プロローグ
「やっぱりあなたが最高だ」
「お前以上の男はそういないよ」
数名の男が、一人の男を囲んでいる。
囲んでいるのは自分達の仲間。そして囲まれている男はたぶん知らないやつだ。
というか知らないやつでなくては困る。あんなひょっとこの面をつけている男。
ひょっとこ男が薄ら笑う。
「……そんなことを言っていいのか? 君たちはウィンクルムじゃないか。あっちの睨んでる男……パートナーだろ?」
内容に反して自慢げな口調が憎たらしい。しかしそれよりも衝撃的なのは、仲間たちの言葉だ。
「ウィンクルムだからって、相思相愛ではないといけないということはないでしょう?」
「あいつとは信頼も絆もある……が、恋人という意味では、お前が一番だな」
……どういうことだ?
あの、ひょっとこの面をつけた男は誰だ?
※
あなた達ウィンクルムは、仲間とフィヨルネイジャに旅行に来ています。
男だってパジャパはするとばかりに盛り上がり、眠りについたのは深夜。
これが非現実だと、心のどこかではわかっています。
「……だって俺のあいつが、あんなひょっとこに抱き付くはずがないだろう。俺というものがありながら……!」
同行の仲間も言っています。
「信じられない、僕の相棒が、あんな男に愛をささやいているなんて」
ひょっとこ男はみんなの相棒を独り占め、いわゆるハーレム状態。
だから現実ではないだとはわかっているんです。
でも胸の内はおさまりません。
なんとか相棒を連れ戻したい……仲間の想いは一致しました。
「どうやって相棒の気を引きましょうか」
「それよりも、あの男をぶん殴ったほうがいいんじゃないか」
「でも相棒は、あの男が好きなんですよ。きっと悲しみます」
「それは困るな。あの人の泣き顔は見たくないよ」
「だったらそのあとで、思う存分甘やかしてやればいいさ」
というわけで、ひょっとこ男から相棒を連れ戻してください。
解説
ひょっとこの男に本気で恋をしている相棒たち。
彼らを男から取り戻すことが目的です。
ウィンクルムは全員が同じ夢を見ている設定で、夢だと認識もしています。
皆で協力して連れ戻すもよし。別々に対応するもよし。
ただし、描写はウィンクルム個々にはなりません。
他ウィンクルムとの絡みは一行たりとも絶対NGという方は、申し訳ありませんがエピへの参加を見合わせてください。
神人・精霊のどちらが男に夢中でもよし。
夢なので男を殴ってもいいですが(いわゆる俺の恋人に何をする!ってやつですね)描写に絶えないことはしないでください。ぶっちゃけ、武器を使ったり殺害計画を立てて実行したりするのはなしです。
男は誰かは判明しません。暴こうとしても無駄です。
フィヨルネイジャでのお泊り代として400jrいただきます。
ゲームマスターより
こんにちは、瀬田一稀です。あき缶マスターの《紫陽花》企画に参加させてもらいました。
たぶん他のマスターはシリアス路線だと思うので、瀬田はどちらにも転ぶ方向です。
「あいつかよ、まじか~」でもいいし「あんな男より俺が上だぜ!」でもなるかなって。
5組参加のうち、3組は一緒に行動して、2組は別とかでもかまいません。
その点は会議室を利用して相談してください。
瀬田としてはわちゃわちゃしてくださればうれしいです。
あ、相棒とられたって悲しむのを励ますとかね、そういうシーンも作れるんじゃないかって…(今回コメント長い)
とりあえず、よろしくお願いします(まとめた)
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
親しげに身を寄せる彼に動揺 唇噛みしめ、仲間の声にもどこか上の空で 恋心を秘めるということは 彼に好きな人が出来たら、きちんと祝福しなくちゃいけない 分かっていた筈なのに、胸が苦しい 俺はただ、自分が傷つくのが怖くて。臆病で、逃げていただけだ 男とラセルタさんの間に割って入り、強く手を掴む 目を逸らさないように、深呼吸を一つ どうしても言えなかったんだ でも、もう黙っていられない 俺の方がずっとずっと 貴方の事をパートナー以上に想ってる お面が好きなら俺だって被るよ 寝ずに看病だってする、好きなおにぎりだって握る 貴方が知らない事はなんだって教えてあげたいし 迷惑を掛けないように努力するから ……だから、俺のそばにいてほしい |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
