契約のアスター(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●あの日、あの時
 春の訪れを予感させる、温かな日差しの昼下がり。
精霊が任務でちょっとした怪我を負ってしまったので、念の為にとA.R.O.A.の近くにある病院にいた。
 場所柄、やはりウィンクルムが多い。
君達の様に軽い怪我で来ている者もいれば、大きな傷を負ったのだろう、痛々しい程に広い範囲を包帯で覆った者もいる。
 そんな中、待合の長椅子で他の患者の迷惑にならないよう気を付けながらも口論している一組を見つけた。
文句を言われている側の男の耳は長く尖っている――つまり、ファータ。
二人からはぎこちない距離感も窺える。組んだばかりのウィンクルムなのだろう。
 自分達にもあんな頃があったな……少し前を思い出した君の口角がほんのりと上がる。
もっと違う感じだった気もするが、そこは十人十色というかなんというか。
 自然と記憶が遡る。それは組んだばかりよりもさらに前、契約を交わした時のこと。
頬杖を付き、ちらと左手の甲に浮かんだ紋様へ目を向ける。
青かった紋様は今では赤く色を変えている。その事に違和感はもう無い。
「どうかしたか?」
 声をかけられ、顔を上げた先には見慣れたパートナーの顔。
診察が終わり、会計を待つだけとなったようだ。
「そこに組んだばかりっぽいウィンクルムがいてさ。
俺達にもあんな時があったなって考えてたら、そのまま契約の時の事を思い出した」
「契約の時か。随分前のことに感じるな」
「俺もそう思う」
 君の隣に腰掛けたパートナーも、組んだばかりのウィンクルムを見遣る。
懐かしむように目を細めるパートナーと自分は、きっと同じ表情をしているのだろう――そう思いながら君は過去に思いを馳せた。

解説

●参加費
精霊の治療費 300jr

●プランについて
回想メインとなります
(あの時はこうだったと語り合うのではなく、契約の時についての描写になります)
契約した時の事を書いてください
その時どう思ったか、躊躇いはなかったか、相手についてどう思ったか、何をしたか等

現在、すなわち病院内での行動は一、二行に止めてください。
例としまして
「話終えてから、精霊が会計に立つのを見送る」
「話終えてから、唐突にでこピン」
病院から出た後に二人で出かけたなどは一切反映いたしません
(どっかいこうかーと話す等は可)

●その他
当エピに限ることではありませんが、ワールドガイドより大きく逸脱する設定にはマスタリングが入ります

例:
○契約したくない理由があったのでひたすら逃げ回ってたけど、緊急事態だったので試してみたら契約できちゃった

×偶然出会ったばかりだったけど、自分達で適合してると思ったからそのまま契約した

偶然出会い、後に適合者が現れたとA.R.O.A.から連絡を受けて向かったら知ってる顔だった

ゲームマスターより

男性側では珍しい綺麗なこーやだよ。
綺麗過ぎてぴゅあっぴゅあだからそこんところよろしくね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  契約精霊を亡くして以降、A.R.O.A.から逃げ回って早数年
逃げては追ってきてた逞しい精霊の子が、まさか僕の相方とはねぇ
A.R.O.A.に言われて仕方なく?…じゃないのか
自主的に?…ふぅん
君さ、結構損するタイプでしょ

…ねぇ、君、名前は?
きりか。桐の華で、桐華ね
分かった、僕はカナだよ。叶うと書いて、カナ
君があんまりにもしつこいから、契約してあげる
今日から宜しくね、桐華

鬼ごっこ、結構楽しかったよ
あはは、分かってるよ、ちゃんとわかってる
でも僕は、逃げるよ。捕まえてよ、桐華
僕にこれだけ付き合えたのは君が初めてだ
だからきっと、君になら捕まえられるよ

…思いもよらなかったなぁ。こんなに、好きになるなんて


信城いつき(レーゲン)
  前提:顕現時の大怪我で入院中。AROA職員より説明は受けたが
不安で受入れられない状況

記憶も無い、身よりもない、神人です、パートナーがいます
騙しているのかも。本当は家族が探してるかも。
何もかも分からない

見舞いに来るパートナーの人。
俺が何を言っても静かにちゃんと話を聞いてくれる。

契約前に一つだけ聞いていい?
「あなたは、俺の、味方ですか?」
神人じゃない、『俺』の味方ですか?

