ペア対抗!水鉄砲バトルへようこそ(瀬田一稀 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 事件は、その道中で起こった。

 タブロス郊外にあるすずらん通りは、豪華なものを売る店はないが、地域住民の生活にはなくてはならない商店街である。朝から夜まで賑やかな声が飛び交い、通勤途中、通学途中の人たちが昼食を買い求め、主婦が食材を探し、お年寄りたちが洋服を買いに来る。
 そんな場所の、朝の風景――。

「この馬鹿亭主! 何度言ったらわかるんだよ! 毎週火曜はゴミ出しの日だろ? なんで忘れちまうかねえ!」
「しかたねえだろ! 俺だって夜勤明けにゃぼーっとするときもあるさ。お前こそさっさと出しときゃいいだろうが!」
「あたしは朝から子供らのお弁当作って店の準備してるんだ! 忙しいんだよ!」
 通り全部に響き渡るような大音声。道を行く人が何事かと足を止める中で、ハチはのんびり紫煙を吐いた。
「まーたパン屋のトミさんか。あそこの喧嘩はにぎやかだねえ」
 朝の散歩の途中である。ハチもこの商店街で店を始めてずいぶん長い。気はいいが、少々血の気の多い二人の顔を思い浮かべて、にやりと笑う、その直後。

 ガシャーン!

「うわっ、窓ガラス越えて鍋飛んでるわ……今日はひでえな。でもこれで……」
 ハチは、嬉しそうにパン屋へ向かった。ノックもせずにドアを開け、狭い店の奥へと進む。家族の場となる台所、そこにひょこりと顔を出した。
「おーい、トミさん、喧嘩はやめろや」
「ハチさん! だってよお、うちの母ちゃんが」
「は? あたしのせいだって言うのかい?」
 ずんぐり小太りの女房が旦那をじろりと睨みつける。しかしハチはにやにやと笑うばかりだ。それを見、まさか、とトミが自分を指差す。
「俺んちで、決定か?」
「ああそうさ」
 ハチはにんまりと口角を上げた。
「喧嘩の夫婦が一定数クリア! 銃撃戦の開催だ」
 ハチは人さし指と親指を立てた右の手で、バーン、とトミを撃つ真似をした。
「前のバトルからひと月振りか。今回は案外早かったな」

 ※

「……ってことだが、通りすがりのあんたらが、ここに居合わせたのもなんかの縁だ。参加していきなよ。すずらん商店街恒例、夫婦対抗 水鉄砲使用 銃撃戦。え? あんたらこの先の公園に行く予定だったのかい。ああ、たしかにあっちじゃエアガン使用の射撃大会&屋台があるな。そっちへの参加がA.R.O.A.からの依頼だった、と。なんだい、あんたらA.R.O.A.のウィンクルムかい。そっかそっか、でもやめとけ。動かない的を撃つより、動く的撃つ方が楽しいから。ってか、なにより俺があんたらと遊びたいんだよ。この商店街でウィンクルム相手に撃ちあうなんて、そうできるもんじゃねえからな。すずらん銭湯も開放するし。どうだ? やってかねえか?」

解説

あなたは別の大会に参加しようとしていたのに、すずらん商店街のハチに捕まってしまいました。
すずらん商店街では、喧嘩をする夫婦が一定の数になると、その夫婦を集めてストレス解消……もとい、互いに協力して夫婦円満になるために、日常品をつかった銃撃戦(水鉄砲使用)を行っているようです。

●ルール
各ペア1人が水鉄砲を、もう1人が盾の代わりになる日用品を持って、2人で攻撃と防御を行います。
相手に怪我をさせないかぎり、何をしてもオッケーです。ただし良識は守ってください。

今回の商店街チームの参加者は以下の通り。
ハチ(強いので個人参加) 果物屋(まな板)
トミ夫婦 パン屋(オーブンの板)
ビル夫婦 肉屋(子供用の傘)
ヤン夫婦 酒屋(バケツ)

