ネコになった(意味深)(あき缶 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●にゃん
 君はぱちくりと目を瞬かせる。
 朝からパートナーが見当たらないのだ。
「家出……?」
 戸惑う君の足元から、愛らしい声がひとつ。

 にゃん。

「猫……? どこから?」
 どことなくパートナーに似ているような猫が一匹、君を見上げていた。

●またかよ
 その頃のA.R.O.A.本部。
「ほんっと、もう、ほんっと申し訳ございません!!」
 床にめり込む勢いでA.R.O.A.職員に土下座する妖狐がいた。
「お前ぇえええ……。二度ならず三度までもぉおお……、もはやわざとか!?」
 職員はちょっと前に、妖狐のしわざでウィンクルムが女体化したり子供化したりした騒動を思い浮かべ、こめかみをひくつかせる。
「ち、ちがいますぅうう! 悪気は! 悪気はなかったんです! うっかり、うっかりまじない道具『変猫壺』を壊してしまったんですぅうう」
 その壊れた壺の煙をまたウィンクルムが吸い込んでしまったらしい。
「で、今回はどんな効果があるんだよ……。体に害とか後遺症とかあったらただじゃすまさんぞ……」
 怖い顔をする職員を見て、妖狐はヒィと悲鳴を上げた。
「だだだ大丈夫です。一日だけ猫になるだけでございます!」
「ん、それってつまり、トランスは?」
「トットランスはできなく……なり、ます」
 バキボキッと職員が指を鳴らすのを見上げ、妖狐は目に涙を浮かべた。
 ――あ、死ぬわ。これ。

解説

●内容:片方が猫になる

●猫化について
 どちらが猫になってもOKです。
 髪色、眼の色は変わりません。長髪だと長毛種になることが多いです。
 記憶・知能は変化ありませんが、『人間語はわかるけれど、喋れません』。
 体質・本能は猫になるので、猫じゃらしやマタタビ、カリカリ、猫缶に夢中になります。

 なお、リザルト中でパートナーが、猫の正体に気づくことはありません。
「いなくなってしまったパートナーに似ている猫が、迷いこんできた」としか考えません。

●消費ジェール
 猫の世話グッズなどで一律400jr消費します。

ゲームマスターより

お世話になっております。あき缶でございます。
猫大好き!!!!!!!!!
似ている猫に、独り事で普段言えないようなことを語ってみたり、
猫だからって普段できないようなスキンシップをしたり、
そんな普段見れないパートナーを、猫化してニヨニヨ見たり、本音を聞いて物を思ったり……そういう趣旨のハピエピです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  扉を開けてすぐ傍に猫
帰ってきたと思ったんだが、気のせいか
寄ってくるから懐っこいやつかと思えば様子が違う
噛まれるがままに部屋に通す
不思議と家のものには手を出さないんだな
猛攻にモフッと手刀
落ち着け、そんなに鳴かなくても聞こえてる
屈んで目を見る
と、猫界では目を合わせるのはタブーだったか
まあノラではなさそうだけどな、お前
ちょっと待ってろ
カリカリと牛乳を買って戻り、食ってる間に家事を済ませる
気配はあるものの、その内邪魔が入らなくなって
振り返ればやはり目が合う
最初の元気はどうしたどうした
じゃらしを手に隠れてちらちらと誘う
…そこはリンの場所なんだぞ
猫の隣に転がり丸い背を撫でる
遅いな…
お前の事、紹介したいのに



羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  あれ、見慣れない猫さんだね
首輪は無いけど毛並みが良いし、飼い猫さんかな
一緒におやつ、食べる?(喉を擽り

カリカリとお茶の用意を二人分
時々、手元の携帯を確認してみる
っと…ごめんね、落ち着かなくて
約束はしていないけれど、待っている人がいるんだ

買ったお菓子は日持ちするから大丈夫
孤児院の用事はまだまだ幾らでもある
それでも、色々な事を差し置いて、ただ

ラセルタさんに会いたい、な(ぽつり

元々忙しい人だし、会おうと思えばすぐに会えるのだけれど
彼の事を考える度に顔が見たくなってきて
…我ながら女々しい、なぁ(赤面した顔覆い

ん、抱っこをご所望?それとも…慰めてくれてるのかな
優しい子だね。ありがとう(抱き上げ頬すり寄せ



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  タイガは違う!誑かしたり傷つけたりしない
…神人を守る精霊として黙っていてくれたじゃないか
◆涙目。勢いよく自室