まだ何を信じていいのか分からないけど
彼だけは味方でいてくれる……だからきっと大丈夫

懸命に笑顔をつくり、左手を差し出す
いつも笑顔の彼が、さらに笑顔になった

【現在】
レーゲンが重ねた手に、右手を重ねる
「俺もレーゲンの味方だよ、ずっと」



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  第一印象は犬っころ

名を名乗り、試しに一度街ぶらを提案
契約を判断するためだ
相手を知らねば(不安と戸惑い

ランスに動物園に誘われた(行った
太陽みたいな笑顔だな

絆が強くなるほど良いらしいが任務の相棒で良いんだよな?
そっちの趣味はない(汗

動物園で楽しそうに説明する姿に悪い奴じゃないなとは判断した
だがっ!パーソナルスペース狭すぎだっ!もっと離れろ!

おまけに食事も兼ねて案内したプールバーではキューでクロスは破るし
良く言えば豪放磊落、悪く言えばガサツだな

そんな目で見るな!

その目も駄目だ!!

あーもー分かった分かったよ、契約はしてやる契約は!

★あの時と同じ目で「帰りに何か食べてこうぜ」とねだられて、俺は…(真っ赤



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  顕現のきっかけはオーガに襲われたから。
奴らには食糧調達みたいなものだったんだろ。
何人か纏めて襲われたからな。
その時他の人を護るために手元にある物で必死に抵抗してて、顕現したらしい。
もちろん、自分達で解決できる訳もなく。
A.R.O.A.に助けてもらった。
その時神人の話も聞いた。
襲われて結局何もできなかったのが悔しかったから、ちょっと嬉しかった。

支部でラキアに引き合わされた時は綺麗な女の子だなって見とれてた。膝まづかれ文様に口づけされる時も。
「彼は」と言われて「えっ男かよ」と。
最初からそう言ってます、って見とれてて聞いてねぇ。
そんな些細な事はいっか。「オレの生命預けるからな、ヨロシク!」と笑顔。



明智珠樹(千亞)
  ●状況
記憶喪失中。気づいたら手に紋章。
なんだこれ、と思った矢先AROAに保護される。
暫くこの世界や状況についてお勉強してたら、適合する精霊が見つかる。

●契約
(おや可愛いウサギさん)
「はじめまして、明智珠樹と申します」
礼儀正しく、笑みを絶やさず。優雅にご挨拶。

「私、過去の記憶がありませんので…ご迷惑おかけするかと思いますが、よろしくお願いいたします」

千亞の前に跪き、紋章に口づけを…
「おや、逆なのですね、失礼しました」
口づけされ
「ふ、ふふ。千亞さんの柔らかな唇が私の手の甲に熱を与え…」
うっとり陶酔ド変態。

●後
「千亞さんは出会った時から可愛かったですね、ふふ…!あ。帰宅したら添い寝で看病しま…」



●セアノサス
「ヴェルトール・ランスだ。よろしく!」
 アキ・セイジが、人懐こく笑うランスに抱いた第一印象は『犬っころ』。
握手を求めるランスの手を暫しの逡巡の末に取った。
「アキ・セイジだ。取り合えずよろしく頼む」
 軽い自己紹介を交わしたものの、さてどうしようと悩む。
契約をするか否か、判断材料が欲しい。となれば、少しでも相手を知ることが必要とアキは考えたのだが――
「契約の前に、試しに町へ出てみないか?」
「え?」
 ランスが返事をするよりも先に、立会いのA.R.O.A.職員が心底不思議そうな声を上げた。
何か問題でもあるのだろうかとアキは職員へと視線を向ける。
「適応に問題がある訳でもないのに、契約を後回しにして町へ出るんですか?」
「何か問題でも?」
「ご存知かとは思いますが、オーガは神人を感知出来ます。
身を守る術がない未契約の神人が町中へ出てオーガが襲来してしまえば、本人だけでなく周囲の一般人にも危険が及んでしまいます。
万が一を避ける為にも、人の多い町中に契約を済まされる前のお二人で向かわれることは、ちょっと……」
 申し訳なさそうに言う職員。
顕現してすぐにアキ自身もA.R.O.A.に保護されている。他の多くの神人達もそうだろう。
 契約はよっぽどの事情でもない限り、神人一人の意思だけで決められることでもない。
貴重な神人の命を守る為、ウィンクルムを増やす為でもあるが、それ以前に大多数の一般人を巻き込まない為でもあるのだ。
アキの理由での保留はA.R.O.A.としては難色を示さざるを得ないだろう。
「残念だけど、しょうがないか。出れるなら動物園にでも行きたかったんだけどな」
「それなら俺はプールバーに行きたかったんだが……」
 肩を竦め軽く笑うランスに、溜息を吐くアキ。
アキとしてはランスとの相性を見てから契約したかったが致し方ない。
不承不承でもアキが契約するしかないと理解したと判断した職員が、二人を促す。
 ランスが滑るようにアキの前へ跪いた。
「距離が近い!」
「契約の為だから仕方ないだろー」
 一歩、アキが後ずさろうとするが、ランスの言い分が尤も。
仕方ないと言わんばかりの仕草でアキは左手を差し出す。
「まずは相棒からだな」
 アキの手を取ったランスは小さく呟いた。
聞こえたのか聞こえていなかったのか、アキは言葉を返すことなく、ランスがその甲へと口付けるのを見守るだけだった。

