【例祭】祭りと夜店とクッキーと(星織遥 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 フェスタ・ラ・ジェンマ。愛の女神『ジェンマ』を祀った大祭で、4年に一度行われている。とくに今年は蒸気機関車『ムーン・アンバー号』が発見され、しかもそれが祭りの間だけとはいえ運行されることとなり、いつも以上の盛り上がりを見せていた。それはショコランドも同じだった。
 ショコランドの中にある、クッキーラント王国。小高いクッキー丘陵の上にそびえる城塞都市。その中にある、とある町で祭りの話し合いが行われていた。その内容は「今回はウィンクルムたちもやってくるので、いつもとは少し違ったものにしたい」というものだ。
「でも、いつもと違うって言っても……」
「何をどうすればいいのか……」
 しかし会議は進まず。意見が飛び交うどころか、まず発想が出てこない。そんななか、会議メンバーの1人がふと思い出したようにこう言った。
「そういえばウィンクルムたちの町には『夜店』というのがあるらしいよ」
 一同は沈黙した。この町では『夜店』を催したことがない。そもそも『夜店』とは何なのか。いったいどういうものなのか。まずそこから話を始めなくてはならない。発言者の曖昧な記憶をもとに、それとなくイメージを膨らませると、それを発展させて形にする。クッキーが主体のこの町らしいアレンジを加えて。
 かくして、夏祭りの定番ともいえる『夜店』でありながら、少し風変わりなクッキー中心の『夜店』の準備が着々と進められた。

解説

参加費:300jr

●夜店の内容
・もこもこクッキー
 綿菓子をイメージして作られたクッキー。食感はメロンパンに近いです。

・クッキー飴
 丸く焼いたクッキーに棒を通して飴でコーティングしたもの。
 りんご飴をイメージして薄い赤色を使っています。
 大きさもりんごを意識して、やや大きめです。

・ベビークッキー
 丸めたクッキーのなかに、アーモンドなどを入れたもの。
 大きさはゴルフボールより一回りほど小さい。

・クッキーすくい
 粘度のかなり低い水飴に浮かべたクッキーを専用の道具で掬います。
 道具は金魚すくいで使うものに似てますが、あれよりも破けにくい構造になっています。
 クッキーは丸型、平面な四角、立方体など様々。
 角があるものを狙うと丸型に比べて破れやすいです。

・クッキー型抜き
 動物が描かれた板状のクッキーを慎重に削って動物だけ取ることを目指します。
 失敗してもペナルティはありません。型抜きをした後のクッキーは食べられます。

・くじ引き
 ひもの先にクッキーが付いていて、ひもを引くとそのクッキーがもらえます。
 どれを引いても必ず当たりますが、ひもが重なっていて、どれにあたるかは分かりません。
 赤はいちご味、黄はレモン味、橙はミカン味、紫はブドウ味です。

●プランについて
2人がどれを食べるのか。どれで遊ぶのか、その結果どうなったのか。
それぞれがどんな事を思いながら過ごしているのか。
そういったことをプランにお願いします。
祭りの全体的な雰囲気は一般的な夜店と変わりません。

ゲームマスターより

星織遥です。
普段と少し違った夜店を楽しんで頂けたら幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(ドラグ・ロウ)

  ドラグさんとお出かけするのは初めてですね。
改めてよろしくお願いします。
…しっかり『神人』が務まっているのか少し不安ですが…。

クッキーの屋台。なんだか不思議ですね。
ドラグさんは甘いものは…あ!お好きなんですねよかったです。イヴェさんは少し苦手のようなので。
ふふ、いろんなクッキーを楽しみましょうね。

クッキー型抜き…型抜きの板がクッキーなんですね。これなら2度楽しめていいですね。
うーん…わっ、割れちゃいました…あ、でもクッキーは美味しいです。

ドラグさんは…すごい綺麗に型抜きできましたね!
え、クッキーくださるんですか?…あーんはちょっと恥ずかしいですが美味しいです。

…イヴェさんともこんな風に…



向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
 
夜店にクッキーがいっぱい…目移りしちゃうわね
クッキーは牛乳に合うから好きなの。楽しみだわ


みて、おじさん
クッキーすくいですって…面白そうね
やってみてもいいかしら?

