【悪夢】あなたを助けたい(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「助けてください!!子供達がっ……!!先生が……!!」

 悲痛な悲鳴のような電話がA.R.O.A.本部にかかってきたのは、夕刻のことだった。
 電話の主は、ついさっき退勤していったA.R.O.A.職員の女性。
 ほとんど恐慌状態あるものの、整理された情報を順序だてて報告する彼女。
 きっと、A.R.O.A.職員としての使命感が彼女を支えているのだろう。
 彼女からの報告は下記のようなものであった。

 場所はA.R.O.A.近くにある小規模な保育園。
 子供を迎えに行ったところ、園内で子供達と保育士が倒れていた。
 倒れているのは、8ヶ月の男児、3歳女児、4歳男児、25歳女性保育士、の計4名。
 それぞれの側にはギフトボックスが落ちており、オルロック・オーガの仕業であると考えられる。

「どうか……どうか早くウィンクルムを!!」

 涙声の彼女に、電話を受けた職員は返す。

「分かりました、できるだけ早く手配しましょう」


 そして召集されたウィンクルム達が現場へと急行する。

 現場となった保育園では、倒れた3人の子供達と保育士、
 そしてその側で泣きはらした目をした職員の女性が待っていた。
 派遣されてきたウィンクルム達を見た職員は、青白い顔にほんの少しだけ安堵を浮かべる。

「どうか……うちの、いえ、みんなを助けてください」

 ギフトボックスは4個。被害者も4人。
 つまりそれぞれが別の悪夢の中に捕らわれてしまっているようだ。
 オルロックオーガが夢の中で被害者を食べてしまったら、被害者は石になってしまう。
 急がなくてはなるまい。
 あなた達は、ウィンクルムごとに別れて、それぞれの被害者の夢の中に入ってゆくことにした。

 なお、各被害者のプロフィールと夢の内容は下記の通りとなる。



●8ヶ月男児

 名前:ロラン
 性格:元気でやんちゃな赤ん坊。ママが大好き。

 悪夢:薄暗い地下牢のような空間で、たくさんの掃除機がゴウゴウと音を立てながら走り回っている。
    ロランによく似た赤ん坊が、現場にいた職員に良く似た女性に抱かれて号泣しているが、
    女性のほうは、赤黒く光る目で、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。


●3歳女児

 名前:アリシア
 性格:ちょっとおてんばな女の子。アニメの『魔法少女プリティ・アリー』が大好き。

 悪夢:古びた洋館にある、バラが咲き乱れる温室。外では雷が鳴っている。
    温室の中にはアリーとセルゲイ、動く骸骨の3人(?)がおり、骸骨がカチカチと歯を鳴らしている。
    セルゲイは怯えたようにアリーの腕を掴んでいるが、
    それが妨げとなって、アリーは魔法少女に変身することができない。 


●4歳男児

 名前:セルゲイ
 性格:大人しく引っ込み思案な男の子。優しい性格で、絵本を読むのが好き。

 悪夢:洋館の図書室。大学のローブに身を包んだ男がはしごの上で本を抱えて座っている。
    はしごの下では、大人たちが口々に「本ばかりでは強くなれない」と叫んでいるが
    突如現れた一人の男が、周りの大人たちを突き飛ばしながら言う。
    「本を読んでいても良いではないか。邪魔をする者はこうしてしまえ」
    

●25歳女性保育士    
 
 名前:カズミ
 性格:とても優しく、保護者からの信頼も厚い保育士。趣味は……ヒ・ミ・ツ

 悪夢:洋館の美しい部屋で可憐な乙女マリアが、その執事に紅茶を淹れてもらっている。
    部屋のドアが激しくノックされ、男の声が「ここを開けなさい」と怒鳴る。
    お父様がまた結婚を奨めるのだと愚痴を言うマリアに、執事が怪しく嗤う。
    「わたくしがおります。お嬢様の側に、永遠に……」



 どの悪夢の中でも、時計は外の時刻と同じ午後4時を指しており、午後6時で夜となる。
 夜となれば、たちどころにオルロックオーガが被害者の魂を喰らってしまうだろう。
 つまり2時間の間に被害者とオルロックオーガを見つけだし、オルロックオーガを倒さなくてはならない。
 
