【枯木/船旅】……酔った(あき缶 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ここがどことかもはやどうでもよかった
 ゆらりゆらり、慣れない揺れのなか、君はぼんやり思う。
 ここは豪華客船アクサ。老夫婦スクルージとキャロルがどうたらこうたらして手に入れた船であり、もうすぐ就航となるところに、『黒き宿木の種』が植わっていると判明して、なんだかんだでウィンクルムである自分たちが、種の駆除のために乗ることになった。
 どうたらこうたらのなんだかんだ、の部分の詳細について思いだそうとはしてみたが、もはや君の思考がまとまらない。
「うーーー」
 君は、絶賛船酔い中であった。まだ豪華客船のごの字も楽しんでいないというのに!
 手配された客室がスイートなのだけが救いである。とはいえ、君は無駄に大きなクイーンサイズベッドの上から出られないわけだが。
「大丈夫か?」
 ドアが開いて、パートナーが入ってきた。
 手には、誰かから手に入れてきたのであろう酔い止めの錠剤と水の入ったコップ。
「うーーーーーー」
 君はただ唸った。
(めっちゃきもちわるい……)
 外は晴れ、海が爽やかに輝いている。
 そんなもんどうでもよかった。今君は、重度の船酔いと戦うのに必死だった。
「……」
 パートナーの心配そうな視線を受け、君は何か言おうと思った。
「あーーーーウエッ」
 言葉にならなかった。
 とりあえず、薬を飲んでしばらくすれば治るだろう。
 君はえづいて潤んだ瞳をパートナーに向けるのだった。

解説

●内容:船の中で看病シチュエーションを楽しむ
 黒き宿木の種は、それぞれの親密度が1以上あがれば勝手に枯れているので、特にプランで気にしなくて構いません。

●詳細
 部屋はスイート。バストイレは部屋にあります。
 備え付けの冷蔵庫に、ひと通りのドリンクが入っています。
 寝具はクイーンサイズベットが一つのみです。(ツインではない)
 食事は厨房にいる誰かに頼めば、凝ったものでなければ、なんとかしてくれるでしょう。

●酔い止め
 錠剤2錠。胃の中が空っぽでも飲めるタイプ。
 効き目は個人差があり、30分後には治っている人もいれば、一日かかる人もいます。

●消費ジェール
 なんやかんや細々したもので500ジェール消費していました。
 詳細は船酔いしていて思い出せません。

ゲームマスターより

お世話になっております。あき缶でございます。
【船旅】出したかった。看病ネタやりたかった。混ぜるな危険。
絡んでもいいけど、個別ハピ寄りなネタだと思います。
豪華客船でやる必要あんまりないと思う? うん、私もそう思う。
出発日が超早いので気をつけてくださいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  桐華さーん…きもちわるいよー
うえーん
薬…錠剤?錠剤?じゃあ飲む
粉薬は苦手なの。苦いから
…子供っぽいって思ってる顔だ。なんだよ。今更だろ

薬飲んでごろごろ。ベッドがふかふかだよ桐華さん…
そういえば前にさー、桐華さんが酔っ払ってうんうん言ってたことあったよねー
あの時はさ、桐華さんと本気で恋人になるなんて思わなかったよ
ふふ、本当、君ってしつこいね
そういうところがー(もが)
…あは。ふふっ、そうだね、そうだ
じゃあ、元気になったら一杯聞いてよ
ちゃんと、俺の言葉で、何度でも言わせて

薬はとっくに効いてて、もう元気なんだけど
桐華さんが優しいから、もう少し甘えちゃえ
バレてる?知ってる!
知ってて甘やかす君が悪いんだ


ハティ(ブリンド)
  気付いた頃には足取りが怪しくなっていたようで
先に歩き出したはずだがリンが部屋で待っていた
見ていると伝染ると…聞いた事がある
それは避けたかったが
体は思い通りになってはくれなかった
…じゃあそれを
タブレットの美味さはよくわからなかったが知った香りに少し気分が上向いて
メニューを聞いておいてくれと返す
何も思い浮かばなかった事もあるが、少しの強がりと希望を込めて

自分のせいでと気は塞ぐが
リンの言う通りならその考えもリンの手間を増やすぐらいの意味しかないのか
何も出来ない自分に舌打ち
触れる感覚にびくり
聞こえていただろうが何も言ってこない
離れる気配もない事に食べ終わる頃には気付く
…寝る
遅れても付き合ってくれるか?