猫!?迷い込んだのか
確か商店街でもらったのが…(ニボシを小皿)散らかってる理由はこれか
あ…餌付けはいけないって聞いた気が(

◆ノック後、女メイドの声
『心配だからこそのお言葉でその内落ち着きますよ。私は応援しています』立退く

ベットに沈む
ごめん…気力ない
父に『引き離す』と言われてカッとなって

ただ神人と精霊ならよかった



嘘。君が、君に似てるタイガが向き合ってくれたから。
僕も立ち向かいたくて…本当の気持ちを、なりたい道を認めてほしくて
そしたらタイガにも答えれる気がして

覚悟はしてたのに…
猫を抱きよせ


月岡 尊(アルフレド=リィン)
  黒色短毛の細身。
目の下にだけ眼鏡みたいな白模様。
鳴き声は『マー』
…なんて、何を冷静に鏡で観察してるのか。
或いは、外にしようもないと途方に暮れてるのかね…。

こんな時。
一番会いたくない奴に遭ってしまったのは不運と思うべきか。
それとも…一番頼れる奴と(本人には絶対言えんが)逢ったのは幸いと考えるべきか。
…ま、アルなら悪いようにはされんだろ。
(だが不躾には肉球制裁。つまり蹴る)

…不本意、だが…ッ。
マタタビとは本当に酔うものなんだな…(ごろんごろん)
だが、意識が飛ぶ訳でも無く。
家の事なぞ初めて聞いた。
俺には何も言わんのに――それは俺も同じか。

知らん話を聞くのも、甘やかされるのも…
まあ、偶には悪くないか。


暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  アドリブ大歓迎
*猫化

何がどうなって…いや、もう考えるのはよそう
とりあえず先生の所に来ましたが…言葉通じませんよね、ですよね

猫缶はちょっと…猫ですけど猫じゃないんで
そんな期待の眼差しで見られても…食べますよ!
…猫缶って意外と美味しいんですね…

っ先生、近いです
あと良い匂いがします
…じゃなくて!あんまり見つめないでほしいです

…先生がそんな風に考えているとは知りませんでした
先生は完璧で迷うことなんてないと思っていたけど
先生だって悩んだり苦しんだりしていたんですよね
表面だけで判断していた過去の自分が恥ずかしいです
こんな形で本音を聞くのはなんだか卑怯な気もしますが…

誰にも言いませんよ
だって今は猫ですから



●すらり
 鏡に映るすらりとした黒猫。紫色の瞳の下に、すいと白い横線が入った珍しい模様の短毛種。
(……これが俺か)
 と呟こうとしたら『マー』と細い音が喉からこぼれた。
 ぷるりと耳をふるわせ、月岡 尊はパタンと尻尾を横に倒した。
(何を冷静に観察してるのか……)
 こんな格好では出来ることにも限りがある。途方に暮れるしかない尊だったが、横の店のドアが勢い良く開いて、驚いて身をすくめた。
 とっさに店の陰に隠れて様子をうかがう。反射的な所作は完全に猫になっているようだ。
「チィーッス。ツキオカさん来てないスか?」
 ドアを開け、半身を突っ込んで店の者に大声で問うている男の声に尊は覚えがあった。
 勿論、返答はノーだった。
 ガシガシと赤い髪をかき混ぜながら、アルフレド=リィンはドアを閉めて往来で独り言をつぶやく。
「おっかしいなー。あのマジメ一徹が、出撃が無いからって姿晦ますとは思えねえんだが……」
(よりによってこんな時にアルに会うとは……)
 尊は眉間にシワを寄せてアルフレドを見上げると、そっとその場を離れようとした。
「おっ? お前どうしたー?」
(?!)
 後ろからひょいと抱え上げられて尊は流石に驚く。
(不躾に何をする!)
 後ろ足で思いっきり肉球制裁。
「うおっ。暴れんなって!」
 腕の中でもがく黒猫をなんとか落ち着かせ、アルフレドはニッと猫に笑ってみせた。
「誰かの飼い猫か? それとも迷い込んだか?」
 宿なしならお前の飼い主も見つけてやんねーとなー、などと言いながらアルフレドはサクサクと大きな歩幅で歩き出す。
 観念した尊は、アルフレドの腕の中でそっぽを向きながら思う。
(……ま、アルなら悪いようにはされんだろ)
 出会って拾われたのが『一番頼れる奴』だったのは僥倖に近いだろう。尊は、そういうことにしておく。無論、本人にこの人物評価を伝える気は今のところ予定がないが。

