プロローグ
継母と義理の姉に苛められたシンデレラは、舞踏会に行くことは叶いませんでした。
しかし、そこへ魔法使いが現れて、南瓜の馬車に美しいドレス、ガラスの靴を与えてくれました。
シンデレラは舞踏会で王子に見初められましたが、魔法使いとの約束で、0時の鐘が鳴る頃には戻らねばなりませんでした。
魔法の力が解けてしまうから。
それは、御伽噺の話。
この物語の魔法使いは、こんな約束を結び付けていたのです――。
「鐘が鳴り終わる前に戻る事の出来なかったシンデレラは、魔法使いにその魂を奪われてしまったのです」
それは、魔法に対する対価であったのだろう。憐れなシンデレラは抜け殻となり、王子と結ばれる幸せな運命を探して歩く傀儡となってしまったのだ。
受付と思しき場所で、店員の女性が器用に人形を繰って物語を紡ぎあげている。
そこは、新しく出来たお化け屋敷だと聞く。夏限定の公開で、御伽噺を題材としているらしい。
噂を聞いて訪れた貴方達を迎えたのは、幸福な結末を迎えられなかったシンデレラの物語。
参加者は歪んでしまったシンデレラの世界で、ガラスの靴を探すのだと言う。
「探して頂く硝子の靴は右足のみです。左足は、ゴールになる王宮の中にあります。両足揃えた状態にすることで、この世界から脱出できるのです」
シンデレラ人形を吊るす糸を繰り、くるくると躍らせながら告げた店員に、参加の意思を伝えれば、にこりと微笑まれた。
「それでは、お二人にはこのゴーグルと銃を」
「え?」
「傀儡となったシンデレラは、ガラスの靴を手にしたお二人へ襲い掛かってきますので、迎え撃ってください」
なお、襲ってくるのはシンデレラのみにあらず。
シンデレラの妄執は世界を取り込み、いつしか全ての人々を傀儡へと変えてしまったのだから。
「……つまり、全部敵?」
「そうなりますね!」
笑顔で告げる店員に促されるまま、ゴーグルを装着し、試し打ちようのパネルへと向けば、ガンシューティング系のゲーム画面に似た物がゴーグルに映し出された。
表示されているのは三つ。的を破壊するのに必要なヒット数、残弾数、ヒットポイント。
試しに銃口を向ければ、ゴーグル内にターゲットポイントが現れる。引き金を引けば、ぱん、と弾けるような音と効果が表れて、ゴーグル内の的の色が変わる。
「画面はお二人でリンクしていますので、一人が当てればもう一人の画面も変わりますよ」
一通りの説明を聞き終えた貴方達は、意を決してスタート地点に立つ。
調子外れのオルゴールが響くその空間は、ガラスで出来たレトロな街並み。
美しささえ感じる世界に踏み出せば、気付く。硝子で出来たレンガ敷きの道の向こう、操り人形のように吊り下げられた何かが佇んでいるのを。
それが、正常な人間の形をしているわけではない事を。
透明で美しく、冷たくて歪な硝子世界のシンデレラ。
果たして貴方達は、ガラスの靴を手に入れて、壊れた人形だらけの世界を抜け出せるのだろうか――?