※ハチとトミ夫婦は必ず参加しますが、その他夫婦についてはPL参加数と数を合わせるために、参加を調整します。
※カッコ内の物は防御に使うメインの物です。

参加費はかかりません。
ウィンクルムのどちらか片方に水鉄砲を、もう片方に盾(使うものを指定してください)を持たせてください。
銃撃戦の後は商店街にあるお風呂屋さんがお風呂を提供してくれます。入る入らないはもちろん自由です。
お風呂屋さんでは、注文すれば食事をとることもできます。
メニューは和風定食のみで100ジュールです。(○○定食とご希望をお書きください)

※なお、お風呂の描写は性的なイメージを伴う内容はお受けできません。ご注意ください。


ゲームマスターより

お遊びの銃撃戦に参加しませんか?
その後は銭湯でのんびりお風呂につかれます。
わーっとさわいでのんびり休んで、ウィンクルムの絆を深めましょう。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  夫婦対抗の銃撃戦かぁ、変わってるね
でもラセルタさんがあんなに乗り気になるとは思わなかったな
…ちょっと、いやかなり悪い顔をしているのが気になるけれど

俺は有無を言わさず持たされた傘で防御担当
背後で周囲に目を配りつつ、ラセルタさんに付いていく
流石ジョブにしているだけあって水鉄砲でも様になるなぁ…っと
大立ち回りをするのは良いけど足元が滑るから気を付けて…!

ラセルタさん湯船から動かない…話を聞いてあげて、それとなく宥めよう
ふふ、案外子供っぽい所があるんだなぁ
さすがに可愛いとは本人に言えないけれど

髪、ちゃんと乾かさないと駄目だよ。ほらここ、座って?
帰りは定食を食べて帰ろう、何ならデザートも食べていいよ


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  「防御を担当しよう」と、ワンタッチ傘を2本手にする
*1本はベルトに刺す

ハチ氏にはいつもどの程度で終わるのか、勝利条件はあるのか聞く
当たったらリタイアなのか30秒離脱なのかでやり方は変わるし、バトロワ方式なのかチーム戦なのかでも違ってくるだろ
その辺も考慮に入れて、出来るだけ効率的に行動したい
…と考える俺ってもしかして変わってる?(苦笑

建物や自動車等の遮蔽物に隠れて様子を伺う

ランスに射撃にあわせて傘を盾とする
急に広げて驚かせたり、盾を使ってぐいっと押す等の攻撃的な補助も試みる

2本目があるから、傘が1本ふっ飛ばされても問題無いよ(笑

いい汗かいたら風呂でのんびりしたい
寝てしまわないようにしなくてはな…



アイオライト・セプテンバー(白露)
  水も滴るいい男さんがいるって聞いたから、パパ引っ張って来ちゃった☆
盾役があたしね。立て看板を商店街から借りれないかな? これを使うの。でも、重いなあ。あたし、かよわいからこんなの振り回せるかな。それに正直パパより他のイケメンさんかばいたいような。あたししっとり濡れたイケメンさんが見たいな、だからパパ、相手の洋服狙ってよ。
お風呂は、あたし、おんなのこ(重要)だから女風呂っていいたいけど、パパが寂しがるから男風呂に入ったげる。でも恥ずかしいからバスタオルで胸まですっぽり覆うの(超重要)。ちゃんと新しい「純白のブラとショーツのセット」付けてきたんだよ。かわいいでしょう、キャー-(>▽<)(最重要)



相良・光輝(ライナス・エクレール)
  うむ、たまにはこういう楽しい仕事もいいかな
坊主が盾として傘を持ち、俺が水鉄砲を持つかな

「というわけで坊主、俺の事しっかり護ってくれな?」
傘を渡して満面の笑みで言ってやるかな
とりあえずウィンクルム同士は仲間って事でいいのかな、それなら仲間と離れず相手の死角に移動できるよう立ち回るかな
ま、あくまで楽しむだけだ、そう切羽詰らず流れで遊ぶかね