 オルロックオーガは「お前がオルロックオーガだ」と指摘すれば、姿を現し襲い掛かってくるが
 場合によっては、指摘するより先に被害者をオルロックオーガから引き離し、保護する必要もありそうだ。
 その際には、悪夢がより酷い悪夢になってしまわぬよう、配慮をする必要があるだろう。

解説

今回は各ウィンクルム個別でのエピソードとなります。
被害者の人数よりも少ない人数しか集まらなかった場合には、有志で複数の被害者を担当してください。

●目的
 各被害者の夢の中でオルロックオーガを見つけ、倒してください。
 姿を現したオルロックオーガは、ウィンクルムであれば油断さえしなければ容易に倒せる程度の強さです。

●悪夢
 夢の中に入るまで、悪夢の内容は分かりません。
 ただし、夢の中に入った直後に神人も精霊も、一度だけ自分が望むものに姿を変えることができます。

●オルロックオーガ
 被害者に悪夢を見せるオーガ。
 悪夢の中で何かに化けていますが「お前がオーガだ」と指摘をすることで、姿を現して襲ってきます。
 ただし、指摘をする前に午後6時を迎えると、たちどころに被害者を喰らってしまいます。
 絶対に午後6時までにオルロックオーガを見つけて倒してください

●お願い
 被害者達は悪夢にうなされています。
 悪夢の内容がより酷くなってしまわぬよう、ご配慮をお願いします。
 悪い例)「どれがオルロックオーガかは、倒してみれば分かる!!」と登場人物を次々に倒す

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます。

推理自体は難しくありませんし、オルロックオーガも強くはないので、
被害者の心身の安全をどう確保するのか、そこがそれぞれの知恵の絞りどころかと思います。
皆様が何に変身して、どんな風に被害者を救うのか、楽しみにしています。

ご参加、お待ちしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  ロラン君担当
こんなに小さいのに悪夢にうなされて…早く助けてあげないと

夢の中
あの人、さっきの職員さん?でも表情が…
それにあの掃除機何?

ええ、ロラン君を引き離さないと
(ロラン君のママに姿を変えて)

いつもお世話になってます
ロランを迎えに来ました
ロラン、待たせてごめんね、さあ、一緒におうちに帰りましょう

ロラン君に向かって手を伸ばして、抱っこできそうならそのままこちらへ
職員さんが阻んでくるなら
どうしました?早く私の可愛い坊やを返してくださいな
と微笑む
アルの行動後に彼女から乱暴にならないよう気を付けてロラン君を奪い取り
怖かったわね、もう大丈夫よ
安心させるように優しい笑顔と声で


目覚め後
赤ちゃん可愛かったわね



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ここは…扉の前?
先ずは男性を落ち着かせよう
この悪夢の設定も聞きけたら良いんだけれど…
多少なりとも状況把握出来たら男性に静観をお願いして
弓弦さんと一緒にマリアさんへ呼びかけるよ
彼女自身の意思で部屋から出てきて欲しいんだ

扉を開けない理由を聞くよ
保育関連で揺さぶりを掛けれそうなら…貴女の帰りを待っている人達の遣い、と名乗るね
彼女にとって本当に大事なものは何なのか
貴女はずっと其処に居たいと、心の底から願っているのか
貴女は沢山の笑顔に囲まれていたのではないか
ゆっくりと静かに、優しく問いかけるよ

「お願い、隣に居るモノの言葉に惑わされないで。私たちを信じてマリアさん…いや、カズミさん!貴女を助けたいの!」


藍玉(セリング)
  悪夢に入って状況確認
「この夢は…!悪夢なんてとんでもない!天国です!本は読めるし邪魔者を黙らせてくれるし!」
「コホン!…えー、突き飛ばしてる男がオーガだと思うので」
眉を顰めて物凄く嫌そうに
「…よろしく、お願い、します…」
渋々トランス

動物でも喋れるなら梟、喋れないなら天使に変身
飛んで梯子の上の男の所へ
「セルゲイ君ですね」
頭を撫でる
「本は読んでいいんです。でも、あんな風に大人を突き飛ばさなくていいんです」
「君は優しい心の強い子です。高い所に一人でよく頑張りましたね。もう大丈夫です」
「君は何も悪くない。ほら、魔法使いが悪い奴をやっつけます」

