


●だが結末は君のものじゃない
――ああ、これはフィヨルネイジャの白昼夢だ。
君は瞬時に分かった。理屈ではなく、直感で。
なぜなら君は、近頃タブロスで人気の演劇『拗れのトラジェディ』の登場人物になっていたからだ。
おそらく自分のパートナーも、同じ時期にフィヨルネイジャに訪れた同朋も、同じようにあの劇の登場人物になっているのだろう。
あの劇は、すべての役が悲劇に見舞われるダークメルヒェン。
だけれど。
この夢の中でまで、あの悲劇をなぞる義務はない。境遇は同じでも、運命は君に動かす権利がある。
●拗れのトラジェディ
むかし、人魚の姫君が陸に住まう王子に恋をした。
恋い焦がれた人魚姫は悪人と知りつつも、孤島の魔女に縋る。
孤島の魔女は、かつて極悪非道の限りを尽くした報いとして、神に呪いをかけられていた。
曰く、『千年の時を超えてなお、お前が愛を知らず、愛されもしなかった場合、お前は灰になる』。
愛を知らぬ孤島の魔女は、恋する人魚姫を妬ましく思いつつも、いやらしく笑み、魔法をかけてやった。
「お前に綺麗な足をあげよう、お前に美しい声をあげよう。そしてその天性の美貌をもってして、それでもひと月の間に王子と添い遂げられねば、お前は海の泡になる」
意気揚々と陸に上がった人魚姫、しかし陸ではただの美しいだけの無知な小娘、王子と釣り合うはずもない。
王子は国の繁栄のため、隣国の姫君と婚約した。結婚式はちょうどひと月後。
しかし隣国の姫君には、愛しあう仲の騎士が居た。姫君も騎士も嘆き悲しんだが、自国の安寧のためには王子と結婚するしかない。
人魚姫が為す術もなく、海の泡になるであろうことを知り、人魚姫の兄たる海王は孤島の魔女に、魔法を解くよう哀願した。
孤島の魔女は、意地悪く言う。
「では人魚姫が泡になる前に、私に愛を教えよ。私とお前が心から愛し合い、私が灰にならなければ、人魚姫を助けよう」
本当の劇の結末は悲惨だ。
孤島の魔女を海王は愛することが出来ぬまま、それでも偽りの愛を演じた結果、魔女は灰になり、人魚姫は泡となって弾ける。
結婚式の日、嫉妬で正気を失った騎士は王子を殺して自刃する。二人の死を目の当たりにし、姫君は狂って身を投げ、帰らぬ身となる。
すべてが上手く行かなくて、海王は己を責めて責めて泣き明かした結果、岩と化す――。
さて、どうしよう。筋を追って、悲劇に浸るもよし。幸せな結末をもぎ取るもよし。
幕があがる――。


●目的:拗れのトラジェディの夢を終わらせる
フィヨルネイジャへの移動に300ジェール消費しました
●配役(下記内容を踏まえていれば、詳細や経緯は自由です)
人魚姫:王子に恋い焦がれ、孤島の魔女の魔法で足を手に入れたが、一ヶ月以内に結婚できないと泡になる
王子:隣国の姫君と愛の無い政略結婚をしなければならない
孤島の魔女:一ヶ月以内に本当に愛し愛されないと灰になる
海王:人魚姫の兄。人魚姫を救うために、孤島の魔女と本当に愛し合わねばならない
隣国の姫君:騎士と恋人同士だが、国のために一ヶ月後に王子と結婚しなければならない
騎士:隣国の姫君と恋人同士だが、王子に奪われた
●禁止事項
PCは「これが夢だ」と分かっていますが、メタ発言(「夢だから協力して」「夢から醒めたらお茶でも行こう」など)は禁止です
あくまで劇の役になりきって、演じきって下さい
●つまり
全員ひとつの物語の中で行動します
配役にかぶりがないよう、事前に相談などで筋書きなどをすりあわせておくことをおすすめします
かならずプランにどの配役を演じるのか明記して下さい
書いていない場合、勝手に当てはめますが苦情は受け付けません
お世話になっております。あき缶です。
こーやGM主催の《贄》と錘里GM主催の《strano》の合わせ技ですが、
ダークメルヒェンってこんなんでいいのかな、錘里GM?!(ここで訊くな)
配役の関係上、参加人数を絞っておりますがご了承下さい。
いわゆるパラレル二次創作みたいな感じになります。
