【月幸】目を開けて最初に見たもの(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 すっ……と肉体に意識が戻ってくる。
 それはまるで、暗い水の底から空気の泡が立ち上がってくるような、そんな目覚めだった。
 体を包み込んでいた水が重力に引かれて流れ落ちていくように、意識が鮮明になってゆく。
 髪の毛にとどまる水分のように、少し重たく残る頭痛。
 どうやら今、自分は横になっているらしい。そして、何かの理由でしばらくの間意識を喪失していたようだ。

 ここはどこだろうか。直前の記憶を手繰り寄せてみる。
 直前の章からの再生。
 順調か、あるいはノイズの入った途切れ途切れのものか……とにかくそれは、ある部分で途切れていた。
 セレネイカ遺跡を訪れていた君は
 ネイチャーヘブンズで月幸石の収集中、気持ちの良い木陰で午睡のために目を閉じたのか、
 あるいはマシナリーファンタジア内でオーガに襲われて気を失いでもしたのか。

 あぁそうだ、確か自分は……。

 ゆっくりと目を開けてみる。
 そこは明るい場所だろうか、それとも暗い場所だろうか。屋内だろうか、屋外だろうか。
 そして、視界に飛び込んで来るのは……そう、パートナーである君の顔。
 パートナーはどんな顔をしているだろう。何を言うだろう。目を覚ました自分に対して何をするだろう。
 笑っているだろうか、泣いているだろうか、それとも怒っているだろうか。
 そして自分はそれに何と返すだろうか。

 目を開けて、一番最初に見た君の顔。
 それはあなたにとって、どんな時間になるだろうか。

解説

漫画とか小説とかでもよくある「目が覚めたか……」みたいなシーン。一種の鉄板ですよね。
あれをやってみましょう!というお話です。

目を覚ますのは神人、精霊どちらでも構いません。
目を開けたら、視界にパートナーの顔が飛び込んでくる。
そんな場面をえがいてみたいと思います。

●プランに書いていただきたいこと
 ・神人と精霊のどちらが目を覚ますのか
 ・どんな場所で目を覚ましたのか
 ・眠っていた、または意識を失っていた理由
 ・どんな会話を交わすのか

●注意点
 目を覚ます場所は任意ですが、記憶が途絶えた場所はセレネイカ遺跡内としてください

●消費Jr
 一律300Jrいただきます
 エピソード内で描写が欲しい場合は「○○に使った」と指定してください
 指定がない場合には、寝ている間に落としたなど特に描写のない理由とします

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます。

多分、誰しも一度や二度はこんな場面を想像してみたことがあるのではないでしょうか。
甘かったり、シリアスだったり、ギャグだったり、ホラーだったり……。
どんなプランからどんなお話が書けるのか楽しみにしています。
どうぞよろしくお願いします。

もし可能なら、これを皮切りに「ベタなシーン」シリーズを展開してみたいなぁ……なんて。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  麗らかな昼下がり。心地よい秋風に揺れる木陰の下
目が覚めた俺を見下ろす、綺麗な青い色の瞳が笑っていて

月幸石を探す間に…いつの間にか寝ちゃったんだ
掛けてくれた上着を畳んで彼に差し出す
ありがとう。もっと早く起こしてくれて良かったのに

ああ…ずっと起きているの気付いていたんだ
何だか恥ずかしいな。自分では隠せていると思っていたから

(ラセルタさん、もしかして勘違いしているの?
…あのね。俺にとって孤児院でのイベントは大事だけど
もっと、大切なお祝い事を悩んでいたんだよ
今月誕生日でしょう、24日。勿論、ラセルタさんのだよ

サプライズではなくなったけれど
貴方に貰った分と同じ位の幸せを感じて欲しいから
楽しみにしていてね


柳 大樹(クラウディオ)
  ああ、うん。相変わらずイケメンだ。
「おはよ。ずっと起きてたの?」寝ても良かったのに。
はいはい、真面目真面目。

「どんぐらい寝てた?」
そんなもんか。ま、そこそこ眠気はマシになったかな。

「言わなくても外してるの珍しいね」フードはしてるけど。
「何かあった?」(体を起こす
コイツなりの気づかいなのかね。(若干気恥ずかしく、頭を軽く掻く
「あー、戦闘以外だとつけてない方がいいけど」フードに口布って不審者だし。