終われば、食事より温泉だねぇ、坊主の身体も久しぶりに俺が洗ってやるかな、あいつ毛深くて大変だろうからねぇ
帰るまでの時間ずっと、坊主と風呂でのんびりしてるさね、歳も取ると身体がすぐガタ来てやだねぇ

坊主が離れるようならわざと近づいていくかな


 白い雲は青空に浮かんだまま動かない。陽気は温か。すずらん商店街は今日も平和そのものだ。

「どうだ、参加して行けよ」
 ハチの誘いに、ラセルタ=ブラドッツはにやりと片頬を歪めた。
「動かない的には飽き飽きしていた所だ。プレストガンナーと遣り合おうとは笑止千万。返り討ちにしてやろう」
 たいしてハチは、ラセルタを見上げてじとりと睨む。
「ほう、言ってくれるじゃねえか。本物の銃と水鉄砲じゃ使い勝手がまるで違うぜ。たかがおもちゃと思うなよ」
 侮る笑みと、対抗心の燃える睨みの間、羽瀬川 千代はへえ、とのんきな声を上げた。
「夫婦対抗の銃撃戦かぁ、変わってるね。で、俺たちは防御する物を探さないといけないんだね?」
「ああそうだ。商店街まわって、バトルするから貸してくれって言えば誰でも貸してくれるさ。行って来いよ。こっちはその間にメンバーを集めとくから」
 トミが言う傍らでは、すでに女房が「じゃああたしは肉屋のビルさんと酒屋のヤンさんのとこに行ってくるよ」と背中を向けている。
「おい! なんでお前が行くんだよ。弁当俺に作れってか?」
 トミの横でハチが苦笑とともに、ウィンクルム一行を見回した。
「盾見つけたら、またここに集合な。水鉄砲はこっちで用意しとくからさ」


 一同が再びパン屋に戻ったのは、それから十五分後のことだった。ハチとトミ夫婦はまだ戻っていないらしい。店の前でしばらく待つことにする。
「ね、水も滴るいい男さんがたくさんになるかな」
 アイオライト・セプテンバーは青色の瞳をきらきら期待に輝かせ、パートナーの白露を見上げた。
「パパ、盾役があたしね。結局いいもの見つけられなかったけど、この立て看板、商店街から借りられないかな」
 アイオライトは、道の隅に置いてある『すずらん商店街』の木製看板を指し示す。
「……難しいんじゃないですか」
「借りるのが? それともあたしが持つのが?」
「どちらもですよ」
「試してみる……うわ、重いなあ。あたし、かよわいからこんなの降り回せるかな」
 アイオライトが振り返る。しかし白露は答えずに、別のことを呟いている。
「お風呂があると言っていましたね。アヒル隊長の持ち込みはできるんでしょうか」
 ここに隊長を持参しているのか、とは誰も尋ねない。しかし水鉄砲バトルに興味がなさそうだとは、誰もが思った。そんな彼の隣で看板に向かうアイオライトが無謀にもいじましくも見え、千代は華奢な肩にそっと手を置いた。
「そんな小さな体で無理しないで」
「でたな年寄りおせっかい」
 言いながらラセルタは「それよりこっちだ」と傘を押し付ける。
「ラセルタさんがこんなに乗り気になるとは思わなかったな。……ちょっと、いやかなり悪い顔をしているのが気になるけれど」
 思案顔の千代をよそに、のんびり周囲を見渡しているのは相良・光輝だ。
「うむ、たまにはこういう楽しい仕事もいいかな」
 そこで相棒のライナス・エクレールを一目。
「坊主が盾として傘を持ち、俺が水鉄砲を持つかな。……というわけで坊主、俺のことしっかり護ってくれよな?」
 相良は満面の笑みで、ライナスに傘を渡した。ライナスはしばらく相良をじっと見つめていたが、渋々の体で傘を受け取る。
「俺も攻撃したかったけど、相良がそう言うなら仕方ないな」