 契約の時のことを話し終えると、ランスはじぃっとアキへ目を向けた。
「なあ、セイジぃ」
「……なんだよ」
「帰りに何か食べてこうぜ」
「あーもー分かった、分かったよ」
 うるうると強請る様な眼差しに、アキの顔は赤くなるのであった。



●カトレヤ
 セイリュー・グラシアが顕現した切欠はオーガに襲われたことにある。
人の魂を喰らうオーガの尤も単純な作業――食料調達だったのだろう、とセイリューは思っている。
何人か一緒にいる時に纏めて襲われたことが彼の推測の根拠でもある。
「こっち来るな!」
 セイリューは必死だった。
一緒にいた皆もそうであったが、セイリューは自身だけでなく皆を守ろうと拙いながらも抵抗したのだ。
武器とも言えない武器を振り回し、オーガとの距離を取ろうと試みる。
そんなささやかで虚しい抵抗で解決出来る訳も無いが、他に手はなかった。
 けれど、彼の奮闘が生んだ時間は結果的に解決へと繋がった。
一心不乱だったセイリューはそこまでを考えていなかったが、A.R.O.A.が急遽派遣したウィンクルム達が駆けつけるだけの時間を稼いだのだ。
 助かったと安堵したセイリューは左手で額の汗を拭おうとして、ふと手を止める。
見慣れぬ青い紋様が左手に浮かんでいる。つい先程までは無かったものだ。
 オーガ討伐を終えた神人がそのことに気付く。
彼から神人のことやA.R.O.A.のことを改めて説明を受け、セイリューはまじまじと紋様を見つめた。
さっきは何も出来なかったけれど、これで、これならば……自分も何か出来る。
そのことにセイリューは小さな喜びを見出していた。

 神人の絶対数が少ない以上、適応する『かもしれない』という相手すら現れないことも珍しくは無い。
その為、適応する神人に出会うことすらなく日々を過ごす精霊は多い。
ラキア・ジェイドバインもそうだった。
 神人は精霊と違い、女性もいる。
毎日を庭で花達と過ごしながら、どんな女性と契約することになるのだろうかと思いを馳せていた。
 そんなラキアに「適応すると思われる神人が現れた」と連絡が入った。
ようやくか、楽しみに思いながらラキアは指定された日時通りにA.R.O.A.へ向かった。
 そういえば、連絡を受けたときに相手の特徴を聞いていなかったことに思い至った。
ラキアは案内してくれる職員に尋ねてみた。
「どんなお嬢さん?」
「へ?」
「え?」
「い、いえ、なんでもないです……ほんとに、なんでもないです。あ、そ、そう、あの奥の部屋ですよ、とにかく実際会って下さい」
 歯切れが悪いというか、誤魔化されているというか。
突っ込んで聞いてみたいところだが、職員が急に足を速めるものだから断念せざるを得なかった。
適応しているかもしれない神人と対面するという喜ばしい事実が、ラキアの判断力をちょーっと奪っていた。