解説
●消費ジェール
入館料としてお一組様500jr頂戴いたします
●仕様について
世界は硝子で出来ています。激しいアクションは向きませんし、
激しいアクションと共に敵キャラが出てくることはありません
敵キャラは全てマリオネットのように糸に吊るされていますが、糸はヒット対象になりません
敵キャラは投擲攻撃をしてくるものもありますが、実際に何かが当たるわけではありません
ゴーグル内にヒット効果が表示されるだけなので怪我はしません。避けれます。撃ち落とせます
なお、投擲物を撃ち落とす際は命中率が100以上の方は補正が付きます。150以上の方は外しません
シンデレラは硝子の靴を手に入れるとどこにでも出てくるチート敵キャラです。基本的に倒せません
ある程度当てると逃げて行きますがまた来ます
硝子の靴はどこにあるかは不明です
放置はしてなくてきちんと箱にしまってある状態なので、探す場所をプランで書いてみるのもありでしょう
書いてなくても適当なところで見つけます
持ち運びについては両手が空くように持てます
何しても壊れませんが、シンデレラに奪われるとゲームオーバーとなりますのでご注意を
ゲームマスターより
夏の間にやりたいメルヘンホラー《strano》シリーズでお届けいたします
錘里の仕様としては所謂正気度的な物を削る感じになります
女性側はどちらかというとアクション系になってしまいましたが、
静かに粛々とホラー感出して行けたらなと思っておりますので、苦手な方はご注意ください
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
びくびくとしながら辺りを見渡して 敵が現れると小さく悲鳴を上げて シリウスにしがみつく 呆れたような顔に少し顔を赤らめて「ごめんなさい」と 差し出された手に目をぱちくり …いいの? 大きな手をぎゅっと握って うん これなら怖くない 落ち着きを取り戻す 敵が出てきたらよく狙って 彼に続けて攻撃 さりげなく守られているのに胸が熱くなる いつも こんな風に守ってくれる彼が大好き 振り向いた彼の瞳にどきりと 幸せになれなかったシンデレラ 硝子の靴がそろったら また王子様のところへ行けるのかしら 大好きな人がいる場所へもう一度 今度こそ幸せにと思う ゲーム終了後 館を出る前にぎゅっと手を握って もう少し 手を繋いでいてもいい? |
月野 輝(アルベルト)
ガンシューティングってやった事ないんだけど当たるかしら? せっかく綺麗なガラスの世界なんだもの 壊さないように正確に敵だけ狙い撃ちたいわね 怖くないのかって聞かれれば、ちょっとドキドキはしてるけど大丈夫って思ったんだけど何これ 思ってた以上にすごく怖い… 怖がってたらからかわれると思って我慢してたけど堪えきれなくなってアルに寄り添い ア、アル、離れないでね? 置いていかないでよ? 銃を持ってるからアルの服を掴む訳にも行かないし… 早く靴を探してゴールしましょう 見れば笑ってるアルの顔 なんだか悔しい…けど、アルの顔見てたらちょっと安心してきたって言うか 息を合わせて敵を倒すのもとても楽しくて アルもそう思ってくれてる? |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
カガヤは大丈夫ですか? ガラスの世界とは何ともメルヘンチックですが… どことなく不気味な雰囲気もありますね… このお話のシンデレラは演出とはいえ、 ちょっと可愛そうです… カガヤと離れないように、ぎゅっと手を繋いで進みます。 頑張ってくれるようなので大いに頼りましょう。 銃を片手に持ちつつも基本は攻撃はカガヤに任せて ガラスの靴を見逃さないようにしましょう… どこにあるのでしょうか… シンデレラが現れたらガラスの靴はわたくしが確保しておきますので、カガヤに頑張ってもらいます。 離れないようゴールを目指して進みます。 うーんそうですね、もう1回本格的な廃病院で肝試ししても 怖がらなければ怖がり克服したと認めますよ。 |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