「防御を担当しよう」
 アキ・セイジはそう言って、ワンタッチ傘を手に持った。一本はそのまま手に、もう一本はベルトにさして、準備は完了だ。
「俺よりランスの方が身体能力は高いだろう。なるべく合わせるようにするから、ランスは自由に動いてほしい」
「へえ、俺についてこれるのか? 普段勉強ばっかしてるのに」
 ヴェルトール・ランスは「意外だ」と少々驚いたような顔をした。
「努力する」
 セイジは短く答え、少し考えるようにして付け加えた。
「ランスのテイルスとしての勘や、超感覚の様なものに期待しているんだよ」
「俺のこと、認めてくれるんだ。昔はそんなこと言わなかったのにさー」
「人生諦めが肝心だと言ったのはお君だ」
 そんな会話をしているときだった。
「待たせたな」
 飄々とやって来たのは、ハチを先頭としたすずらん商店街の一行だ。ハチはウィンクルムたちを見るなり、そりゃないだろうという表情で頭を左右に二度振った。
「男どもみんな傘持ってるってどうなんだよ。ったく、貧相な想像力だねえ。こんなんじゃ後ろで看板相手に踏ん張ってるお穣ちゃんの方がよっぽど立派ってなもんだ」
「お穣ちゃんってあたし?」
 がちゃがちゃとアクセサリーを鳴らして、アイオライトが振り返る。
「そうだよ、あんた以外にいないだろうが。でもな、その看板お穣ちゃんには重いと思うぜ。……っと、そうだ、これ貸してやるよ。ほら、これなら軽いし降り回せる」
「まな板? ほんとだ、軽い。ありがとう!」
「すみません、アイがご迷惑をかけます」
 喜び受け取るアイオライトの隣で白露が深く頭を下げた。そんな白露の手を引いて、アイオライトは「ねえパパ」と呼びかける。
「あたししっとり濡れたイケメンさんが見たいな。だからパパ、相手の洋服狙ってよ」
 無邪気というか、元気な言葉に苦笑するのは商店街メンバーである。
「最近の女の子はなんていうか、活発だねえ」
 トミの女房がはっはと笑う。その余韻が消えぬうちに、さて、とハチが手を打った。
「さっさと始めねえと店の開始時間が押しちまう。そろそろ始めるか、すずらん商店街恒例の、水鉄砲バトルをよ!」
「ちょっと待ってください」
 制止をかけたのはセイジである。
「その前にこの大会の平均所要時間と、勝利条件を教えてください。水が当たったらリタイアなのか、それとも30秒離脱かでやり方は変わるし、バトルロイヤル方式なのかチーム戦なのかでも違ってくるでしょう。その辺も考慮に入れて作戦を組みたいので」
 セイジの台詞に、ハチははあああ、と特大のため息を漏らした。
「兄ちゃんよ……」
「はい?」
「これは! そんなこと深く考えねえ遊びなの! いいか? 喧嘩した夫婦が『ああうちの旦那もなかなかかっこいいじゃない』『俺の嫁さんこんなに真剣に俺のこと守ってくれて』って仲直りできりゃいいんだよ。びっしょびしょに濡れても負けはねえし、離脱もねえ。チームとかも関係ねえ。互いに気が済むまで撃ちあうだけよ! ……ま、お前らが自分の力に自信がないってなら、チームを組んで狙い撃ちしてきてもいいけど?」
 意地の悪い笑みに、露骨に不快を見せたのはラセルタである。
「素人が」
 短い言葉を吐き捨てる。
「こっちにはプレストガンナーが二人もいるんだ。侮るな」
「……でも、もう一人のガンナーはやる気なさそうだけどね」
 千代は白露に視線を向けた。そこにはどこからか取り出したアヒル隊長を、再び荷物にしまいなおしている姿があった。
「ほら、お風呂が相当楽しみみたいだよ」
「……なんなんだ、風呂よりも戦いだろう!」
「はーい、俺同意!」
 ランスが明るく大きく手を上げる。
「ま、俺も同意だな」
 相良が水鉄砲を手に持ちハチに聞く。
「どんな言い分でもいいけど、とりあえずウィンクルム同士は仲間ってことでいいのかな」
「余裕かましたこと、後悔させてやるぞ」
「ラセルタさん、それじゃ口調がまるきり悪役だよ」
 千代はひきつった笑みを浮かべたが、当人は気にする様子はない。
「要は気のすむまで撃ちあうってことだ」
 ハチはそう言って、水鉄砲を天高く持ち上げた。
「よし、今度こそバトルスタート!」
「おう!」
 一同の高い声の中、ばりん、とライナスが飴を噛み砕く音がした。