夢から覚めたら
「一緒に絵本を読みましょうか」
小さく笑いながら


牡丹(シオン)
  あんまり時間はないね
急がなくっちゃ

牡丹達はアリシアちゃんを助けにいくね
変身なしのこのままで
温室の花をゆっくり見れないのは残念

現場に着いたら骸骨は一旦シオンさんに任せてアリシアちゃん達のもとへ
目線を合わせるため腰を落としてから、もう大丈夫だよって二人に声を掛けてみるね
落ち着いて貰ってセルゲイ君に手を離して貰うよう伝えてみる
怖かったら牡丹の事を掴んでいいからねって言っておくよ

セルゲイ君がオーガの可能性もあるから、
牡丹はアリシアちゃんとセルゲイ君の間に立つようにするね

オーガが判明したらトランス
戦闘中は子供達を庇うように立って守るよ
こちらに来たら剣で時間稼ぎ


●脅かすもの

「こんなに小さいのに悪夢にうなされて……早く助けてあげないと」
 青白い小さな顔を覗き込み、月野 輝は眉を寄せてそう呟いた。
 その隣では、医学に詳しいアルベルト・フォン・シラーが簡単にではあるがロランの状態をチェックしている。
「今はまだ大丈夫そうですが……早くした方が良いでしょう」
「そうね。急ぎましょう」
 ふくふくとした丸い頬を優しく撫でてから、輝はアルベルトと共にロランの夢の中へと落ちていった。

 ふと見回すとそこは石造りの地下牢とでもいうような場所だった。
 薄暗い空間の中で、湿ったカビ臭い空気が2種類の音の反響にピリピリと震えている。
 一つは悲鳴のような赤ん坊の泣き声。
 そしてもう一つは、牢の中を縦横に走り回る掃除機の音だった。
「あの掃除機、何?」
 見た目こそは普通の掃除機だが、操る者もいないそれがゴウゴウと大きな音を立てて走り回っているというのは、非常に不思議な光景である。
 首を傾げる輝にアルベルトが言った。
「赤ん坊とはいえ苦手な物や怖い物が悪夢に出てくるのでしょうから……もしかしたらロラン君は掃除機の音が苦手なのでしょうか」
「確かに、そうね」
 赤ん坊の性質はあまり良くは分からないが、雷や花火など、大きな音の出るものを怖がる子供は少なくない。
 まだまだ知識の未熟なロランには、掃除機が恐怖の対象である可能性は高いだろう。
「怖くて泣いているのがロラン君。けど……あの人、さっきの職員さん?でも表情が少し変よね?」
「他に人も居ないようですし、十中八九、あの職員がオーガですね。まずはロラン君を彼女から引き離しましょう」
「ええ。そうしましょう。Ich kämpfe mit Ihnen」
 背伸びをした輝の唇がアルベルトの頬に触れ、揺れる水面のような光が二人を包み込んだ。

 輝が『ロラン君のママ』と願うと、輝の姿はまるで舞台衣装の早変えのように現場にいたA.R.O.A.職員のものへと切り替わった。
 次いでアルベルトが『ロラン君のパパ』と願い、30歳程度の優しげな顔をした青年へと姿を変える。
 動き回る掃除機の間をかいくぐって、ロランへと近づいた輝は、にっこりと笑って言った。
「いつもお世話になってます。ロランを迎えに来ました」
 不意に聞こえたママの声……になった輝の声に、はっと輝を振り返るロラン。
 涙をたたえた真っ黒などんぐりのような目に優しく微笑みつつ、輝は両の腕をロランに向かってさし伸べる。
「ロラン、待たせてごめんね、さあ、一緒におうちに帰りましょう」
 一方、輝がロランを手元に引き寄せようとしている頃、アルベルトは掃除機を止めようと奮闘していた。
 ……のだが。
「スイッチが、無いな」
 というか、コードすらない。
「……」
 アルベルトの判断は素早かった。
 輝とロランに背中を向け、自らの身体で武器を隠すようにしながら『セイクリッドブレイド』で掃除機を串刺しにする。
 煌きを纏った一突きに掃除機はあっさりと沈黙した。
「よし……」
 手応えを感じ、アルベルトは同じ方法で次々と掃除機を破壊してゆく。
 少しずつ戻ってくる静寂に気づいたのか、いまだ不安に揺れるロランの目がアルベルトの方を向いた。
 武器を見せぬよう肩越しに振り返って、アルベルトはロランに笑顔で手を振る。
 大好きなパパが怖いのを止めくれてる!さすがパパ!!
「ぅきゃ!」
 武器を見せなかったことが良かったのだろう、偽職員に抱かれていたロランが嬉しげな声を上げながら身を乗り出した。
 落ちそうになるくらい前のめりになったロランの身体を優しく抱き寄せて、輝は言う。
「怖かったわね、もう大丈夫よ」
 トントンと背中を叩いてやれば、ロランはニコニコ顔になって輝に身体を預けてきた。
 ロランを抱いたまま偽職員から距離を取る輝と、最後の掃除機を沈黙させたアルベルトが入れ替わるようにして偽職員の前に立ちふさがる。
 アルベルトの背中に守られた輝が、ロランの視界を遮るようにロランの頭を優しく自分の胸へと引き寄せた。

