見てはいけない見てはいけない……(寿ゆかり マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 人間は。
 見てはいけないと言われると。
 見たくなる物なんだ!

 精霊の部屋で、神人がとてもきっぱりと
 しかもドヤ顔で告げたのがその文言であった。
「いや、誰の名言なのそれ」
「なんとなく」
 精霊に正座させられているのはとある神人。
 彼の罪状は。
「俺の日記みたよね」
「はい。みました。すみません」
 大きく大きくため息をついて精霊は手にした日記帳で神人の頭をぺしりと叩いた。
「あう」
「どこまで読んだ」
「全部」
 その瞬間精霊の顔が真っ赤に染まる。
 全部?
 日記に思いをしたためたページも?
 けがをしたこいつの事を心配して自分を戒める反省を書いたあの日も?
 楽しかったデートの感想も?
 全部読んだだと?
「……」
「へへ」
「へへじゃねえ!」
 ぷんすこしながら精霊が部屋から出ていく。
「あっ、どこ行くの」
「お、お茶入れてくる。日記の内容……忘れろ! いいな。全部忘れる事!」
 さっきお茶いれたばかりじゃないの、その指摘はしないでおいた。
 ぱたぱたとキッチンに走っていく精霊の後姿に、神人はなんだか微笑ましい気持ちになっていて……。
 ふふ、と一人笑みを漏らした。
 ――忘れられるわけ、ないじゃん。

 そんな日常、そんな一ページをそっとめくってみましょうか……。
 あなたのパートナーは何を書いていたのでしょう。


解説

☆目的:パートナーの日記を見ちゃえ!(!!)
 神人が精霊、もしくは精霊が神人のお部屋にお邪魔していて日記発見→読んじゃおう、な状況です。
 同居中の方は、共用スペースにおいてあったという状況でもいいです。
 
 読んだ方のプランには、
 日記を読んでの行動や反応をお書きください。
 相手にバレるかバレないか、それを受けた上での反応もお書きいただくと
 よりいっそう面白いかと。

 読まれた方には、
 その方が書いた日記をその方の口調でお書きください。
 何のことかをうまく伝えたい場合は、読んだ人のほうに
 (あぁ、○○の時のことだ……)とか、書いておくと情景が広がると思います。
 実際に経験したエピの内容ではなく、今回のエピで架空のお話を作ってOKです。
 例えば、どこどこに散歩に行ったとか、訓練した、とかデートしたとか。  

 ただし、実際にあった依頼の事は書かないでくださいね。
 (アフターエピソード的なものになってしまうので、明言を避けたいと思います)
 特定の依頼のことを言わないで、日常、ふと思った相手への想いや
 ウィンクルムとしての責任について思うことを書いた日記などは大丈夫です。
 (OK→ウィンクルムになって早3ヶ月。あいつには怪我をさせたり泣かせたりしたこともあったけど、守らないと!
  NG→○○の任務のときは××があって、実は☆☆と思っていたし、△△があったんだ)
 NGをやってしまうとアフターエピになってしまいますので!

参加費は、相手のおうちにお邪魔するときのお茶菓子代や、日記のネタになったデートのお金など、
諸経費で一律400Jr消費いたします。

最後にまとめ
*読んだ人の方には日記を読んでの感想・反応をお書きください。
*日記を書いた人の方には書いた日記を、日記の文章のままお書きください
*過去エピ参照はNGですのでご注意を。


ゲームマスターより

いーっけないんだーいけないんだ
せーんせーに ゆってやろー

ここだけの話寿はせんせいでした。(こそそっ
女教師っていうとかっこよくね? かっこよくね?
……かっこよくないか。

日記?今はつけてないよ!!(デデドーン!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

柊崎 直香(ゼク=ファル)