おじさんと一緒にクッキーすくいに挑戦するわ
どれを狙えばいいのかしら…立方体なんてあるのね
ちょっと立方体をとってみるわね
一個二個…あら、もう破れちゃったわ
おじさんのはまだ破れていないわね…コツとかあるのかしら?
…なるほど、丸いクッキーを狙えばいいのね
お店の人に新しい道具と交換してもう一度挑戦よ
…サキサカサカサは今度こそクッキーをいっぱいとるわ!

カルさん、いっぱい取れたら一緒に食べましょう?
牛乳と一緒に、クッキーパーティよ
きっと楽しいわ



紫月 彩夢(神崎 深珠)
  咲姫と?夜店は小さい頃に良く行ってたし、今更いいわよ
で、深珠さん、どれ遊んでく?
…深珠さんって、甘い物好きなの?
悪くないっていうか、あたしもこういうのは制覇したいタイプだし、歓迎。
じゃあ普通に食べるやつから順番にいこ

深珠さんの勤めてる喫茶店のお菓子、あたしも好きよ。美味しい
(…深珠さんの淹れるお茶と一緒だから一層美味しいんだと思うけどね)

クッキー掬い…水飴絡めて食べたら美味しそうだなー
ていうか深珠さん上手い。甘いものへの執念?
邪魔しないようにしよ
…あ、型抜き。これ昔すっごくハマったのよね(黙々と)
ん。上手く出来たから、深珠さんに

あのね、深珠さん
今日は深珠さんの事知れて良かった
また遊びにいこうよ


アイリス・ケリー(エリアス)
  こ、れは…楽園、なのでしょうか
困りました、制覇したくて仕方ありません…

そう、ですね
このまま見ているだけというのは勿体無さ過ぎます
悩みに悩んで、もこもこクッキーを買って食べながら歩く
食べ歩き…というのはあまり慣れてないので、立ち止まる度に食べていきましょう
美味しそうだなと精霊のお菓子を見つつ
…エリアスさんは、甘い物お好きなんですか?
お礼を言って、少しだけ分けてもらう

クッキー掬い…面白そうですね
掬った分は、全部食べれるのでしょうか…
そうだったら、燃えますね
丸型のものを慎重に掬っていきます
そうですね、一応は楽しんでます。エリアスさんは?
精霊の呟きに沈黙
…掬えたら私のと一つ交換してくださいね


杠 千鶴(縁)
  縁くんブラファン名乗らんと行動できんの?
へぇ~お店にも色々種類があるんじゃね
何から見るか迷う……あ、もこもこクッキー美味しそうじゃねっ

(もこもこクッキー、あげたら縁くん喜んでくれんかな?)
・縁の目を盗み、購入して、縁くんにあげます

あっ縁くん、クッキーすくいじゃってっ
…んー、簡単じゃと思っちょったけど、案外難しいもんじゃね、これ

って、縁くんテンション上がりすぎ
落ち着きぃ?
…疲れんの? ぶち(すごい)はしゃいじょるけど
あー…はいはいブラファンおもろいね(棒読み

聞いちょる聞いちょる
……今日は、付き合ってくれてありがとうね(にこり



 フェスタ・ラ・ジェンマ。4年に一度の大祭はいつも以上の盛り上がりを見せていた。それはショコランドも同様だった。そのなかにあるクッキーラント王国。そこにある、とある町で風変わりな夜店が催されるという事で『杠千鶴』と『縁』、『向坂咲裟』と『カルラス・エスクリヴァ』、『紫月彩夢』と『神崎深珠』、『アイリス・ケリー』と『エリアス』、『淡島咲』と『ドラグ・ロウ』。それぞれのウィンクルムがその町へと向かっていた。


