ピリ辛アイディア大募集!(星織遥 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 暑さにうなされる夜も増えてきた今日この頃。制服を着ながら進める業務は空調が効いている室内だとしても暑苦しさは拭いきれない。そんな中、1本の電話が入ってきた。受付がそれに出る。

「はい、こちらA.R.O.A本部でございま……」
「はいはいどーもどーも!私『辛口組合メラモエパッチョ』の代表者でホッテラっていいます!
 このまえ開催した『あつからフェス!』は大変ありがとうございました!
 実はですね、あれから組合内でもさらに上を目指そうと!
 積極的に大胆にアクティブかつアグレッシブでアクロバティックなアプローチを仕掛けていくべきではないかという話題が出ておりましてですね!
 
 そこで!
 ぜひぜひウィンクルムの皆さんの知恵も拝借できたらこれ幸いといったところでして!
 もちろん我々はさらなる旨辛を求めて日々研究と試食に明け暮れております!
 
 ですが!
 我々はそれゆえに凝り固まっているのではないかと!そういう意見が出ているんですよ!
 さながら乾燥しすぎて固まった粉末カレーのごとく!

 なので!
 組合以外からの意見を取り入れてさらなる旨辛の境地を目指そうではないかと!一丸となって!
 こう!ドドドっと!ガーッと!インパクトをドカーンとですね!
 ぜひ皆さんに私たちの町に来ていただいて!その柔軟な発想をですね!」
 受付は耳を軽く押さえ、マシンガントークに耐えながら話を聞いていた。受付はこの話し方には聞き覚えがあった。そして『あつからフェス』というキーワードから以前電話をかけてきた人物と同じだと確信を持った。その確信ゆえにこちらから中断しない限り、鼓膜を蜂の巣にしかねない言葉の連射は終わらないことも分かっていた。
 念のため相手の名前と連絡先をメモして、詳細は近日中に再度文書を送ってもらうことにした。強引に話を切らないと延々と言葉の弾丸が飛んでくる。それはいつまでも受けきれるものではない。そう感じた受付は受話器をなんとか置いた。
 後日詳細をまとめた文書が送られてきた。受付は公的な文章にしてはくだけた印象を受けつつ、それを掲示板に貼り付けた。

***

「辛口組合メラモエパッチョ主催・新アイディア試作会」のお知らせ

はじめまして、「辛口組合メラモエパッチョ」の代表ホッテラです。
今回皆さんには「辛さ」をテーマにしたものを作っていただきたいと思います。
それらを組合員で試食して今後の参考にしたいと考えています。
試作品の条件は以下のとおりです。

・辛いこと
・プラスチックの植物など、食べられない飾りはNG
 チョコで作った動物のような、食べられる飾りはOK
・調理時間が3時間以内であること
・食材の持ち込みはしないこと
 
今回の企画は新しい発想を取り込もうというのが主旨です。
なので奇抜なアイディア大歓迎です。
こちらで食材や調理器具は用意しますので、その辺は気にしないでください。

どんなジャンルのものでもOKです。極端な話、辛いケーキでも全然構わないです。
少し辛い程度の料理でも、火を噴きそうなほど辛いドリンクでも我々は完食できます。
いえ、もはや完食するのが使命だという猛者ばかりです。
ですから安心して辛さを極めてください。

皆さんの素敵なアイディアお待ちしてます。

***

解説

材料費など:500jr

●作るものについて
 料理、お菓子、ドリンクなど、その形は問いません。とてつもない辛さになったとしても、組合員の面々は辛さに尋常じゃないほど慣れているので問題ありません。

●プランに書いてほしいこと
 プランには「料理名」「調理工程」「アピールポイントを2~3つ」書いてください。

具体例
料理名:辛いクッキー
調理工程:通常のクッキー生地の作り方で、砂糖を抜いて唐辛子の粉末を練りこむ。小さめに丸めてオーブンで焼く
アピールポイント:とにかく辛い・手軽に食べられる

グラムや材料の比率は細かく気にしなくても大丈夫です。

組合員が試食しますが、各試作品に優劣がつくわけではありません。
組合側は「なるほど!こういうのもアリなのか!」というアイディアが欲しいだけです。
リザルトは各ウィンクルムの調理風景を描いて、最後に組合員による試食会という流れになります。


ゲームマスターより

星織遥です。
「暑いときこそ辛いもの」といいますが、皆さんはどうでしょうか。
皆さんのアイディアお待ちしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  料理名:三味辛揚げ+ミルク寒天
調理:下味つけた鶏肉に、1唐辛子、2辛子+ターメリック、3山椒+青のりをそれぞれたっぷりまぶして揚げる
寒天溶かして練乳、牛乳、生クリームを混ぜてしっかり冷やす
ポイント:3種類の異なった辛さを楽しめます
箸休めに練乳たっぷりの甘いミルク寒天を食べて、常に新鮮な辛さをお楽しみください

どの位辛くすれば良いんでしょう?
味見用は適量のスパイス入れて分けておく
組合員さん用の分はスパイス増し増しで調理
堅く閉まった蓋開けて貰い、お礼を言う

普通の辛さにした方で味見を天藍にして貰う
どうですか?

