プロローグ
「月幸石を集めろって言われても……それ、普通の石と変わらない見た目なんだろ? 俺らに探せるわけないじゃん。それとも手あたり次第、石持ってくるのかよ」
神人の男はそう言ってため息をついた。まったく、面倒事を引き受けてきやがって。怒る肩に、相棒である精霊がポンと手を置く。
「まあ待て。お前たちの喜びによって変質した石は様子が違うと聞いている。それにネイチャーヘブンズにはウライという鳥がいて、そいつは変質していない月幸石を好むらしいんだ」
「だからなんだよ。回りくどい言い方してねえでさっさと肝心なところを言え」
その乱暴な言い方に、精霊は苦笑した。相棒の肩に置いた手を頭に移動する。
「いいこいいこって子供扱いかよ」と、神人の唇が尖った。
「って睨むなよ。俺が言いたいのは、お前らが楽しい! ってなれば、あいつらは変質した石なんかいらないってなって、持ってきてくれるってことじゃないかって……」
「なるほど、そういうことか」
それなら話が早い。ネイチャーヘブンズは自然いっぱいの場所らしいし、これならピクニックみたいなものだ。
神人は破顔した。リュックは家にあるし、秋のピクニック、最高じゃないか。
思わず駆けだそうとした神人に、精霊の声が飛ぶ。
「おい、どこ行くんだ」
「そんだけわかれば十分だ。ネイチャーヘブンズに俺は行くぜ」
「お前……全然十分じゃないだろ! タブロスの娯楽施設とは違うんだぞ。飯はどうするんだ」
「お前が弁当作れよ。あ、でもお前の飯なんか食いなれてるから、他のウィンクルムと交換するか。あと鳥の餌だな。餌付けして石持ってきてもらおうぜ」
※
というわけで、あなたたちウィンクルムは、仲間と共にお弁当を持って、ネイチャーヘブンズにやってきました。
ウライのための鳥の餌も忘れていません。
ここらでいいか、と腰を下ろしたのが原っぱの真ん中。
幸い周囲には瘴気もなく、変異したネイチャーもいないようなので、落ち着いて食事ができるでしょう。
……と、思いきや。
さわさわ……さわさわさわ……。
※
「なんだこれ、ネコジャラシっぽいものが勝手に動いてるぜ。へえ、おもしろ……」
神人は、そこまでしか言うことができなかった。伸ばした手首に、未知なる植物が絡みつき、ぐっと身体を引かれたからだ。
「うわっ」
叫びなんとか踏みとどまろうとするも、もしゃもしゃの草の上に身を横たえる羽目になる。それを、遠方からやって来た精霊が見下ろした。
「おい、人が弁当の準備をしている間に、なんでネコジャラシの大群につかまってるんだ」
「知らねえよ、は、はは! これめっちゃくすぐったいんだけど! お前も来いよ、おらっ」
呆れる精霊の腕を掴み、思い切り引っ張る神人。
「おい、やめ……っ!なんだこれほんと……」
「ははは、たのしーよな! って、おい、弁当! 鳥が食ってるぞ!」
解説
あなた達はお弁当を持って、ネイチャーヘブンズにやってきました。
(お弁当製作費およびウライの餌代に各ウィンクルム300jrいただきます)
しかしお弁当を食べる前に、ネコジャラシ風ネイチャーに捕まってしまいます。
(このネイチャーは瘴気に侵されてはいませんので攻撃はしないでください)
もう諦めて、ネイチャーの気が済むまでさわさわされてあげましょう。
ウィンクルムごとの描写をするつもりはありませんので、各ウィンクルム適当に絡んでくださるとうれしいです。
石は集めようとしなくても、最後にウライが持ってきてくれます。お弁当食べちゃってるからね。
ゲームマスターより
ちょっとお久しぶりです。瀬田一稀です。
さわさわ、わいわいしてください。
お弁当もさすがに全員分は食べられてないんじゃないかな。
たぶん鳥の餌は残っていると思います。
このエピのウライは偏食ですねえ。困ったものです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