なんだこりゃ …って、皆そうなのか? 気の迷いだろうとか、非現実臭いとか考える(でも面白くない 干渉しすぎは良くないとか、束縛されるの嫌いって言われたら嫌だなと(思考グルグル 「お面男のドコが好きなんだよ?」 アイちゃん(アイオライト)を撫でたり抱っこして反応を見る アイちゃんを俺が取ってもいいんですか? いいのかよ!ダメだろ! 皆が落ち込んでたら慰める 絶対おかしいから、と元気付けるぞ くっ…これだけはしたくなかったが最終手段だ 「必殺!愛の鞭っ!」 まずはランスへと右ストレートだ ★元に戻ったら ランスが言ってた仮面男の美点は好みとか評価点だと思う できる範囲で意識しても良いかな(チラリ え?それは災難だったな(よしよし |
アイオライト・セプテンバー(白露)
パパ酷い! パパのおっぱいとぱんつはあたしのものなのにっ←嘘 あたしの初めてもらってくれるって言ったのにっ←嘘 明日のおやつはアップルパイって約束したのに!←嘘 ひょっとこさんも狡いよー あたしだってはーれむしたいのに お面すればもてもてになるかなあ ほら、パパあたしもお面!猫さん!かわいいよ? パパが意地悪するなら、いいもん あたし、アキさんとこにお嫁に行くもん ランスさんも、あたしがアキさん取っちゃってもいいの? あたし悪女だから、アキさんに酷いことしちゃうかもだよ? え、えーと、アキさんのぱんつを隠しちゃったり、レース付けてかわいくしちゃったりするよ? パパ、おかえりなさーい あたしアップルパイ食べたいー(ごろごろ |
ヴィルマー・タウア(レオナルド・エリクソン)
◯ひっくり返された レオ…普段俺にホモだキモいって言っておいて…。 それはないだろう! さすがの俺でも腹立つぞ。 クソッ…なんでその男はいいんだ? お面か? ミステリアスなのがいいのか? なら俺も顔を隠して近づけばいいのか? 遠回しな聴きこみは性に合わん。 一体どういうことだ!? 直接聞くぞ! …俺だってアレはわざとじゃ無いし、 俺は俺なりにレオの事を思って…連れ出したり…。 お前が嫌いな恋愛的な意味ではなくてだな! 相方としてだ! 多少連れ出す時は無理言っているいるとはいえ…。 そこまであっさり寝返られるとだな…。 クソ…悲しすぎて頭が痛くなってきたぞ…。 ◯現実 なぁレオ…お前は結局どういう男が好みなんだ? あ、あぁ、ダヨナー。 |
永倉 玲央(クロウ・銀月)
・・・どんな夢だよこれ!? てゆうか、何やってんだあの人! 普段あんな事しなさそうなのに・・・しかも男の人に・・・。 てゆうか何で相手ひょっとこ!?(困惑) ・ひょっとこに言い寄ってるクロウを見て、無自覚に嫉妬 (な・・・何だろう、この気持ち・・・?何で胸が苦しくなるんだ・・・?) ・「ど、どうしよ、みなさんどうしよっ?」とわたわたする ・「うわ~ん、アイちゃーん!」と思わずアイオライト(癒し)に泣きつく ・とりあえずクロウにツッコミをいれる ・ひょっとこに近付くクロウの背中にタックルの如く抱き付く 「だ・・・駄目ーー!」 ・「だ、駄目です!クロさんは・・・クロさんは僕の大事な人なんですからーーっ!」 ※アドリブOK |
●戸惑い
「これだけ美男に囲まれるのも、いいものだな」
ひょっとこ男は高らかに言って、レオナルド・エリクソンの肩を抱いた。普段ならばそんなものはすぐに払うだろうレオナルドは、黙ってそれを受け入れている。
「レオ……普段俺にホモだキモいって言っておいて……。それはないだろう! さすがの俺でも腹立つぞ」
ヴィルマー・タウアの言葉に、レオナルドはゆっくりと振り返る。しかしその視線は、すぐに傍らのひょっとこ男に戻った。く、とレオナルドは相棒を睨み付ける。