ぶっちゃけ私の趣味満開ですが、それでもよろしければメリーバッドエンドを目指すもよし、惨劇まっしぐらもよし、凄まじくハッピーエンドに向かうもよし。
結末は皆様に委ねます。楽しみにしております。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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隣国の姫役 望まぬ婚姻も仕方がない それがお国の為ならば 騎士様と国を天秤に掛けちゃえば、まだ国の方が重たいんだ ごめんね 何もせずに娶られるのも悔しいので王子の本音を聞きだそう 愛がないことぐらいは分かってるよ? 他に好いてる子の一人くらい居ないのかい 人魚姫の名が出るならそれとなく促してあげたい 色んな不幸が重なって騎士が王子を殺すのなら 色んな幸福が重なって人魚姫と王子が結ばれるなら あるいは違う結末でも 全部見届けよう そして、一人で語り継いでやろう こんな悲劇が起きないよう こんな結末を迎えられるよう 一人で祈ろう だってどうせ、どんな偶然が重なったって 騎士と姫が結ばれる事は、無いんだから 幕は華麗に、めでたしめでたし |
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配役:魔女 若いというのはいいものだな、恐れを知らない ……愛だけで全てが解決するというのなら見せてみろ は、兄君は可愛い妹の恋路が心配か いいだろう、ただし条件がある この私に教えよ、愛の尊さを。 昔話をしてやろう かつて陸の男に恋をした娘がいた 娘は男の望むまま、禁忌に手を染めて彼を王へと導いた 栄誉を手にした男はどうしたと思う? 陸で一番の美女、何も知らぬ小娘を娶り海の娘を捨てた わかるだろう、海の王 愛などあるものか、裏切りを受けるならば灰になる方がましだ それでも尚。愛するというか、醜い私を。 ……酔狂だな だが時間切れだ、優しき王よ ……叶うならば。もっと早く出会いたかった (哀しげに笑って灰となる |
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王子 政略結婚、か… 結婚、そんなに興味は注がれねェ… けど、…国の為、…その為なら、…… その内、愛だって芽生える 国の繁栄……オレにしか、できないことだ… 結婚式間近 正直、これで良いのか躊躇う…… 相手に想い人がいようがなんだろうが、関係ない…んだよな? この場合… だいじょうぶ……だ、多分… 当日 …あ? なんだ? …この辺じゃ見かけねェな 誰か探して……んのか? あれ アンタ、こんなとこでなにしてんだよ… あ? 変なヤツ… ・人魚姫を偶然見かける ・声かけたけどどこかへ走り去ったのを見届ける |
●朧の月夜
人魚の姫君、海を揺蕩う。
潮騒を聞きながら、水面に半身を上げる。
墨を流しこんだような天球を黄金の釘で支えているような、まん丸い月の光を浴び、桃色の柔らかそうな髪がきらめく。
夜風を浴びる。今日はなんとも気持ちの良い夜だ。
月をしばらく楽しもうと、エルレインは岩に腰掛けた。
「……?」
風にのって、なにやら楽しげな音が聞こえてきて、エルレインは耳をそばだてる。
音の方へと視線を向ければ、真っ黒な夜の海に明るい点が見えた。
「人間の船……?」
ざぶんと再び海に身を沈め、エルレインは光の方へと泳いでいく。
人間に見つかるな、というのは人魚の中での掟だ。
楽しげな音は、エルレインの体を自然に揺らす。それが人間世界で言うワルツなのだが、エルレインは知らない。
ぷかりと船の近くでそっと首を出す。
甲板は眩しいほどの電飾で飾られ、月光など掻き消えそうなくらいだ。
「あっ……」
ハンドレールに人影が出てきて、エルレインはとっさに鼻先まで海に沈む。
だがその人を一目見るなり、エルレインの心は奪われてしまったのだ。
(あの方は……王子、様?)