  貸してた本が必要になったのでゼクの部屋へ
薬草図鑑何に使うんだろ

目当ての本は机上に見つけたけど
一緒に置かれたもう一冊が気になる
捲ってみると几帳面な筆跡

日記、書くようになったんだ

僕と出逢ってしばらくは習慣なかったはず。
この日記帳もまだ新しい

……序文から堅苦しすぎない?
再開ってことは昔は書いてたのか

面白味のない文章
仕事や任務のことは一切書かれてないし
暗号めいた色の名前は僕の嫌いな食べ物
あとは全部僕のことじゃないか

それでも過去も先も考えないようにしてた以前に比べれば進歩かな
部屋もだいぶ物が増えた

日記は元通りに置くけど、

最後の頁は昨日の日付
今日の日記には緑失敗と書かれる予言をしておこうか?
おかえり、ゼク


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  ※以下日記本文

ウィンクルムとして活動して1年が過ぎた。
だが、今までやっていた任務を振り返ると自分の貢献は今一つ。
時々思う。自分は本当にA.R.O.Aの役に立っているのか、と。
そして気がつけば先輩や後輩にも嫉妬していた。

お婆様には「紳士の嫉妬は見苦しいですよ」と教えられてきた。
それでも、心のどこかでは対抗意識を拭えない。
結局、一日中考えた答えとしては
「自分に与えられた試練として乗り越える」という結論に至った。

何より
珊瑚もテンペストダンサーとして、日々腕を磨いていると思う。
あいつと同じ場所で戦えるよう、足を引っ張る事がないよう、
体も心も鍛えておかないとな。

けれど、果たしてそんな日は来るんだろうか。





天原 秋乃(イチカ・ククル)
  …イチカがニヤニヤしてる。気持ち悪い
いや、イチカがへらへらしているのはいつものことなんだけど、何かが違うような…いつも通りのような…
「イチカ…あんた何か隠してないか?」
俺の気のせいなのかな?

【日記】
○月×日
イチカと出会って、今日で1年。
初めてイチカとあった時は正直「頭のおかしい奴」だと思った。俺と契約したいとか、運命だとか、どうかしてる。
あの時はこの先うまくやっていけるか自信がなかった。

…けど、今はイチカと契約してよかったと思う。あいつが変な奴だってことに変わりはないけれど、頼りにはなるし、何より悪いやつじゃない。
ウィンクルムとしての俺のパートナーがイチカでよかった。
これからもよろしく。


ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
  …ローレンツ日記なんか書いてたんだな。
まぁ書いてそうな雰囲気ではあるけど。
確かに手料理っていうか家庭料理に憧れはあるが…そんなに露骨だっただろうか?
ローレンツの料理は好きだな。まだまだ不器用な所が手料理って感じがしていい。
俺の為に覚えようとしてくれるのは嬉しい。

というか俺のことが頼りないとでもいうような書き方だな。俺はローレンツよりはしっかりしてるつもりだぞ。
初めて会った時の服装とか酷かったしな…身を構えばそれなりに男前なんだから。
優しいしいいやつだし文句なしだろう?