●月幸石 根気よく探す え?臭いとかするのか?(吊られて嗅ぐ 隠れて石をペロリと舐めてみる お腹は空いてない(かぁ ●弁当 大勢で食べた方が楽しいもんな 俺達のは俺が作った たまには和風も良いかなって(へへ 色々御握りと出汁巻き卵と鳥カラとキンピラと… 皆のも美味しそうだな 一寸交換しないか? ●絡まった! くすぐったいからぢたばた 深呼吸して落着いて解こうと頑張る ランスを落着かせようと懸命に頭ぽふぽふ あーでも くすぐったくて(悶死 ●ぐったり 収まってもグッタリ ランスが世話を焼いてくれて甘える事に 生えてるネコジャラシの頭をランスの目の前でフリフリ そんな感じでランスジャラシしてまったりと… あ、石! ランスと一緒に石を貰いに行こう |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
☆ 双眼鏡で鳥探し 遊びに来たんじゃないんだよ でもわかるな (出かけ先で大勢で食べるなんて事ウィンクルムになるまでなった。勇気がなくて でも今は目的を共にする仲間がいる) 弁当話)・・・ほっといて ■交流歓迎 生きているの・・・? どこかで見たような気がしたらタイガの尻尾みたいなんだ 可愛いなあ ◆捕まる◆弱点:首 っ?!ひゃ!やめてくすぐった タイガ、助け…!くっあはは だ、だめ。この子達生きてるからランスも堪えて はあ、はあ…(息も絶え絶え体力皆無) ■洋風メイド弁当。一部セラ作(焦げ調味過多) 無くなってほしい。食べてもらいたかったけど自信が・・・ 分けられる側ならお礼をいい、喜ぶタイガにあげ ひゃ!?え…ネコジャラシか? |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
お弁当を食べる場所確保に余念がない 折角来たんだし、眺めの良い場所がいいよな …眺めが良ければ、ウライも石も見つけやすいと思うし (と言いつつ、内心は皆でピクニックみたいで楽しい) 石、俺も匂ってみる 土の匂いっていうのかな…フィンも匂ってみるか? 良い場所を見つけレジャーシートを広げていたら、ネコジャラシ被害 くすぐったいの無理…!息も絶え絶え フィン助け…あははははは! って、どうしてこっちにダイブしてくるんだよ それだとフィンまで… 成程、俺の為に…(感動) 兎に角早く飽きて開放してくれるのを待つしかないよな…(フィンに捕まりながらくすぐったさに転がる) フィンが余裕で悔しい 少しはフィンもくすぐったくなれよ(擽る |
日暮 聯(エルレイン)
☆ ・相方の後ろを歩く ・珍しい生き物はぼーっと眺める (弁当のこと訊かれたら) 料理しねェな…そこのディアボロ(相方)任せ 辛いのしか認めねェ ネイチャー ・何かが動いていたので思わず手を伸ばしたら捕まる (不快そうな表情はあり。表情筋働かない系男子) …そーいうの圏外なんですけど…! だから、マジ絡むなっつのっ う、…くすぐった……! ちょ、マジ離、せ…っ! お前(相方)…笑ってんじゃね、っつの…! ・頑張れ、と言われムカついた ・相方が駆け寄ったら「道連れ…(ニヤリ」と足を引っ張り転ばす は……な、なんだよ…笑うな、つの…! 可愛いとかオレに対する言葉じゃ、…ねェし…! はぁ…もう帰りてェ 弁当、食われてんですケド…? |
●石と鳥を探そう
「やっぱり、せっかく来たんだし、眺めのいい場所がいいよな」
蒼崎 海十は額に手を添え、小高い丘の上から周囲をぐるりと見回した。あたりに広がるのは背の高い草・草・草ばかりだけれど、これも目の高さで見るのと見上げるのとでは、ずいぶん雰囲気も違うだろう。
「それに眺めが良ければ、ウライも石も見つけやすいと思うし」
うん、と自分の言ったことに納得し、その場にしゃがんで荷物の中からレジャーシートを取り出した。今日は強い風は吹いていないが、四角を押さえる石もちゃんと集めておかないといけない。手近にはなかったので、荷物はそのままにして、少しだけ丘を下りた。
「これ、月幸石じゃないよな」
適当な石を手に取り見つめては見る。しかしこの場にウライはいないし、はっきり言ってよくわからなかった。
「なんだ、お前も匂い嗅いでるのか?」
「匂い?」