天藍の誘いが嬉しい
では材料を買って帰りましょう
野菜の料理も欲しいですよね、何にしましょうか?



七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
  (ピリ辛料理、ですか……)

料理名:夏野菜クレープ

調理工程(調理スキル使用)
1.お皿の上にトルティーヤ、生レタスと重ねた後、
棒状に切った夏野菜を、間隔を空けて扇状に並べる。
使う野菜は南瓜、ナス、胡瓜、ゴーヤ、オクラ。
2.各野菜スティック間を埋めるよう、
焼いた豚の挽肉と野菜キムチ(汁は切っておく)を交互に敷く。
3.唐辛子入り枝豆ドレッシングを斜線に引いて完成。
・枝豆はミキサーで液状にする。

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1.様々な食べ方が楽しめます。
・野菜スティックにドレッシングをつけ、バーニャカウダ風に。
・ナイフで切ってピザ風に。
2.持ち帰り可。
・底に敷いたトルティーヤごと野菜スティックに巻き付け、
クレープ風に召し上がれ。






リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  目的:激辛料理を作る
心情:食べ過ぎても健康にいいと思えないが
手段:
『調理』スキル使用
料理名:エマダツィ
調理工程:チーズ、唐辛子(生の赤と青を大量と乾燥のものを少々)、タマネギ、ジンジャーを準備
食べ易い大きさに切ったら、生唐辛子を除外した材料+水、塩、サラダ油を弱火で煮る
チーズが溶けたら生唐辛子を投入して更に煮る
アピールポイント:チーズがあるから甘いと思ったら大きな間違い
甘さを感じるから反動でより辛さを感じるんだ
※そういう意味で出すお茶は、甘めのバター茶

味覚って主観だから単純に量を入れればいいというものではないし、甘さを実感し、そこから感じるのもありだろう?

銀雪が食べ切ったら褒めておくか



宮森 夜月(神楽音 朱鞠)
  朱鞠に連れられて試作会に来たものの、辛いものはあまり得意ではない。なので、味見があれば朱鞠に任せる。
「うわ~、辛そう…朱鞠、よろしくね」

料理名:わさび稲荷。そのわさびの量は通常のわさび稲荷よりずっと多い。
調理工程:煮詰めた油揚げに白だし、わさび、酢飯、大葉を合わせたものを詰める。
アピールポイント:脳天を突き抜ける辛さと油揚げの絶妙なハーモニー

朱鞠に言われるまま、油揚げを油抜きして煮詰めたり、白だしとわさびを混ぜ合わせたり、酢飯を作ったりする。
朱鞠のつまみ食いは、味見があれば味見で
なければ「今度作ってあげるから」で阻止

組合員の反応が心配。反応が良ければ胸を撫で下ろし、
反応が悪ければしょんぼりする



●早めの夏と辛いもの
 春は過ぎたが、夏と呼ぶにはまだ早い。そんな中間に位置する時期ながら、もう夏は訪れたと言わんばかりに、太陽が力強く地面を照りつける。降り注ぐ太陽光だけでなく、熱を帯びた地面から発せられる熱も相まって体感温度はさらに上昇する。むせ返るような空気の中を『七草・シエテ・イルゴ』と『翡翠・フェイツィ』、『かのん』と『天藍』、『リーヴェ・アレクシア』と『銀雪・レクアイア』、『宮森夜月』と『神楽音朱鞠』の4組は歩いていた。一同は『辛口組合メラモエパッチョ主催・新アイディア試作会』という催しに参加するためにその会場に向かっている最中。この地域は伝統的に辛さを前面に出した料理が多く、『ペッパラダル』という特産香辛料の栽培・販売も行っている。その要素を町のアピールポイントにしている面があり『あつからフェス』と呼ばれるイベントが定期的に開催されている。一同が町に着くと、数名の男女が出迎えてくれた。