色気って…まぁ…昔は男娼なんかもやってたからな…そう言うのがまだ抜けてないのかもしれない。
こんな男が傍に居たら気持ち悪い、よな。


●ゼクさん奮闘記 
 精霊に貸していた本が急に必要になったので、柊崎直香は精霊、ゼク=ファルの部屋へと足を踏み入れた。本人は外出中だが、サッと物だけ返してもらう分には特に問題ないだろう。
「薬草図鑑、何に使うんだろ」
 殺風景だった部屋にも、大分ゼクらしさと言うか、生活感が出てきた気がする。綺麗に片付いているのは変わりないけれど……。さて、貸した本はどこかなと見回すと、机の上にきっちりと置かれているのが目に入った。乱雑にしないところが大変彼らしいというか。
「あったあった」
 目当ての本を手に取ると、その下に置かれていたもう一冊が気になった。
(なんだろう……?)
 好奇心の赴くまま、ぺらりとページをめくってみるとそこには几帳面な筆跡。日付が記してあることから、すぐに日記だとわかった。
(日記……書くようになったんだ)
 直香と出会ったころはそんな習慣はなかったはずだ。この日記帳だって、まだ新しい。
『――長く間を置いていたが、そろそろ頃合いと思い日誌を再開する。
 残るもの、遺すものを綴るのは、何時振りか。何處まで続くか。
 恐らくは、彼奴との縁のある限り、』
 日記なのだが、一番初めのページに序文のようなものがある。
(……序文から堅苦しすぎない? 再開ってことは昔は書いてたのか)
 そして、いつまで続くのか……それは、神人たる直香と縁のある限り……? つまり、この日記は……。
 読み進めると、そこには暗号めいた文字列。
『○月×日 ●
 茶、失敗。赤、成功。明日・夕の緑、冷蔵庫にて発見される。
 偽装工作失敗。
 最近夜遅くまで起きているせいか起こすのにも苦労する。』
 ……? 一瞬何のことかなと首を傾げ、直香はすぐに察する。
 この色って、僕の嫌いな野菜の事じゃん。茶色はきのこだ。絶対きのこだ。失敗ってなんだ。
『○月×日 ○
 緑の警戒強いため、本日はいずれも無し。
 機嫌が良い。近くの公園へ散歩。
 軽食の用意が間に合わなかったが、途中買い求めた林檎を頬張っていた。
 好物らしい。
 林檎を使った菓子は何が有ったろうか。』
 そりゃあね、その前日あの緑の悪魔を冷蔵庫で発見してしまったらその後どこかのご飯で絶対出てくるに決まってるじゃん。直香はふっと小さく笑った。
 それにしても面白みのない文章だ。まるで報告書。けど、仕事の事も任務の事も何も書いていない。書いてあるのは、食事の事だけ……? 成功、失敗と言う括りはきっと食材をなんらかのカモフラージュを施した上に食卓に出して、直香が食べたか食べなかったか……と言うことだろう。なんだか実験されているみたいでちょっと妙な感じだ。
(……林檎を使ったお菓子、ね)
 それでも、自分の好物を使ったものも作ろうと考えてくれてるのか。そう思うとなんだか嬉しかったり。
『×月×日 ◎
 友人から緑レシピ入手。下拵え。明日試行。
 ハーブの色と香りで、とは興味深い。早速資料を当たる。』
(げっ……)
 緑ってあの緑だよね。しかも、下拵えもう終わったのか。よくよく見ればこれは昨日の日付……つまり、今日緑のアイツが食卓に……!
 ああ、薬草図鑑を読んでいたのも、この為だったんだな。
 そこまで考えて、直香はふわりと笑みを零した。ここまでの日記、やはりこの謎の色暗号と料理の事、そして直香の事ばかりだ。面白みはない。ないけれど……。
 ぐるりと部屋を見回して、ふと思った。
(それでも過去も先も考えないようにしてた以前に比べれば進歩かな。部屋もだいぶ物が増えた)
 刹那主義の彼が持ち物を増やしている。それだけでも、当初と比べると大きな違いだろう。喜ばしいような、微笑ましいような。
 ちょっとだけニヤけていると、玄関で鍵のまわる音がした。
 きっと、彼が今晩の献立用に新しいピーマンやらなにやらを購入してきたのだろう。
 日記をぱたりと閉じて、元にあった場所へと戻す。
 最後のページの日付は昨日。
 ……今日の日付には『緑失敗』と書かれることを予言しておこうか?
 クスリと笑って直香はゼクの部屋から出た。
「おかえり、ゼク」