ずれてる曲が、不気味で。 形のおかしい人形も、少し、怖い。(少し引け腰、顔も少し青い (言うか迷い 「……怖いの、苦手で」(オカルトは好き シューティングも、得意じゃ、ないし。 「ルシェと一緒なら、怖くないかもって」思って。 やっぱり、怖いけど。 一人じゃないから、……頑張る。(意識して深呼吸 当たるように、胴を狙う。 真っ直ぐ来る敵なら、当てれる。はず。(射撃時、足が止まる ターゲットポイント、だっけ。便利。(狙いを調整 「靴……、シンデレラの家とか」 関係するところにある、かも。 箱は私が持つ。ルシェの方が良いかも知れないけど。 私も、少しは役に立ちたい。 (ルシェ、かっこよかった)(恐怖からルシェの服を掴み、現実逃避 |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
これがお化け屋敷?綺麗、…だけど 珍しげに周りを見る、触れていいなら触ってみる あそこにあるのが敵…?動くのかしら 歪な形にぞくっとし反射的に引き金を引く こ、怖くないわよ、見えてるもの! 精霊の隣、少し後を進む 当てやすそうな胴体を狙う 箱に入れたのはシンデレラかしら 隠すなら物陰とか見つけにくい場所? でも、街頭の光の下に置いてあったら素敵ね 大事なモノは綺麗な場所に置いておきたいじゃない? 靴、見つけたら私が持つわね ■シンデレラ あ、えっ!? シンデレラに向けて連射 怖いわよ、怖かったわよっ、あれは怖いでしょっ!!?(あぅあぅ 何の事?と首傾げ ここで彷徨い続けるよりは幸せだと思うわよ だって意志があれば選べるもの |
煌めく硝子の世界に、ミオン・キャロルの瞳もまた、煌いていた。
「これがお化け屋敷? 綺麗、……だけど」
俄かには信じがたい雰囲気を珍しげに見渡して、そっと、壊さぬように路上の木に触れてみる。
ゴーグルと銃の感覚を確かめ、試し打ちしながら、アルヴィン・ブラッドローは楽しげな笑みを浮かべる。
趣向の変わっているお化け屋敷に、期待しているのだ。
色々な確認を終えて、さて、と二人が向き直った石畳の向こうに、何かが見える。
「あそこにあるのが敵……? 動くのかしら」
ぱちくりと瞳を瞬かせたミオンが恐る恐る近づけば、それは天井からぶら下げられた糸に操られるようにして、近寄ってくる。
歪な形の、人。
息を呑み、反射的に銃を構え、ミオンは引き金を引く。
ヒット表示がゴーグルに現れ、ねじくれた操り人形が硝子の砕ける音と共に弾けた。
「……怖かったのか?」
「こ、怖くないわよ、見えてるもの!」
どきどきしながらもそんな風に答えるミオンに、ふぅん、と曖昧にだけ返して、それなら、と先を促す。
「敵は見えてるヤツだけかな」
「だと、思うけど……」
アルヴィンの隣、少しだけ後ろに下がった位置で、ミオンはしきりに周囲を見渡す。
念のためにと後ろも振り返った所で、不意にミオンの体が、横に引っ張られた。
驚いたミオンのゴーグルに、投擲物が横切る。
それを投げた敵の姿を見止め、及び腰になりながらも、ミオンは狙いやすそうな胴体を中心に引き金を引く。
しゃらりと音を立てて崩れる敵。無機質な世界の無機質な敵を淡々と撃っていると、初めの期待はどこへやら、アルヴィンは心の冷める感覚に襲われる。
(俺達はこいつ等と同じオーガを殺して彷徨う人形なのか)
調子外れの音が、薄暗い思考を助長させているようで。薄らと瞳を細めたところで、はっとしたようにアルヴィンは頭を振った。
「靴はどこにあると思う?」
「箱に入れたのがシンデレラなら……物陰とか見つけにくい場所?」
「靴を守るなら敵が多いとこじゃないか」
「ちょっと大変そうね……」
無言は、良くない。
言葉も思考もないままでは、世界に囚われてしまうようだ。
短くとも話を繰り返しながら進んでいくと、不意にミオンが少し表情を明るくした。