●辛口組合メラモエパッチョ
 出迎えた集団は今回のイベントを主催した組合員たちだった。そのなかの1人が一歩前に出る。
「お待ちしておりましたウィンクルムの皆さん!私は辛口組合メラモエパッチョの代表を務めているホッテラと申します!いやー今日は一段と暑いですねー!そんななか私たちの町に足を運んでいただきありがとうございます!この町は辛さを売りにしていまして!ぜひとも皆さんにご協力いただけたらと!今回!こういった企画を考えたわけでして!」
 ホッテラは自分の思っていることを嘘偽りなく語る。その言葉はまるで弾切れを知らないマシンガンのようだった。ウィンクルムたちは受付から彼のことは聞いていたが、想像以上だといった表情を浮かべる。ただ組合員たちもその点は分かっているようで、切りのいいところを見つけてその語りを中断した。
「おっと、いやーすみません。ついつい熱くなってしまって。会場はこちらです」
 そういって一同を先導するように歩くホッテラと組合員たち。その後ろにウィンクルムたちはついていく。

●アイディア集結
 町のなかにある建物の1つに入ると、そこには厨房が広がっていた。オーブンやガスコンロなど、明らかにプロ仕様のものが並んでいる。さらにテーブルや冷蔵庫の中には潤沢な食材。心なしか、香辛料の類が特に多い。
 話によると、この建物はホッテラの店らしい。今回のイベントに使うために食材を買い込み、店を臨時休業にしたという。
「ここの器具や食材は自由に使ってください。もうご存知とは思いますが、今回のルールを改めて。作っていただくものは辛ければ何でもOKです。飾りについてはプラスチックの植物みたいな食べられない飾りはNGですが、食べられる飾りはOKです。それと調理時間は3時間以内でお願いします。持込の食材はご遠慮ください。これはこの町で手に入るもので作れるものにしたいからです」
 ホッテラは指を折りながら、1つずつ説明していく。
「あと辛さですが、もしとんでもない辛さになったとしても、我々組合員は辛さに対する耐性には自信があります!なので心配せずどんどん辛くしちゃってください!」
 説明のときに抑えていたテンションを爆発させるように拳を掲げるホッテラ。組合員たちも胸を張る。ルールは事前に聞いた通り、辛さについても爆発するほどの辛さでも問題はなさそうだ。それを再度確認すると一同はそれぞれ調理に取り掛かる。

●夏野菜クレープと辣調色飯
(ピリ辛料理、ですか……)
 シエテは食材を前にしてこれから作る料理をイメージする。ざっと眺めると野菜が豊富にあるので、これらを使って夏野菜のクレープにしようと考えた。その考えを翡翠に伝える。
(ピリ辛料理といっても、表現の幅は広いからね……。夏野菜のクレープか……シエがさっぱり系でいくなら、俺はがっつり系でいこうか)
 双方の考えのもと、それぞれ調理に取り掛かる。

 まずシエテは盛り付ける皿にトルティーヤを敷き、その上に生レタスを重ねる。そして持ち前の料理スキルを発揮して手際よく夏野菜を切っていく。南瓜、ナス、胡瓜、ゴーヤ、オクラ。夏を彩る代表的な野菜たち。それらを棒状に切って間隔をあけながら扇状に並べる。次に豚の挽き肉を炒めていく。その間に野菜キムチの汁を切る。挽き肉が炒め終わったら、扇状に並べた隙間を埋めるように盛り付ける。それと交互になるように野菜キムチも同様に盛り付ける。一通り盛り付けを終えると、そこには彩りの鮮やかな料理が出来上がっていた。
 そして最後の仕上げであるドレッシング作りに取りかかる。まず枝豆をミキサーにかけて液状にする。その間に唐辛子をみじん切りにしておく。ミキサーが仕事を終えたら中身を取り出し、そこに刻んだ唐辛子を混ぜていく。これで淡い緑色のなかに赤色が点在するドレッシングの出来上がり。それを斜線になるように綺麗に引いていく。
「これで完成、と」
 最後の仕上げもうまくいって一息つくシエテ。