「寝たらよくなった」
最近なんか寝れなくてさ。
「このままウィンクルムの力無くなったらとか。勝手に不安だったのかも知れない」
オーガに対抗できなくなるとか、考えるだけで嫌だし。

「そうだね。やれることやるだけか」


日下部 千秋(オルト・クロフォード)
  (神人が目を覚ます。飛び出してきたペタルムに思い切り衝突された模様)

あ、先輩……(いつも通りの無表情が目の前にあって安堵
っつ……(動こうとして。おでこにたんこぶできてる

習性猫でも大きさが猫じゃないって事を失念してました……あ、ハンカチありがとうございます。

(自分のすぐ近くに膝をついて座っているオルトを改めて見やり)
……あの、先輩? 俺が寝ている間……
……ですよね!
何が楽しいんだか……(羞恥で顔を逸らす

先輩は変わった精霊(ひと)だと思う……(心の中で


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  視線感じて起きたら、イェルが泣いてる
「どうした?」
とりあえず、ハンカチで涙拭くか
イェルが唐突に尋ねてきた
「前にも言ったが、あるに決まってる
愛した女と娘だ、忘れないだろうし、愛したことを後悔はしねぇ
が、それで未来を否定したいとは思わねぇな
それはあいつらへの侮辱だ
喪った過去があっても、一緒に生きたい奴に出会ったら、愛したいと思う
別にあいつらを忘れる訳じゃねぇし
ま、死んだ後修羅場になるかもって想像も中々楽しい」
(てめぇが隣にいるだけで俺は幸せだけどな)
(愛してなきゃ言わねぇけど、てめぇに罪悪感ある内は言わねぇよ)
「ありがとう、か。…少し前に進んだな?俺は謝られるよりその方がいい」
泣き止むまで頭撫でる



葵田 正身(うばら)
  ネイチャーヘブンズで目を覚ましました。
月幸石集めの途中、うばらから一休みの要望があり、
池を望める木の下で休憩していた筈です。
そのまま寝入ってしまったようですね。腑甲斐無い限りです

瞼を持ち上げると此方を見詰めるうばらの顔。
私が目覚めた事に気付くとすぐに顔を逸らされました。
意識がしっかりして来たのを自覚し腕時計を確認、
思ったより針が進んでいます

ずっとそこに居たのか、とうばらに声を掛け、
ありがとう。退屈させてしまって済まない。今度はうばらの番でいいぞ
眠る順番。私はしっかり休ませて貰ったから。
何なら膝を貸そうか。お前には高枕になってしまうだろうか

うばらの反応に「冗談だ」
でも休んでいいと云うのは本心です


●顔の造作、心の造作

 ネイチャーヘブンズ。
 うばらは、池のほとりに生えた大きな木の根元に腰を下ろし、幹に背中を預けてぼんやりと池を眺めていた。
「なあ。俺もう疲れた」
 そう言って、うばらが葵田 正身に一休みを申し出たのはだいぶ前のこと。
 秋らしい青空の高い場所で輝いていた太陽は西に傾きはじめ、眩しい日の光もその色合いを徐々に濃くしていた。
(……寝てる、んだよな?)
 木陰に横たわり、ただ静かに目を閉じているだけのように見える正身の姿に目をやる。
 正身が眠っている間に、これまでに集めた月幸石をまとめてはみたものの、それが済んでしまえば他にすることはない。
 軽く周囲を警戒してみても、付近には瘴気の影響を受けたネイチャーなどはおらず、のんびりとした秋の風が吹き抜けてゆくのみだ。
「……」
 何とはなしに正身の寝顔を眺めてみるうばら。
 そういえば、このようにしっかりと正身の顔を見るのははじめてだと、うばらは気づく。
 起きている時は、落ち着いた所作も相まって三十路前後に見える正身だが、
 こうして眠っていると、表情が無いこともあってか少し若く見える。
 いったい正身は何歳なのだろうとうばらが疑問に思った時だ、眠っていたはずの正身が不意に目を開けた。
「あ、起きた」
 じっと見詰め合っている気恥ずかしさに、視線を池へと戻すうばら。
 そんなうばらに気を悪くした様子もなく、正身は腕を持ち上げて時計を確認した。
「思ったより針が進んでいますね。休憩のつもりが寝入ってしまったようですし、腑甲斐無い限りです」
 ほとんど独り言のようにそう呟くと、正身は身体を起こしてうばらに問いかける。
「ずっとそこに居たのか?」
「居たのかって、どこに行くんだよ」
 怒っている訳ではないのだが、ややつっけんどんにそう答えるうばら。
 だが、正身は穏やかな笑みを浮かべると言った。
「ありがとう。退屈させてしまって済まない」
「瘴気の影響もあるし神人一人にしとく訳ねぇだろ」
「それもそうだ。……今度はうばらの番でいいぞ」
「俺の番って何が?」
「眠る順番。私はしっかり休ませて貰ったから」
「いや。俺はいい」
 返すうばら。
 その時、見間違えでなければ、正身の青い瞳が一瞬悪戯っぽく輝いたようにうばらには思えた。
「何なら膝を貸そうか?」
「なっ……それ膝枕じゃねーか!」
 唐突な言葉に慌てるうばらを、楽しげに見つめる正身。
「だが、お前には高枕になってしまうな」
「高低の問題じゃねぇよ!」
 すかさず突っ込むうばらの様子を真面目くさった顔で見ていた正身が、ふっとその表情を緩める。
「冗談だ」
「冗談って……」
 肩透かしを食らったような顔で溜息をつき、うばらはそっぽを向いた。
「成程こういう奴なのか。肝に銘じておく」
 契約してまだ間もない二人。
 つい先程はじめて観察した顔の造作と同じように、こうして相手の一つ一つを理解してゆくのだろう。
「休んでいいと云うのは本心なんだが」
 そう言って正身は笑ったがもう休む気にはなれず、うばらは正身を促して月幸石集めへと戻っていった。
 帰る頃には、きっとそれなりの数の月幸石が集まっているだろう。