「貴方がオーガですね」
 アルベルトの冷静な言葉に、偽職員の姿が炎に包まれたプラスチックのように変容する。
 女性の姿から、骸骨のように落ち窪んだ目をした青白い死神のような姿のオルロックオーガへ……。
 ゆらり揺らめき、オルロックオーガのかまきりのような黒い腕がブラッディローズを纏ったアルベルトに振り下ろされる。
 その瞬間。
 アルベルトを包んでいた吸血バラの蔓が鋭くオルロックオーガを打った。
「あああぁぁぁ……!!」
 深い深い井戸に落ちていくようなオルロックオーガの悲鳴。そしてロランの悪夢は終わり、ピーサンカが残された。



●引きとめるもの

 目の前に現れた豪華な扉に、日向 悠夜は数度まばたきをする。
「ここは……扉の前?」
 隣に立つ降矢 弓弦のほうを伺ってみれば、弓弦もまた「そのようだね」と頷いた。
 ふと廊下に置かれた柱時計を見れば時刻は午後4時を指している。
「制限時間は2時間か……」
 場合によっては扉を抉じ開け、強行手段をとる必要もありそうだと弓弦は気を引き締めた。
「とりあえず……少し話を聞かせてもらえますか?」
 扉を叩いている男性にそう声を掛ける悠夜。
 振り返った男性に、ポーチから取り出した飴を差し出しながら言う。
「美味しいものでも食べて、一旦落ち着きましょう?少し詳しく教えていただければ、私達が協力できるかもしれません」
 いきなり現れた2人に驚いた表情をした男性だったが、一つ深呼吸をして飴を口に含むと、扉を叩く理由を話し始めた。
 男性が言うには男はカズミの父だと言う。
 仕事から帰ってくると毎晩毎晩自室に篭りきりになってしまうカズミが心配で話をしたいのだが、扉を開けてもらえないのだそうだ。
「なるほど……」
 ならば、感情的に扉を叩くのはかえって逆効果だろう。
「彼女自身の意思で部屋から出てきて欲しいんだ」
 だから、どうか静観をお願いできないか……悠夜と弓弦はそう言って男性を扉の前から退かせた。