アオイ(一太)
  (ダウンしている一太を起こし)
いち、薬飲みましょう。
飲んだら良くなりますから、頑張って。
(薬を手渡す)

…はい、上手に飲めました(頭ぽん
子供扱いしますよ。僕より年下ですから。
ほら、横になってください。
なんか出会った時を思い出しますね。
熱中症で倒れていたいちを助けた時です。
あの時は…って、眠いんですか?
寝てしまいなさい。そうすれば、気持ち悪いのもわからなくなりますから。

眠そうないちを見てたら、僕も眠くなってきました。
一緒に寝ましょうかね(ベッドに入ろうとし)

痛いっ! なんで頭叩くんですか。
寝相…は確かに悪いですけど!
ベッド広いのに。
…しかたないですね。じゃあ僕はソファで寝ます(しょんぼり



日下部 千秋(オルト・クロフォード)
  吐いちゃだめだ吐いちゃだめだ吐いちゃだめだ……!(一般庶民な日下部君はスイートルームで吐くなんて恐れ多い事できるわけなかった

先輩、すみませんちょっとバストイレの方に……って声出せないからうまく伝わらねえ!(うなるしかできない状態

(結局指をぶるぶるさせながらバストイレの方を指す。が)
ちょ、せんぱ、いきなり抱えな……ウップ(じたじたして吐きそうになっておとなしくなる

看病されるのも2回目なんだよな……そういえば……(横に寝かされて薬も飲んで落ち着いたとき

補足:
ほとんど吐きそうになってヤバイかぐったりしている状態なので言語によるコミュニケーションが難しい状態である。じたじたするしかできない。


咲祈(サフィニア)
  あ、ああ…すまな……い(口元押え
あるわけない、と思っていた。…こんなこと
超計算外…
 君はそう言うけれど…何かしないと落ち着けなくて…
(きもち、わる…。気になる事があって調べ物をしていたのが駄目だった…)

…隈? いや…彼女が出てきた次の日はなんとか寝た
けど、その次の日から寝ていない
 夢を、…見たから(口元押え
(夢の中のアネモネは笑顔だった。けど…泣いているようにも見えた)
(僕を呼ぶ声も、泣いているように聞こえた)
…サフィニア顔怖いんだが?(関連エピ14
 っ、これ以上は黙秘…する…(ぷい
(アネモネのことは、伝えない…これ以上、心配かけれない)

はぁ……分かった。寝よう
(この笑顔に安心するのは、気のせい…?)