●ゆるやかにうつろう

 木陰での午睡からさめたイェルク・グリューン。
 その視界に一番最初に飛び込んできたものはパートナーであるカイン・モーントズィッヒェルの寝顔であった。
(カインさんが隣で寝て……)
 だが、ただ横に寝ているにしては妙に互いの顔の位置が近い。
(私、カインさんに抱きついて……!?)
 カインを起こしてしまわぬよう気遣いつつも、恥ずかしさのあまりに最速で身体を離したイェルク。
 起き上がったイェルクの肩からカインの上着が滑り落ちる。
 その上着を握り締めて、イェルクは己の額を手でおさえた。
(落ち着け私、思い出せ……)
 今日は月幸石を集めに来ていたのだが、昨晩、読書で夜更かししたことが祟って昼食の後に酷い眠気に襲われたのだ。
 そしてこの木陰で一旦横になったところまでは覚えている。
 きっと寝ている自分に付き合っているうちにカインも眠気を覚えて横になったのだろう。
 それにしても、いつの間にか抱きついてしまっていた事には驚いた。
 一つ溜息をついて気持ちを落ち着かせると、イェルクは握り締めていたカインの上着を、カインが自分にしてくれたように、眠るカインの上半身にそっとかぶせた。
 動作の途中、イェルクの視線がふとカインの唇の上に止まる。
 この唇が、先日、演技とはいえイェルクの唇を奪ったのだ。
 カインの唇が重ねられた瞬間、まるで小娘のように力が抜けてしまったイェルク。
 年相応の経験は重ねていたはずなのに何故と、自問していたイェルクはある可能性にたどり着く。
(私があなたに愛されたいと思ってるから……?)
 だが、それはイェルクの心に冷たく重たい鉛のかたまりを投げ込むようなものだった。
(私は彼女を愛したままでいたいのに……どうして)
 去年、オーガに殺された彼女。
 カインに愛されたいと願うというのは、彼女への想いを裏切るものだとイェルクには思えるのだ。
(どうして……)
 答えぬ自問にイェルクが涙を零していると、不意にカインが身体を起こす気配がした。
「どうした?」
 ポケットから出したハンカチでイェルクの涙を拭うカイン。
 大人しくなされるがままになりながら、イェルクはカインに訊ねた。
「奥様や娘さんに申し訳ないと思ったことはありますか?」
「前にも言ったが、あるに決まってる」
 この世を去ってしまったからといって、いや去ってしまったからこそ、愛した女と娘のことは忘れないだろうとカインは言う。
 二度と会えないからと、愛したことを後悔することもない。
「が、それで未来を否定したいとは思わねぇな。それはあいつらへの侮辱だ」
 その言葉にイェルクが涙に濡れた目を上げた。
「喪った過去があっても、一緒に生きたい奴に出会ったら、愛したいと思う。別にあいつらを忘れる訳じゃねぇしな」
 忘れるでもなく、否定するでもなく、その先に新しい未来を築いていきたいとカインは言う。
 その力強い言葉がイェルクの心の水瓶を揺さぶったかのように、イェルクの目からは更に涙が溢れ出した。
「ま、死んだ後修羅場になるかもって想像も中々楽しいしな」
 もしも死後の世界で全員が顔を合わせたなら……と、カインは小さく笑い、イェルクの頭に手を伸ばした。
 カインの大きな手が、イェルクの黒髪を優しく撫でる。
(てめぇが隣にいるだけで俺は幸せだけどな)
 涙の止まらぬイェルクの様子に、その言葉はまだ心の中だけに止めておこうとカインは改めて胸に刻む。
 イェルクの中の罪悪感がなくなるまでは……。