「ガズミさん……?どうして扉を開けたくないか聞かせてもらえないかな?」
 扉の向こう側に向かって、穏やかに声を掛ける悠夜。
 しかし答えたのは若い男の声だった。
「マリアお嬢様はお部屋で休まれたいと仰っています。あなた達と話すことは何もない……と」
 状況が分からず顔を見合わせる悠夜と弓弦に、カズミの父が言う。
「あれはマリア、いやカズミの『執事』だと名乗っている男です。何をしようにも、あの男が邪魔をしてきて……」
 なるほど、と2人は頷く。
 カズミの悪夢は、いわゆる『沼』に堕ちることと、現実との狭間なのではないだろうか。
 一計を思いついた悠夜が弓弦の方を見れば、弓弦もそれを待っていたかのようにニコリと笑う。
 阿吽の呼吸。
 ふわりと風が舞い、悠夜の姿がセルゲイと同じ髪の色をした若い女性の姿へと変わった。
「マリアさん?私は貴女の帰りを待っている人達の遣いです。貴女を囲んでいた沢山の笑顔のうちの一つ……」
 その言葉に、扉の向こうで何かが動く気配が起こる。
「待っている……?私を?」
「いいえ、お嬢様。応える必要はございません。貴女はここで、ゆっくりとお過ごしになればよろしいのですよ」
 どうやら、立ち上がろうとしたカズミを執事が押し留めているらしい。
 カズミの身に危険が及ばないか、扉の向こうの気配に注意を払いつつ悠夜は続けた。
「貴女にとって本当に大事なものは何?貴女はずっと其処に居たいと、心の底から願っているの?」
 扉の向こうから、ハイヒールで絨毯の上を歩き回るような音が聞こえてくる。
 悠夜と頷き合った弓弦が、悠夜と入れ替わるようにして扉の前に立った。
 ゆわりと輪郭が揺れ、弓弦の姿がセルゲイのものに変わる。
「ねぇカズミ先生。僕、待ってるよ。また面白い本、教えて?一緒に読もう?」
 いわゆる『そっち系』が好きなカズミなら、きっと本好きのセルゲイとは何か通じるものがあったのではないか……という2人の推理。
 それはどうやら見事に的を射ていたようだった。
 ハイヒールの音がこちらへと近づいてくる。……しかし。
「お嬢様、いけません。あれはお嬢様を惑わす悪魔が化けた声です。……ソファーにお戻りください」
 もう一押しだ。
 悠夜は扉に向かって静かに、優しく呼びかける。
「お願い、隣に居るモノの言葉に惑わされないで。私たちを信じてマリアさん……いや、カズミさん!貴女を助けたいの!」
 扉の向こうからハイヒールの音が走ってくる。
「お嬢様、いけません……!」
 執事もどきの制止も虚しく、カズミは扉を開け放った。
「セルゲイ君?……と、セルゲイ君のお母さん?」
 膝をついて、セルゲイの姿になった弓弦と目の高さを合わせたカズミが、弓弦の髪を撫でながら悠夜と弓弦を交互に見る。
「いえ……。訳あってこの姿ですが、私達は貴女を助けに来たウィンクルムです」
「あらっ?!まぁ、ごめんなさい!!」
 正体を明かされ、弓弦からパッと手を放すカズミ。
 そんなカズミに笑顔を返し、弓弦は前へと進み出た。
 その背後では悠夜がカズミを引き寄せ、守りやすい場所へと誘導している。
「さぁ、執事のオルロックオーガ。この悪夢に幕を降ろす時間だよ」
 慣れた仕草で『レジェンド・グルラー』を構えた弓弦がその引き金を引き、消えた執事の変わりにピーサンカが残される。
 そしてカズミの悪夢は終焉を迎えた。



●主張するもの

「この夢は……!悪夢なんてとんでもない!天国です!本は読めるし邪魔者を黙らせてくれるし!」
 夢の中に入るなり、目を輝かせてそう叫んだ藍玉を、哀れなものを見るような目で見るセリング。
 いわゆる俗に言う『ドン引き』というやつである。
 今にも「うわぁ」と声を上げそうなセリングの視線に気づいた藍玉が軽く咳払いをして言った。
「コホン!……えー、突き飛ばしてる男がオーガだと思うので」
「まぁどう考えてもあいつだよねー、じゃあそっちは梯子の上の男ね」
「そうですね。……よろしく、お願い、します『終わらせて下さい』」
 物凄く不自然に途切れる藍玉の言葉。そしてものすごーーーく嫌そうな表情。
 そして藍玉はセリングの頬に渋々といった様子でキスを送った。
 二人の身体がオーラに包まれ、トランスが完了する。
 同じく、ものすごーーーく嫌そうな顔でキスを受けたセリングがげんなりと言った。
「……じゃあ、行ってくる……」
 肩を落としたセリングの姿がスライドが切り替わるように、一瞬で魔法使いの姿へと変わる。
「騎士とかのが安心したかな。まぁいっか」
 小声でボヤきつつ『小さな出会い』の詠唱を始めるセリング。
 何か食べられる訳じゃないのに働くのは不本意だったが、仕方ない。やるしかないのだ。