「クソッ……なんでその男はいいんだ? お面か? ミステリアスなのがいいのか?」
傍らでは金髪の少女……もとい……性別は問題ではない。愛らしいアイオライト・セプテンバーが両手を握り締め、大きな声を出した。
「そうだよ、パパ酷い!」
丸くて青い瞳が、きゅるんと白露を向いている。いつもならすぐに優しい笑みを見せてくれる白露。しかし彼は今、自分の胸を両手で押さえて、アイオライトではなくひょっとこに熱い視線を向けていた。
「胸がドキドキします。これが鯉……?」
「鯉が食いたいのか?」
ひょっとこが、そのふざけた顔を白露に向ける。白露は深くうなずき……。
「そうそう、口髭のある淡水魚で食用だけではなく観賞用としても、じゃなくてですね。もとい、恋……?」
視線をそらせてはにかんだ。なぜ私はひとりボケツッコミをしているのでしょうと自問自答。
「これが恋の魔力でしょうか……」
「違う、違うよパパ!」
うっかり聞こえてしまった声に、アイオライトは悲痛な声を上げた。
「っていうか! パパのおっぱいとぱんつはあたしのものなのにっ! あたしの初めてもらってくれるって言ったのにっ! 明日のおやつはアップルパイって約束したのに!」
「アイちゃん、そんな約束してたの!?」
永倉 玲央はアイオライトに向かって叫んだ。主にふたつめまでについての驚きだ。それについてはアイオライトと白露を問いただしたい気分ではあるが、彼女をよしよしとしてやる余裕は正直ない。むしろ気持ちの中は、何やってんだあの人! でいっぱいだ。そんな玲央の視線の先で、クロウ・銀月がひょっとこ男に寄り添って、耳打ちをしている。ひょっとこは笑って、彼の肩をさらりと撫ぜた。
「普段あんな事しなさそうなのに……しかも男の人に……。っていうかなんで相手ひょっとこ!?」
こんなシリアスな場面でひょっとこ。あの男は一体何を考えて、精霊たちを侍らせているのか。というか。
クロウがあんなふうに、ひょっとこに近寄っている姿を見るといらいらする。なぜ、どうして。そんな理由はどうでもいい。ただ腸が煮え返りそうで、頭が沸騰しそうだった。
クロウはひょっとこの肩を抱いたまま、お面の唇を指先で辿る。
「キスして欲しそうな唇だな……?」
無駄にいい声で囁く。周りにいる精霊たちはそれぞれがひょっとこに夢中。誰も突っ込む人がいないから、あえて玲央が言う。
「それそういう形状だからだろ!」
しかしクロウは聞く耳を持たない。
「ふふ、ミステリアスな奴は嫌いじゃないぜ」と、仮面の頬に手を添える。
「いや、ある意味ミステリアスだけど!」
でも、でもと地団太を踏む玲央。だがクロウはどうしたって、玲央を見ないのだ。視線の先には常にひょっとこ。
「どんなお前も……オレにとっては魅力的だ」
「クロさん、お願いだから戻ってきて!」
ひょっとこに囚われている相棒に向けて、全身全霊を込めて、玲央は叫んだ。しかしクロウは、本当に一ミリたりとも玲央に注意を向けてくれない。
「うわーん、アイちゃーん!」
「玲央さーん、どうしよう、パパがっ」
互いに泣きつく二人組。
こんな一同に、アキ・セイジは首を傾げている。
「なんだこりゃ……って、皆そうなのか?」
ヴェルトール・ランスは今のところ、他のメンバーに比べて大人しめだ。だがそもそも、セイジの傍を離れてひょっとこのところにいることだけでもいただけない。きっと気の迷いだろうが、どうしたって面白いはずがない。
「あいつ……なに考えてるんだ」
きっとこれは非現実でおかしくなっているだけではあるだろう。セイジの中の冷静な部分は、そう言っていた。でも感情は違う。どうしても、あのひょっとこからランスを引き離したかった。腕を掴んで無理やりこちらへ連れ戻したい。
だがここで見る限り、あの男の周りにいる精霊たちは皆、彼に好意を持っているようだ。干渉しすぎはランスに嫌われるだろうか。束縛されるのは嫌だとか、煩いとか言われたらと思うと、なかなか一歩を踏み出せないセイジである。
●行動