●楽しい思い出に
 千鶴と縁が祭り会場の入り口に到着すると、甘い香りと祭りが持つ独特の雰囲気が出迎えた。千鶴がさっそく中に入ろうとしたら、縁が立ち止まった。
「ふっ、我が名はブラッティ・ファング……!」
「縁くんブラファン名乗らんと行動できんの?」
「む、なにを言う。名乗るのは大事なことなのだろう?」
 縁はさも当然といわんばかりに胸を張って答えた。千鶴は深く考えるのをやめた。名乗りも終わったところで2人は店の立ち並ぶなかへと進んでいく。

「へぇ~お店にも色々種類があるんじゃね。何から見るか迷う……あ、もこもこクッキー美味しそうじゃねっ」
(もこもこクッキー、あげたら縁くん喜んでくれんかな?)
 千鶴はそう考えながら縁のほうに目をやる。縁は千鶴のほうは見ておらず、どこか別の一点をみつめている。これはチャンスといわんばかりに縁の目を盗んで、彼女はすっと購入した。
 千鶴が隠れてクッキーを購入しようとしていたとき、縁はこんなことを考えていた。
(ちーちゃんはそういえば、ふわふわしたものが好きだったよね……)
 彼の視線の先には、もこもこクッキーの店。千鶴は幸いこちらを見ていない。その隙を突いて彼は店に近づきクッキーを購入した。そして2人は何食わぬ顔で合流した。開口一番、縁が高らかに宣言した。
「さあ受け取れ。欲しいのだろう?」
 先ほど買ったもこもこクッキーを千鶴に差し出す縁。しかしよく見ると、彼女の手にも同じくもこもこクッキーが握られている。彼女もそれを縁に手渡した。
「……って、なんだきみも、くれるの……か?え?」
 自分がプレゼントするつもりが、まさかプレゼントをもらうとは全く想像していなかった。縁は千鶴の意外な行動に目をぱちくりさせている。その様子がおかしいのか、千鶴は微笑みを浮かべていた。それぞれ買ったもこもこクッキーを交換する形になり、その味を楽しみながらさらに奥へと歩いていく。

 進んだ先で『クッキーすくい』という看板が2人の目に飛び込んできた。
「あっ縁くん、クッキーすくいじゃってっ」
「クッキーすくいか、チヅル、やってみると良いぞ」
 店の人からすくう道具を受け取ると早速挑戦する。しかし思ったようにすくうことができない。
「……んー、簡単じゃと思っちょったけど、案外難しいもんじゃね、これ」
「難しい……?そうなのか?」
 縁は千鶴の言葉に疑問を感じながら、自身もいちど試してみる。金魚すくいに似ているが、動いていないクッキーなら難しくないだろう。そう思っていたが、これが意外と難しい。結局縁もクッキーを取る事が出来なかった。収穫なしの2人だったが、クッキーすくいは楽しめたようだ。
 それからも2人は祭りのなかを歩く。もこもこクッキーやクッキーすくい以外にも色々な店があり、どれもクッキーに関係しているものばかり。それが普段見かける夜店と違って、自然と気分が盛り上がる。
「ふっ、ふははははっ!」
「……って、縁くんテンション上がりすぎ。落ち着きぃ?」
「我は常に落ち着いておるが?」
「……疲れんの?ぶちはしゃいじょるけど」
 祭りの雰囲気にとても上機嫌な縁。そのテンションの高さを見て、思わず声をかける千鶴。
「それから言い忘れておったが、我が名はブラッティ・ファングだッ!」
「あー……はいはいブラファンおもろいね」
「まるで感情がこもってないぞ!?聞いているのかチヅルッ」
「聞いちょる聞いちょる」
 メルヘンチックな祭りの場であっても、いつもと変わらないやりとり。それはそれで安心感のある会話だった。千鶴は少しためらいつつ、言葉を紡ぐ。
「……今日は、付き合ってくれてありがとうね」
「きみが楽しめたのなら、悔いはない」
 千鶴の微笑みを伴う感謝の言葉に応えるように、はっきりと縁はそう伝えた。