海十は隣を向いた。と、そこにはいつの間にやって来たのか、黄色と黒の耳を揺らす火山 タイガがいた。彼はしゃがんだまま首だけで蒼十を向いて、ほら、と石を突き出してくる。
「なんか違うのかなって俺も匂い嗅いでんだけどさあ、わかんねーな」
そこでタイガは、うーんと腰を伸ばした。周囲に広がる背の高い草原。どこまでも続くそれは、タブロスの風景とはまるで違う。
「あー、いいなこういうのも。ピクニックしにきたみたいだ」
その声に、セラフィム・ロイスが振り返る。彼は相棒の隣で、双眼鏡を使って遠方に飛ぶウライを探していたのだ。
「遊びに来たわけじゃないんだよ」
口調はしっかり。しかし内心は、彼の言うこともわかると思っている。
自然の中で、弁当も持参している。そして周囲には共にやってきた仲間。確かに石探しの依頼はあるけれど、それだけが目的ともならないのだ。
それでも、真面目なセラフィムである。彼は再び双眼鏡を目に当てて、広い草原を見やった。
「セラ、ウライ見えるか?」
「うーん……鳥は見えるけど、どれがどれだか」
その少し先では、アキ・セイジが地面から顔を上げたところだった。どうやら、海十とタイガの会話の端が聞こえていたらしい。
「匂いか……」
セイジは石を拾うと、それを鼻の前まで持ちあげてみた。くん、と嗅いでみるが、よくわからない。匂いが違うのならば味も違うだろうかとぺろりと舐めてみても、美味くもない……というか、ただの土の味しかしなかった。
「セイジ、石は食べちゃダメだぞ。まったく、そんなに腹減ったのか?」
その様子を相棒のヴェルトール・ランスに見とがめられ、セイジの頬はぱっと赤くなった。
「お腹はすいてない」
にやにや笑うランスの顔に、思わず目を逸らしてしまう。どうして味が違うかもなんて思ってしまったんだ数秒前の自分。そんなこと、今さら言っても遅いけれど。
そんなふたりの向こうでは、海十がまだ石を香っていた。
「うーん、土の匂いっていうんだろうな……。フィンも嗅いでみるか?」
「え? 俺も?」
しゃがんだままの海十が、立っているフィン・ブラーシュの前に石を差し出した。彼は相棒がさっき敷きかけたマットの上に荷物を置いて、とりあえず石探しの手伝いにと丘を下りてきたところだった。どう見ても普通の石なのに顔を寄せてしまったのは、きっと反射のようなもの。でも感じたのは。
……石の匂いっていうか……海十の指の香り?
土臭さとは違うものを嗅ぎ取り、フィンの胸が一度打つ。しかしそれを顔に出すわけにはいかない。だって傍目には、ただ単に石に顔を寄せただけなのだから。
フィンは海十を見上げ、いつも通りの笑みを見せる。
「……やっぱり、石を見つけるにはウライが必要なようだね」
一方こちらは、皆とは少し離れた場所にいる日暮 聯とエルレインである。
聯はエルレインの後ろを歩いていた。時々タブロスにはいないだろう珍しい生き物を見かけることもあった。その度にエルレインはそれを指さし、聯を振り返った。
「レンたん、見て見て! 今度は鳥だよ。あれがウライかなあ」
「さあな」
「うーん……名札つけてくれたらわかりやすいのにね」
エルレインは去りゆく鳥を見送った。聯はそれをぼんやりと眺めている。
それにしても、さっきからだいぶあたりをうろつきまわっている気がする。それなのに自分たちもほかのウィンクルムも、それらしき石も鳥も見かけていない。
「探す意味あるのかよ……」
聯が呟くと、エルレインが体ごと後ろを向いた。
「そんなこと言わないでよ。神人が楽しいって思えば石も探しやすくなるんでしょう? ほらレンたん、楽しいって思って! すぐに!」
エルレインが「ね?」と首をかしげる。見た目が女性の彼であるから、馬鹿言うななどと怒鳴りつけることはできない。なんとなく。
聯はため息をついて、探している鳥がいないかと周囲を見やった。そのとき、向こうに集まっているウィンクルムが手を振っているのが見えた。
「おーい、休憩がてら飯にしようぜ」
「戻って来いよ~」
動物の耳の生えたふたり、ランスとタイガが大声を出している。
「わかった! 今行くね」
こちらはエルレインが返事をし、草むらの中をゆっくりと丘に向かった。
●捕まった!