 一方、軽く頭を振って気持ちを切り替えた藍玉は、両腕を広げると一羽の白フクロウへと姿を変えた。
 争っている男たちの頭上を飛び越え、はしごの上の男の膝の上に降り立つ。
「セルゲイ君ですね?」
 訊ねてみれば、大学のローブに身を包んだ男はコクコクと頷いた。
 大きな身体に子供っぽい仕草が不似合いだったが、藍玉は気づかぬふりで片翼を伸ばしてセルゲイの頭を優しく撫でる。
「本は読んでいいんです。でも、あんな風に大人を突き飛ばさなくていいんです」
「ホント?!」
「はい」
 目を細め、笑顔で頷く藍玉。ただしフクロウ。
「君は優しい心の強い子です。高い所に一人でよく頑張りましたね。もう大丈夫です」
 ちょうどその頃、はしごの下では詠唱を終えたセリングが暴れる男の前に割って入っていた。
「ねぇ、人突き飛ばすのやめてくれる?」
 相変わらずのダルそうな表情ではあるものの、嫌悪感をあらわにして立ちふさがるセリングを睨む男。
「あんたがオルロックオーガだろ」
 セリングがそう宣言すると、男の身体が赤黒く輝きながら歪みはじめる。
 そうして男は隆々とした筋肉を持つ黒い猪へと姿を変えた。
 はしごの上からその光景を見ていたセルゲイが怯えたように息を呑む。
 セルゲイを翼で包み込むように抱きしめて、藍玉は言った。
「君は何も悪くない。ほら、魔法使いが悪い奴をやっつけます」

 黒い猪に向かい、セリングの『小さな出会い』が発動する。
 マジックスタッフ『ダークブルー』の先端から飛び出す、握りこぶしより少し大きなプラズマ球。
 それが放物線状の軌跡を描きながら黒い猪の上へと振りそそいだ。
「グギャァァァーーー!!」
 はしごをビリビリと震わせるようなオルロックオーガの断末魔。
 ぎゅっと目を閉じるセルゲイの慰めになればと、藍玉は羽根でセルゲイの頭を抱え込み、耳と目を塞ぐ。
 そうして猪の姿は、はじけた風船のように唐突に消えて無くなり、後にはピーサンカが一つ残された。
 はしごの上を見上げ、少し自慢げに親指を立てるセリング。
 藍玉に促されてセリングへと目をやったセルゲイが、頬を少し赤らめながら親指を立ててみせた。



●阻むもの

「あんまり時間はないね。急がなくっちゃ」
 牡丹のその言葉に頷くシオンの顔は憤りに強張っている。
 普段は保育士として働いている彼にとって、子供達が被害を受けているこの現状は許し難いものなのだ。
「俺が……先生が、絶対に助けてやるからな」
 そう言って眠るアリシアの手を取るシオン。
 そうして2人はアリシアの悪夢の中へと落ちていった。

 たどり着いたそこは、バラの花が一面に咲き誇る温室だった。
 けれどもガラスの屋根の向こうでは雷鳴が轟き、温室の中央ではおどろおどろしい骸骨がカチカチと歯を鳴らしている。
(花をゆっくり見れないのは残念ね……)
 シオンの気持ちを思いやり、言葉には出さずに牡丹はそう思った。
 美しいバラの中に牡丹が一輪迷い込むのは実に美しい情景だが、今は何よりもアリシアを助けなくてはならない。
 スタスタと骸骨に近づいたシオンが骸骨に向かって声を掛ける。
「何をしているんだ?子供達が怖がってるだろ」
 シオンの言葉に反応したのか、それともただシオンが発した声に反応しただけなのか。
 端から見ただけでは判別はつかないものの、骸骨がゆっくりとシオンを振り返った。
「……」
 洞のような眼窩で見てくる骸骨に、シオンはもう一度声を掛ける。
「言葉は分かるのか?何をしてるんだ?」
 骸骨が立てるカチカチという歯の音のリズムが少し狂い、途切れ途切れの音声がこう答えた。
「ナニ、モ……ナイ。タダ……イル、ダ、ケ……」
「何もしていない?」
「ソウダ……ヨゥ」