 アルフレドの部屋に連れ込まれ、ようやく尊は床に下ろされた。
 普通の猫ならば探検するところだろうが、尊は分別ついた大人である。
 ずかずかと無遠慮に他人の部屋を歩き回るような無礼はせず、行儀よく前足揃えて座ってアルフレドを見上げる。
「んー?」
 ガサガサとレジ袋を漁っていたアルフレドは、尊の視線に気づいたか、振り向くと尊に近寄って、スイと持ち上げた。
「お前、目つき悪ぃなー」
 と紫の瞳を覗きこんで、アルフレドは笑う。
「マー」
 尊が不満気な声をあげてみれば、ますますアルフレドは笑って黒猫を高くさし上げて、
「おっ、オスかー。ぶへっ」
「マー!」
 再度の失礼に猫キックを見舞い、くるんと後ろ宙返りを打って、尊はキレイに床に四足で着地した。
 フーッと毛を逆立てる黒猫に、顔面を蹴られたはずのアルフレドは笑いながら、
「おーおー、怒るなよ!?」
 と言いつつ尊をわしゃわしゃと撫で繰り回す。
 そして、レジ袋を掴んで引き寄せたアルフレドは、
「こういう時は旨いもんで和解だ、和解……っと」
 中からドライフードと猫用缶詰を取り出す。
「どっちがいい?」
 尊は右前足を缶の上に置いて、アルフレドを見上げて一声。
「マー」
 ということで、ほぐした猫缶と少し温めたミルクを差し出された尊は大人しく餌を口に運ぶ。人間の時なら美味しいはずはない食餌だが、この体だと美味なのが不思議だ。
 食べ終えて、顔を拭っている尊に、アルフレドは満面の笑みで一本の枝を取り出した。
「これなーんだ」

(……不本意、だが……っ)
 ごろんと身を投げ出し、夢中で枝を齧る尊は夢見心地である。
「お、マタタビにも食いつくたあ、結構イケる口だな?」
 とご満悦のアルフレドを、尊はぼーっと見上げた。
(マタタビとは本当に酔うものなんだな……)
 アルフレドは、尊の腹を撫でながら呟く。
「実家にゃ弟妹が3人もいるんでな。ちまっこいヤツは好きなんだ」
(……初めて聞いた)
 彼から個人的なこと……特に家庭のことを聞くのは初めてだ。
 尊はマタタビに夢中になりつつも、アルフレドの問わず語りを聞く。
(俺には何も言わんのに――それは俺も同じか)
 この格好だから聞ける話も、受けられる甘やかしもあるのだ。
 偶には悪くない、と。尊は、満更でもない気分でアルフレドの手を受け入れていた。