「そっちはなにか見つかった?」
「……石もウライもわからなかった」
荷物から出した弁当箱を並べながら、海十が聞く。戻ったばかりの聯は、ゆるりと首を振った。
「案外見つからないものだな」
同じく荷物から弁当を出して、セイジが言う。その横で既に弁当を並べ終えたセラフィムは、まだ石や鳥が気になっているらしいタイガを呼んだ。
「タイガ、みんな集まったんだから、そんな遠くに……えっ?」
「はっ?」
「おいっ」
「なんだよ、これ」
セラフィム、聯、セイジ、海十が順に声を上げる。
もじょもじょ動く何かが皆の足に絡みついたのは、次の瞬間だった。
どう見ても野草であるものが、どう見ても野草出はない動きで、海十のズボンの裾に入り込む。
「ちょ、待って、無理無理無理……!」
足をとられて動けない間に、そいつは手首や腰にも絡みついてきた。
その草は、見た目的にはネコジャラシに似ていた。たしかに最初からそこらへんにたくさん生えていたけれど、気にもしていなかった。それがまさかこんな生き物だったなんて。
「くすぐったいの無理、だから……!」
あっという間に鳥肌で、それなのに離してもらえないし、息を吸っているのか吐いているかも分からない勢いで笑いが止まらない。
「フィン助け……あははははは!」
海十は、相棒に向かって手を伸ばした。
その手を、少し先からやって来たフィンが掴む……と、思いきや。
「大丈夫!?」
フィンは、ネコジャラシの大群の中に飛び込んできたのだ。
驚いたのは海十である。
「どうしてこっちに、ダイブしてくるんだよっ」
「どうしてって……」
草の中に立ち入るフィンの足を、すかさず絡めとろうとしてくるネコジャラシたち。悪意がないなんて信じられないじゃれっぷりだが、フィンはわずかな距離をまっすぐに、海十のところまでやってきた。
そして、既に野生の草の犠牲となっている海十の上に覆いかぶさる。
「なにしてんだよ、フィン!」
「大丈夫、決して海十を近くで観察したいなんて下心はないから……」
「そんなこと聞いてな……!」
言いかけた言葉を切ったのは、目の前にまたネコジャラシのうにょうにょが現れたから。しかしそれは海十の頬をちょろりと撫ぜただけだった。なぜ、と思ったが、その大半がフィンの背中やら腰やらをうねうねと探っているのだ。
「もしかしてフィン、俺を守ってくれるために……?」
「くすぐったいのには、耐性があるほうだからね」
フィンは微笑んだ。正直に言えばその余裕が気に入らない。でも今は、ネコジャラシをなんとかしてくれるなら、なんでもよかった。
さて、似たような状況であるのに大人しいのは、聯である。
しかしそれは見た目だけ。表面上に現れているわずかな表情の変化に反して、彼はかなり戸惑っていた。
「……そーいうの圏外なんですけど……! だからマジ絡むなっつのっ」
ネコジャラシの絡んだ手首を引いてなんとか外そうとするも、相手はそれなりの力である。しかもこしょこしょ稲穂のような部分はあちこちから伸びてきて、聯に襲い掛かる。
「う、……くすぐった……! ちょ、マジ離、せ……っ!」
そこで、相棒の姿が目に入る。
「お前……笑ってんじゃね、っの!」
「じゃあ……レンたん、頑張れ!」
あえてネコジャラシの軍団に近づかないように、ちょっと遠目から声がかけられる。しかもついでみたいに。正直これはいらっとくる。
しかもこの野草、どう見たってただの野草じゃない。オーガのように攻撃をしてこないネイチャーという生物がいることは知っているが、こんな悪質なネイチャーはそういないのではないかと思ってしまう。
「まじくすぐった……ったく、なんだよ、こいつら!」
「もう、仕方がないなあ……って、え? もしかして怒ってる? ごめんねっ機嫌直して」
無表情ながらも不快を表す聯に、エルレインも気付いたらしい。彼が近付いてくるのを見、聯は内心ほくそ笑む。さっきの『頑張れ』の軽さを思い知れ。
「ほら、レンたん」
エルレインは、その辺に落ちていた木の枝でネコジャラシを払おうとした。しかしそれはあっさりと野草に略奪されてしまう。あ、と見る、その足を、聯は思い切り引っ張った。
「道連れ……」
「……その顔、悪っぽいよレンたん。でもやっと笑ったぁ……」
にやりと歪んだ相棒の唇に、こちらは満開の笑みを見せるエルレイン。しかし口から漏れた台詞は「可愛いなあ」で、途端に聯は今までよりも不機嫌になる。