●寝る場所について
 ぐったりとベッドの上に胎児のように身を丸めている一太の兎耳が、布団からはみ出ている。
 アオイは迷わずベッド側まで歩いて行き、そっと布団をめくった。
「いち、薬飲みましょう」
 とシーツと一太の体の間に手を差し入れようとしてくるアオイを、一太はジトリと見上げた。
 一太の顔色はすこぶる悪い。
「うっぷ……」
 口を抑えながらも、一太はアオイの手を借りずになんとか上体を起こした。
「大丈夫ですか?」
 アオイの無意識に滑り出てきたような問いかけに、一太は恨めしげに答えた。
「吐きそう。……最悪だ」
 これが大丈夫に見えるのか、と言いたげである。
「薬飲んだら良くなりますから、頑張って」
 と差し出す錠剤と水を一太が睨みつける。
「薬……? こんなに気持ち悪いのに飲めっていうのかよ」
 何か口に入れた瞬間吐き出しそうだというのに。
「……ほんとに治るのか?」
 じぃっと目を眇める一太を、アオイはただ優しい目で見下ろす。
 一太は観念したように、のろのろとアオイが根気強く差し出していた錠剤をひったくると口に放り込み、続けてひっつかんだコップを干した。
「うー……」
 妙な清涼感が喉から胃袋へと落ちていく。少しだけ、酔いがましになった気がして、一太ははふと小さく息を吐いた。
「……はい、上手に飲めました」
 優しい声が落ちてきて、一太の頭を大きな掌がぽんと撫でる。
「なんだよ、子供扱いしやがって」
 上目遣いで睨む一太を、アオイは受け流す。
「子供扱いしますよ。僕より年下ですから」
 ほら、横になってください。とアオイは一太を再び寝るよう促す。
「うん……」
 ばふんとシーツに身を投げ、一太は目を閉じる。
(まあいいや、動くのやだし……)
 世話を焼くのなら勝手にすればいい。座っていると頭が高いからか、船の揺れがダイレクトに酔いに刺さって辛いのだし。
「なんか、出会った時を思い出しますね」
 アオイは微笑ましげに呟く。
 熱中症で倒れていた一太を助けたのが、きっかけだった。
「あの時は……」
 アオイは思い出を語ろうとしているが、うとうとし始めた一太には意味が伝わらない。
 ふかふかの高級マットレスの心地よさと、薬による眠気が一太の意識を薄めていく。
「……寝てしまいましたか。それがいいですね。そうすれば、気持ち悪いのもわからなくなりますから」
 ふっと笑い、アオイはコップを安全な場所に移動させるなり、大あくび。
「……いちの眠気が移ったんでしょうか……」
 眠くなってきたなら、自分も逆らわず。とアオイが大きなベッドに身を滑らせようとした途端。
 ばちんっ。と弾いたように一太の目が開かれる。
「なんだよ、入ってくるなよ!」
「えっ」
 目を白黒させるアオイに、一太は眉を寄せて反駁する。
「お前、寝相最悪なんだから!」
 ばしっとアオイの頭をはたき、一太は出て行けと全身で威嚇する。
「痛いっ! なんで頭叩くんですか」
 叩かれた場所を手で押さえ、アオイは涙目になる。
 ちょっと眠ろうとしただけなのに、この仕打はひどくはなかろうか……。
「寝相……は確かに悪いですけど!」
 一太の言い分に言い返そうとしたものの、自分の寝相の悪さは自覚もしている。
「ベッド広いのに……」
 せっかくのクイーンサイズベッドに入れないなんて、もったいない気持ちでいっぱいだ。
 だが今の一太は病人。無理はさせられない。
「……しかたないですね」
 もそりとアオイはベッドから素直に出た。
「じゃあ、僕はソファで寝ます」
 肩を落として、しょげたアオイが対角線上にあるソファへと歩いて行く。
 その背を見送り、一太はもぞりと無言で布団に潜り込んだ。
(空調管理しっかりしてるし、一晩くらいソファでも大丈夫だろ)
 つらつら考えるのは、アオイの体調。そして先程の無体の言い訳。
(ベッドから蹴り落とされるの嫌だし……だからといって、寝ないで看病されるのも嫌だし)
 ごそごそとソファの方から衣擦れの音が聞こえてくる。アオイは素直にソファで寝るらしい。
 ちょっとだけ一太の胸が痛んだ。
(明日には元気になるから……)
「悪い」
 布団でくぐもる声でぼそりと呟き、一太は余分にある枕の一つをぎゅうと抱き込むと、目を閉じたのだった。