「でも、街頭の光の下に置いてあったら素敵ね」
大事なモノは綺麗な場所に置いておきたいじゃない? と笑うミオンに、アルヴィンは同意を示し、緩く笑む。
そんな彼女の期待が届いたのだろうか。意匠の灯りの下に、透明なガラスの箱に入れられた靴を、発見した。
そっと靴を拾い上げたミオンは、私が持つわね、と同意を求めてから、腰の辺りに提げた。
直後、オルゴールの音の調子が、変わる。
調子外れな音はそのままに早くなり、時折歪むような不快な音が混ざり。
迫るような足音に弾かれたように振り返ったそこには、継ぎはぎ服を来た少女が、例によって不自然な関節の曲がり方をしながら迫ってきた。
「あ、えっ!?」
響く音にぞっとして、ミオンは思わず銃を連射した。
明らかに動揺しているミオンを庇うように引き寄せて、アルヴィンも応戦する。
二人で目一杯撃ちまくったおかげか、少女はゆらゆらと揺れながら退散していく。
「……怖かったのか?」
「怖いわよ、怖かったわよっ、あれは怖いでしょっ!?」
あぅあぅと泣きそうな顔をしながら訴えるミオンに、アルヴィンはくすっと笑う。
「また出てくるんだろ」
「出来るだけ会いたくない……!」
ふるふると首を振るミオンを見て、それから、その腰に提げられている靴を見る。
「靴を揃えたら幸せになるのかな?」
ぽつりと零れた疑問のような声に、何の事、とミオンは首を傾げる。
「ここで彷徨い続けるよりは幸せだと思うわよ。だって意志があれば選べるもの」
これは、救う話だと、思っている。
真っ直ぐなミオンの言葉に、アルヴィンはかすかに瞠目してから、ぽん、と彼女の頭を撫でた。
意志ががあれば、選べる。
これからを選ぶのは、自分だ。
「雰囲気のせいかな、早く王宮に行こう」
硝子のような無機質に、心が囚われない内に。
◆
ずれてる曲が、不気味で。
形のおかしい人形も、少し、怖い。
だけれど、ひろのはそれを口にできなかった。
ゴーグルや銃の調子を確認しているルシエロ=ザガンが、楽しそうだったから。
「弾は補充可能なようだな」
初遭遇の敵を倒した後に、リロード機能を確認したルシエロ。
無駄撃ちを気にしなくていいなら安心だ、と頷いてひろのを促そうとしたところで、彼女の表情が蒼褪めているのに気が付いてしまった。
「ヒロノ、オマエ」
「……怖いの、苦手で……シューティングも、得意じゃ、ないし」
もしかして、を問う前に、躊躇った様子の口が、ぽつりと零す。
まさか参加してから気が付くとは。ひろのへの理解の足りなさに情けなさを覚えつつも、溜息を零すのは耐えた。
「そういう事は先に言え」
でも、と小さな反論が返る。
「ルシェと一緒なら、怖くないかもって」
思って同行したが、怖いものは怖いのだと学んだ。
それでも。
「一人じゃないから、……頑張る」
決意を新たにするように、大きく深呼吸したひろのを、ルシエロは複雑な心地で見つめる。
(コイツは、本当に……)
頼られているのは、嬉しい。だけれど、自己完結をする前に言ってほしかった。
頭を掻き、堪えた溜息を小さく零す事で葛藤にきりを付け、気を取り直したように、二人で、進み始めた。
先程の邂逅で、必中距離は確認した。なるべく近寄らないでやろう。
敵も投擲物も、大して早くはない。避けることを念頭に、ひろのに当たりそうなものだけ撃ち落とそう。
自身の動きを確認し、一つ頷くと同時、新たな敵が湧く。
ゴーグル越しだけの、映像。いざとなればゴーグルを外させる最終手段も必要かと思案したものの、ひろのも出来るだけ胴を狙い、懸命に対処していた。
(真っ直ぐ来る敵なら、当てれる。はず)
ターゲットポイントが出る画面は、便利だ。狙いやすく、当てやすい。
撃つ時にひろのの足が止まるのを確かめて、ルシエロはほんの少しだけ庇うように位置取る。
(動きに制限はあるが、敵も激しく動かないのが救いか)
怖いのだけどうにかすれば、何とかなりそうか。思案しながら、二人は靴を探して移動する。
「靴……、シンデレラの家とか」