●クッキーパーティ
 咲裟とカルラスは目の前に広がる不思議な光景に目を奪われていた。
「夜店にクッキーがいっぱい……目移りしちゃうわね」
「……どれもどこかズレた夜店ばかりだな。クッキーラントらしくはあるが……」
 さまざまな夜店が立ち並ぶものの、その中身は全てクッキーが関係している。しかしここはクッキーラント。クッキーが主体の町だと思えば、それほど不思議でもない。彼はそう思うことにした。
「クッキーは牛乳に合うから好きなの。楽しみだわ」
(……お嬢さんは嬉しそうだしな……私も楽しむか)
 2人は祭りのなかへと歩みだした。

 様々な店が2人を出迎える。もこもこクッキーやベビークッキーなど、多様なクッキーが扱われている。そのなかに『クッキーすくい』というのがあるのを咲裟は見つけた。
「みて、おじさん。クッキーすくいですって……面白そうね」
「クッキーすくい……金魚すくいの代わりか。なんとまぁ、捻っているな」
「やってみてもいいかしら?」
「ああ」
 2人は掬う道具を受け取るとクッキーの浮かぶ水飴を眺める。そこには丸いものや四角、立方体など様々な形のクッキーがあった。咲裟はどれを狙うか迷っていたが、視界に入った立方体に狙いを定める。1個、また1個と取っていくが、2個取ったところで破けてしまった。
「……あら、もう破れちゃったわ。おじさんのはまだ破れていないわね……コツとかあるのかしら?」
 隣にいるカルラスに視線を移すと器用にクッキーを掬っている。咲裟は気になって彼にコツを尋ねた。
「コツか?丸いクッキーを狙った方が負荷が掛からないぞ。角のあるものを狙えば……ほら、破れるだろう?」
 そういって実際に手本を見せるカルラス。
「……なるほど、丸いクッキーを狙えばいいのね。もう一度挑戦よ。……サキサカサカサは今度こそクッキーをいっぱいとるわ!」
「……お嬢さんもきっと、上手くできるさ」
 気合をいれて再び水飴に浮かぶクッキーに立ち向かう咲裟。それを一歩後ろから見守るカルラス。コツを教わった咲裟は1回目とは違い、丸いタイプのクッキーを中心に慎重に狙っていく。1個、また1個と取っていく。しかし今回はまだまだ破れそうにない。その調子でクッキーを掬い続け、破けた頃には十分な数のクッキーが手元にあった。それを見て彼女はとても嬉しそうな表情を浮かべた。
「よかったな」
 カルラスは彼女に近づくと、そういいながら優しく頭を撫でる。彼女はさらに嬉しそうに笑った。
「カルさん、一緒に食べましょう?牛乳と一緒に、クッキーパーティよ。きっと楽しいわ」
「……それは楽しそうだな」
 満面の笑顔で話す咲裟と、柔和な表情で話すカルラス。その姿は本当に楽しそうだった。


●お互いを知る機会
 メルヘンチックな夜店が立ち並ぶなかを彩夢と深珠の2人はゆっくりと歩いていた。
「紫月さんと来なくて良かったのか」
「咲姫と?夜店は小さい頃に良く行ってたし、今更いいわよ」
「……いや……彩夢がいいなら、いい」
 深珠は彩夢に兄がいることを知っているので、この場に彼女と来たことを少し気にしていたようだ。しかし彩夢がそう言うなら深く問う必要もない。彼はそう判断した。
「で、深珠さん、どれ遊んでく?」
「……彩夢。ここは、制覇、すべきところじゃないか?」
 深珠が明らかにうずうずしながら夜店全体を見渡している。
「……深珠さんって、甘い物好きなの?」
「自覚済みの甘党だ。悪いか。あの喫茶店に勤めてるのも、休憩時間に頂けるお菓子が美味いからであって……美味い、よな。そうだろう?」
「悪くないっていうか、あたしもこういうのは制覇したいタイプだし、歓迎。それに深珠さんの勤めてる喫茶店のお菓子、あたしも好きよ。美味しい」
 同意を得られたことが嬉しかったのか、深珠は笑顔を浮かべた。
「じゃあ普通に食べるやつから順番にいこ」
(あの喫茶店のお菓子は……深珠さんの淹れるお茶と一緒だから一層美味しいんだと思うけどね)
 彩夢はそう思ったが口にはしなかった。2人は全部制覇することを目指して店めぐりを始めた。