●言えない優しさ
「大丈夫?」
 サフィニアの優しい声を聞き、額においていた手をどけた咲祈は、弱々しく頷いた。
「あ、ああ」
 咲祈のかたわらには本が転がっている。揺れる船内で読書――乗り物酔いしやすい状況にまんまとハマりこんだ。
「ほら、薬」
 差し出される錠剤を受け取ろうと、起き上がった咲祈は、ウッとこみ上げるものをこらえようと口元を押さえる。
「すまな……い」
 空いている手で薬を取り、流しこむ。
「あるわけない、と思っていた。……こんなこと、超計算外……」
 と言い訳じみたことをぼそぼそ言う咲祈に、サフィニアは眉をひそめる。
「……あのね咲祈。本なんて読んでたら気分悪くなるに決まってる」
 とたしなめれば、神人はむうと口をとがらせた。
「君はそう言うけれど……何かしないと落ち着けなくて……」
 サフィニアの眉間の皺が深くなった。
(落ち着けない? それは、あの幼馴染の女の子のこと?)
 先日、担ぎ屋の奸計により咲祈は記憶を失う前に親しかった少女の幻影を見ている。しかもその少女は故人だ、というところまで咲祈は思い出してしまったのだ。
「最近、咲祈隈できてない? 目の下黒いよ? 寝てないんでしょ」
 不機嫌を露わにし、サフィニアは言う。
「……隈?」
 ぺたりと指を目の下に当てて、咲祈は首を傾げる。
「いや、……彼女が出てきた次の日はなんとか寝た」
 それから、しばらく黙ってから、咲祈は白状する。
「けど、その次の日から寝ていない」
「つ、次の日からっ? えっ」
 思ったより不眠の時期が長く、サフィニアは目を剥く。
「夢を、……見たから……うっ」
 長く喋りすぎて疲労したか、咲祈は口元を手で覆う。
 思い出す夢の内容、幼馴染のアネモネは笑顔で。でも、どこか泣いているようで。
 夢のなか、自分を呼ぶ声すらも泣き声のようで。
「……夢……」
 サフィニアは顔をより一層険しくした。
 あの担ぎ屋によって神人に見せつけられた少女が、再び咲祈を苛んでいるのであれば、腹立たしいにも程がある。
「ァ……ニア。サフィニア?」
 少女のことを考えるのに夢中になっていたようだ。咲祈の呼びかけも聞こえていなかったらしい。弾かれたように、サフィニアは神人を見る。
「っ、ああ、何」
「どうしたんだ? 顔怖いぞ」
「顔? 怖くない」
 嘘である。
 しかし無理やり笑って、サフィニアは問いかけようとする。
「……それって、……彼女さ」
 だが、慌てたように咲祈は顔をそむけた。
「っ、これ以上は黙秘……する……」
 サフィニアはまた顔を歪める。――まただ。また咲祈は、アネモネを庇う。
 咲祈も咲祈で、サフィニアの顰め面を見て、心を痛めていた。
 アネモネのことをこれ以上伝えてはいけない。サフィニアに、心配を更にかけてしまう。
「…………大丈夫」
 サフィニアは心のなかの荒波を無理やり押し込め、殊更穏やかに微笑んだ。
「咲祈は寝た方が良い」
「はぁ……分かった。寝よう」
 サフィニアが笑っていると、咲祈の心もどこか凪ぐ。
 素直に布団に潜り込んだ神人に、サフィニアは眠りの挨拶を送り、見守る。
 薬が効いてきたか、すぐにスウスウと安らかな寝息を立て始めた咲祈を見つめ、サフィニアは決心する。
「……やっぱり、咲祈のことは俺が守らないと。……咲祈のパートナーは俺だけ」
 窓越しの小さな潮騒を聞きながら、サフィニアはぐっと胸元を握りしめた。