 やがて落ち着きを取り戻したらしいイェルクはカインの目を見ると、かすかな笑みを浮かべてみせた。
「ありがとうございます」
「ありがとう、か。……少し前に進んだな?俺は謝られるよりその方がいい」
 最後にイェルクの頭をもう一撫でしてからカインはハンカチを己のズボンのポケットに押し込む。
 立ち上がるカインに続いて月幸石探しを再開さてつつ、イェルクは思った。
(きっと、私は…あなたでなければ駄目だった。今ここで泣けるのはあなたがあなただからだろう)
 唯一無二のパートナーとの未来の建設。
 まだ目には定かに見えずとも、ゆっくりと地ならしは進んでいるようだ。
 発見した月幸石を見せあって微笑みあう二人の間には、穏やかな空気が流れていた。



●見つめる理由

 その男、日下部 千秋。彼は元々、何かと頻繁にものにぶつかる体質だった。
 タンスの角に足の小指をぶつけるなど朝飯前。
 道を歩いていれば鳥の落し物にヒットし、学校の廊下を歩いていれば曲がり角で出会い頭の事故に遭う。
 そして彼が今日ぶつかったもの、それは一頭の大柄なペタルムだった。
 セントバーナードもかくやという体躯のペタルムが、玩具に飛びつく猫のような所作で千秋に向かって飛び掛ったのだ。
 細っこい千秋には、その衝撃はたまったものではない。
 易々と押し倒された千秋は、黒いフサフサの毛並みの下であっさりとその意識を手放した。

 千秋が目を覚ますと、そこには無表情なオルト・クロフォードの顔があった。
「日下部」
 普段と何も変わらぬその表情に少し安堵する千秋。
「あ、先輩……」
「……日下部。気が付いたか」
「はい」
 覚醒したてで少しかすれる声で答え、身体を起こそうとした千秋だったが、その拍子、ズキリとした痛みを頭に感じて顔をしかめた。
「っつ……」
 痛む部分に手をあててみれば、そこには水で湿らせたオルトのハンカチが乗っている。
 恐る恐るハンカチをどけて直接手で触れてみれば、そこは見事なたんこぶになってしまっていた。
「大丈夫か?」
 一応の手当てはしてくれたようだが、心配しているのかしていないのか、にわかには判別のつきかねる無表情で訊ねるオルト。
「……多分」
 心許ない返事を返しつつ、千秋はゆっくりと身体を起こす。
「習性猫でも大きさが猫じゃないって事を失念してました」
「あぁ、すごい勢いだったな」
「……あ、ハンカチありがとうございます」
「気にしなくていい。なんならそのまま持っていてもかまわない」
「わかり……ました」
 自分の頭を冷やすために濡らされたハンカチをそのまま返すことも躊躇われて、千秋はそれを自分のポケットにしまいこむ。
 持っていてもいいと言うのなら、きちんと洗濯してから、また後日に返した方が良いだろう。
 そして改めてオルトに目をやった千秋は、ふとある疑問を感じた。
「……あの、先輩? 俺が寝ている間……」
「日下部が寝ている間……?それならずっと寝顔を見ていたが」
 恐る恐る訊ねてみれば、さも当たり前のようにそう返されて千秋は脱力する。
「……ですよね!」
 半ばヤケクソのように頷く千秋。
 自分なんかの寝顔を観察したところで、一体何が楽しいのだというのだろう。
 ずっと見られていたことに対する羞恥に千秋はたまらず視線を逸らしたが、
 当のオルトは、千秋の反応の理由が分からないらしく、不思議そうに首を傾げている。
(先輩は変わったひと、だと思う……)