●面と向かっては言えないけれど
 精霊、イチカ・ククル氏は、とある昼下がり神人、天原秋乃氏の日記を偶然にも見つけてしまったのであった。
(っていうか、秋乃ってば日記つけてたんだ。ちょっと意外かも)
 そっと手に取って、特に悪びれる様子もなくページをめくるイチカ。
「どんなこと書いてあるのかなー」
 ざっと目を通してみようか。ページをめくっていく。他愛のないことも書いてあるけれど、とある日付のところでイチカの手が止まった。
『○月×日
 イチカと出会って、今日で1年。』
 日付は、ちょうど契約した日の日付。今年の。
「そっか、秋乃と僕が出会ってからもう1年経つんだね」
 あっという間だった。気付いたら1年経っていたのだという事実に、イチカは改めて早いなぁ、と実感する。様々な任務をこなしたり、デートをしたり、オーガと対峙したり、色々なことがあったっけ。
『初めてイチカとあった時は正直「頭のおかしい奴」だと思った。
 俺と契約したいとか、運命だとか、どうかしてる。
 あの時はこの先うまくやっていけるか自信がなかった。』
 アタマノオカシイヤツ。
(……ああ、秋乃ってばやっぱり僕のことそういう目でみてたんだ)
 わかってはいた。
 いつも笑顔で感情が悟られにくい自分と違って、秋乃はすぐ顔にでるからわかってはいたけど、こう改めて文字にしてみるとなんだかなあ……。イチカは少しだけがっかりしながらも、次の行を見てぱっと表情を晴れさせる。
『……けど、今はイチカと契約してよかったと思う。』
 僕と、契約して良かった? そう思ってくれているの? なんだか嬉しくなってくる。
 そして、次の行にその理由が綴られていて、えっ、と目を見張った。
『あいつが変な奴だってことに変わりはないけれど、頼りにはなるし、何より悪いやつじゃない。』
(……今は僕のこと見直してくれてるみたい?)
 胸がほわりと暖かくなる。少し、ほっとしたというか。
『ウィンクルムとしての俺のパートナーがイチカでよかった。
 これからもよろしく。』
 秋乃の文字でつづられた少し不器用な言葉。
 イチカは頬を綻ばせる。
「はは、秋乃ってばこういうことは直接僕に言ってくれればいいのに」
 素直に、嬉しい。こちらこそ、これからもよろしくね。
 別に日記を見たことを言っても構わないと言えば構わないが、言わない方が面白そうだ。そっと日記をもとの位置に戻し、イチカはいつも通りに振る舞うことにした。
 ――その後、ニヤニヤ顔のイチカ氏が秋乃氏に発見される。
「イチカ……あんた何か隠してないか?」
 イチカがへらへらしているのはいつもの事。なので、いつも通りだろうと言われればそんな気もするのだが、気持ち悪い。
 何か違うような……いつも通りのような……?
「別に何も隠してないよ?」
(正直に話したら怒られちゃうだろうし)
 イチカはへらへら顔のままさらりと返答する。
 だってそのほうがやっぱり面白そうだし。イチカに悪びれる様子は、ない。
(俺の気のせいなのかな?)
 秋乃は肩に耳がつくんじゃないかと言うくらい首を傾げる。
 ……ほんとに、気のせいなのかな……?