 こ う い う 意 味 か 。
通された部屋にいたのは、誰がどう見てもスポーツが得意そうな男性でした。
 先に言ってよ……恨むような視線をラキアは案内してくれた職員に向ける。
職員は「夢持ってそうだったから言えませんでした、ごめんなさい!」という態度を前面に押し出し、ラキアへ詫びるように手を合わせた。
 一方、セイリューはラキアに見とれていた。
さらり零れる鮮やかな赤い髪、透き通るような白い肌、翡翠のように鮮やかな緑の瞳。
綺麗な『女の子』。
 ラキアを案内した職員とは別の、部屋に控えていた職員が間違いなく適応していると断言した。
なら、仕方ないとばかりにラキアは気持ちを切り替えて握手を求めた。
「ラキア・ジェイドバインだよ」
「セイリュー・グラシアだ」
 握手を交わし、手を握ったままラキアは跪いた。
セイリューはラキアが自身の紋様に口付ける様子を、どこかどぎまぎしながら見守る。
 ラキアの唇が離れるや否や、紋様が赤く染まる。見守っていた職員がほっと息を吐いた。
無事、契約が成立したのだ。
「無事、契約成立ですね。セイリューさん、これからのこともありますから一度彼と
「えっ」
「はい?」
「男?」
「……あの、女性の精霊は今のところ確認されてませんが」
 セイリューは職員に言われてようやく思い至ったらしい。実際、A.R.O.A.で保護されてから出会った精霊は皆、男だった。
ラキアはファータ特有の耳を触ってみせ、精霊であることを無言で主張した。
「分かった、ちょっとは落ち着こうね、君……じゃないね、セイリュー」
 やれやれと言わんばかりにラキアは溜息を吐いた。
どうやらこの神人は猪突猛進な質のようだ。自分が気をつけなくては命が危ないかもしれない。
 脱力気味のラキアに対し、セイリューの切り替えは素早かった。
ラキアが男性だったことにショックを受けた様子もなく、「ま、いっか」と言うと、今度はセイリューから握手を求めた。
「オレの生命預けるからな、ヨロシク!」
「こちらこそ」
 色々予定とは違ってしまったが、何事もそんなものかもしれない。
精霊として、守ってあげなくては、と思いながらラキアは再び握手を交わした。



●サルビア
 明智珠樹は記憶を持っていなかった。
記憶を持たないなりに生きていたら、気付けば左手に青い紋様。その意味すら分からず首を傾げているうちに、A.R.O.A.に保護されていた。
 珠樹に常識や知識も含めた記憶が無い事を知ったA.R.O.A.は、適合者を探しつつもこの世界で生きていけるように取り計らった。
つまり、常識や知識、世界の成り立ちなどの簡単な歴史を彼が学べるようにしたのだ。
 珠樹は熱心に――とは言えなかったかもしれないが、0を1に、1を2に、2を3にと励んでいた。
最低限の知識を身につけたと言えるようになった頃、適応者候補が見つかったという報せが入った。