そんな彼らを、羽瀬川 千代はひとり遠く離れたところから見つめていた。いつも「千代は俺のものだ」と言うラセルタ=ブラドッツが、ひょっとこの男の隣にいる。長い指で彼のうなじを撫ぜるさまは、自分に対するいつものラセルタの行動だ。だが今の彼の相手は、どこの誰とも知れぬひょっとこである。
千代は唇を噛みしめた。相棒に文句を言う神人たちの声も、耳には入るが頭には届いていない。
恋心を秘めると決めていた。しかしそれは同時に、彼に好きな人ができたら、きちんと祝福しなくてはいけないということでもあった。
……わかっていたはずなのに、胸がひどく苦しい、なんて。
どうしてこんなことにと、千代の唇が震える。
ラセルタさんはいつだってまっすぐに俺を見ていてくれた。俺はただ、自分が傷つくのが怖くて、臆病で、逃げていただけだ。
あの薄く笑んだ唇で、彼は何を言っているのだろう。ラセルタの目線が、ちらりとこちらを一瞥する。しかし彼は、千代のもとへはやってこない。再び男を向き、彼に思いを告げる。
「一目見た瞬間にわかった。心が湧き立つような感覚。これが恋であると」
囁くばかりの声が、なぜか千代の元まではっきりと届き、鼓膜を震わせた。そんな言葉を彼に――。震えた唇はそのまま。言えない。でも、言わなければ、きっとラセルタは戻らない。
「羽瀬川さん!?」
仲間の声は、無視をして、千代はつかつかとラセルタのもとへと進んでいった。正直に言えば、他の者は……いや、ひょっとこの男ですらどうでもよかったのだ。男とラセルタの間に割り込み、相棒の白い手を強く掴む。
「何だ? 千代もこの男に気があるのか。お前は俺様のもので、パートナーではあるが、互いの恋路を邪魔するような立場ではないだろう?」
叫び出したい気分だった。でも少しでも冷静にと、千代は深呼吸をひとつした。
「どうした、千代」
先を促すラセルタの声音は普段通り。その顔を、千代は見上げる。
「どうしても言えなかったんだ。でも、もう黙っていられない。……ラセルタさん。俺の方がずっとずっと、貴方の事をパートナー以上に思ってる」
ラセルタは何度か瞬きをした。
何を言いだすのか。そんなことを表情が表している。だから千代は、言葉を重ねた。
「お面が好きなら俺だって被るよ。寝ずに看病だってする。好きなおにぎりだって握る。貴方が知らない事は何だって教えてあげたいし、迷惑をかけないように努力するから……だから――」
「そうだよパパ! あたしもお面! 猫さん! かわいいよ?」
アイオライトは猫のお面をつけて、白露を見上げた。
「あたしもひょっとこさんみたくハーレムしたい! お面すればモテモテになるんでしょ? パパはあたしのところに来てくれるんでしょ?」
しかし白露はゆるりと首を振る。
「アイ、ごめんなさい。私は普通の男の子(34歳)に戻ります」
「それ、どういうこと?」
アイオライトはお面の下で不思議そうな顔をするが、白露は「猫さんのお面かわいいですね」と言うだけだ。アイオライトはぷうと頬を膨らめる。
「パパが意地悪するなら、いいもん。あたしアキさんのとこにお嫁に行くもん」
アイオライトがお面を外し、セイジに抱き付く。
「アイちゃん」
セイジは彼女を抱きとめると、金色の髪を撫ぜた。
「ランスさんも、あたしがアキさんとっちゃってもいいの?」
アイオライトが言うが、ランスは気にした様子もない。へえセイジ、そういう子が好みだったのか、などと言っている。
「お前はお面男のどこが好きなんだよ? 白露さんも……アイちゃんを俺がとってもいいんですか!」
セイジはふたりに向かってきつい声で問いかけた。ランスは一言「優しい奴なんだ」と言った。
「口は悪いところもあるけど本心がだだ漏れで俺に伝わるし、可愛い。あと、本人は否定するけど焼きもちも焼くんだよな」
「あのひょっとこが可愛い……?」
「ああ、そうさ」
ランスが頷き、先を続ける。
「それに、俺が知らない男と親しげだと自然に間に入ってくんの。それに料理もうまくてなあ。でも、几帳面すぎるところが難点かな。もっとゆるく考えてくれたら最高なんだよな」