「それ、俺に対する言葉じゃ、ねェし……!」
こしょこしょ蠢き続けるネコジャラシも、笑顔のエルレインも困惑の種。
正直言って帰りたい。
ウィンクルム4組のうちに、無事なペアがいるとかありえない。
セイジも当然、ネコジャラシネイチャーに絡まれまくっていた。手首指先、足首にふくらはぎ。もじょもじょ、こしょこしょ。
「なんだこれは!」
そんな騒ぎに駆けつけたのが、ランスである。
「敵か!?」
ちょっと目を離しているうちに、なぜかセイジがネコジャラシのようなものに捕まっていた。これは一大事と、彼の足首に絡まる草に手を伸ばす。たかが野草と思いきや、それはしっかりと相棒を捕えて離さない。
「……けど草だろ」
ランスは長い茎を掴むと、それをぐいと引っ張った。こんなもの、根っこを抜けば、と思いきや。
「だめだ、ランス!」
「だ、だめ。この子たち生きてるから、ランスも堪えて!」
最初聞こえたのはセイジの声。彼はランスを落ち着かせようと、なんとか腕を伸ばして頭をぽふぽふとたたいた。宥められてしまっては、動きをとめるしかない。しかもすぐ近くから、セラフィムの声も飛んできているのだ。しかしセイジは目の前にいるのだが、セラフィムの姿が見えない。
「おい、どこにいるんだ?」
思わず手を止め周囲を見下ろすと、すぐにタイガがやってきた。
「どこってそこにいるだろ、セラ!」
彼は迷わず丈の高い草を掻き分けて、そこにほとんど埋もれているセラフィムを見つけた。タイガの鮮やかな尻尾が目印のように、彼の居場所を示している。
「……すげえな、あいつ」
感心しているランスの前で、セイジは一度深く息を吸った。落ち着け。冷静になればきっと勝算があるはずだ。
しかし気持ちはこれで安定しても、こしょこしょと体当たりしてくるネコジャラシの動きは止められない。もじょもじょ、もじょもじょ。
「ちょ、やめ、あっ、おい!」
なんだこれ新手の攻撃か。そんなレベルのくすぐったさに、ぶっちゃけどうしたらいいか。っていうかそれを見てるランスはいったい。
「ランス! 助けろ!」
そこでランスははっと我に返ったように、草に手を伸ばした。黙ったまま丁寧に絡んでいるところを外していく。悶えるセイジに見とれていた……と言ったら。鉄拳制裁だろうな、うん。というかこれ以上あの姿を衆目にさらすのは、ちょっとごめんこうむりたい。
さて、同じような状況に陥っているのは、先ほど草を掻き分けたタイガも同じだった。
「ひゃ! やめてくすぐった……タイガ、助け……くっ、あはは」
珍しい。セラフィムが身悶えている。いつもは見ないそんな笑顔が眩しくて、タイガは一瞬見とれていた。それが、命取りだったのだ。
はっと気づいて「今助ける!」と一歩進もうとした足を、ネコジャラシが捕えた。当然タイガはすっ転び、容赦のない攻撃に今度は自分が暴れることとなる。
「あはは! この、兄貴に鍛えられてっからそう簡単には! やめ、やめろ!」
「タイガ、だいじょう……あ、やめてやめて!」
すぐ隣で笑い死んでいるタイガをなんとか助けたくとも、セラフィムはろくに動けない。こんなことになるならば、最初にネコジャラシにぼんやり見とれたりするんじゃなかった。
だってタイガの尻尾みたいにふわふわしてて、ぴょこぴょこ風に揺れるものだから、気になったんだ。可愛いなって。でも。
「全然可愛くない……!」
「なにが可愛くないってぇ!?」
タイガが叫ぶ。こしょこしょ、もじょもじょ。
ネコジャラシの大群、恐るべし。
しかし眼福ではあった。
――セラが大口あけて笑うなんて、貴重だぜ。その点だけは、ネコジャラシに感謝しねえとなんないかも。
だが。
「弁当、食われてんですケド……?」
ふいに聞こえた聯の呟き。
「あ!! 弁当――!!」
さっきの叫び声よりよほど大きな声を、タイガは出した。それもそのはず、広げたままの弁当を、よくわからない鳥がつついている。ここに来てから始めて見る鳥だ。ウライか。ウライなのか。
「ああ、力作お弁当が……。海十の為に作ったのに!」
フィンの悲痛な声も聞こえる。
しかしセラフィムは内心、鳥に感謝しなくもない。タイガのために作ったけれど、一部焦げてるところもあったし、正直自信がなかったのだ。きっとタイガなら、どんなものでも「美味しい」って言ってくれるのだろうけれど。
●残ったお弁当を食べます
一同はどうにかこうにか、ネコジャラシ軍を抜けだした。文字数の関係で、詳細は割愛します。