 一方、翡翠はがっつりとした料理にしようと思い下準備を整える。まずは枝豆と山葵、トマトと唐辛子、トウモロコシと生姜、ししとうと味噌。この4つの組み合わせをそれぞれミキサーにかける。ミキサーが仕事を終えたらマヨネーズを加えてペースト状にしておく。続いて豚肉、パセリ、鯵を刻み、それらをご飯に混ぜて強い火力で一気に炒める。火の通り具合を確かめながら、出来上がりを見極める。調理を終えるとそれを皿に移し、最初に作っておいた4種類のペーストを微量ずつ入れて、味を確認しながら混ぜていく。それを終えると今度は玉子焼きを作り、それを錦糸玉子にする。ハムも同じ厚さになるように切って、紅生姜と一緒にそれらをご飯の上に散らして完成。
「これで辣調色飯(ラーティアオ・シーファン)の出来上がり」
 2人は完成した料理を見せ合い、お互いに感嘆の声をあげる。そして小さく微笑み合った。


●三味辛揚げとミルク寒天、簡単グリッシーニ
 かのんは辛い料理ということで辛みを効かせた唐揚げを作ろうと考えた。それと箸休めにミルク寒天も一緒に作ることにした。天藍はかのんのアイディアを聞きつつ、グリッシーニを作ろうと材料を集める。
(辛い料理か。どうせなら、思いっきり冷えたビールと一緒に食べられるのが良いよな。とは言え、辛さの限界に挑戦する事もないと思うんだが)
 そう思いながら天藍はグリッシーニを作り始める。ボウルに小麦粉とベーキングパウダー、さらにたっぷりの黒胡椒と粉チーズを入れて混ぜる。十分に混ざったところで水とオリーブオイルを、少しずつ様子を見ながら加えていき練っていく。ほどほどの固さになったらボウルから台に移し、よりしっかりと捏ねていく。
 天藍の作業を横目で見ながら、かのんも作業を進める。まずは鶏肉を適当な大きさに切って下味をつける。味が馴染むまでの時間でミルク寒天の仕込みを進める。寒天が溶けたのを確認して、練乳、牛乳、生クリームを混ぜてそれを容器に移し替えて冷蔵庫に入れて冷やす。
「これでよし、と。」
 冷蔵庫の扉がちゃんと閉まったことを確認すると、再び唐揚げに取りかかる。
「使えそうなのは唐辛子にターメリック、からしに、それから山椒と青のり……」
 彼女の脳内で味のバリエーションが組み立てられていく。そして唐辛子、からしとターメリック、山椒と青のりという3つの組み合わせが決まった。早速それらを細かく刻み、混ぜ合わせていく。そのとき、小さな問題にぶつかる。
「……あれ?」
 かのんの手にあるのはターメリックの入った瓶。蓋に手をかけて懸命に開けようとする。しかしいくら力をこめてもまるで開きそうにない。どうしたものかと頭を抱える。そのとき、様子に気付いた天藍がスッとかのんの手から瓶を取ると、自分の胸元に持ってきて力いっぱいひねる。するとパカッという小気味いい音とともに蓋が開いた。
「ほら、開いたぞ」
「ありがとう」
 かのんは天藍にお礼をいうと蓋の開いた瓶を受け取る。これで全て揃った。
(しかし、どのくらい辛くすれば良いんでしょう?)
 かのんは香辛料を前に動作を止めて、少し考える。考えた末、組合員は辛い分には大丈夫と言っていたのでスパイスをふんだんに効かせることにした。ただし味見用は様子をみて量を加減する事に。下味の付いた鶏肉を2グループ3組に分けて、一方には1組1種類で香辛料をたっぷりまぶす。もう一方は味見用に適量まぶす。それを十分に熱した油のなかへ。混合しないように組合員用と味見用は別々に揚げる。ほどよく色が付いてきたら取り出して、油を切る。
「天藍、味見をお願いしてもいいですか?」
 かのんの頼みを天藍は快く承諾した。しかしちょうどグリッシーニの生地を切っているところだったので、彼女に口元まで運んでもらう。ゆっくり噛みながら味や食感を確かめる。
「どうですか?」
「このくらいの辛みが俺は好みかな」
 その答えをきいて、かのんは安心した表情を浮かべる。ひとまず問題はなさそうだ。ふと天藍は組合員用に作られたほうに視線を向ける。色合いがいま口にしたものに比べて何倍も辛そうにみえる。
(あの辛さにこのグリッシーニが合えばいいが……)
 試食を終えた天藍は生地を切る作業に再び専念する。生地の大きさが均等になるように細長く切っていく。そして切り終えたものをオーブンに入れて焼き上がるのを待つ。これが完成して、ミルク寒天が固まれば、あとは試食会を待つばかり。