●貧乏性
 スイートルーム!
 それは!
 高級なお部屋!
 庶民にとっては手の届かない美しき高嶺の花!!
 故に!!
(吐いちゃだめだ吐いちゃだめだ吐いちゃだめだ……!)
「ううーぅ! うえっぷ!」
 日下部 千秋は必死に吐き気と戦っていた。
 こんな高級な大理石の床の上に、吐瀉物を撒き散らすなんて絶対にできない。当然ながらフカフカの高級絨毯の上にもだ。
「日下部。日下部、大丈夫か」
 うずくまって口を必死に手で押さえている千秋の背を撫でながら、オルト・クロフォードは通り一遍の気遣う言葉をかけてやるしか出来ない。
 だが、大丈夫か。と言えるだけ、オルトとしてはかなり心配している方である。正直、興味のわかない他人相手なら放置だ。
(先輩、すみませんちょっとバストイレの方に……っ)
 と言いたい千秋だが、口を開くとそのまま胃の中身が出てしまいそうで、
「うーうぅー」
 としか言えなかった。口を閉じたまま発言できるほど、千秋は器用ではない。腹話術スキルでもとっておくべきだったか? いや、そんなスキルはない。
「ん……?」
 オルトは戸惑う。まだ熟年夫婦のように「おい」だけで何もかもわかるような仲には成れていないのだ。むしろ、何を言いたいのか全くわからない。
「う、ぅうう」
 千秋はぶるぶる震えながら、片手を口から離した。そして、バスルームの方を必死に指差す。
「……あぁ、なるほど」
 吐き気を我慢しながら、バスルームを指すなら、それは『お風呂に入りたいな!』……ではないことくらいはわかる。
 ならば、とオルトは千秋を担ぎ上げた。いわゆる俵抱きである。
「うーうー?! うっぷ」
(ちょ、せんぱ、いきなり抱えないでぇ?! あ、吐く! 待って、吐いちゃだめだ!)
 じたばた暴れかけて、本気で喉の奥が酸っぱくなったので、千秋は青い顔でバチンと口を手で覆った。
「こら、日下部暴れるな。吐くぞ」
 マキナのオルトはどこまでも淡々としている。肩の上の大騒ぎもどこ吹く風で、ずんずん目的地へと千秋を運搬した。
 ひと通り、出すものを出すと、いくばくか楽になったが、嘔吐で力を使い果たしたか、真っ青な顔のまま千秋はぐったりと脱力してしまっている。
 オルトが、今度は千秋をベッドに運搬し、そっと寝かせた。
「さ、薬だ」
 ともらってきた酔い止めをようやく飲ませてから、濡れたタオルで冷や汗びっしょりの千秋の額を拭うオルト。
 甲斐甲斐しい看病を受け、ぼんやり千秋は思った。
(看病されるのも二回目なんだよな……そういえば……)
 さて、その前は何で看病を受けたのか……。記憶を辿ろうとしたけれど、今は気持ちが悪すぎて思考がまとまらなかった。
 もぞり。千秋が身を丸めると、少し楽になった。
 タオルをすすいで戻ってきたオルトは、その様子を見て、思わず呟いた。
「……体勢がいつの間にか丸くなっている……うん、やはり猫だ」
 ちろりと声に反応した千秋がオルトを見上げる。
 熱も出てきたのか、千秋の瞳は少し潤んでいた。
 くらり。
「……?」
(日下部の潤んだ瞳を見たらふらついた……?)
 オルトはぺたりと自分の頬に手を当てる。特に熱はないようだが……。
(俺も酔ってきているのだろうか?)
 無理は禁物のようだ。オルトはおとなしくソファに身を沈めた。
 まだ、オルトは恋愛の機微に気づかない……。