「当ても無い。行くとしよう」
果たしてひろのの予感は的中し、大きなお屋敷の裏庭に、硝子箱は存在していた。
きらきらとした靴を拾い上げ、提げる用の紐に結えるのは、ひろの。
(ルシェの方が良いかも知れないけど……)
硝子の靴を狙ってシンデレラが襲い掛かってくるならば、ルシエロが持つ方が安全だろう。けど。
「私も、少しは役に立ちたい」
小さく零した声に、ルシエロは彼女の頭を軽く撫でて、笑みをこぼす。
しかし直後に流れていたオルゴールの音が一層不安感を増すものに変わったのを聞き留めて、眉を寄せる。
ひたひた。近づいてくる足音に振り返れば、継ぎはぎ衣装の少女の姿。空洞の瞳で、捻じれた体で、真っ直ぐ、ひろのの持つ硝子の靴に向かってきた。
避けろ、と言いたい所だったが、今までの敵よりも近い位置でやや早い速度で自分に迫ってくる敵に、真っ青になっていた。
ぐっ、とその体を引き寄せ、距離を開けようと下がりながら、ルシエロは少女に向かって連射する。
じわじわと迫ってくる少女は相変わらず恐ろしいが、果敢に立ち向かうルシエロを見ていると、それも紛れる。
やがて少女が撤退し、音楽も元に戻る頃には、縋るように掴んだルシエロの服に、皺が出来ていた。
(ルシェ、かっこよかった)
震えるでもなくただ蒼褪めながら縋ってくるひろのの手に、そっと触れて。
「掴むならこっちにしろ」
服の代わりに、手を握らせた。
伝わる体温に、安堵したように小さく息を零したひろのを見て、ルシエロは思案気に眉を寄せる。
(コイツ、恐怖で声が出なくなるタイプか)
覚えておこう。
きっとそれは、今日に限らず、今後も現れる現象だから。
◆
「ガンシューティングってやった事ないんだけど当たるかしら?」
与えられたゴーグルと銃を確かめながら、月野 輝はアルベルトに尋ねる。
同じように使用を確かめていたアルベルトは、不意に思いついたようにゴーグルを外して、あぁなるほど、と呟いた。
「せっかく綺麗なガラスの世界なんだもの。壊さないように正確に敵だけ狙い撃ちたいわね」
「正確に敵だけ狙い撃つのは賛成だが、実弾が出るわけではなさそうだ。外して壊す事は心配しなくていいだろう」
「そうなの? それなら、少し安心」
ほっとした様子の輝は、何だか楽しそうで。アルベルトは、ふと、疑問に思った事を素直に尋ねた。
「随分ウキウキとしてるようだけど怖くはないのか?」
「ちょっとドキドキはしてるけど大丈夫」
世界は綺麗だし、倒せる仕様だし、と楽しそうに返事をする輝。
なるほど、と納得したように返しつつ、アルベルトはニヤリと笑んだ。
「それが最後まで続けばいいけどね……」
彼女には聞こえない、小さな小さな声で。
そうして、いざ挑んでみたゲームは、ガンシューティングと言えど、やはりお化け屋敷で。
ねじくれた人形が奇怪な動きをしたり、突然出てくるものだから、輝は早々に心を折られていた。
(思ってた以上にすごく怖い……)
しかしここで怖がってはアルベルトにからかわれるのは目に見えている。我慢、我慢だ。
必死に毅然を装っている輝だが、段々と口数が減っていくのを感じれば、アルベルトには丸判りだ。
ああ、やっぱり、と微笑ましい心地で見やりつつ、強がりな彼女の事だ、自分からは怖いなどとは言わないだろうと思案する。
必要なのは、切欠で。それなら、作ればいいだけの事。
「ほら、後ろ!」
「!?」
アルベルトの声に、びくっ、と大げさなほどに肩を震わせて振り返った輝だが、そこには何も居ない。
混乱と動揺に心臓を跳ねさせている輝を、笑みがこぼれるのを必死にこらえながら見守るアルベルト。
一度の揺さぶりでは効かず、もう一度違う場面でからかってやれば、とうとう輝も音を上げて、アルベルトに寄り添った。
「ア、アル、離れないでね? 置いていかないでよ?」
そんな輝を見て、くくく、と抑えきれなかった笑みを零したアルベルトは、宥めるように彼女の肩を叩く。
「置いていくわけないだろう」
