪訝な顔をする。
「ここに来る前に、本屋に行ったんだ。サフィニアの帰りが遅いなあと思いながら歩いていたら、ここを通りがかった」
 なるほど、とサフィニアは頷いた。それなら彼がここにいる理由はわかる。
 しかしまた本か……。読書はもちろんいけないことではないけれど……と、今も目の前で眠そうな相棒にため息をついた。
 また「お母さん」と呼ばれてしまうだろうとは思いつつも、やはりどうしたって、言わずにはいられない。
「夜更かしはやめなさい。その本、寝る時に読むのは禁止だからね」
 少し厳しめの顔で言えば、咲祈は抱えた荷物をちらりと見た後、まっすぐにサフィニアを見やった。
「夜更かしをするな、かい。ふむ……要望には応えられない。本を読むことが、生きがいだからね」
 まあそんな返事だろうとは思っていた。
 サフィニアはバルーンを振り返り、ひとつため息を落とした。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月25日
出発日 11月01日 00:00
予定納品日 11月11日

参加者

会議室

  • [7]セラフィム・ロイス

    2015/10/31-23:04 

    :トキワ
    ・・・セラフィムの追加精霊のトキワだ。部屋は一つだがやりとりは無い感じか?
    まあ、癒し隊って変なのに声かけられて気ままにやってるよ
    当日会えばよろしく

  • [6]アキ・セイジ

    2015/10/31-22:37 

    俺が癒されるんだけど、殴ったりするほどのことはなくてな。
    あまりストレスをためこまないタイプらしいんだよな。
    だから、グチとか殴ったりとかじゃないけど、それでもいいみたいだし、バルーンと会話していると思うよ。
    ランスのこととか、ストレスをためこまないコツの話とかをね。

    プランは提出できているよ。

  • [5]蒼崎 海十

    2015/10/31-00:20 

    ちょっとパートナーのフィンと喧嘩というか…気まずくて家を飛び出たら…
    ここにたどり着いてました。
    こんな場所があったんだな…。

    蒼崎海十です。
    少し愚痴を言ってしまってると思います。
    皆で癒されましょう!
    宜しくお願い致します。

    俺だって子供じゃないのに…(ぶつぶつ)

  • [4]咲祈

    2015/10/30-18:47 

    バルーン、ねぇ。写真がついてると殴る蹴るなんてできそうもないよ(咲祈(写真)の額をデコピンしつつ

    買い物だって伝えるだけ伝えて出てきた。
    …咲祈は、家で本でも読んでるんじゃないかなぁ。
    あ、サフィニアだよ。よろしく、ね。

  • [3]アキ・セイジ

    2015/10/30-00:05 

  • [2]セラフィム・ロイス

    2015/10/29-22:17 

  • イェルク・グリューンです。
    よしなに。

    癒されたいのは私になります。
    ……カインさんが外出してますので、好機として何食わぬ顔で外出して癒されます。
    (テーブルの上にメモの走り書きを忘れて出てきたことに気づいていない)


PAGE TOP