 溜息をつく千秋を促して帰路についたオルトは、月幸石を詰め込んだ袋を揺らしつつ、隣を歩む千秋の顔を覗き見た。
 寝顔を見ていたことを恥ずかしがって目を逸らした千秋。
(何故そうなるのだろう……?)
 その反応も、その表情も。いや、それだけではなく千秋の顔の造作そのものさえも、オルトにはとても興味深いものに見えてしまうのだ。
(……どうしたら、そうなるのだろう)
 その疑問は、千秋に対するものなのか、それとも己の心の変化に対するものなのか。
 恋の芽生えか、単なる好奇心か。移ろいゆく小川の表情のように、その答えもまた掴みがたいものであった。



●間違えたのは……?

「大樹、起きたか」
 クラウディオのその声が耳に届き、柳 大樹は寝起きのぼんやりとした目をクラウディオへと向けた。
 黒いフードの下の顔の整った造作に(相変わらずイケメンだ)と感想を抱きつつ、大樹は口を開く。
「おはよ。ずっと起きてたの?」
「私は大樹の護衛だ」
 花が点在しているだけの草原は見晴らしも良く、危機的状況に陥る可能性も少なそうだ。
 大樹としては、クラウディオが一緒に寝てしまっても良いと思っていたのだが
 クラウディオは不慮の事態に備えるべく、大樹が眠っている間も周囲を警戒していたようだ。
(はいはい、真面目真面目)
 呆れ半分、慣れ半分。
 何か言ってみたところで、クラウディオのお堅い性格がそう簡単に変わることはないだろう。
 そうと知っている大樹は伸びをひとつすると話題を変えた。
「どんぐらい寝てた?」
「2時間ほどだ」
「そんなもんか」
 たかが2時間、されど2時間。眠気がひどく、泥を詰め込んだように重たかった身体もいくらかマシになっている。
 ならばそろそろ起きて活動を再開してもいいだろう。
 その時、大樹はふとあることに気づいた。
「言わなくても外してるの珍しいね」
 己の口元を指す仕草で、その言葉が示すものがクラウディオの口布であることを伝える大樹。
「何かあった?」
 身体を起こしつつ訊ねてみると、クラウディオは静かに首を振る。
「いや、大樹は此方を好むと判断した」
 日頃から、よく口布を外す様に言う大樹。
 クラウディオは、この口布の姿を見るのが大樹は好きではないのだろうと判断し、
 起きて早々大樹を不快にさせる訳にはいかないと考えて、口布とっていたのだ。
 だが、クラウディオの返答を聞いた大樹は、微妙な表情で目を逸らして頭を掻いている。
 大樹としては、クラウディオなりの気遣いを感じて気恥ずかしかったのだ。
 だが、そうとは気づけぬクラウディオは(違っていたのだろうか)と少し不安になった。
「あー、戦闘以外だとつけてない方がいいけど……」
 ほんのりと居心地が悪くなってしまった空気を変えるためだろう、フードと口布ではまるで不審者だと言う大樹。
「そうか」
 気遣いの方向が間違っていたらしいと感じて落ち込みつつも、そんな様子を見せることなくクラウディオは頷いた。
 間違っているのは、気遣いの方法ではなく大樹の反応の受け取り方なのだが、それに気づける日はくるのだろうか。

「体調に問題は?」
 気を取り直して訊ねるクラウディオ。
 眠すぎるから寝ると宣言して午睡に落ちた大樹だったが、眠る前に比べてだいぶ顔色が良くなっている。
 実際、大樹からは「寝たらよくなった」という答えが返ってきた。
 けれども、最近あまりよく眠れないのだと大樹は零す。
「このままウィンクルムの力無くなったらとか。勝手に不安だったのかも知れない」
 ウィンクルムの力が無くなってしまえば、オーガに対抗する手段もまた失ってしまう。
 不安に思えるのは至極当然といえば当然だ。
「それを回避する為に現在活動している」
 安心させるように言い切るクラウディオ。
 先日の任務も、今日も。そのために二人は月幸石を探しに来ているのだ。
「そうだね。やれることやるだけか」
 頷く大樹。
 その様子にクラウディオは(大樹の精神を安定させる為にも、任務は遂行する必要がある)と改めて胸に刻んだ。
 そうしてまた一つ、クラウディオを真面目にさせる理由が追加されたのである。
 そうして真面目に真面目に月幸石を探した結果、いつもよりたくさんの月幸石を二人は持ち帰ることになった。