ぴったりと寄り添っての進行。銃を両手でしっかり構えている輝は、縋りたいのにそれもできないもどかしさにそわそわしながら、うう、と唸る。
アルベルトが笑っているのを見やれば、きっとまんまと乗せられたのだろうことが知れて、悔しい。
けれど、その顔は同時に安堵をくれる微笑。
「早く靴を探してゴールしましょう」
「どの辺りにあるのだろうな」
開く扉の玄関先、繁みの中などを探していると、公園と思しきベンチの下に、そっと置かれている硝子の箱を見つける。
拾い上げ、輝は腰に下げる為の紐に結える。
途端に、音楽が変わるのに気が付いた。
調子外れな音は一層不快で、不気味になり、まるで敵との遭遇を知らしめるかのようで――。
「輝」
「大丈夫!」
怖いけど、怖くない。相対した少女はきっとシンデレラ。撃っても撃っても向かってくる少女の姿は歪で恐ろしいけれど、輝は臆さず引き金を引く。
道中での戦闘でもずっと輝の背中を護るように立っていたアルベルトもまた、輝の声に応じて少女への攻撃に加わった。
二人がかりで何とか少女を追い払った時、輝の胸中には、恐怖よりももっと大きなものが満ちていた。
「何だか、こうやって息を合わせて敵を倒すの、とても楽しい」
実戦では難しく、もどかしい思いばかりをしていただけに、一層。
「アルもそう思ってくれてる?」
楽しそうな笑みは、輝を怖がらせているだけの物ではないはずだ。
問えば、先程までの怖がりようを見てきたアルベルトは微かに目を丸くしたが、すぐに笑みを湛えて。
「私達はベストパートナーだと思わないか」
問いながらも、確信を抱いたような顔で、応えた。
さぁ、王宮へ向かおう。敵とはまだ幾度も相対するだろうが、二人で挑むならば、何も恐れることはない。
再び硝子の煉瓦道を進みだした二人の足取りは、軽やかに、澄んだ足音を響かせていた。
◆
硝子世界の不気味な雰囲気を感じ取って、手屋 笹は、ふむ、と傍らのパートナーを見やった。
「カガヤは大丈夫ですか?」
オーガが関係していないオカルトの類は苦手だったと記憶している。
笹に問われ、カガヤ・アクショアは、う、と口ごもりながらも、力強く告げる。
「ゲームだよね? 大丈夫!」
たぶん。小さく続いた台詞には、なるほど、と呟く。
そうして、改めてその空間を見渡した。
「このお話のシンデレラは演出とはいえ、ちょっと可哀想です……」
「そう、だね」
本来の物語とは違うシンデレラは、どんな風に描かれているのだろう。
同意を返しつつもカガヤは少しの期待を過らせていた。
……裏を返せば、想像が出来ない点が怖さを助長させていると言う事なのだけれど。
「シンデレラと敵が来たら俺に任せて! 笹ちゃんはガラスの靴探すのお願いね」
「はい、お願いしますね」
意気込むカガヤににこりと微笑んで、笹は離れないよう、カガヤの手をぎゅっと繋ぐ。
基本的な方針は倒すよりも前進、探索が重視とのこと。戦闘に関してはカガヤが頑張ってくれるようなので、大いに頼る予定の笹だ。
カガヤもまた、笹の手を握り返しながら、油断なく銃を構えている。
本職のプレストガンナーではないため、精度に関しての自信は程々ではあるが、シューティングとしての難易度はさして高くはないらしい。
確かに、出てくる敵は様相こそ歪で不気味だが、動きが素早いわけでもなく、比較的当てやすかった。
「あ……カガヤ、あちらに」
幾つかの敵を倒した後に、笹は半分開いた家屋の扉の影に、きらきらとした箱を見つけた。
慎重に近寄れば、硝子箱の中に収められた硝子の靴を入手する。
これを持っていざ王宮へ。踵を返そうとしたカガヤは、急に曲調の変わった背景に、びくりと足を止める。
何かが来るのは明確で、躊躇いを押し込めて、銃を構えて振り返る。
そこにいたのは継ぎはぎだらけの服を着た少女。シンデレラだと、すぐに悟れた。
ただし、その姿は例によって歪にねじくれているけれど。
「ガラスの靴はわたくしが確保しておきます」
「うん、頑張るよ!」
少女の狙いは硝子の靴。それを笹が持つならば、当然彼女が狙われる。
(俺がしっかり笹ちゃんを守る!)