●甘やかす薬
 桐華は不謹慎な視線をベッドに落としていた。
 ベッドの上には神人の叶。
「桐華さーん……きもちわるいよー。うえーん」
 と言いながら平べったくなっている。
(すげえ新鮮)
 まるで珍獣を見るかのような視線だが、叶はその視線の意味に気づけるだけの余裕が今はないようだ。
 それを幸いと、桐華はチェストに置いておいた薬を手に取る。
「とりあえず薬飲め」
「薬……粉薬じゃない?」
「錠剤だけど……」
 戸惑い気味に答えれば、叶は頷く。
「じゃあ飲む」
 ほらと差し出した薬をおとなしく飲み干し、叶はコップを返しながら言う。
「粉薬は苦手なの。苦いから」
 再び桐華は不謹慎な視線を向ける。
 薬を飲んだ。という事実による気分の問題なのか、少し酔いから回復した叶は、今度こそ視線の意味に気づいて頬を膨らませた。
「……子供っぽいって思ってる顔だ。なんだよ。今更だろ」
 すねた顔のまま、ごろーんとベッドの上に転がる叶。
「別に、お前の事が知れるならなんだって歓迎だ」
 というちょっと恥ずかしい発言など聞こえないように、マットを手で押しながら、
「ベッドがふかふかだよ桐華さん……」
 さすがスイートルームだねぇ、と叶はふにゃぁと笑う。
 ため息一つ。桐華は椅子を引きずってきて、ベッドの横に陣取った。
 くしゃんと叶の髪をかき混ぜてやると、叶はくすぐったそうに笑い、口を開いた。
「そういえば前にさー、桐華さんが酔っ払ってうんうん言ってたことあったよねー」
「……懐かしい上に醜態でしか無い話を思い出すか……」
 また溜息をつく桐華に構わず、叶は続ける。
「あの時はさ、桐華さんと本気で恋人になるなんて思わなかったよ」
 にゅっと天井に伸ばした手に光る双子の天使「シニス」と「デラ」がもたらしたと言われる至高の指輪。
「まぁ確かに、あの頃に比べれば進展したと思う」
 桐華は素直に肯定し、それから、苦虫を噛み潰したような顔をしてみせた。
「これがほぼ担ぎ屋の影響なんだから腹立つけど」
 叶はケラケラ笑う。
「ふふ、本当、君ってしつこいね。……そういうところがー」
 そこまで言いかけた叶の口を、桐華は手で覆った。
「酔った勢いで言うのは、ナシだろ?」
 以前、酔っ払った桐華が言おうとしたら、同じように叶は止めたのだ。だから、お相子だ。酔ったのが酒か船かの差はあれど。
「……あはっ」
 不思議そうにしていた叶は得心したかのように、ころころ笑う。
「ふふっ、そうだね、そうだ」
 うんうんと頷いて、叶は目を細める。
「じゃあ、元気になったら一杯聞いてよ。ちゃんと、俺の言葉で、何度でも言わせて」
「ああ。元気になってから言え」
 頷いて、桐華は布団を整えてやった。
 この薬は叶によく合ったようで、とっくに叶の血色は良くなっている。
 それでも桐華は、あれしてこれして、と甘える叶の言いなりになってやる。
 賑やかな豪華客船よりも、二人きりの時間を選んでくれているのがわかるから。
 甲斐甲斐しく働く桐華を見つめ、叶はニコニコと微笑んだ。
(ふふっ、バレてるよね。知ってる! でも、知ってて桐華は僕を甘やかすんだから)
 ――だから、君が悪いんだ!