はたして、弁当を食べた鳥はウライだった。
そのお詫びにか、鳥はせっせと石を運んできてくれる。それはありがたいのだが、この何もない場所で、昼飯なしは痛い。痛すぎる。せっかくのピクニック気分もどこへやらだ。
「仕方ないよ、タイガ。でもまだ残りがあるから……ね?」
「セラ……。ありがとな。でもさっ! なんで俺が作った爆弾おにぎりは全部残ってんだよ。好物ロシアンだぞ、これ!」
ロシアン。だから食べたくなかったんじゃないのか、とウィンクルムは誰もが思った。ただしタイガ本人とセラフィム以外。ちなみに歪な握り飯の中身は、鮭、プリン、チョコ、鰻、梅干し、カツらしい。
「大丈夫、チョコはビターだ」
「問題はそこじゃない気がする」
聯が小さな声で言う。それに、エルレインは唇を歪めた。
「レンたんの食生活、人のこと言えないでしょ。今日は健康のために辛味はなしにしたからね」
「な……なんだと?」
聯は目を見開いた。いつだって料理はすべてエルレイン任せだが、まさか弁当という逃げ場のないもので、そうくるとは思わなかった。
「大丈夫、嫌いな物は入れてないから」
「辛いものしか認めねえよ俺は」
「うーん……さすがに辛いのはないなあ」
聯とエルレインの会話を聞き、フィンは持参した弁当の中身を見た。ところどころウライのせいでおかずが減ってはいるが、ひと通り種類は残っているようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「今日は中華なのか! 混ぜご飯と和え物に卵に……」
色とりどりのおかずに、きらきらと輝く海十の瞳。
「海十の好きなものだけをつめたからね!」
フィンが言えば、それは不要な台詞であったらしい。羞恥に頬を染めた海十が、軽くフィンを叩く。
(ちなみに向こうでは聯がため息をついている。「好物入れてもらえるなんて羨ましい」
「うわあ、美味そうだな」
「美味そうじゃなくて、美味いんだよ。フィンの料理は」
ランスがの感嘆の声に、復活した海十が言いきった。フィンは一瞬驚いた後、嬉しそうに笑って「みんなもどうぞ」と言う。
「デザートはごま揚げ団子だからね」
「うちのは俺が作ったんだが……良かったらこちらのもつまんでくれ」
セイジもまた、みんなの前にとおかずを置いた。なぜか鳥のからあげが全部なくなっているのだが(「ウライ、共食いかよ!」とはランスの談)あとは少しずつ残っている感じだ。
「出し巻き卵にきんぴらに……和風だね。海十、こちらももらおうか」
「セイジの料理も美味いぞ!」
ランスが自慢げに言う。
「俺のおにぎりも!」
タイガがずいっと押し出した米の塊は、みんな一瞬見たものの恐ろしいのか誰も手を出す者がいない。中身を聞いていなければまだいけたのに……と、思う者がいたとかいないとか。
まったくもう、とか言いながら、セラフィムが手を伸ばす。
「……プリンとチョコ以外だといいんだけど」
そして、ガブリ!
……顔が、歪んでいく。
「うん……たしかに、ビターチョコだね」
●食後のいちゃいちゃ
暴れた後に食事をとって、皆まったりしている。
セイジは近場に生えていた普通のネコジャラシを拾って、それをゆらゆらとランスの目の前で揺らしてみた。
「なんだセイジ、疲れたのか?」
ランスはぽんぽんとセイジの頭を撫ぜた。するとセイジが、自分の膝をとんと叩く。もしやこれは膝枕のオッケーサイン?
「やったセイジ、愛してる!」
つい勢いで抱き付けば、おいやめろ離れろと、口ぶりばかりは否定形。しかしその後はちゃんと枕をしてくれるあたり、セイジは優しい。
「あー、平和だな」
相変わらず眼前で揺れるネコジャラシとセイジの膝のぬくもりに、ランスはうっとりと目を閉じた。
ゆらゆら、ゆらゆら。
こちらは尻尾が揺れている。こしょり。撫ぜるのはセラフィムが弱い首元だ。
「ひゃっ! ネコジャラシ……? じゃない。タイガ、どうしたの?」
「べつにー」
タイガの尻尾が、たしたしとセラフィムの肩を叩く。
だって、セラ。食事をしている間中、笑顔だった。それはいいんだけどさ、俺の方も見て欲しいっていうかさ。
「もう……タイガ。このいたずらな尻尾で、タイガをくすぐっちゃうよ?」
しかし不機嫌タイガに反して、セラフィムはたぶんご機嫌だ。彼はふさふさの尻尾を軽く握ると、悪戯っぽく笑って見せた。
――その笑い方、反則だろ。セラ!