 メロンパンのような食感のもこもこクッキー。りんご飴のような形をしたクッキー飴。小さく丸めたクッキーにアーモンドなどを入れたベビークッキー。ひもの先についたクッキーをランダムで選ぶくじ引き。夜店の出し物を1つずつ堪能していく2人。そんな2人が歩く先に『クッキーすくい』の看板が見えた。
「クッキー掬い……水飴絡めて食べたら美味しそうだなー」
 おそらく金魚すくいがモチーフなのだろう。水飴のなかにクッキーが浮いている。掬う道具を受け取ると2人とも挑戦する。彩夢はクッキーの1つに狙いを定めると慎重に掬おうとする。しかし水飴に引っかかり思ったように道具を動かせない。なんとか動かそうと奮闘するうちに破けてしまい、クッキーが掬えなくなってしまった。うなだれながら深珠のほうを見ると、真剣なまなざしでクッキーを見つめている。そして道具を巧みに水飴に滑り込ませると、クッキーを上手い具合に掬う。
(……ていうか深珠さん上手い。甘いものへの執念?邪魔しないようにしよ)
 深珠の真剣な様子をみて、彩夢は静かに立ち上がると店から一歩下がる。ふと隣の店をみると『クッキー型抜き』と書かれていた。
(……あ、型抜き。これ昔すっごくハマったのよね)
 昔を懐かしみながら型抜きに挑戦する彩夢。店の人から動物が描かれた板状のクッキーを受け取り、動物だけを切り取ろうと慎重に黙々と削る。
 一方その頃、深珠は掬い終えたクッキー入りの袋を手にしながら頭を抱えていた。
(メルヘンな世界は、何とも興味深くて。変わった夜店の遊びも、どれも楽しくて。うっかり一人で楽しむところだった)
「彩夢、お前も何か……」
 そう声を掛けようと横をみると彩夢の姿がない。慌てて立ち上がり周りを見ると、隣の店で型抜きをする姿を見つけた。余程真剣に取り組んでいるのか、近くに来た深珠にまるで気付いていない。
(型抜きに集中しすぎだろう……)
 彩夢は型抜きのクッキーに穴が空くのではないか、と思うほど視線を送り、熱心に取り組んでいる。
「ん。上手く出来た」
 削り終えると彩夢は大きく息を吐く。そこには綺麗に型から取られた動物のクッキーがあった。彩夢はそこでようやく深珠の存在に気付いた。少し驚いたものの、すぐに深珠のほうを向いた。
「はい、深珠さん」
 そういって彩夢は、手にしていた動物のクッキーを深珠に差し出した。
「……くれる、のか?」
 深珠は戸惑いがちにそれを受け取ると、ふと思いついたことを口にした。
「あ……なら、交換しよう。さっき掬った分と」
 彼は先ほど掬ったクッキーを彩夢に手渡す。お互いに感謝を述べると、小さく笑いあった。そして再び祭りのなかを歩き出す。
「あのね、深珠さん。今日は深珠さんの事知れて良かった。また遊びにいこうよ」
「知る機会、か。そういうのは、必要だろうな。お前の身内にはなれないから、色々と不便もかけるだろうが……。今後とも宜しく、な」
(……いかんな。年下に気を遣わせすぎだ。もう少し、歩み寄ろう)
 それぞれの思いを胸に、2人は祭りを最後まで満喫した。


●クッキーの楽園
 アイリスとエリアスは祭り会場の入り口で立ち止まり、奥へと広がる夜店の数々を眺めている。
「こ、れは……楽園、なのでしょうか。困りました、制覇したくて仕方ありません……」
(甘い物が好きだって聞いてはいたけど、まさかこんな反応をするとはねぇ……)
 目を輝かせながら夜店を見つめるアイリス。その横で彼女の様子を見ながら思わず頬を掻くエリアス。この様子だとずっと眺めているのではないだろうか。そう思ったエリアスはこう提案した。
「とりあえず、何か食べながらゲーム系の夜店を見てまわろうか」
「そう、ですね。このまま見ているだけというのは勿体無さ過ぎます」
 彼女もその提案に同意し、2人は夜店の立ち並ぶ道へと歩を進める。