●君のために
 ロキ・メティスはリビングのテーブルに置きっぱなしになっていた一冊の日記帳を見つけ、小さく首を傾げた。
 自分の物ではない。のなら、同居している精霊、ローレンツ・クーデルベルの物でしかない。
「……ローレンツ、日記なんか書いてたんだな」
 そっと手に取る。
(まぁ書いてそうな雰囲気ではあるけど)
 ちょうど今は買い物に出ているからこの場にはいない。少しくらいなら見ても構わないだろう。少し後ろめたい気もするが、日記帳を開いてみてみることにした。
『○月×日
 ウィンクルムになってからずっとロキの住んでるマンションに俺も住まわせてもらってるけど非常に申し訳ない。
 といっても今から別の家を探すってのも大変だし……なんだかんだでロキと一緒に居たいなって思うから。ロキのことなんかほっとけないし。』
 さらりと綴られた「一緒にいたいな」という言葉にロキはフッと微笑む。
 そして、次に綴られた「ほっとけない」という文字列に眉を顰めた。
(ほっとけない……?)
 まあ、それは置いておいて。続きを読み進める。
『とりえず俺が出来ることをやっていこうと思う。
 どうもロキは子供時代に食べられなかった「手料理」に憧れてるみたいなので。
 少しずつ勉強していこうと思う』
 思い当たる節があってロキは少しだけ胸が痛んだ。
 幼少期、母の愛を受けられずに育ち、ロクに手料理なんて食べさせてもらえなかった。それ以前に、母は不安定だったのだ。こちらに向ける愛なんて余裕はなかったのだろう。仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、ロキが心身共に健康に育つために欲しかった『手料理』は、あの頃到底手に入る物ではなかった。だからこそ、求めてしまうのだろう。その頃に得られなかったもの。心の隙間を埋めるものを。
(確かに手料理っていうか家庭料理に憧れはあるが……そんなに露骨だっただろうか?)
 俺って全部顔に出ているのかな。それとも、態度に出ているのかな。そんな風に思いながら、続きに目を遣る。
『料理本とか美味しいものを食べたらレシピ聞いたり……
 まぁ料理の腕はまだまだなんだけど。ロキに美味しいものを食べさせてあげたいなぁ。』
 そんな風に思っていてくれたんだな、と胸が温かくなる。
「ローレンツの料理は好きだな。まだまだ不器用な所が手料理って感じがしていい」
 クス、と微笑みを浮かべ、ロキはローレンツが作った『手料理』を思い出す。それは、自分の為に手間暇をかけて作ってくれたもの。たとえ不器用だとしても、相手を思いやり、「美味しい」と言ってもらうため、喜んでもらうために作ったのだとわかるから。だから、多少味付けが拙くたって「美味しい」のだ。それに……。
「俺の為に覚えようとしてくれるのは嬉しい……」
 独り言が唇をついて出た。
 俺の為に。その嬉しさが、込み上げてくる。自分を見てくれている。認識してくれている。思いやる対象として気持ちを注いでくれているのだ。そう感じることが、ロキにとってどれだけ救いになる事だろう。
 照れ隠しのように、ロキは少しだけ膨れて見せた。
「というか俺のことが頼りないとでもいうような書き方だな。俺はローレンツよりはしっかりしてるつもりだぞ」
 コンピューター会社に勤め、立派に成果を出しているロキに比べ、ローレンツは出会った当初薬売りの旅人だった。何のために旅をしているのか尋ねてもやんわり濁して答えてくれなかったっけ。
「初めて会った時の服装とか酷かったしな……身を構えばそれなりに男前なんだから」
 さりげなく、褒めてる。
「優しいしいいやつだし文句なしだろう?」
 フッと笑って次の行へ視線を移す。
『ロキ細いからもっと太ってもいいと思う。』
 余計なお世話だよ、と笑い、ロキはその次の文言に絶句した。
『男なのにすごい色気ただよっててる時があるから危険。』
 危険。
「色気って……」
 苦笑した後、その表情がほんの少し曇る。
「まぁ……昔は“そういう仕事”もやってたからな……そう言うのがまだ抜けてないのかもしれない」
 小首を傾げるだとか流し目で見つめるだとか、ちょっとしたため息だとか、そんなところに色気がにじみ出ていると言われてはっきりと否定は出来なかった。
「こんな男が傍に居たら気持ち悪い、よな」
 確認するように、小さな声で零す。
 過去を知っても、一緒にいてくれるだろうか。
『……なんだかんだでロキと一緒に居たいなって思うから』
 その一文を何度もなぞるように眺め、ロキは日記帳を閉じて元あった場所に戻した。
 ……それでも、一緒にいたいと思ってくれるだろうか。