「辛味が足りない……。あのロシアンむすびに、キムチでも入れてくればよかったのに」
その製作者に目を向ければ、なにやら相棒といちゃついている。よくできるなあんなことと思っている聯の傍らで、エルレインは小さな花を摘んでいた。
「この時期だと、花かんむり作るほどは集まらないから、はい」
そう言って聯に差し出してくるの、だが。
――どうしろというのか。
「自分の髪にでもつけとけばいいだろ」
適当に言うとエルレインは驚いた顔をしたものの、素直にそれに従った。
「なんか、レンたんから貰った気分になるね」
「……変なヤツだな、相変わらず」
「あー、弁当美味かった! 石も集まったし、良かったな」
「そうだね」
相棒の言葉に、フィンは笑顔で返した。ふたり並んで、草の上に座っている。さやさやと吹く風も自然の香りも心地よくて、たまにはこんな時間も悪くないと思う。
でも今度来るなら、ネコジャラシの被害がないほうがいいな。あのときの海十は可愛かったけれど、鳥に邪魔されることなくお弁当食べたいし。
「どうした、ぼんやりして」
不意に隣から声がかかった。フィンは振り向き、なんでもないよと告げる。
「次のデートはどうしようかと思っていただけだから」
かっと赤くなる海十の頬。だが「今度はふたりで……」と聞こえた気がしたのは、聞き間違いではないはずだ。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月20日 |
出発日 | 09月28日 00:00 |
予定納品日 | 10月08日 |
参加者
会議室
-
2015/09/27-23:50
:タイガ
強敵のモジスウとの戦い皆おつかれさん。俺らはもちろんプラン提出済みだぜー!
エルレイン思った以上に美人だったー!?おめでとなー!
健康志向と辛党の2人の会話みれるのも楽しみだな!
石の匂いは物は試しでやってみたけど・・・(照れ頬かき)おう、皆こいこい!
どうなるかは当日のお楽しみだな~♪
セイジのネコジャラシのテイルスが効くのか疑問もちょっくら反応かいてみた
(PL:テイルス好きとしては不覚と感謝を。軽くなので採用されるか怪しい)
こうきくと一番は皆の弁当味わえたら・・・だけど(じゅる)セラ『現実は無常だね・・・』
まー、楽しんで行こうぜ! -
2015/09/27-21:24
-
2015/09/27-21:24
フィン:
文字数、強敵だったね…!
こちらもプラン提出したよ。
皆のお弁当、楽しみだなぁ♪
俺は中華風のお弁当を作っていく予定。
デザートにごま揚げ団子も用意したんだ。
俺も海十と一緒に石の匂いを嗅いでみるつもりだよ。
楽しい一時になるといいね! -
2015/09/27-20:17
ふい…モジスウは強敵ですね~
あ、レンたんの精霊、エルレインですっ! …これで堂々と私で挨拶できます…!
プラン、こちらもできました!
お弁当ですが、
普段の料理では辛い物しか食べないレンたんから、辛い物を離すために、辛味は使いません。
ヘルシー重視したいなーって思って、お弁当の方、洋風ですがお野菜多めです(にこにこ
石……どんな感じなのかな…!?
聯:知らね。 -
2015/09/27-18:53
プランは提出できたよ。
弁当は苦労というかランスのリクエストで俺が作った和風だよ。
いつも洋風なんでうまく味付けできているかな、ちょっと自信ない。
石の臭いはわからないけど、舐めたら鉄の味がするのかな(ぢーっ
ネコジャラシってテイルスには効くんだろうか(ぢーーっ -
2015/09/27-01:53
攻撃への静止、注意については、フィンの方のプランに入れる予定です。
(俺もくすぐったくて、役に立てない予感が)
お弁当の話もフィンが主に出来るかと。
石の匂いって、どんな匂いがするんでしょう?(興味津々) -
2015/09/27-00:00
ロイスさん制止の記載ありがとう。
弁当の苦労談とか詳細をいれられるよう書いてみようと思う。
石の臭いはつられて嗅ぐかも知れない(ふふふ
では、また明日な。 -
2015/09/26-21:01
>攻撃への静止、注意
「生きてるから攻撃しないで」
って台詞はタイガに言ってるから(タイガも攻撃しそうで)ランスの名前も書いてみた。
これでいいかな?