 案内された部屋で椅子に腰掛け、千亞は適応候補の神人が来るのを待っていた。
室内に初対面のA.R.O.A.職員がいるだけでも人見知りの千亞は緊張するというのに、これからパートナーとなるかもしれない神人と会うのだ。
兄が行方不明となってから、ようやく千亞が落ち着いたばかりだっただけに、心への負担は大きい。
 なるようになれ。
開き直りというよりも諦めの境地の中、千亞は胃を擦った。
 重くなる気持ちをどうにかすべく深呼吸しようとした時、ドアが開いた。
神人が来たのだろう、千亞は部屋に入ってきた姿を見て息を呑んだ。
初対面の男じゃない、とても良く知っている人に見えたからだ。
兄さん、と口から飛び出しかけた呼び名をどうにか堪える。
精霊の兄にも自分と同じように兎耳があったが、彼の耳は人の耳。
「千亞さん、お待たせしました。こちらが適応者候補の明智珠樹さんです」
「はじめまして、明智珠樹と申します」
 笑みを浮かべながら礼儀正しく珠樹が挨拶する。
水が流れるように優雅に、滑らかに腰を折った。
 名前も違う。雰囲気も違う。兄ではない、似すぎてはいるが他人の空似……なのだろうか。
「僕は千亞。よろしく」
 複雑な胸中を隠す為か、千亞は無愛想に名乗った。
人見知りではあるが、パートナーとなるかもしれないだけでなく、兄に似ているということもあって、千亞は職員の判断を待つ間、珠樹を観察していた。
「何か?」
「別に」
 そうですか、と答える珠樹の顔にはやはり微笑。
このやり取りをとっても兄とは違う。
 沈黙が気まずくなり始めた頃、様子を見ていた職員が問題ないと大きく頷いてみせた。
では、と珠樹が一歩進み出る。
 握手を求めるように差し出された珠樹の手を、尻込みしながらも千亞は取った。
「私、過去の記憶がありませんので…ご迷惑おかけするかと思いますが、よろしくお願いいたします」
 記憶、喪失……?
詳しく聞こうと千亞が口を開く直前、何故か珠樹が跪いた。
「!?」
 千亞が呆気にとられているうちに、珠樹は千亞の左手の甲に唇を重ねる。
滑らかな動作で珠樹は立ち上がり、ぽかんと見つめていた職員へ視線を向けた。
「これで契約は出来たでしょうか?」
「ちょ、逆!契約は僕があなたの紋章にするんだよ!」
「おや、逆なのですね、失礼しました」
 職員は初めて出くわしたこの珍事に言葉が出ない模様。
千亞のツッコミに、小刻みに首を動かして同意を示すのが精一杯のようだ。
 千亞は自身の髪の色のように顔を赤く染めながら、少しばかり荒く珠樹の左手を取った。
跪き、甲の青い紋様を赤く染める。
先の間違いも恥ずかしかったのに、自分が同じ事をするというのだからさらに恥ずかしくもなる、のだが。
「ふ、ふふ。千亞さんの柔らかな唇が私の手の甲に熱を与え……」
 ぞくり。
珠樹の呟きが聞こえ、千亞の背筋が凍る。
こいつ、大丈夫か。いや、大丈夫じゃない(反語)。
関わったことのない人種、もとい普通ならば関わることのない人種を前に、千亞の困惑と羞恥の日々が幕を開けたのであった。

「千亞さんは出会った時から可愛かったですね、ふふ……!」
 陶酔した様子で過去に思いを馳せる珠樹。
いい意味でも悪い意味でも変わらな……いや、いい意味なのかな……変わらないのは確かだけれども。
少しばかり迷い込んではいけない人生の迷路に入りかけた千亞に、珠樹が爽やかさMAXの笑みを向けた。
「あ。帰宅したら添い寝で看病しま
「外傷に添い寝は要らん、ド変態」
 千亞くん、今日も素敵。そんな呟きも聞こえてきたし、珠樹が目を潤ませてキラキラしてる気もするが気のせいだ、気のせい。
 やっぱり珠樹は変わらない。千亞は溜息を吐いた。
けれど、どこか安堵する自分がいる。そのことに千亞は気付いているのだろうか。