●ゆらり
 ぱんと小気味の良い音を立てて洗濯物を干していた羽瀬川 千代は、ふと見慣れぬ白猫が玄関口に座っているのに気づいた。
「あれ、見慣れない猫さんだね」
 空っぽになった洗濯かごを抱えて、千代は白猫に近寄る。
 近寄ってよく見れば、猫の毛並みは銀に近いのだとわかった。
「首輪は無いけど毛並みが良いし、飼い猫さんかな?」
 しゃがみ込んだ千代がちょいちょいと喉をくすぐると、目を細めて顎を上げてくる人懐っこいふわふわの上品な長毛種。
 ゆらりと猫はふっさりと太い尻尾を揺らす。
「一緒におやつ、食べる?」
 千代の優しい問いかけに、猫は愛らしい声で応えた。
「ニャー」
「そう。じゃあ、おいで」
 と立ち上がって室内へと入っていく千代の後ろを、白猫はピンと尻尾を立てて気取ってついていく。
(千代。お前の好きな愛らしい猫だぞ、可愛がられてやるぞ)
 白猫の正体は、千代の精霊ことラセルタ=ブラドッツだ。唐突に猫に変わったラセルタだったが、大した動揺もなく、ちょっとした悪戯心すら抱いて自分の神人の元を訪れたのである。
「はい、どうぞ」
 とドライフードの皿を床に置き、千代は自分用にお茶を淹れる。だが、カップは二つ。
 ラセルタは、意外に美味な餌を堪能しつつも、千代の様子を見ている。
 彼は落ち着かぬ様子で何度も携帯電話を覗いては、ため息を吐いていた。
「フシャーッ」
 ぺしんと千代の足に猫パンチを当て、ラセルタは尻尾をぶわりと膨らませた。
(俺様の前で携帯を弄るとは何事だ)
「っ、と……ごめんね、落ち着かなくて」
 苦笑して、千代は携帯電話を机に置くと、椅子から下りて、ラセルタを撫でた。
「約束はしていないけれど、待っている人がいるんだ」
 ぽつ、と零した声音が寂しそうで、ラセルタは耳を横に寝かせた。
(確かに今日訪ねるやもとは告げていたが、確約など無かった)
 ふかふかの長くて艶やかな猫を、もふもふと触りながらも、千代の目はドアに向いている。
「買ったお菓子は日持ちするから大丈夫。孤児院の用事はまだまだ幾らでもあるから、暇ってわけでもないんだ」
 でも、それでも。
 いろいろなことを差し置いて。
 ただ。
 千代は肩を落とし、俯いて、つぶやく。
「ラセルタさんに会いたい、な」
「……」
 ラセルタは言葉を失う。まず猫の身では何を言うことも叶わないが。
(いじらしい)
 元の姿なら、一も二もなく千代を抱きしめてやったところなのに。
「ミャウ」
 ラセルタは前足を千代の膝にかけ、少しでもと顔を近づける。
 千代はそっとラセルタを抱き上げ、椅子に座ると膝の上に彼を乗せた。
 手慰みのように猫の背を撫で付けながら、ぼうっと千代は語る。
「元々忙しい人だし、会おうと思えばすぐに会えるのだけれど、彼の事を考える度に顔が見たくなってきて」
 かぁっと首まで赤く染め、千代は泣きそうな声を出す。
「我ながら女々しい、なぁ」
 熱い頬を冷ますかのように当てる手へと、ラセルタはぐいと前足を伸ばす。
 でも届かない。猫の足の長さには限りがあるから。
(猫は不便だ。手を握る事すら出来ないとは)
 そんなラセルタの苛立ちなど、千代は知らず、優しく白猫を見下ろす。
「ん、抱っこをご所望? それとも……慰めてくれてるのかな」
 ラセルタを抱き上げ、千代はふかふかの体へと顔を埋める。
「優しい子だね、ありがとう」
 千代の体温を感じながら、ラセルタはふと怖くなる。
(ウィンクルムという関係が消えたら)
 二人の間には何も残らないのだろうか。
 もちろん、千代はラセルタにとって所有物だから、手放す気は毛頭ないが……。
 だが、二人の仲が『ただのウィンクルム』なのならば。
(もっとだ。もっと、それ以上の関係が欲しい)
 ぐいと猫はピンクの鼻先を千代の唇に寄せる。
 ――千代が、欲しい。