ランスはこれを、にこにこと語った。セイジはそれをいらいらしながら聞いていたが、ふと、気付く。
「それって……」
かっと顔が熱くなった。あいつ、ひょっとこ男の中に誰を見ているんだ。ランスは今はもうこちらを見ていない。ひょっとこ男になにやら囁いたかと思えば、その手をとって、唇を寄せている。
「ふざけるな……あんなことを言っておきながら!」
セイジはランスのところへと向かって行った。
子供や仲間に優しくするのとはわけが違うのだ。どんな理由があるのせよ、こんな変な奴を喜ばせようとしているランスは嫌だ。
こうなったら、目を覚まさせる方法はもうひとつしか思いつかない。セイジは右手で拳を作ると、それを持ち上げた。
「お前のそんな姿はもう見たくない、食らえ、愛の鞭!」
振り上げ狙うはランスの左頬。
さて、少し戻ってアイオライトである。
「あたしがアキさんをとっちゃってもいいの?」と叫んだ彼女は、しかしランスではなく白露だけを見ていた。
「あたし悪女だから、アキさんにひどいことしちゃうかもだよ? え、えーと、アキさんのパンツを隠しちゃったり、レースつけてかわいくちゃったりするよ?」
「アイ……」
白露は辛そうに眉を寄せた。この手間のかかる子供をどうしてやろうか、そんなことがうかがえる表情である。
これで帰ってきてくれなければ、アイオライトにはもう本当に、どうしていいかわからない。
「パパ……」
いつものように元気に呼ぶことができず、声は自然と小さくなった。パパがあたしを置いていっちゃう……そう思うと目頭が熱い。ぽろりと一つ零れた涙が、アイオライトの頬を伝った。
涙に濡れるアイオライトとは反対に、玲央はクロウに困惑と怒りの眼差しを向けていた。さっきはつい混乱してアイオライトに泣きついてしまったが、本当は悲しんでいる場合じゃなかった。だってクロウはなぜかひたすらに、あの変態ひょっとこ男を落としにかかっているのだから。キスして欲しそうな、と評した唇に、自らの唇を寄せて。
それは仮面だし! 肌じゃないし! そう言い聞かせようとするも。
「だ、駄目――!」
玲央は叫んでクロウのもとに走り寄ると、その背中に抱き付いた。
「おいっ!」
唇はまだ重なる前。クロウが文句と同時に振り返る。玲央は彼から腕を離さないまま、背に額を押し付けた。
「だ、駄目です! クロウさんは……クロさんは、僕の大事な人なんですから――っ!!」
それが当人に向けた言葉であるのかひょっとこに向けた主張であるのか、もう玲央本人にすらわからない。ただクロウの行動を止めたくて必死だった。
未だひょっとこの近くにいるレオナルドの腕を、ヴィルマーはきつく掴んだ。遠まわしな聞き込みは性に合わない。ここははっきり聞かなければ、気が済まなかった。
「いったいどういうことだ!?」
「どういうって……」
レオナルドは胡乱な瞳で、ヴィルマーを見る。
「ひょっとこは紳士だから。どさくさに紛れて唇にキスするヴィルとは違ってね。手作りのお面持ってるなんて、ばっかじゃないの」
レオナルドの視線が、ヴィルマーの手元に落ちる。ヴィルマーは居心地悪そうに黙り込んだ。短い沈黙の後の吐き出される言葉は「……俺だってアレはわざとじゃないし」といういかにも言い訳じみたものだった。
「俺は俺なりにレオの事を思って……連れ出したり……お前が嫌いな恋愛的な意味はなくてだな! 相方としてだ!」
「バカで鈍感なヴィルにはわからないだろうね。ボクの気持ちも、彼の良さも」
レオナルドがため息をつく。そう言われてしまうと、ヴィルマーには返す言葉がなかった。たしかに彼を連れだすときは、無理を言ってはいる。しかし自分達は恋愛関係ではないとはいえ、絆を深めていかねばならないウィンクルムだ。
「そこまであっさり寝返られるとだな……」
ヴィルマーは短い髪を掻き混ぜた。
「なに、まだ聞きたいことがあるの? なんでも応えてあげるよ。言ってやらなくちゃ、ヴィルにはわからないものね」
「そりゃ当たり前だ。お前の考えていることなんて……!」
自分に興味がないくせに、男だというだけで否定したくせに、あんなひょっとこについて語るなんて……!