 一方その頃、牡丹はアニメに出てくるアリーの格好をした女の子、アリシアとセルゲイの側にいた。
 腰を落とし目線を合わせた牡丹が「もう大丈夫だよ」と優しく笑う。
 強張っていたアリシアが、まだ怖そうに骸骨へと視線を送りつつ訊ねた。
「お……お姉さん達は?何?」
「牡丹達はね、ウィンクルムなの。アリシアちゃんを助けにきたの」
「ウィンクルム?!」
 タブロス市内にいる限りは忘れがちだが、オーガに対抗する能力を持つウィンクルムは、いわば英雄のような存在だ。
 アニメのヒロインは作り話の中のものでしかないけれど、ウィンクルムは実在する本物の英雄。
 しかもそれが今、目の前にいる。
 ぱっと顔を輝かせたアリシアがせがむように牡丹の肩に手を掛けながら言った。
「本当?じゃあお姉さん、強いの?」
「えっと……」
 ウィンクルムとしてまだあまり経験の豊富でない牡丹は、一瞬虚空へと視線を泳がせる。
 まさか「まだ新米だから」などとストレートに答えては、せっかく安堵してくれているアリシアちゃんを再び落胆させかねない。
 なので牡丹はにっこりと笑って答えた。
「これから、もっと強くなるよ」
「わぁ……」
 嬉しそうに牡丹にすり寄ろうとするアリシア。
 しかし、その腕を掴んで邪魔をするものがあった。
 アリシアの側で怯えているように見えたセルゲイである。
「ダメだよ、信じちゃ。ニセモノかもしれないよ」
 赤黒く底光りするその目を見た瞬間、牡丹は直感で悟った。
 オルロックオーガはセルゲイに化けている。
 セルゲイがオーガの可能性もあると考え、それとなく警戒していたのは大正解だったのだ。
 セルゲイの手をつかみ、乱暴にならないよう注意をしながらアリシアから引き離す牡丹。
「怖かったら牡丹の事を掴んでいいからね」
 だがセルゲイはじっと牡丹を睨むばかりである。
 牡丹はアリシアを抱き上げ、ゆっくりと後退した。

 骸骨の相手をしながらも牡丹達の様子に気を配っていたシオン。
 骸骨は無害だと感じ始めていたところに、牡丹がアリシアを抱いて後退をはじめたため、すぐにその理由を悟った。
「牡丹……!」
 骸骨から離れ、牡丹達の元に駆け寄るシオン。
「おそれることなかれ」
 心得た牡丹がインスパイアスペルと共にシオンの頬に口付ければ、清らかなオーラが二人を包みこむ。
「わぁ……本物、だ」
 牡丹に抱かれたアリシアが感動したようにそう呟いた。
 そのアリシアに向けて、シオンはにっこりと笑みを浮かべてみせる。
「必ず助けるから……ちょっとの間、お姉ちゃんに掴まってギュって目をつぶっててくれよな」
 いくら正体はオルロックオーガとはいえ、クラスメイトであるセルゲイの姿をした敵を倒す様はアリシアには見せたくない。
 そういう思いから発したシオンの言葉に、アリシアは素直に従って目を閉じた。
 アリシアと牡丹を庇える位置に立ち、改めてセルゲイに向き直るシオン。
「お前がオルロックオーガだろ?」
 マジックブック『目眩』を構えつつ宣言すれば、セルゲイはにっこりと笑いながら頷く。
 その口元では、人間にはあり得ないほど鋭く凶悪な牙が剥き出しになっていた。
 
 セルゲイの姿を残したまま、まるで闘犬のように牙を剥き出しにして飛びかかってくるオルロックオーガ。
 迎え撃つのは、シオンがパペットマペットで呼び出した巨大なクマのぬいぐるみ。
 イヌ対クマ。
 勝負は一瞬だった。
 飛びかかってくるオルロックオーガを横薙ぎに討ち払うクマ。
 吹っ飛ばされてバラの花壇に突っ込んだオルロックオーガはバフッという音と共に灰になり、その場に崩れ落ちる。
 こうしてアリシアの悪夢も無事に終わりを迎え、後にはピーサンカが残された。



●温かな目覚め

「ありがとうございます!ありがとうございます!」
 ロランを抱きしめ、まるでコメツキバッタのように頭を下げ続けるA.R.O.A.職員。
 ロランの方は、お辞儀で揺れるのが楽しいのかケラケラと無邪気な笑い声を上げている。
 そしてその隣では、セルゲイとアリシアを両脇に抱いたカズミが、一堂にお礼の言葉を述べていた。
「本とかってさ……没頭して、その後ふっと現実に戻ってきて、周りの人の温かみを感じて……。両方楽しめるのが良いよね」
 カズミに向かってポツリとそんな事を言う本の虫、弓弦。
 クスリと笑ってカズミは答えた。
「そうね。両方あるから良いのよね」
 そんな遣り取りを耳にしつつ、保育室内を見回していた藍玉は、ふと壁際に置かれた本棚に昔読んだことのある絵本を見つけた。
 懐かしさに、思わず本を手取ると、セルゲイが興味深々といった表情で覗き込んでくる。
 自分と通じるもののあるその表情に、藍玉は小さく笑いながら言った。
「一緒に絵本を読みましょうか」
「うん!」
 並んで本を読み始める藍玉とセルゲイ。
 そんな2人を見ながら、セリングは大きなあくびを漏らす。
(こんな感じなら、これからのオーガ退治も何とかなりそうかな……それにしても)
「お腹すいたぁ」
 ポロリと零れたセリングの胸の裡に、悠夜が笑いながら腰のポーチに手を入れる。
「良かったらどうぞ」
 差し出すのは袋に入ったビスケット。
 おやつを見たアリシアが目を輝かせ、カズミが「今日だけ、特別よ」と笑った。
 保育園らしい賑やかさを取り戻した現場に、シオンがほっとした表情で息をつく。
 そんなシオンの横で、牡丹もまた安堵の表情を浮かべていた。