●クレオメ
 逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。
オーガとA.R.O.A.から逃げ続けた数年間。かつて契約を交わした精霊を亡くしてからの数年でもあった。
 もう一度『護られる』なんて御免だ――という思いが叶にその日々を選ばせたのかどうかは本人のみが知る。
A.R.O.A.の保護から逃れ続けるということは、オーガに狙われる日々を送ると同義。
 それでも叶は逃げ続けた。
一人の精霊が自身の追跡に加わったことに気付いても、なお逃げていた。
「未契約の神人が居るっていう噂を聞いたけど……知らないか?」
「そうなの?いや、知らないなぁ」
 そんなやり取りが追跡者――桐華との初対面。
叶が逃げて、桐華が追って、尋ねて、突っぱねられて、そしてまた叶が逃げて。
その繰り返しの数年。
あまりにも逃げられるから桐華が意地になっていたことは否めない。
そうでもなければ捕まえることなど出来なかったかもしれない。
 とうとう、繰り返しの数年に終止符が打たれた。
A.R.O.A.がどうにか叶を保護したのだ。これで鬼ごっこは終わりだ、桐華はそう思っていた。
それなのに、まさか――
「逃げては追ってきてた逞しい精霊の子が、まさか僕の相方とはねぇ」
 帰還してすぐに連絡を受け、訪れたA.R.O.A.で適応者候補として顔を合わせた相手は、桐華が数年かけて追った人物。
叶だった。
目が合った瞬間、紫水晶の瞳が責任を取れ、と桐華に語りかけてきた気がした。
「あれって、A.R.O.A.に言われて仕方なく?」
「……いや」
「まさか、自主的に?」
 桐華が首肯する。
ふぅん、叶は言いながらもまじまじと桐華の顔を見た。うっすらと浮かんでいる笑みが深まる。
「君さ、結構損するタイプでしょ」
「損、は、するタイプだろうな……」
 過去を思い返せば思い当たる節はある。
逃れるように桐華が僅かに目を逸らせば、やっぱりと叶は笑った。
「ねぇ、君、名前は?」
「桐華だ。桐の華で、キリカ」
「分かった、僕はカナだよ。叶うと書いて、カナ」
「叶、ね……。あぁ、宜しくな、叶」
 すっと、叶は手を差し出した。
それが何を意味するかは契約の為に来た以上、考えるまでも無い。桐華は黙ってその手を取り、跪く。
二人の様子を見守っている職員が止める気配は無い。
「君があんまりにもしつこいから、契約してあげる。今日から宜しくね、桐華」
 桐華の眉間に皺が寄るが、そのまま叶の紋様に唇を落とす。
紋様が青から赤へと色を変えたことを確認して、桐華は立ち上がった。
少しだけ見上げる形で叶と目を合わせる。赤でも青でもない、紫の瞳から読み取れるものは少ない。
「鬼ごっこ、結構楽しかったよ」
「……判ってると思うけど、契約した以上、逃げてもまた、追うんだからな」
「あはは、分かってるよ、ちゃんとわかってる」
 でも、と叶は言い添える。
「僕は、逃げるよ。捕まえてよ、桐華」
 『分かってる』けど、『わからない』。
自分にこれだけ付き合えたのは桐華が初めてだ。
だから、きっと。君になら、捕まえられるよ。きっと、ね。

 思えば、初めから執着していたらしい。
追いかけ続けた数年間のことを、叶はもう忘れているだろうけれど。
 窓口で名を呼ばれ、桐華は立ち上がった。
「会計を済ませてくる」
「いってらっしゃい」
 桐華の背中を見送り、叶は頬杖をついた。目を細めながらも、視線は桐華の背中を追う。
あの頃は、思いもしなかった。
こんなにも今の『鬼ごっこ』の日々が楽しくなるなんて。
こんなにも、好きになるなんて。
 だから。
次は、どう隠れようか?



●セイヨウアサガオ
 適応は認められた。けれど、すぐに契約はしなかった。
体の至る所を包帯やガーゼで覆われた神人――信城いつきにそれだけの心の余裕が無いことは明白だった。
 本来であればA.R.O.A.で行われる顔合わせだが、いつきとレーゲンの場合は病院の一室で行われた。
いつきが大怪我で入院中であり、しかも顕現時によるものだという。
「契約は、彼の気持ちが落ち着くまで待ってもらえませんか?」
「……そうですね、その方が良さそうです」
 レーゲンとA.R.O.A.の職員は、病室の入り口からベッドの上のいつきへと視線を送る。
青い瞳は彼自身の手、ただその一点を見ているだけだというのに、彼の不安を象徴しているようでもある。
 時と場合によっては神人の精神よりも身体の保護を優先しなくてはいけないこともあるが、既にいつきの保護は出来ている。
レーゲンも契約をしないと言っている訳ではないし、ここでいつきを急かして怪我に影響が出るのも良くない、と職員は判断したようだ。

 いつきは、不安だった。
A.R.O.A.の職員に説明を受けたものの、いつきには記憶が無い。
『身寄りが無い』、『神人です』、『パートナー候補がいます、彼がそうです』。
そんなことを言われも、不安で受け入れられない、信じられない。
何もかもが分からなかった。

「今日は畑に花が咲いたんだ。……っと、一輪だけでも持って来ればよかったね」
 初めて顔を合わせてから、レーゲンは度々いつきの病室を訪れた。
パートナーとなる相手ではあるものの、いつきは何を言っていいか分からないし、話したいと思えることも無かった。
それだけの余裕が無かったから。
けれど、ぽつり、ぽつりと言葉を紡いでも、レーゲンは静かに拾い上げてくれた。
特別な返事や会話があったわけではなくとも、彼が丁寧にいつきの言葉を聞いてくれることは確かだった。
 レーゲンは、契約を強いることを決して口にしなかった。あくまでも雑談だけ。
不安がるいつきの気持ちが分かるからこそ、それを受け止めることに専念した。
いつきの役に立てているのは、正直に言えば分からない。
けれど、いつか笑ってくれればいい、と言葉を交わしながらレーゲンは思う。
 レーゲンは気付いていた。
いつきが一度も笑っていないことに、緊張を緩めていないことに。