●もぐり
「ニャーッ。フニャーッ」
 虎猫がお屋敷の庭木の上で鳴いている。
 虎猫はそのまま、するんと窓に屋根伝いに近寄ると、器用に前足でカラカラと窓を開けて中に滑り込んだ。
(いねぇ)
 虎のテイルスだというのに、猫に変貌してしまった火山 タイガは、ほぼ恋人で神人であるセラフィム・ロイスの自室に侵入したのだ。
(せっかく猫になっちまった俺を見てもらおうと思ったのに……)
 と内心がっかりしつつも、部屋に満ちているセラフィムの匂いを、獣ならではの鋭敏な嗅覚で楽しむあたり、結構この状況を楽しんでいるタイガだ。
(ふっふーん、今の俺なら家捜し放題!)
 と思ったが、セラフィムの部屋のドアは固く閉ざされていた。ノブに飛びついて、体重で引き開けても良かったが、彼の部屋に傷をつけるのは本意ではない。
(……なら、セラの部屋物色すっか。オカリナと下着は抑えてぇ)
 なんてセラフィムが聞いたら幻滅しそうなことを考えながら、ドラ猫もとい虎猫は、セレブのお部屋を堪能し始めた。
 虎のぬいぐるみにフシャーッと威嚇したり、写真に写った人物に爪を立てようとしてやめたり。
「ふぁあ……」
 くぁあーっと大きな口を開けてタイガは唐突な眠気に耐え切れず、ふかふかのベッドに丸くなった。猫は眠るものなのだ。
 どれくらい眠っていただろう。
 バタンッ!!!
 大きな音にタイガは飛び上がった。
「ニャッ!?」
 ドアにもたれて項垂れているのは、タイガが待ちわびていたセラフィムその人である。
 どうやら先ほどの大きな音は、力任せにドアを閉めた時のものだったようだ。
(どうしたんだ……?)
 状況が飲み込めず、タイガはある一点に釘付けになったまま固まっていた。
 セラフィムの眦に浮かんでいるのは、間違いなく涙だろう。どうして?
「タイガは……タイガは違う……」
 叱られた子供が訴える言い訳のように、セラフィムはただそれだけ呟いていた。
 静かな部屋に突然大きく響くノックの音。ぶわりとタイガの全身の毛が膨らむ。
 メイドらしき女がドアの向こうでセリフを置いていく。
「心配だからこそのお言葉でその内落ち着きますよ。私は応援しています」
 足音が遠ざかると、セラフィムはようやく顔を上げ……そして。
「猫!? 迷い込んだのか」
 ようやくタイガに気づいて驚いた。
「散らかってる理由はこれか」
 部屋の惨状にも気づいて、出来る範囲で片付けていたセラフィムは、部屋に煮干があったことに気づいて、小物いれに使っていた皿に数匹置いてみた。
「商店街でもらったのだけど、食べる?」
(くっ食べ物の誘惑に勝てねぇ!)
 ベットから飛び降り、もぐうとタイガが皿に食いついた途端、セラフィムは皿を引っ込めた。
「にゃっ!?」
「あ……餌付けはいけないって聞いたっけ……」
(そりゃないぜ~!)
 がくりと脱力しつつも、タイガは食欲でかき消されかけていた本題を思い出した。
(それより!)
 セラフィムが泣きそうだなんて、放っておけなかったんだった。タイガはセラフィムに近寄ろうとするも、セラフィムは、ばったりとさっきまでタイガが丸くなっていたベッドに倒れ込んだ。
 慌ててタイガもベッドに飛び上がって、セラフィムの顔に擦り寄り、手を舐める。
「ごめん……気力ない」
 セラフィムはそんな猫に構うこともなく、ごろんと気だるげに布団に顔を埋めた。
 先ほどやりあった父親との口論を思い出して、セラフィムは気を落とす。
「ただ神人と精霊ならよかった」
 座り込んだタイガは緑の瞳でじいっとセラフィムを見下ろす。――それが望んでる本心か?
 自分がセラフィムに告白したことで、彼を悲しませているのだろうか。そんな不安が、脳天気なはずのタイガの胸に去来する。
「嘘。タイガが向き合ってくれたから」
 セラフィムは、僅かに微笑みながらタイガに手を伸ばした。
「僕も立ち向かいたくて……本当の気持ちを、なりたい道を認めてほしくて。そしたらタイガにも答えれる気がして」
 起き上がったセラフィムは、タイガを抱き寄せる。
 虎猫を抱え込むように、ベッドの上に座って、セラフィムは悲しくつぶやく。
「覚悟はしてたのに……」
 しくしくと泣き出す大事な彼の頭も撫でられないから、タイガはそっと彼の涙を浴びる。
(ずっと傍にいるからな)
 泣きつかれて眠るまで。それからもずっと。
 暗くなっていく部屋の真ん中で、タイガは体温を分け与えるようにそっとセラフィムに擦り寄った。