「パパ、プレストガンナーだから水鉄砲でバンバンは得意でしょ? 作戦はね、まず強い人を狙うっていうのはどう? それだと、ハチさんになるのかな。バトルロイヤルの王道だよね。頑張ってくれたら敢闘賞で牛乳買ってあげる」
「牛乳は確かに美味しいですけど、つられはしませんね」
 そう言いながらも、白露が狙うはハチである。ペア対抗バトルに唯一単身で参加しているハチは、よほど余裕があるのだろう。開始の号令と同時に散った他のメンバーとは違い、とくに警戒する様子もなくたたずんでいる。
「俺狙い?」
「当然」
 答えたのはラセルタだ。武器として銃を持つときさながらに、ハチの眉間どまんなかに狙いを定めている。ハチが何を言う間もない。ラセルタの指が引き金を引き、じゅっと水が飛び出す。それはまっすぐに狙い通りの場所に向かう。
 しかし、だ。
「ハチさん!」
 呼び声とともに、宙に舞う水を青色のバケツがすくいとる。
「それならこれは!」
 今度狙うのはハチの腹から下だ。しかしそれもまた、ばしゃりとオーブンの板に跳ね返されて、返礼とばかりに水が飛んでくる。
「ラセルタさん!」
 千代が開いた傘を両手に持ち、ラセルタの前に飛び出す。ぱしゃん! 水は傘に跳ね地に落ちて、飛沫が千代の足を濡らした。それに千代が気をとられた一瞬、ハチは再びラセルタに鉄砲を向けた。しかし横から飛んできた水が、伸ばしていたハチの腕を濡らす。白露だ。
「やる気ねえんじゃなかったのかよ」
 ハチは白露をねめつける。
「確かに魅力はお風呂ですけど、一応プレストガンナーですから」
「一応ってパパは立派なガンナーだよ! っていうか服狙ってよ服!」
 アイオライトがぶんぶんとまな板を降り回す。それを無視してハチはラセルタに向かった。
「なかなかやるな、兄ちゃん」
 ラセルタが口の端を上げる。
「だけどな、俺らは月に一度はやってるからな。慣れてるんだよ」
 頷く嫁一同を背中に負ったハチと、ラセルタが睨みあう。ちなみに旦那たちはラセルタと白露を狙いはしない。ただまわりから見ているのみだ。
「男たちより女が強いのか」
 建物の陰から様子を窺っていたセイジは、二本の傘を左右の手に握った。
「嫁さんたちをなんとかしないと、いくらプレストガンナー二人でも厳しいかもしれないな」
「旦那を狙えば、そっちに動くんじゃないか?」
 うむ、と、ランスの言葉に眉を寄せて考えるそぶり。
「そうかな……旦那は放っておいてハチの守りに徹しないか?」
「そりゃやってみないとわかんないだろ。ほら、行くぜ!」
 ランスは対峙する人の間に飛び出した。期待したテイルスの動きで道を駆け抜け、ハチではない、他の亭主たちに向かう
「ほら、ぼーっとしてるなよ!」
 鮮やかな色の鉄砲で、まず狙うは酒屋のヤン。
「あんた!」
「行っちゃダメだよ奥さん! 今回はグループ戦なんだから!」
 トミの妻が、ヤン女房の手を引いた。その隙に、ラセルタと白露がハチを狙う。じゅっ!しかし今を守ることができるのはビルの女房のみだ。トミとヤンの妻は間に合わない。子供用の傘が開かれる。ばしゃり! 当たったのは……。
「フェイントとは、やってくれる。誰だ、隠れたところから狙ったのは」
「俺だよ」
 濡れたハチが振り向いた視線の先には、にっこりと笑った相良の姿があった。