 やがてロランとA.R.O.A.職員は家に帰っていき、ウィンクルム達もそれぞれ帰路につくことにした。
 帰り道、腕に抱いたロランの柔らかさを思い出しながら輝が言う。
「赤ちゃん、可愛かったわね」
 可愛い子供達の笑顔、それはウィンクルム達が守ったものだ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 04月28日
出発日 05月05日 00:00
予定納品日 05月15日

参加者

会議室

  • [10]日向 悠夜

    2015/05/04-23:29 

  • [9]月野 輝

    2015/05/04-21:47 

  • [8]牡丹

    2015/05/03-12:46 

    あ、人揃ったんだね。よかった。
    みんなよろしくね。

    第一希望だし配置はそれで問題ないよ。
    無事に悪夢から目覚めさせられるように、それぞれ頑張ろうね。

  • [7]藍玉

    2015/05/02-22:37 

    月野さん、纏めてくださってありがとうございます。
    私はそれで問題ありません。

    日向さん、譲ってくださってありがとうございます。
    もしもセルゲイ君で既にプランを考えていて、カズミさんでプランが思い浮かばない時は言って下さい。
    一応どちらのプランも考えてましたので。

  • [6]月野 輝

    2015/05/02-00:25 

    私も、発言してから悠夜さんがいらしてたのに気付いたわ(笑)
    悠夜さん達もお久しぶり、どうぞよろしく。

    それじゃ……

    ロラン→輝
    アリシア→牡丹さん
    セルゲイ→藍玉さん
    カズミ→悠夜さん

    で、構わないかしら?

    あと、個別対応とは言え、何か疑問点とかあれば、
    みんなで相談してもいいと思うので、何かあったら言ってね。

  • [5]日向 悠夜

    2015/05/02-00:20 

    こんばんは、日向 悠夜です。パートナーはプレストガンナーの降矢 弓弦さん。
    藍玉さん達と牡丹さん達とは初めまして、だね。よろしくお願いするよ。
    月野さん達も、よろしくね。

    私たちは…セルゲイ君を担当したいなって考えていたんだけれど、
    藍玉さん達がそちらを希望しているなら、私たちはカズミさんの所へ行こうかな。

  • [4]藍玉

    2015/05/02-00:17 

    あ、あ、発言してたら参加者が揃ってました……!

    月野さん、日向さん、初めまして。藍玉といいます。
    これで一人ずつの救出になりますね。

    (文字数を考えると複数救助は怖かったので嬉しいです!)

  • [3]月野 輝

    2015/05/02-00:11 

    こんばんは。牡丹さん達は先日振り、藍玉さん達は初めまして。
    月野輝とシンクロサモナーのアルベルトです。どうぞよろしくね。

    個別対応と言う事だし、担当決めないとよね。
    誰の担当になってもいいかなとは思ってるけど、一応ロランくんを希望しておくわ。
    他の方がロランくんを希望するなら、他の人に変更しても構わないので言ってね。

  • [2]藍玉

    2015/05/02-00:08 

    初めまして、藍玉といいます。
    精霊はエンドウィザードのセリングさんです。
    初めてのオーガ退治の依頼で緊張してますが……お互い頑張りましょう。

    個別の依頼になるんですね。
    でしたら、私はセルゲイ君を助けたいと思います。

    もしもこれ以上参加者が増えないようでしたら、カズミさんも助けたいなぁと思ってます。

    牡丹さんはいかがでしょうか。

  • [1]牡丹

    2015/05/01-23:22 

    まだ他に人いないけどとりあえず挨拶を。
    神人の牡丹とトリックスターのシオンさんだよ。

    個別にって事で、今の所こちらの希望はアリシアちゃんかな。


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