 祭りの雰囲気や店の並びは普段見かけるものと変わらない。しかし、その店先に並んでいる食べ物がどれもクッキーが使われているのが特徴的だった。アイリスは悩みに悩んだ末、もこもこクッキーを。エリアスはベビークッキーをそれぞれ購入した。
「食べ歩き……というのはあまり慣れてないので、立ち止まる度に食べていきましょう」
 彼女はそう話した。2人はゆっくりと歩きながら、祭りの雰囲気を楽しむ。そして時々立ち止まりクッキーを口に運ぶ。それを繰り返しながらさらに奥へと進む。ふと、アイリスがエリアスの持つベビークッキーに視線を送る。
(美味しそうだな……)
「……エリアスさんは、甘い物お好きなんですか?」
「甘い物は好きな方だね。……目が雄弁に『食べたい』って語ってるね」
 エリアスは、彼女の視線が自分の持つベビークッキーに向いていることに気付いて、そう言葉を返した。
「少しだけなら、いいよ」
「ありがとうございます」
 アイリスは感謝を伝えながら彼からベビークッキーを受け取ると、それを口に含んだ。そしてもこもこクッキーとは違った味と食感を楽しむ。しかし彼女はまだエリアスの持つ分を見ている。
「俺も好きだからこれ以上は譲歩しない」
 そう笑うと彼も自分の口にベビークッキーを入れた。

 夜店めぐりを続けていると『クッキーすくい』と書かれた店を見つけた。水飴にクッキーが浮かんでいて、金魚すくいの要領ですくうようだ。
「クッキー掬い……面白そうですね。掬った分は、全部食べれるのでしょうか……そうだったら、燃えますね」
 やる気満々といった様子で掬う道具を受け取るアイリス。エリアスも受け取ると2人は水飴に浮かぶクッキーを見つめた。アイリスは丸型のものを慎重に狙っていく。その姿があまりに真剣でエリアスは思わず苦笑いを浮かべた。
「一応、楽しんでるのかな?」
「そうですね、一応は楽しんでます。エリアスさんは?」
「俺も一応、楽しいよ。……いつか『一応』じゃなくなる日は来るのかな」
 最後の一言は小さく呟いたつもりだったが、彼女の耳に届いたらしい。彼女は沈黙してしまった。
「ごめん、余計な事を言ったね。……よし、俺は丸型以外のものもチャレンジしてみようか。せめて一つは掬いたいんだけど」
 場の空気を変えようと、道具を持ち直してクッキーの浮かぶ水飴を眺める。
「……掬えたら私のと一つ交換してくださいね」
「仕方ないなぁ」
 アイリスのお願いに苦笑を浮かべながらも応じるエリアス。2人はそうしてクッキーすくいに興じた。


●神人との距離
 咲とドラグは祭り会場に到着した。そのなかに入る前に咲が言葉をかける。
「ドラグさんとお出かけするのは初めてですね。改めてよろしくお願いします」
「ああ。ついについに俺も『神人』と契約が出来たなんて夢のようだ……!『俺の神人さん』これからよろしく頼むよ」
「……しっかり『神人』が務まっているのか少し不安ですが……」
 ドラグは神人という存在に興味津々で、咲のことをたびたび『俺の神人さん』と呼んでいる。
(まさかイヴェリアと再会するとは思わなかったけれど、彼をあれ程までに釘付けにしてしまうなんて。やはり『神人』というのは興味深い。彼はすごく仕事人間だったんだ……今は口を開けば咲ちゃんのことばかり!まったく感心するよ)
 彼は心のなかでそんな事を考えつつ、咲とともに祭り会場へと入っていく。