「クソ、悲しくて頭が痛くなってきたぞ」
レオナルドは額に手を置いた。相棒のこんな姿を見るくらいなら、男は駄目だと邪険にされた方がまだましだ。
「ボクはね、彼にボクのすべてを好きにして欲しい……。彼のことをすべて受け入れたいし、彼のすべてを自分のものにしたい……。好き、なんだ……」
彼らしくもないうっとりとした声で、レオナルドは言った。
「……追い打ちかよ」
言い加減、なんとかならないものか。
●目覚め
セイジの拳が、狙い通りランスの頬に当たる。
ギャー、と。
ランスは叫んで、地面の上に転がった。ちらりと頭に浮かんだひょっとこが、なぜかセイジの顔に見える。彼の本当の顔など見たことがないというのに、だ。
しかし同時に、彼はセイジなのかもしれないとも思う。だって自分が、彼以外に惹かれるはずなんてない。
「……セイジ」
目覚めたとき、ランスはそう口にした。直後、ぱっと半身を起こす。なんとも恐ろしい夢だった。
「ランス、大丈夫か?」
既に起きていたセイジに聞かれる。
「セイジも夢を見たか? ひょっとこの……」
「お前が夢中だった男か?」
「あああっ」
ランスは頭を抱えた。それは言わないでほしい。全力で。
「ひどい目に合った……」
思わず呟いた。夢とはいえセイジ以外の人間に愛を囁くなんて。セイジが俺に拳を向けたのももっともだ。なんとなくその頬が痛む気がして顔を歪めつつ、ランスはセイジを抱きしめた。
大変だったな、とどこか他人事のようにいい、セイジはランスの背中をとんとんと叩く。しかし考えているのは目の前の彼のことではなく、夢の中の彼のことだった。あのランスがひょっとこに対していった美点はきっと……。
「……できる範囲でなら、意識をしてもいいかな」
この大型犬にも似た生き物と、今後も寄り添っていくために。
アイオライトの瞳からこぼれた涙に、白露はそっと目を伏せた。
数秒の沈黙が、アイオライトは怖い。今度顔を上げたら、パパは振り向いてあのひょっとこのところに行っちゃうんじゃないか……そう思った、けれど。
再びアイオライトを見た白露は、困りきった顔で口を開いた。
「こら、アイ。まったく……私が目を離すと、アイは本当に何をするか分からないんですから。余所様に迷惑をかけちゃいけませんよ」
いつもの柔和な口調に、アイオライトは直感的に、白露が自分のもとへと戻ってきてくれたのだと知る。そうなれば。
「パパ、おかえりなさーい!」
アイオライトは両手を広げて白露に抱き付いた。
先ほどこぼれた涙の名残を瞳に浮かべながらも、満面の笑みで白露を見上げる。
「パパ、あたしね、パパとアップルパイ食べたい!」
「アップルパイですね。帰ったら一切れだけですよ」
白露はアイオライトの頭に手を置いた。
アキさんも優しかったけど、やっぱりパパがいい! と思うアイオライトと。
アイオライトがあることないこと叫んでいたような気がすると、あまり呼び起こしたくない記憶を、ひっそりと脳内のどこかに片付けた白露であった。
「だ、駄目です! クロウさんは……クロさんは、僕の大事な人なんですから――っ!!」
大事な人。玲央の言葉に、クロウは息を止めた。なんだ、こいつがどうしてこんなことを言うんだ。俺には別に大切な奴がいるはず、なのに。
ちらと顔を向けるのはひょっとこの男。しかし彼を見ると同時に、疑問も浮かんだ。誰だこれは。これが俺の大切な奴?