●がぶり
「……?」
 扉に気配があったから、開けてみたのに目の前には誰も居ない。
 怪訝に思いながらもハティは扉を閉める。
「帰ってきたと思ったんだが……気のせいか」
(帰ってきてるっつーの。俺んちだよ、ここぁ)
 ブリンドは気づけとばかりに、ハティの足首に噛み付く。
「いっ……猫?」
 ハティが開けた小さな扉の隙間からでも簡単に侵入が簡単なところが、猫は便利だ。
 ふてぶてしい銀色猫は、きょとんと見下ろしてくるハティに向かって、不満気に鳴く。
「どうした?」
 と手を伸ばすハティの手をブリンドは、がぶと噛む。
(馴れ馴れしく頭さわんな)
「っ……寄ってくるから懐っこいやつかと思えば」
 噛まれた手を振り振り、ハティは困惑する。その隙に勝手知ったるとばかりに猫は奥へと入っていく。
「荒らすなよ、リンが怒る」
「ニャーン」
(俺だっつうの。荒らしなんざしねえよ)
「……通じたのか。家のものには手を出さないな」
「ニャアッ」
(通じてねえよ! さっきから俺だって言ってるだろぉが)
「落ち着け、そんなに鳴かなくても聞こえてる」
 もふっと猫に軽い手刀を下ろし、ハティはふわと微笑みながら腰を落とし、ブリンドを覗きこむ。
(……笑ってら)
 珍しすぎるハティの微笑に、ブリンドは虚を突かれて黙り込んだ。
「と、猫界では目を合わせるのはタブーだったか。まあノラではなさそうだけどな、お前」
 ちょっと待ってろ、と立ち上がったハティはそそくさと出て行ってしまった。
「ニャー?」
(何だこりゃ夢か? 最近おかしいぜ)
 イマイチ自分が猫化した事自体を受け入れられないブリンドは、呆然としていたが、ようやくハティが外出したことに気づき、がくりと肩を落とした。
(あいつ、怪我してるくせに出て行くんじゃねえよ! 何のために俺が買い出しに行ったと思ってんだ!)
 まぁ途中で猫になったので、買い出しは失敗に終わっているのだが……。
 ドアの開閉音が聞こえたので、ブリンドは廊下を駆ける。
 ようやくハティが戻ってきたのだ。
「出迎えてくれたのか」
「ニャンニャン!」
(ちげーよ、休んどけって! 動くなって撃たれて切られて瀕死だったくせに!)
 嬉しそうなハティのズボンの裾を噛み、ブリンドは彼をベッドに連れて行こうとするが、猫の力では無理があった……。
(あーくそ、夢じゃねえわこれ! まるでハティに聞こえてねーじゃねーかボケ!)
「ほら、腹が減ってるんだろう」
 とドライフードとミルクを差し出され、
(そーじゃねーーよ! でも腹は減ってる……)
 ブリンドは渋々食べる。
 食べている間にハティは不器用に家事を済ませていく。早々に食べ終え、危なっかしいから止めろとばかりに何度も邪魔をしたが、猫の力では邪魔にもならぬ。
 仕方なくソファの上でひやひやと彼の仕事ぶりを見守るしかないブリンドは、あることに気づいた。
 ハティは外に出るたび、目を彷徨わせる。
(何か探してるのか?)
 ふとハティが振り向き、バチンと目が合う。
 ギクと身を震わせた猫に、ハティはフッと笑った。
「最初の元気はどうしたどうした」
 と言いながら、猫じゃらしを持ったハティは物陰に隠れて、チラチラとじゃらしを出したり引っ込めたり。
「ニャァ……」
 そんなもんにひっかかるか、と思っていたがウズウズウズウズ、ブリンドの衝動がおさまらない。
(くそぉお、チラチラやめろ!!)
 結局、猫の本能に振り回されてさんざんじゃらされてしまい、互いに息が切れるほど遊んでしまった……。
 ようやくハティが猫じゃらしを手放したので、ブリンドはヒョイとベッドの上に飛び乗る。
 そしてくるりと身を丸めた。
「……そこはリンの場所なんだぞ」
 と言いながら、ハティもベッドに上がって猫の背を撫でる。
「遅いな……」
 お前の事、紹介したいのに……とハティが呟く。相手は目の前にいるというのに。
(ようやく寝やがったな)
 ブリンドはのっしとハティの上により掛かる。
(もう動くなよ。大人しく寝てろ)