距離を取りながらの連射。多少狙いにばらつきは出たものの、猛スピードで動く敵ではない以上、ヒットは稼げた。
やがてたまりかねたように撤退していく少女を見て、ほぅ、と大きく息を吐いたカガヤに、笹はお疲れ様ですと労いを贈る。
「このまま、離れないようにゴールを目指しましょう」
繋いでいた手を、胸の高さまで持ち上げて。
ぎゅ、と握り直した二人は、王宮を目指す。
途中、何度か危うい戦闘もあったが、長い長い硝子の階段を上った先に見つけた硝子の靴の片割れに、顔を輝かせる二人。
「……流石に、易々と返してもいただけませんか」
「ここまで来たら、もう負けないな!」
待ち構えるように佇んでいる少女。空っぽの瞳に見つめられ、笹の胸中にもどかしさが湧くが、振り切るように硝子の靴へ向かうと、そっと丁寧に両足を揃えた。
しゃらん! 音を立てて、少女が崩れる。
調子外れの音楽はクラシックのような音色に変わり、靴の向こうの扉がゆっくりと開かれる。ゴールだ。
揃って飛び出し、大きな安堵の息を零しながら、カガヤはちらり、笹を振り返る。
「少しはこういうのも克服出来てきたかな? 俺」
あんまり怖がらずにこれたよと窺えば、笹は緩く思案するように首を傾げる。
「うーんそうですね、もう1回本格的な廃病院で肝試ししても怖がらなければ怖がり克服したと認めますよ」
「それはまだ無理ィ……」
勘弁して、と言うように耳を垂れさせたカガヤを見て、笹はくすりと笑っていた。
◆
びくびくしながら辺りを見渡していたリチェルカーレは、最初の敵との遭遇時点で、小さな悲鳴と共にシリウスにしがみついてしまった。
そんなリチェルカーレの様子に、判り易いなと苦笑して、シリウスは一先ず敵を一掃する。
「遊びだろう? 本当に襲ってくるわけじゃない。そんなに怖がらなくても……」
呆れたような顔と言葉に、リチェルカーレは一度シリウスを見上げてから、恥ずかしそうに俯いて、「ごめんなさい」と小さく呟く。
びくびくしてばかりで呆れられてしまった、と肩を落とすリチェルカーレだが、それで怖いのが紛れるわけでもなくて。
相変わらずシリウスに縋るその指は、小さく振るえていた。
よく見ずとも判る彼女の様子に、シリウスは小さく、溜息をついて。
「ほら、繋いでてやるから」
そう言って、手のひらを差し出した。
ぱちくりと瞳を瞬かせてその手を見たリチェルカーレは、そっとシリウスの顔を窺うように見て。
「……いいの?」
問いに、頷きが返るのを見届けてから、シリウスの大きな手をぎゅっと握った。
「うん、これなら怖くない」
ほぅ、と安堵の息を漏らすリチェルカーレを、瞳を細めて見つめる。
一生懸命に手を握り締めてくる細い指と、たったそれだけで安心した顔をする少女を、可愛らしいと思った。
そんな風に思うのが、なんだか、おかしくて。シリウスは小さく笑う。
ようやく落ち着きを取り戻したリチェルカーレは、その後の遭遇ではシリウスに続けるように引き金を引いていく。
落ちついて良く狙って打てば、当てるのは難しいことでもなく、二人は順調に進んでいった。
随所で、シリウスがリチェルカーレの前に護るように立てば、これはゲームだったなと思い直して苦笑してみたり。
(こんな所でも普段の性分が出るか)
それだけ、シリウスにとってのリチェルカーレは大切な存在なのだと、思えば。
まるで一層狙いが研ぎ澄まされるような気が、した。