●エマダツィとバター茶
 リーヴェはエマダツィとバター茶を作るために食材を準備する。一方、銀雪は料理を作ることが出来ないので試食を担当することに。リーヴェの邪魔にならないところから、ほんわかと眺めている。リーヴェはテーブルに並べた食材を1つ1つ確認する。チーズ、玉ねぎ、ジンジャーに唐辛子。唐辛子は乾燥したものと、生のものを赤と青の2種類を用意。それと茶葉に無塩バター、砂糖、牛乳。銀雪は大量の生唐辛子を見て思わず尋ねた。
「ぜ、全部入れるの?」
「ああ、辛い料理だからな」
「そうか……そうだよね……」
 銀雪はリーヴェの説明に一応納得したものの、辛い料理がそこまで得意ではないので戦々恐々といった様子だった。そんな銀雪を知ってか知らずか、リーヴェはさらに作業を進める。確認した材料を食べやすい大きさに切って、生唐辛子以外の材料を水、塩、サラダ油で弱火のなかで煮る。チーズが溶けてきたら生唐辛子を加えて更に煮る。
 煮ている間に彼女はバター茶の準備をする。まずベースとなる茶葉を煮出す。そこに砂糖、無塩バター、牛乳を加えてよくかき混ぜる。しっかり撹拌しながらひと煮立ちさせる。慣れた手つきで次々と手際よく作業を進めていく。
「今回のバター茶は甘めにしてある。甘さを感じるから反動でより辛さを感じるんだ」
 リーヴェは銀雪に向かってそう説明する。どちらかといえば甘いものが好きな彼は、バター茶から漂う香りから美味しそうだなと感じた。
「味覚って主観だから単純に量を入れればいいというものではないし、甘さを実感し、そこから感じるのもありだろう?」
 さらに説明を加えるリーヴェ。そんな話をしている間にエマダツィとバター茶が完成した。
「さあ出来た。試食してくれ」
「う、うん……」
 完成した2品を前に、少々緊張気味の銀雪。チーズとバターのそれぞれ異なる甘い香りが彼の鼻をくすぐる。
(あ、これなら大丈夫かも)
 生唐辛子の多さから辛さを懸念していたが、香りから大丈夫だと判断してエマダツィを口に入れる。
(……ほんのり甘……辛い!?)
 チーズの甘さは確かに感じる。しかし、そのチーズの甘さ故に唐辛子の辛さが強調されていた。予想外の辛さに慌てつつも、バター茶でそれを緩和しようと試みる。しかし甘いバター茶がかえって辛さを感じる結果を生む。
(からい……これからいよ……)
 銀雪はすでに涙目だった。しかし口へ運ぶ手を止めることなく根性で食べ進める。目の前の料理は少しずつ胃のなかへ収まり、ついに完食した。
「ご馳走様……」
「よく頑張った。いい子だ」
 リーヴェは食べきった銀雪を褒めた。銀雪も褒められて素直に喜んだ。


●わさび稲荷
(朱鞠に連れられて試作会に来たものの、辛いものはあまり得意じゃないんだよね)
 厨房の食材や調味料をざっと眺める。辛さを主眼に置いたイベントだけに、それに関連したものが多い。
「うわ~、辛そう……朱鞠、よろしくね」
「ああ。さて、辛いもの!ここはやはりわさび稲荷だろう?」
 朱鞠は辛さについてこだわりはないが、稲荷寿司が大好物。そのためこの選択は妥当と言える。夜月も反対する理由がないので、わさび稲荷に必要な食材を揃えていく。
 朱鞠が夜月にあれこれと指示をだして、1つ1つ作業を進める。まず油揚げを油抜きして醤油と水、少量の砂糖で煮詰めていく。その間に酢飯に取りかかる。炊いた米に酢を少しずつ入れながら混ぜていく。そこへ刻んだ大葉と白だし、チューブのわさびを加えていく。味の加減を見ながらわさびを加えていると朱鞠がスッと近づいてきた。
「組合員は辛いものが好きなのだろう?なら、普通のわさび稲荷では面白くなかろう。もっとわさびを足そう。な?」
 にやにやと笑いながらチューブのわさびを使い切るのではないか、と思えるほどの量を一気に酢飯に投入する。あまりの多さに酢飯はわさび色になっていた。
(これ、大丈夫かな……)
 夜月は不安を覚えつつも、調理を進める。煮詰めた油揚げを開いて、そのなかに酢飯を詰めていく。最後に形を整えて完成。
「出来た……朱鞠、味見してみて」
「うむ。……ごほっごほっ」
 稲荷を口に入れた途端、あまりの辛さにむせる朱鞠。
「次に作るときは、もう少しわさびの量を減らしてくれ……」
(わさびを大量に入れたの朱鞠だよね……?)
 なにはともあれ、辛さについては問題なさそうだ。組合員がどういう反応を示すか。夜月はその点が不安だった。