 ランスはトミとヤンの間に突っ込んで行った。まっすぐに駆けながらヤンを撃つ。防御する人のないヤンは水を避けるすべがない。
「うわっ」
 鉄砲を持たない左手でガードをしたが、上半身は水浸しだ。濡れた体の後ろから、トミがランスに標準を合わせたが、その前にはセイジが立ちふさがった。セイジは、閉じた傘を持った腕をまっすぐにのばした。睨みあうトミとセイジ。撃つのが先か、傘を開くのが先か。
 先に動いたのはセイジだった。
「ランス!」
 叫んで右手、ワンタッチで開いた傘をトミに向ける。ビニール部分でトミの体を押し、なおかつ左手の傘でヤンの攻撃を遮った。セイジの背後でランスが高く跳び上がり、トミとヤンを狙う。
 しかし、それを目で追ったのが、セイジの間違いだった。留守になった体の横にビルが向かってくる。ランスが気付き、ターゲットをトミとヤンの二人から、ビルへと変える。
「やべっ!」
 気づいたビルが身を引くのと、ランスが引き金を引くのが同時。じゃっ! ビルはぐっしょりと水を浴びることになった。
「つめてっ」
 びしゃびしゃになった腕を持ち上げため息をつくビルの元に「あんたっ!」と走り寄るのは妻である。
「あーあ、どうするんだよ。風邪がぶり返すよ!」
「なんだい、ビル風邪ひいてたのかい」
 トミは鉄砲を持っていた手を下ろして聞いた。
「そうだよ、実は昨日まで微熱があったんだよ。でもバトルは参加するって言うものだから」
「そりゃだめだ。ビル夫妻は離脱だ離脱! さっさと家帰って大事にしな」
「余計な心配かけてしまったようで、却って悪いな」
 いいってことよの返事に背を押され、ビル夫婦は帰って行った。それをなんとなく見送る合間、セイジがランスに並んで言う。
「俺が守るはずだったのに」
 睨まれランスは首をすくめたが、セイジの指が狼の耳の後ろをかくものだから、減らず口よりも笑みがこぼれる。
「なんかこっちは興がさめたなあ」
「でもあっちは違うみたいだぜ」
 トミとヤンの言葉に、ランスとセイジもが『あっち』を見る。そこにはハチと、彼に向かうラセルタ、白露、相良がいた。
「ハチさん一人に三人ってのはどうなんだ?」
「それだけハチさんが高く買われてるってことじゃないのか?」
 ハチはにやりと笑う。
「おうおう、楽しいじゃねえか。さすがプロのガンナーさんってか?」
「そんな事言ってられるのも今のうちだけだ」
 まるで嘲笑の笑みで、ラセルタが言う。
「その自信はどこから?」
 彼の背後で千代が問う。ラセルタはごく小さな声で答えた。
「補給の水に石鹸を砕いておいた。奴はそのうち足や手元がおぼつかなくなるはずだ」
 聞こえたのだろう。相良が「やるねえ」と楽しそうに呟く。
「じゃあ時間稼ぎは俺がするかな。坊主!」
 相良はハチに向かって走り出した。ハチが鉄砲の標準を合わせようとするのを、ひらりとかわしながら、立っているハチの周りをぐるぐる回る。
「すばしこい奴!」
 びゅ、びゅ、と飛び出す水を、ライナスがガードすべきなのだが……。
 ぴしゃり。相良の肩が濡れる。
「こら、坊主! ちゃんと防御の役目はたせ!」
「だってちょっとは濡れた方が楽しいだろ?」
 くるくる、くるくる。手を上げ足を曲げ、まるで曲芸師の様な相良の動きに翻弄されて、ハチの射撃が乱れ始める。
「そろそろか」
 ラセルタがハチに水鉄砲の口を向ける。察した相良がラセルタの背後へと向かい、ハチとラセルタは一騎打ちだ。
「覚悟しろ」
「そっちこそな、ガンナーの兄ちゃんよ」
 ざり、とラセルタが一歩足を踏み出すべく足を上げる。ハチが指を引く――ハチの方が早い!
 その時だ。
「あぶない!」
「おいっ!」
 千代が、ラセルタの前に飛び出した。じゅっと傘に水が当たり、二人は濡れることがない。しかし踏み下ろしたラセルタの足が、千代の足を踏んでいる。
「うわあっ」
 助けようと飛び差したセイジとランス二人の前で、千代とラセルタは手足をからませるように、地面に派手に転がった。
「おいおいガンナーさんよ」
 呆れるハチ。その顔面に、水が、ぴしゃり。
「やったあ、パパ!」
 当てたのは、白露であった。