●くすり
「あらまぁ、迷い猫かしら」
 朗らかな驚きの声を聞いて、青い猫になっている暁 千尋は内心、諦念を覚えていた。
(……言葉通じませんよね、ですよね)
 急に猫になってしまった動揺はまだ収まらない。とりあえず、とジルヴェール・シフォンのところを尋ねた千尋だが、ジルヴェールは猫が千尋だとは露とも思っていない様子。
 なんといっても、
「お腹でもすいてるの? うち猫缶なんてあったかしら」
 と言うあたり、人間扱いではない。
(猫缶はちょっと……猫ですけど猫じゃないんで)
 と戸惑っている千尋そっちのけで、
「あぁ、あったあった! 貰い物だけど」
 と喜ばしげな声を上げ、ジルヴェールはパキュッと缶を開ける。
「はい、どうぞ!」
 満面の笑みで差し出され……。千尋は進退窮まった。
(そんな期待の眼差しで見られても……食べますよ!)
 ええいままよ、とばかりに食いついたが、なかなかどうして美味である。
(……猫缶って意外と美味しいんですね……)
 もぐもぐとあっという間に空にしてしまった。
「ふふ、お粗末さまでした」
 上機嫌で空き缶を下げるジルヴェールは、満腹の千尋を抱き上げて、毛の深さを指で探る。いわゆる『モフる』という行為である。
「にぃ」
(先生、近いです。あと良い匂いがします……じゃなくて! あんまり見つめないでほしいです)
 と気恥ずかしさで金の瞳を逸らした猫に、ジルヴェールは驚きの声を上げた。
「まぁ貴方チヒロちゃんと同じ眼の色してるのね! 普段は見れないのだけど、近くで見るととっても綺麗なのよ」
 急に正体の名前を出されて、千尋は戸惑う。
 その戸惑いをどうとらえたか、ジルヴェールは猫を抱きしめながら話し始めた。
「あ、チヒロちゃんっていうのはワタシの教え子でね。真面目で心の優しい男の子なの」
 かぁと猫のただでさえ高い体温がもっと上がる。
 千尋の照れなど知らず、ジルヴェールは続ける。
「……そう、とても良い子よ。こんなワタシでも受け入れてくれるくらいに」
 声が真剣味を帯び、千尋の照れが収まる。
「にゃん?」
(先生?)
 ジルヴェールはそっと猫の頭をなでた。
「今でこそ慕ってくれる人も多いけれど、この姿になって離れていった人も沢山いるわ。後悔ないけど、やっぱり拒絶されるのは辛いもの……。我侭だとは思うけどね」
 悲しそうに微笑むジルヴェール。
 千尋の家庭教師をしていた頃の彼は、こんな麗しい姿ではなかった。きっと、この変身を遂げたことで色々と彼の周辺は変わってしまったのだろう。
 千尋は、気付きもしていなかったジルヴェールの一面を目にし、静かに驚いていた。
(先生は完璧で迷うことなんてないと思っていたけど……先生だって悩んだり苦しんだりしていたんですよね)
 彼もまた一人の『人』なのだ。当たり前のことに気づいた千尋は、自分のことが恥ずかしくなる。
 昔の千尋は、人のうわべだけで判断していた。内面がどうなっているかなんて、考えもせず。
「だからチヒロちゃんには感謝してるの。戸惑いながらも傍にいてくれるのがとても嬉しいのよ」
 花ほころぶように猫に微笑むジルヴェールは麗しい。
(こんな形で本音を聞くのはなんだか卑怯な気もしますが……)
 と複雑な心持ちになっている千尋にも気づくことなく、ジルヴェールは遠くを見つめた。
「あの子は……大事にしなくちゃね」
 彼の心が嬉しい。
 千尋は、思わずジルヴェールの手に頭を擦り付けた。
「ふふ、可愛いわね。……あ、今の話は内緒にしてね」
「にゃん」
 猫だもの、言うわけはない。と、千尋は返事をした。
 猫の言葉は通じないはず。
 でも。
「いいお返事ね」
 とにっこりと笑う彼には、きっと伝わった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:暁 千尋
呼び名:チヒロちゃん
  名前:ジルヴェール・シフォン
呼び名:先生

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月17日
出発日 03月24日 00:00
予定納品日 04月03日

参加者

会議室

  • [5]暁 千尋

    2015/03/21-23:59 

    月岡さん、ハティさん達は初めまして。
    暁千尋です。皆さん、宜しくお願い致します。

  • [4]ハティ

    2015/03/21-20:26 

    暁さんと月岡さんは初めまして。ハティとブ……(いない)
    ……。
    ハティだ。よろしく。
    (背中で爪を研ぐ猫をぶら下げてお辞儀) (伸びる猫)

  • [3]セラフィム・ロイス

    2015/03/21-13:44 

    どうも。僕セラフィムとタイガだ
    月岡たちは初めましてになるね。他の皆もよろしく

    虎猫、・・・がいるね。タイガは今日はこれないのかな
    『にゃー!』(つんつん)なんだか元気な猫・・・(微笑)

  • [2]月岡 尊

    2015/03/21-01:12 

  • [1]羽瀬川 千代

    2015/03/20-23:18 


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