タイガ:
『皆のと絡みネタではさー。事前で
俺が石の匂い嗅いでたり(え)
自分で「好物いりロシアンの爆弾おにぎり作ってきたー!」っていってるから
弁当の苦労談とか詳細ききてーかも。
セラも一応書いてるって(セラ『…ほっといて』(焦げた調味料過多弁当)
(PL:ネタに。鳥にでも分けた時の仲間にでもつかえるネタに)
後、本当に辛そうな奴は押し出して避難を試みるって書いてみた』
いらないかも、とも思うけどね。文字数いっぱいだ。入れたいこと沢山あるんだけどなぁ -
2015/09/26-12:39
アキ・セイジと相棒のランスだ。今回はよろしくな。
>このネイチャーは瘴気に侵されてはいませんので攻撃はしないでください
とあるのでランスが歯噛みしているよ
攻撃にならない範囲で解こうと試みるらしい
ランスいわく「植物のクセにうらやましい…じゃなくけしからん!」だそうだ
何を考えているのだろうなあいつは…(溜息
現地では
・俺は積極的に真剣に石を探す
・ランスは「幸せな気持ちになると変質して見付かるかもだぜ」と積極的に互いに幸せになろうとする
・…という理屈でランスが過度な身体のスキンシップをはかって来るので、
・俺はそれを撃退しつつ、弁当を出してランスの気を逸らせようとして…事件に会う
という流れでワチャワチャするハメになるかな
皆と絡むとしたら、
事件がおきる前だと、捜索での会話や弁当の話、かな。
解決中は、ランスが植物引っこ抜きそうになるんで、誰か止めて貰えたら助かる
俺も止めるけどまともに喋れるかいまいち自信が無いので(汗
-
2015/09/26-08:16
……蒼崎さん、セイジさんよろ、しく…。
…予定、ね。
聯
・外での楽しみ方を知らないのでほぼ、エルレイン任せ
・ぼーっとしているとこしょ被害遭う(表情筋が働かないけどくすぐったい)
・エルレインの「頑張れレンたん!」謎の応援にムカッとしつつもされるがまま
・ムカついたからエルレインがこっち来たら足を引っ張る
エルレイン
・お弁当はエルレイン。調理スキルレベル1
・なぜか応援した方が良い気がして「頑張れレンたん!」
・あとから聯を助けたくてネコジャラシネイチャーへ仲裁に入るものの、聯に引っ張られ転倒
・鳥に食べられ折角作ったのにとしょんぼり
…まぁ、こんな感じ? 変更あるかもしんねェけど。 -
2015/09/26-00:26
途中参加失礼します。
蒼崎海十です。パートナーはフィン。
皆様、宜しくお願い致します。
なるほど、確かに予定を宣言しておくことで、合わせやすそうですね。
簡単にですが、俺達の予定も記載しておきます。
・海十
先にネコジャラシ被害に遭う。
くすぐったいのには弱く、息も絶え絶え。
兎に角早く飽きて開放してくれるのを待つ。
・フィン
お弁当作って来た人。(料理スキルあり)
ネコジャラシ被害に遭った海十への、くすぐりが少しでも減るように、自らネコジャラシの中へ。
くすぐったいのには耐性ある方。
ああ、折角の力作お弁当が…鳥に…!(さめざめ)
物凄くざっくりですね…!
また細かい点を思い付いたら、投下させていただきます。 -
2015/09/25-23:12
出発確定できてよかった・・・!
レンと読むのか。言われるまで分からなかった
聯とエルレインだね。初めましてよろしく頼むよ
あとは・・・今日の日付変わる頃にでも都合つけば増えるかな。メンバー
>こちらの予定
自由に書いてもいいと思うんだけど、目安があった方が会話や雰囲気があわせやすそうだし書いておくね。二転三転するかもしれないけど
・タイガ
ピクニックっぽいとはしゃぎつつ、石拾ってみたり
「どんな弁当もってきたー?」と興味津々。張り切ってシートひいたり?
助けを求める声を聞いて巻き込まれる。大笑い。攻撃は注意されてぐっと堪え
鳥に弁当くわれて悲観的。うがうが
弁当は爆弾おにぎりの好物でロシアン
・セラ
双眼鏡で鳥探し。ピクニックにどこか感動(楽しい経験がなかった)
風景やネコジャラシをみて和む。全体的にゆるい「可愛いなあ」と言ってる
未知の生物により転倒のネコジャラシ被害者。笑うけど息も絶え絶え?(体力なしゆえ)助け求め。
弁当はメイド手製弁当か半分手作り。他含め、詳細考え中
また皆のやりとりにも拾えそうなのは拾いたいと思ってるよ。せっかく絡めるのだし
調理のスキルはないから・・・残ったのが僕らの弁当なら申し訳ないけれど
わけあう時の会話は入れておきたいな -
2015/09/25-10:39
……ヒグラシ・レン…。ロイスさんは初め、…まして。
あのお節介(エルレイン)…知らねェ内に入れんなっつったのに…。
…けど、まぁ…何がともあれどーぞよろしく…。 -
2015/09/24-01:35
先に挨拶しておこう。セラフィムと相棒のタイガだよ。仲間まちだ
時間もとれなさそうだし一番気になるココにはいったのものの
出発できるのかな。一人だと不安になってくる・・・ほのぼの(?)好きなんだけどなぁ
ここの特徴は個別じゃなく「適当に絡める」ところだね
プロローグ通りに皆で石探しピクニックがてらでーー、が妥当か
・・・しかし天気の話や風景や弁当の会話しか思いつかない。仕事の話や「注意して」
ぐらいはできるかな(考)
まあ、集まったらまた考えようか -
2015/09/23-20:03