「……あと少しで仕留められた! は? 別に悔しがってなどいない! 勝敗に拘るのは当たり前だろう。年寄りだから平和ボケしているな?」
 銭湯の脱衣所に響く声は、ラセルタのものである。のどかな脱衣所に散らばる怒りのオーラを、まあまあとなだめるのは千代だ。しかし彼の行動が敗因の一つであるから、ラセルタの怒りが収まるはずなどない。
「賑やかだなあ」
 アイオライトはちらりと視線を向けたが、それだけだ。正直今はそれどころではない。他人のことなどどうでもいいくらいの心境になっている。
「あたし、女の子だから女風呂って言いたいけど、パパがさみしがるから男風呂に入ったげる」
 そう言って白露と同じ脱衣所に来たのはよかったが、やっぱりどうしたって恥ずかしい。
「でも、でもねパパ、『純白のブラとショーツのセット』つけてきたの。かわいいでしょう? ほら、新しいインナー見てみてーっ!」
 複雑な乙女心で白露にのみ公開したが、対する白露は無反応。アイオライトは首をかしげた。
「やっぱり『セクシーランジェリーセット・ブラック』の方が良かった?」
「そういう問題じゃないんですけどね」
 白露は、ため息とともにアヒル隊長をアイオライトの胸に押し付ける。
「そういう知識は一体どこで見につけてくるのか……ほら、湯船に入りましょう。みんなもう入ってしまいましたよ」
「え? 待ってよぉ! あたしバスタオル巻かないと恥ずかしいんだから、パパ!」