●心を占めるもの

 それは秋らしく良く晴れた、麗らかな昼下がりだった。
 ネイチャーヘブンズを渡る秋風は心地よく、羽瀬川 千代とラセルタ=ブラドッツの上に伸びた木の枝を揺らしてゆく。
「千代」
 ラセルタの艶のある声で名を呼ばれ、千代は閉じていた目を開けた。
 青空に広がった美しい緑の枝葉の下、ラセルタの宝石のように気品に満ち溢れた水色の瞳が千代を見下ろしている。
「月幸石を探す間に……いつの間にか寝ちゃったんだ」
 朝から続けていた月幸石探し。
 ほんの休憩のつもりで木陰で横になったはずが、気が付けば眠りの中へと落ちていたのだ。
 少しの気恥ずかしさを感じつつ千代が身を起こせば、その肩からラセルタの上着が滑り落ちる。
 質の良さそうなそれを丁寧に畳んでラセルタに渡しながら千代は言った。
「ありがとう。もっと早く起こしてくれて良かったのに」
 上着を受け取ったラセルタが、ふっと笑う。
「可笑しな事を言う。……ずっと起きていたのだろう?」
「ああ……気付いていたんだ」
 自分では隠せていると思っていたことを見破られていたと知らされ、頬にほんのりと朱を走らせる千代。
「それならなおさら、もっと早く声をかけてくれれば良かったのに」
 少しの不満を乗せて、冗談めかして千代が言ってみれば、ラセルタは至極真面目な表情で千代を見返してくる。
「孤児院のイベントで大事な考え事があるのだろう。ならば少し、一人で考える時間も必要かと思ってな」
 イベント事が増える秋、千代が住み込みで働く孤児院もイベント続きで大変なのだろうと、どこか拗ねたように言うラセルタ。
 自信に満ち溢れた佇まいでありながら、親に構ってもらえない幼子のような気配を感じて、千代は首を傾げる。
(ラセルタさん、もしかして勘違いしているの?)
 その様子が少しだけおかしく感じられ、千代は微笑みながらラセルタの顔をのぞき返した。
「……あのね。俺にとって孤児院でのイベントは大事だけど、もっと、大切なお祝い事を悩んでいたんだよ」
「孤児院のイベント以上に大事とは。一体何だ?」
「今月誕生日でしょう、24日」
「24日?誰のだ?」
「勿論、ラセルタさんのだよ」
「俺様の……?」
 目を見開くラセルタ。
 驚きゆえか、咄嗟には次の言葉が出てこないラセルタに、千代は本当はサプライズで誕生祝をするつもりだったのだと打ち明けた。
「サプライズではなくなったけれど、貴方に貰った分と同じ位の幸せを感じて欲しいから」
 一目見た時から恋に落ち、長くそれを秘めている間もラセルタはずっと千代のことを真っ直ぐに見てくれていた。
 千代を手放すことなく、ずっと隣にいると言ってくれた。
 ラセルタと二人で積み上げてきた日々の中で感じた、たくさんの幸せ。
 それと同じくらいのものを、ラセルタにも感じてもらいたいのだと千代は笑った。
「楽しみにしていてね」
「ああ、楽しみにしている」
 ラセルタの誕生日まであと少し。
 考え事にふける千代をラセルタは静かに見守ることになるのだろう。
 外面上の変化は大きくなかったが、その後の月幸石探しで大きな成果を挙げたあたり、ラセルタは24日を大いに楽しみにしているようだった。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月28日
出発日 10月04日 00:00
予定納品日 10月14日

参加者

会議室

  • [5]日下部 千秋

    2015/10/03-23:24 

    日下部千秋です……よろしく。
    こっちも起きるのは神人のほうですね……何とかプラン提出完了しました。
    ……ほのぼの? か……?(すごく微妙そうな顔

  • [4]葵田 正身

    2015/10/03-21:53 

    初めまして、葵田と申します。宜しくお願い致します。
    当方、眠るのは神人側となります。
    「ベタなシーン」がどのように展開されるか楽しみにしております。

  • [2]柳 大樹

    2015/10/02-21:28 

    柳大樹でーす。よろしく。

    起きたら見るのが野郎だけど。
    まったーり、かな、たぶん。


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