 綺麗に列をなす屋台はどれもクッキーを扱ったものばかり。それは普段見かける夜店とは趣がだいぶ異なる。それが2人にとって珍しく感じられた。
「クッキーの屋台。なんだか不思議ですね」
「ああ、面白いね」
「ドラグさんは甘いものは?」
「俺は甘いものが好きだから、どれも美味しそうで目移りしてしまう」
「あ!お好きなんですね!よかったです。イヴェさんは少し苦手のようなので」
「なに、イヴェリアは甘いものは苦手か。こんなに美味しいのにもったいない」
 そんな話題で盛り上がりながらさらに奥へと進む。すると『クッキー型抜き』という看板を掲げた店を見つけた。
「クッキー型抜き……型抜きの板がクッキーなんですね。これなら2度楽しめていいですね」
「型抜きか……面白い。チャレンジしてみよう」
 2人はそれぞれ動物の描かれた板状のクッキーを受け取る。指先に意識を集中させて慎重に削り始める咲。その様子を横目にみながらドラグも少しずつ削っていく。
(咲ちゃんも一所懸命だな。なんだかくすぐったい気分になる。これは一体?)
 ドラグは自身の感情に疑問を抱きつつも手を動かす。その隣では咲が必死に頑張っている。しかし力を入れすぎたのか、クッキーが割れてしまった。
「うーん……わっ、割れちゃいました……あ、でもクッキーは美味しいです」
 型抜きは失敗したものの、クッキーの味にご満悦の様子。一方、ドラグは動物の形がはっきり分かるほど綺麗に出来ている。
「ドラグさんは……すごい綺麗に型抜きできましたね!」
「ありがと。そうだ、これ、あげるよ」
「え、クッキーくださるんですか?」
「はい、俺のクッキー、あーん」
 そういいながらドラグは自分のクッキーを咲の口元へ運ぶ。
「……あーんはちょっと恥ずかしいですが、美味しいです」
 咲はクッキーを口に含むと本当に美味しそうに食べた。
(……イヴェさんともこんな風に……)
 彼女はクッキーの味をかみ締めながら、そんなことを考えていた。その後、2人は夜店めぐりを楽しんだ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 星織遥
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月31日
出発日 09月07日 00:00
予定納品日 09月17日

参加者

会議室

  • [5]淡島 咲

    2015/09/06-17:45 

    わわっご挨拶が遅れました!
    淡島咲とパートナーのドラグ・ロウさんです。
    よろしくお願いします。

  • [4]向坂 咲裟

    2015/09/04-21:30 

    こんにちは、向坂 咲裟よ。パートナーはカルラスさん。
    初めましての人もよろしくね。

    クッキー…牛乳にとっても合うお菓子よね。大好きよ。
    珍しいクッキーばかりだからとっても楽しみだわ。
    素敵な時間になるといいわね。

  • [3]杠 千鶴

    2015/09/03-21:53 

    初めまして、杠千鶴。ユズリハ・チヅルっていいます。
    おもしろい夜店があるって聞いて来ちゃいました。
    皆さんそれぞれ楽しく過ごしてくださいねっ

    あ、それからあっちでうるさい人は縁(エニシ)くんですー。
    変な人です。はい(にっこり

    縁:
    ふ、我こそブラッティ・ファンg(蹴

    千鶴:
    うるさいけぇ黙っちょきぃ、縁くん。

  • [2]アイリス・ケリー

    2015/09/03-14:37 

    アイリス・ケリーです。契約したばかりのエリアスとご一緒させていただきます。
    ドラグさん、深珠は初めまして。
    他の皆さんはお久しぶりです。
    どのクッキーも美味しそうで悩ましい限りです。
    あ、ラルクさんだったら横取りできたんじゃ…

    エリアス:君はいつもラルクから取ってるのか…

    取ってるんじゃありません、平和的解決です。
    それはそれとして、よろしくお願いいたします。皆さんも、良いひと時を。

  • [1]紫月 彩夢

    2015/09/03-11:26 

    紫月彩夢よ。最近契約することになった深珠さんと、変わった夜店を楽しみに。
    ショコランドって色々謎な場所だと思ってたけど、
    クッキー尽くしの夜店が出てくるなんて思わなかったわね。
    折角だから目一杯楽しんで行きたい所よ。どうぞ宜しくね。


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