馬鹿な、とクロウは頭を振った。何かの間違いだ。俺が大事なのは……。
「クロさん!」
聞こえた声に、はっと目を見開いた。
「……んだよ、玲央。ってあれ? お前、今……」
少し前に聞いた玲央の叫びが、耳の奥に残っているよう。そうだ、色恋沙汰ではないが、今俺が気にかかっているのはこいつじゃないか。俺の背中から身を離し「よかったあ、いつものクロさんだ……」とにこにことしているこの坊主。
それにしても。
「愛されてんなあ、俺」
玲央の台詞を反芻し言ってやれば、彼の顔は一気に赤く染まった。
「ま、前にも言いましたが、パートナーとしてですから!」
「あーはいはい、わかってるって。ったく、だったらそんなに赤くなんなっての」
クロウは黙り込んだ玲央を見、呆れたような笑みを見せた。
「どうしても言えなかったんだ。でも、もう黙っていられない。……ラセルタさん。俺の方がずっとずっと、貴方の事をパートナー以上に思ってる」
千代が、ラセルタを見つめている。
「……だから、俺のそばにいてほしい」
ラセルタは、千代の真剣な眼差しに捕えられて動けない。
まさか彼は、自分と男を引き離したくて、出鱈目を口にしているのか。
いや、千代が震える声で嘘が吐けるような人間ではないことはよく知っている。だって自分達は、ウィンクルム……違う。そんな名のつく関係が重要なのではない。彼が千代だから、わかるのだ。
そう思った瞬間。ラセルタもまた、千代の手をとっていた。
「手放さない関係をつくろうにも……お前の想いを俺様は何も知ろうとせずにいたのだな」
「……それは、俺が隠そうとしていたから」
「いや、それでも気がつくべきだった。これだけ傍にいたのだからな」
「ラセルタさん……」
震えていた千代の声は、もはや囁くほどに小さい。それでもラセルタの手を離さずに、仲間の元へと連れて行こうとする。気丈な男だとラセルタは思う。こんな千代を、悲しませてはいけないと。
夢から覚めると、先に目覚めていたらしい千代が、こちらに背を向けて座っていた。この行動から察するに、彼は確実に、夢の内容を覚えている。きっと羞恥に震えているのだろう。
「千代」
呼べば肩が震えた。けしてこちらを見ようとしない後ろ髪に、ラセルタはそっと口づけを落とす。
夢の中のことと、みすみす逃しはしない。
「俺様は、ずっとお前の隣にいる」
耳元に囁き、丸まる背中を抱きしめる。千代は小さく頷いて、ラセルタの腕に手を添えた。
他のウィンクルムたちが感動の再会および絆の確認している一方。ヴィルマーはがっくりと肩を落としていた。レオナルドと二人そろって、夢から覚めたのはまあいい。しかし、だ。
「なぁレオ……お前は結局どういう男が好みなんだ?」
そう尋ねたヴィルマーに、レオナルドはひどく冷たい一瞥を投げかけた。
「……男? なにキモいこと言ってるの?」
「……ダヨナー」
ひょっとこ男に惚れているレオナルドと、現状のレオナルドとどちらがましかと考えたくなる反応ではある。それでもヴェルマーは胸の内で決意を固める。
でも俺たちはウィンクルムだからな。これからも連れまわしてやるぜ。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月23日 |
出発日 | 06月30日 00:00 |
予定納品日 | 07月10日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- ヴィルマー・タウア(レオナルド・エリクソン)
- 永倉 玲央(クロウ・銀月)
会議室
-
2015/06/29-23:56
-
2015/06/29-23:02
あたしもプラン提出できたよー♪
「アキさんとこお嫁に行っちゃうけど、いいの?」って書いたよー
みんな奪還がんばれっ -
2015/06/29-22:04
>皆さん
こちらこそよろしくお願いします。
なんだかお互い災難ですね。(汗
>アイちゃん
>「良い子良い子してもらってよかったね」で終わりそうな
な、なんだって!?