「いい湯だねえ」
 湯船に肩までつかって、光輝はほうっと天井を見上げた。楽しんで体を動かして風呂でのんびりできるなんて最高だ。
「坊主の体もあとで洗ってやるかねえ……あいつ、毛深くて大変だろうから」
 ぼんやりそんなことを考える。しかし湯にざばりと波が生まれたことにより、それが口に出ていたことを知った。波の源はライナスだ。
「どこいくんだ? 坊主?」
「いや、どこって……」
「なんで離れてくんだ?」
「だって、恥ずかしいだろ」
「ほう……」
「うわ、来るなよ!」
 来るな来るなと、ライナスは相良に湯をかけ逃げる。しかしそれをものともせず相良はじりじりとライナスに近づいて行く。
 その騒ぎにはっとセイジは目を開いた。
「……しまった、うとうとしていた」
 隣を向くと、そこにはこちらを向いてニヤニヤしているランスの姿がある。
「……なんだ、その顔は」
「いや、よく寝ているなと思って。俺に合わせるとか言って動いたから、疲れたんだろ?」
「……野生狼だからな、お前」
「野生って……ま、狼は狼だけど!」
 毛で覆われた耳をひくりと動かし、ランスは大きく伸びをした。
「ああ、広い風呂って気持ちいいな。なんかテンション上がる気がするよな」
「暴れるなよ」
 ざばりと腕を上げるセイジに、まさか、とランスは笑う。それを微笑ましく見ながら、千代は一メートルほど先で動きを静止しているラセルタに視線を向けた。
 ――ラセルタさん、さっきからずっとあのままだ。負けたことがそんなに悔しかったのか。話を聞いてあげて、それとなくなだめよう。ふふ、案外子供っぽいところがあるんだなあ。あ、それとも今はまだ落ち着かないだろうから放っておいて、あとで髪を乾かしてあげようかな。長いし、大変そうだ。
 むっつり不満顔のラセルタは、まるで駄々っ子のようだ。さすがにかわいいとは言えないけれど、と千代は口の端だけで笑う。
 そして入浴後、脱衣所で。予定通り、千代はラセルタの髪に手を伸ばした。
「ちゃんと乾かさないと駄目だよ。ほらここ、座って?」
 指示された場所に座りながら、ラセルタは遠い昔を思い出していた。他人に髪を触られるのは何年振りだろう。まあいい。へまはしたが、防御の功績分、少しは千代を労わってやろう。
 自身がされているように、ラセルタも千代の髪に触れるべく指を伸ばす。しかし千代はすっと見を引いてしまう。
「あの、ラセルタさん。帰りは定食を食べて帰ろう。なんならデザートも食べていいよ」
「……何故逃げるんだ? 顔も赤いぞ」
「いや、何故って言われてもね」
 千代はごにょごにょとごまかしたあとは無言のまま、ラセルタの髪をすく。
 ひょっとして、褒められ慣れていないのか?
 ごおっと鳴るドライヤーの音に混じって、ハチの声が聞こえる。
「お、白露の旦那。あんた牛乳好きなんだろ? 差し入れ持って来てやったよ。俺に勝ったのはあんたが久しぶりだからな。セイジの兄ちゃんはコーヒーか? そのコーヒーメイカー、調子悪いんだ。ボタン二度押ししねえとうっすいからな。気をつけろよ。いっやあ、楽しかったわ、あんたらとやるの。今度は買い物でも来てくれよな。すずらん商店街一同、歓迎するからさ」



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 03月21日
出発日 03月28日 00:00
予定納品日 04月07日

参加者

会議室

  • [4]羽瀬川 千代

    2014/03/27-23:43 

    羽瀬川 千代です、宜しくお願いします!
    もうすぐプランの締め切りですね…何とか提出出来たけどちょっとヒヤヒヤしました。
    結局良い盾が思いつかなくて、俺も人気の傘に便乗するつもりです。
    銭湯の大きなお風呂、楽しみですね。

  • [3]アキ・セイジ

    2014/03/26-12:26 

    アキ・セイジだ。よろしくな。
    運動して風呂にはいるという贅沢な休日になりそうだ。
    俺が盾、相棒が水鉄砲だと思う。
    盾はやはりワンタッチ傘が人気なのだと思ったよ。

  • [2]相良・光輝

    2014/03/26-01:07 

    たまにはこうした日常感のあるのんびりしたもんもいいもんだ
    相良ってもんだ、よろしく頼むよ。

    うちは俺が水鉄砲、身軽な坊主に盾・・・ふむ、季節柄ジャックオーランタンは微妙だろうし普通に傘でも渡してやるかね。
    あぁもちろん、軽く運動しての風呂が楽しみだねぇ

  • おじゃましまーす。アイだよっ☆彡
    うちのパパの設定がお風呂好き&プレストガンナーだったもので、つい来ちゃった。
    というわけで、戦闘……じゃなかった、銭湯たのしみ♪

    盾をなんにするかすらぜんぜん決まってない、ノープランだったりするけど。


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