伝わる体温には安堵を。護ってくれる背中には胸の奥の熱を。感じさせてくれるシリウスが、リチェルカーレは大好きだった。
「リチェ、大丈夫か」
リチェルカーレを引き寄せて敵からの投擲を交わしたシリウスが確かめるように振り返ってくれば、その瞳にどきりとする。
これは、怖いどきどきではない。思わず笑みがこぼれてくるような、どきどき。
確かめるようにシリウスの手を握り直したリチェルカーレは、ふと、道端のポストの影に置かれている硝子の箱を目に止める。
それは硝子の靴が収められた箱。手に取り、腰に提げれば、途端に変わる音楽。
びくりとしたリチェルカーレを宥めるように引き寄せながら、シリウスは現れた少女に向けて、引き金を引く。
継ぎはぎだらけの灰被り。幸せになれなかったシンデレラ。
今は右足しかない彼女の靴。王宮に残された左足と揃えれば、もしかして。
(また王子様のところへ行けるのかしら)
硝子の靴を狙って追ってくる少女を、大好きな人が居る場所へ導くようで。リチェルカーレの足は自然と早くなる。
空っぽの瞳には、悲しさだけが滲んでいて。だからこそ、だからこそ。
(今度こそ幸せに……)
最後の対峙は王宮にて。待ち構えるように佇む少女は、度々の迎撃のせいか、ねじくれた体躯に加えて、罅割れたようにも見える。
撃てども撃てども退こうとしない少女をかいくぐって、リチェルカーレはそっと硝子の靴を並べた。
そうして振り返れば、澄んだ音を立てて崩れていく少女が、昇華されたようにも、見えて。
最後の扉を潜った時、リチェルカーレは溜めこんでいた物を吐き出したような大きな息を零した。
「お疲れ」
ぽん、と。優しい掌が、リチェルカーレを撫でる。
その手を見上げて、見つめて。そっと、細い指を伸ばした。
「もう少し 手を繋いでいてもいい?」
おずおずとした問いに、シリウスは軽く目を瞠って、それから、ほんの少しの笑顔。
良いとも駄目とも、言わない代わりに。触れ合ったリチェルカーレの手を、そっと、握った。
ゲーム中よりもほんの少し、力を籠めて、しっかりと。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月07日 |
出発日 | 08月14日 00:00 |
予定納品日 | 08月24日 |
参加者
会議室
-
2015/08/13-23:51
-
2015/08/13-22:58
-
2015/08/13-22:58
ミオンさん、お久しぶりです!
またご一緒できて嬉しい(にぱ、と笑顔で手を振り返す)
ち、ちょっと怖いけど…ゴール目指してがんばります。
皆さん、よろしくお願いします。 -
2015/08/12-12:43
皆さん、よろしく。
リチェさんとシリウスさんは久しぶりね。1年ぶりくらい…?元気してた(笑顔で手を振る)
全部ガラスで出来てるって、手間がかかってるわね。楽しみよ。
…お化け?全部偽物でしょ。
こ、怖くなんかないわよ…多分、きっと(もにょもにょもにょ
-
2015/08/11-21:03
-
2015/08/11-21:03
こんばんは。みんな良く知ってる顔ね、何だか安心したわ。
だって、これ、怖いゲームなんでしょう?
どんな感じなのかしらね~。ふふ、楽しみだわ。
頑張ってゲ-ムクリアしましょうね。 -
2015/08/11-19:47
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