というわけで白露さんにはプランのなかで
アイちゃんを俺が取ってもいいんですか?
いいのかよ!ダメだろ!
と、アタックしたり憤慨したりしています。
ランスを目覚めさせるには右拳に愛をこめるしかないかもしれないと覚悟したよ(キラリ -
2015/06/29-12:10
永倉さんもよろしくー♪
よしよし(なでなで
クロさん取り返せるといいねっ
じゃなくて、きっと戻ってくるもんね!(ぐっ
アキさん、分かったよ!
ランスさんに嫉妬起こさせるように、懐けばいいのかな?
えーと「このままアキさんとこお嫁にいっちゃうよ!」とか? -
2015/06/29-03:53
レオとアキか、よろしくな!
…知り合いからお面を譲ってもらうつもりだったが、
よく考えたらフリーオークション使うにはレベルが必要だったな、ハッハッハ(白目)
まぁひょっとこにアプローチ掛けてみよう。
っつーかレオにどういうことか聞いてみよう(心折れるフラグ) -
2015/06/28-23:38
ギリギリの参加になっちゃった・・・。
みなさんお久しぶりです、永倉玲央です!
ちょっ、クロさん!?何やってんだ、あの人!
なんだってあんなひょっとこの・・・しかも男の人に!?(困惑)
な・・・何だろう、この気持ち・・・?
何か胸が痛いっていうか・・・。
うわ~ん、アイちゃーん(癒し)!(がばっと抱き付き) -
2015/06/28-23:18
……ええと、ご挨拶が遅れてしまいましたが。
羽瀬川千代と向こうで他の方と一緒に盛り上がってるのがラセルタさん、です。
ヴィルマーさん達は初めまして、アイさんとアキさんはお久し振りです。
どうぞ宜しくお願い致します。
ひょっとこさんには危害を加えずに何とかしたいな、と思いつつ。
自分が思った以上に動揺しているので、何とか落ち着きたいところです(遠い目 -
2015/06/28-19:31
それでは失礼して、アイちゃんを撫で可愛がって反応見てみようと思う。
白露さん、あなたのアイちゃんがヘンな男につれさられてもいいんですか?(←自分でヘンとか言ってる)
アイちゃんも俺に懐いてくれると一寸助かるかも。
それでなにも反応なかったら…どうしようか(深刻) -
2015/06/28-17:36
2つに分かれるのもめんどいし、あたしはみんな一緒でいいよー♪
パパは…頭なでなでしても、元に戻らない気がするけど
「良い子良い子してもらってよかったね」で終わりそうな気がする
むぅー
でも、他の人に協力して貰うっていいアイディアだよね! -
2015/06/28-16:57
相棒の様子が少しおかしい。
正気に戻すか何とかしないとなあ…。
ところで「皆同じ場所に居る」のでいいのか?
どうからんだらいいのか一寸悩んでいたりする。
例えば俺がアイちゃんを撫でたら、白露さんがそれを気にして正気に戻ったりは…しないだろうか? -
2015/06/27-17:33
羽瀬川さんもヴィルマーさんも、今回もよろしくー♪
ねー、あたしたちのほうがかわいいのにねーー。
なんで、パパはひょっとこ行くんだろうね。
……そっか、おめんか。
あたしもおめんしてこー♪ -
2015/06/27-11:07
俺は神人のヴィルマー・タウア。
俺に吐いた暴言をひっくり返してあっちでヘラヘラしているのはレオ。
アイオライトと白露はまた会ったな、羽瀬川とラセルタははじめまして、よろしくな。
どうしてアレがよくて俺がダメなんだ!?(ダァン)
レオに出会ってからというもののヘコむことが多い気がするぞ、うん。
俺はひょっとこ男のモテる理由を探りたい。
…お面を被ればいいのか? -
2015/06/27-00:25
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2015/06/26-20:21