●その不安をかき消して
 精霊、瑪瑙珊瑚は神人である瑪瑙瑠璃の家に居候してからはや一年。いつも通り風呂に入り、タオルで髪をわしわしやりながらリビングに出てきた。さぁ、そろそろ寝ようかな。そう思いながらふとテーブルに目を遣ると、そこには瑠璃が使っている大学ノート。
(やしが、瑠璃ってルーズリーフで講義内容さ書き取らねぇよな)
 学生と言うとルーズリーフで講義内容を纏めて、管理を怠ったりして一枚なくしただのあの日のノートどこだっけだのやることが多い気がするが(珊瑚も例に洩れず)、瑠璃はその真面目な性格からかはなからルーズリーフを使わないできっちりと背綴じのノートを使うようにしていた。
「……何やさ、これ?」
 どの講義のノートかな、なんて開いてみるとそこには、日付。
 日記であることがすぐに分かった。さすがに人の日記を盗み見るのにはちょっと後ろめたさがある。
 珊瑚は瑠璃がいないか辺りを見回しながら適当にページを開いた。
『○月◎日
 ウィンクルムとして活動して1年が過ぎた。
 だが、今までやっていた任務を振り返ると自分の貢献は今一つ。』
(……そうかな)
 珊瑚は少し後ろ向きな瑠璃の言葉に眉を寄せた。
『時々思う。自分は本当にA.R.O.Aの役に立っているのか、と。
 そして気がつけば先輩や後輩にも嫉妬していた。』
 嫉妬?そんなの、いつもの任務や生活の中では微塵も感じさせないのに。
 瑠璃はどうしてしまったんだろう。心配で、次を読むのをやめられなかった。
『お婆様には「紳士の嫉妬は見苦しいですよ」と教えられてきた。
 それでも、心のどこかでは対抗意識を拭えない。』
 いつもクールで飄々としている瑠璃に、そんな感情があったんだ、と珊瑚は胸がギュッと締め付けられるような感覚に陥った。
(あいつも本当は苦しんでいたんだ……)
『結局、一日中考えた答えとしては
「自分に与えられた試練として乗り越える」という結論に至った。』
 その嫉妬や対抗意識を、“試練”と捉えて向き合って乗り越えていく。
 辛い胸の内を吐き出した日記の結論は、前向きに立ち向かうという決意。
 珊瑚はホッと胸をなでおろす。
『何より
 珊瑚もテンペストダンサーとして、日々腕を磨いていると思う。』
 続いた言葉は、精霊についての事だった。
 実戦に出る以上、戦いを通してやはり成長するものだろう。直接オーガと戦う物理的な“力”を持っているのは、現段階では珊瑚の方だ。瑠璃は精霊ほどの力は残念ながら持ち合わせていない。前線で戦うことが推奨されない以上、自分が役に立っているか不安になるのも無理はないのかもしれない。
『あいつと同じ場所で戦えるよう、足を引っ張る事がないよう、
 体も心も鍛えておかないとな。』
(瑠璃……)
 同じ場所で戦う。それは、瑠璃の気持ちだった。
 危険な戦場に珊瑚だけに向かわせたくない。
 珊瑚の足手まといになりたくない。そんな思いが溢れている。
『けれど、果たしてそんな日は来るんだろうか。』
 同じ場所で戦える日は、来るんだろうか。そんな不安をにじませた一文に、珊瑚は小さく首を振った。
(違う……違う……!)
 かたん、と背後で物音がした。水を飲みに来た瑠璃が、置きっぱなしにしてしまった日記をついでに取りに来たのだろう。テーブルと珊瑚を見比べ、わずか硬直する。
「あ、瑠璃。これは……」
 二人の間に沈黙が流れる。読んでしまった方、読まれてしまった方。何を言えばいいのか。沈黙を破ったのは珊瑚の方だった。
「……なあ、瑠璃」
 気まずそうに視線を逸らしていた瑠璃が珊瑚の目を見る。
「わんね、瑠璃がオレの事心配してくれたら、それでいいやさ。
 一緒に戦うだけがウィンクルムじゃないだろ?」
 日記の内容を見た、と言っているようなものだ。もう、言い訳はしない。
 でも、伝えなければいけないと感じた。
「……俺も、戦えたらって何度も思ったんだよ」
「オレは、ウィンクルムとして、パートナーとして瑠璃を守る。
 だから瑠璃は……オレを支えてくれよ?」
 今戦う力を持たない瑠璃が前に出る必要なんてない。
(俺に必要なのは、瑠璃の支えだから)
 瑠璃が無理に前に出て怪我するなんてことがあったら、絶対に嫌だ。
 もし、瑠璃を失ったら……。
「絶対……っ、一人にしないでくれよ!」
 絞り出すように、叫ぶ。瑠璃が一瞬驚いてびくりと肩を震わせた。
 どうしていいかわからず立ち尽くす瑠璃を、珊瑚はただ抱きしめる。
 共に在る、それだけでいいから。




依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月15日
出発日 06月20日 00:00
予定納品日 06月30日

参加者

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