●レイトディナータイム
「なんでこんなになるまで気づかなかった?」
 腰に手を当て、ブリンドはハティを睨んだ。
 寝床の中のハティは黙りこんだまま、目をそらした。
 足取りが怪しくなっていたのは自覚していた。その歩みが遅くなったのも。
「気付かなかったワケがねえよなぁ」
 ブリンドの顔が険しくなる。
「成程? 俺に見せるつもりはなかったわけだ」
 当てこすりのように言われ、ハティはもごもごと、
「見ていると伝染ると……聞いた事がある」
 とどこで仕入れたのかわからないことをいうので、ブリンドは冷ややかに、
「頑固もんが下手に耐えたのが悪かったな。しばらく起き上がれねえだろう」
 と返した。
「それは……」
 ハティは唸り、なんとか起きようと藻掻いたが、ブリンドの見立ては正確で、やはり起き上がれそうもなく。
 諦めたようにハティはふわふわした寝床に身を委ねた。
 しばらくして、
「何か食えそうか?」
 ブリンドがようやく優しげな声をかけてきた。
 ハティは視線をブリンドに向け、口元を指す。
「……」
 期待していなかった返答が来て、ブリンドは戸惑う。声は掛けたものの、いま手持ちにまともな食べ物は……。
「あ」
 ポケットから取り出したミントタブレット。普段は眠気を覚ますために使っているそれを、じゃらりと音を立てながら取り出した。
「これでいいか? 甘くねえぞ?」
 こくんと頷くハティに、ブリンドは掌に錠菓を数粒取り出して、ハティの口に落とした。
 清涼感と知った香り――ブリンドの香りだ。彼がよく食べているから――に、ハティはようやく声を出せた。
「メニューを聞いておいてくれ」
「……諦めてねえのかよ」
 その船酔い状態で、なお旺盛に食欲があるとは。とブリンドは呆れ果て、頭を掻いた。
「仕方ねえな……何か適当に持ってくる」
 きびすを返して、部屋から出て行くブリンドが閉めたドアの音を聞き、ハティはため息を吐いた。
 ハティは、食べたいものを思い浮かべられなかったが、豪華客船に二人できて、何も食べずに寝ているだけで終わるのも、なんだか癪だったのだ。
 ブリンドをベッドの中で待つ。こんなはずではなかった。もっと楽しい旅行になるはずだった。自分が船酔いしなければ……!
 しかし、病人がジタバタしたところでブリンドにとっては迷惑だろう。
 どうにも八方塞がりで、ハティは思わず舌を打った。
 そっと柔らかいものが触れる感触に、びくりと意識を上昇させたハティは知らぬ間にブリンドが戻ってきた事を知る。柔らかいものは、汗取りのタオルだったようだ。
「起きたか。一応パン粥もらってきた」
 ブリンドはいつもより低めた声でハティに言う。
「食べる……」
 もそもそと起き上がり、少し冷めてしまった粥の椀を受け取る。
 無言でとろとろ食べたが、それでも食べ進めればいつかは無くなる。
「食ったか。眠れそうなら寝ちまえよ」
 椀を取り上げつつ、ブリンドが言うので、ハティは顔を上げた。
「……寝る」
 それから、逡巡の挙句、ハティは辛抱強く次のセリフを待ってくれているブリンドに尋ねた。
「遅れても付き合ってくれるか?」
「ディナーにか?」
 ブリンドは、口を歪めた。
「最初からそう言え」
 そして、怒ったように言うのだ。
「お前の事がなけりゃあな。そもそもこの旅行に失敗も成功もねえんだ」
 二人でいなけりゃ、意味が無いのだ。と。



依頼結果:成功
MVP
名前:日下部 千秋
呼び名:日下部
  名前:オルト・クロフォード
呼び名:先輩

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月08日
出発日 12月13日 00:00
予定納品日 12月23日

参加者

会議室

  • [3]咲祈

    2015/12/12-23:33 

    神人の咲祈と、サフィニアだよ。よろしくね。

    うーん…まさかのまさかで船酔いするとは…。だから本読んじゃ駄目だって言ったのに(ぶつぶつ
    皆もお大事にね。

  • [2]叶

    2015/12/12-22:43 

    …桐華と、愉快な叶。
    正直、うちの破天荒な神人がごときで酔うとは思ってなかったけど、
    船は他の乗り物より酔いやすい印象でもあるんで、仕方もないのかね。
    薬があって助かったわ。まぁ、お大事に?

  • [1]アオイ

    2015/12/12-10:27 

    みなさん、はじめまして。
    アオイと申します。
    今回はおのおのの状況とはなりますが、ご一緒できてうれしく思います。
    みなさんの素敵な相棒が、少しでも早く回復されますようにお祈りしますね。
    さて、うちの子のお世話もしっかりしなくては。


PAGE TOP