●いざ試食
 全員の料理が完成し、テーブルに組合員たちが腰掛ける。まずはシエテの『夏野菜クレープ』と翡翠の『辣調色飯』が組合員たちの前に置かれる。
 シエテは食べ方のバリエーションを紹介。野菜スティックにドレッシングをつけバーニャカウダ風にしたり、ナイフで切ってピザ風にしたり。また底に敷いたトルティーヤごと野菜スティックに巻きつけてクレープ風にすれば持ち帰ることも出来る。一方、翡翠は辣調色飯がさっぱりした印象を与えるクレープとは対照的で、辛さもボリュームも十分なこと、温めても冷めても美味しいことを強調。またバリエーションとして炒飯ではなく麺類にすればつけ麺として食べられることもアピール。
「クレープ……これは意外……」
「食べ方も様々……このアイディアは街頭販売に活かせるのでは?」
「この炒飯も辛さが効いていていい!」
「これは麺でも食べてみたい」
 組合員たちの評価も上々。シエテと翡翠はその反応に嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 続いてかのんが『三味辛揚げとミルク寒天』、天藍が『簡単グリッシーニ』を組合員の前に差し出す。3種類の辛さを楽しみながら箸休めにミルク寒天を味わうことで、常に新鮮な辛さを体感できる点をアピール。グリッシーニは単体でももちろん美味しいが、唐揚げの合間に食べることで良いアクセントになることを強調。
「これは……辛いっ!!インパクト十分っ!!」
「ミルク寒天で口のなかをリセットできるのはいいですね」
「このグリッシーニは黒胡椒が効いててビールが欲しくなる」
「食感がかりっとしてて、唐揚げとの相性もいい」
 味見用とは比べ物にならない辛さのはずだが、組合員たちの皿からどんどん無くなっていく。その箸の進み具合が全てを物語っている。2人は見つめあうと満足そうに微笑んだ。

 次はリーヴェと銀雪による『エマダツィとバター茶』。リーヴェはチーズの甘さの反動で辛さをより深く感じること、同じ理由でバター茶も甘めに作ってあることを説明。組合員たちは不思議そうな顔をしながら食べ始める。
「チーズもバター茶も甘い……ん?」
「見た目以上に……辛いっ!!」
「甘いのに辛い!辛いのに甘い!不思議だ!普通に食べるより辛いかもしれん!」
 組合員たちはその意外な感触に驚きながらどんどん食べ進める。勢いのある食べっぷりで、あっという間に皿の中は空になった。これにはリーヴェと銀雪も嬉しそうだ。

 最後は夜月と朱鞠が作った『わさび稲荷』。ほどよく煮詰めた油揚げと対照的な辛さを持つ酢飯のハーモニーをアピール。酢飯が一般的なそれと明らかに違う色になっているのは気のせいではない。一風変わった稲荷の姿に驚き半分興味半分といった様子で手を伸ばす組合員たち。
「ここまでわさびが効いてるのは初めて食べた!!」
「脳天を突き抜ける辛さ……!しかし油揚げがそれをうまくまとめている!」
「手軽に食べられるのも大きい」
 美味しいと言いながら次々に口の中へと入れていく。その様子に夜月はほっとした様子で胸をなでおろした。

●試食会無事終了
 全員の試作品を食べ終わり、大満足な様子の組合員たち。あれだけ辛いもの続きだったのに、誰1人つらそうな様子を見せないあたり本当に辛いものが好きな人たちなのだろう。
「いやー今日は本当にありがとうございました!新鮮な風が私たちの中に入ったように感じます!」
 ホッテラはそういって頭を下げた。それにならうように組合員たちも頭を下げる。後片付けを済ませると一同は店を後にした。

「今回作った料理を家で作ってビール買って一緒に晩酌しないか?」
 町から離れて帰り道。天藍はそう切り出した。かのんはその誘いが嬉しかった。
「いいですね。では材料を買って帰りましょう。野菜の料理も欲しいですよね、何にしましょうか?」
 2人は楽しそうに今後の相談をしながら歩いていく。他の3組も今日の料理を振り返ったり、帰ったらどうしようかと話している。今回のイベントはそれぞれのなかに刺激的な出来事として残ったことだろう。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 星織遥
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月18日
出発日 06月25日 00:00
予定納品日 07月05日

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