 退院の日が訪れた。
A.R.O.A.職員が退院の手続きをしている間、いつきはレーゲンと二人並んで病室のベッドに腰掛けて待っていた。
いつきの持ち物は少なかったから、荷造りはすぐに終わってしまって、もうやることは無かった。
 レーゲンが何度も見舞いに来てくれたから、二人でいることに気まずさはもうない。
沈黙の時間も、最初の頃のようにいつきの不安を煽ることはなくなった。
「契約前に一つだけ聞いていい?」
 レーゲンは緩く首を傾げて続きを促した。
いつきが自分から契約について触れるのは初めてだ。
「あなたは、俺の、味方ですか?」
 呟きのような、いつきからの小さな問いかけ。不安が滲んでいる。
レーゲンは、その不安が広がらないように、穏やかに視線を合わせた。
優しい緑の瞳がいつきの言葉を受け入れる。
「味方だよ。ずっといつきの味方だよ」
 それで充分だった。
暫くぶりで忘れかけていたのか、ぎこちない笑みをいつきは浮かべた。
同時に、いつきは左手を差し出す。
 懸命に、彼なりに笑ってくれたということがレーゲンには嬉しかった。
優しさの笑みを嬉しさの笑みに変えながら、レーゲンはいつきの小さな手を取った。
 A.R.O.A.職員が戻ってきた頃には、二人の左手には赤い紋様。
契約の成立だけでなく、いつきの精神が少しでも落ち着いたことの証でもある。
職員は穏やかに祝辞の言葉を二人へ送った。

 今のいつきの瞳は強い生命の輝きを宿している。
あれからいろいろな事があったけれど、その理由はやはり、あの時の言葉にあるのだろう。
 いつきは揉めているウィンクルムから、レーゲンへと視線を移す。
穏やかな翠玉がいつきを見つめていた。
 いつきの左手に、レーゲンは自身の右手を重ねる。
赤い紋様を覆うように小さな手を包む。
「これからも、ずっといつきの味方だよ」
 『いつきの味方』という言葉が、どれだけの力をくれただろうか。
穏やかな心でいつきは重ねあった手と手に、さらに右手を重ねた。
いつきの手では全てを包めないけれど、包みたいわけではないから構わない。
「俺もレーゲンの味方だよ、ずっと」



依頼結果:成功
MVP
名前:信城いつき
呼び名:いつき
  名前:レーゲン
呼び名:レーゲン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月21日
出発日 03月26日 00:00
予定納品日 04月05日

参加者

会議室

  • [9]アキ・セイジ

    2015/03/25-23:54 

    プランは提出済だ。
    皆の契約の逸話を楽しみにしているよ。(コーヒー飲みつつ

    ダイスA:茶菓子(クッキー)枚数


    【ダイスA(6面):4】

  • [8]明智珠樹

    2015/03/25-21:15 

  • [7]明智珠樹

    2015/03/25-21:14 

    そんなこんなでこんばんは。貴方の明智珠樹です。そして私の千亞さんです。
    叶さんの発言をサンドイッチしてご満悦な私です、ふふ…!!

    皆様の病院での皆様のご様子にニヤニヤしていたいところですが、
    私も過去を振り返るといたしましょう。
    どうか皆様良き時間が過ごせますように…!

  • [6]明智珠樹

    2015/03/25-21:12 

  • [5]叶

    2015/03/25-09:14 

    宜しくスタンプが無いぞう。ごろごろ。
    知ったお顔がみんな賑やか。きっと素敵な思い出が色々なんだろうなとわくわくしつつ
    僕ものんびり思い起こしてみることにする。んーと、宜しく…より、お大事にね?

  • [4]明智珠樹

    2015/03/25-00:33 

  • [3]信城いつき

    2015/03/24-23:33 

  • [1]アキ・セイジ

    2015/03/24-00:05 


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