神秘的な憂い秘めた表情の青年に、エルレインは惚れてしまったのだ。
――ああ、お側にいたい。でも、私には人間の足がない……。
悲しくうつむき、とぷりとエルレインは深海の城へと戻っていった。叶うはずもない恋は忘れようと思いながら。
「おかえりなさい、エルレイン。外はどうでしたか? 暦のとおりならば今日は美しい満月だったと……」
にこやかに迎えた兄に上手く返事が出来ず、エルレインは自室に引きこもってしまう。
「……エルレイン……?」
兄たる海王イグニス=アルデバランは、エルレインの様子にただならぬものを感じていたが、心が優しすぎて強くは問えなかった。
全てを知った時、彼はその優しさを深く悔やむのだが。
エルレインははじめ、どうせ叶わぬのだからと恋心を必死に打ち消そうとした。だが、忘れようとすればするほど募る慕情、身を焦がすほどの恋慕に耐え切れず、エルレインは悩みぬき、そして禁断の方法を思いついたのだった。
「そうだわ、魔女、あの孤島の魔女様なら……なんとかして下さるはずだわ……!」
兄に内緒でエルレインは城を抜け出し、かの禍々しき孤島へと尾びれをひらめかせるのであった。
その頃、当の王子はまさか人魚に見初められているとは露知らず、眼前でにこやかに立つ隣国の姫君に当惑していた。
「やぁ、君が王子様の聯君かな。僕は叶、よろしくね」
と軽い調子で挨拶してくる叶が一ヶ月後、日暮 聯の妻になるのだという。両者の意思はそこに介在せず、ただ国家の利益だけが理由として横たわっていた。
(結婚、そんなに興味は注がれねェ……)
聯は感情なく、叶を眺めていた。今までもずっと、王子として己の意思はないがしろにされてきた。何事も『王家として』、『為政者となる者として』、『国の利益として』という理由が先に立ち、聯の希望など些細な生活のことくらいしか通らない。
だがそれも仕方がないことだと、幼い頃から慣らされてきた聯は諦めている。
(国の繁栄……オレにしか、できないことだ……)
そう考えて、何もかもを押し込めて生きていた。今更変えようとも思わない。
「ふふ、愛の無い結婚だね」
「な……」
叶のズバリと切り込んだ台詞に、聯は流石に驚く。
「そんな顔しなくても、それくらい分かってるよ?」
叶はにっこりと笑んでみせながら、内心思う――そもそも僕も愛していないしね。
それでも、愛する人と国を叶の心の天秤にかけた時、傾くのは国の方だ。姫とて、大事なものは王子と同じなのである。
「ねえねえ、他に好いてる子の一人くらい居ないのかい」
さらに叶は切り込んだ。
だが、王子はただただ困惑し、そして、首を横に振った。
「国の為、……その為なら、……その内、愛だって芽生える」
ぼそりと吐かれた言葉のなんと『諦念』なことか!
叶は瞠目し、そして呆れたように頷いた。
「なるほど、りょーかい。君は本当にいい王子サマ、だね」
「アンタは、……いるのか」
聯の問いかけに、姫は笑顔で答える。
「いるよ、桐華っていう僕の国の騎士だ。ほら、あそこに突っ立ってる。正直、望まぬ婚姻さ」
なんということか、叶は己が愛する騎士を同伴してきていた。
「……いいのか」
驚いて王子は問うも、叶は笑顔のまま当然のように応じた。
「いいとも。それがお国の為ならば」
そのきっぱりとした答えを聞き、桐華は瞑目して天を仰ぐ。
叶の覚悟を目の当たりにさせられた。ここに連れてこられた意味を悟らされたと感じた。
(……お国の為と言われたら、何も言えない)
ただでさえ、桐華は一介の騎士だ。国事の一切に意見をいう権限がない。
姫が嫌がれば……と思っていたが、叶は政略結婚を受け入れていた。
ならば――桐華に私情を貫くことなど……。
(本当に、不幸じゃないのか。叶……)
桐華は縋るような視線を叶の背に送ったが、相愛の筈の姫君はとうとう一瞥すら騎士にくれてやらなかった。
●直面する絶望
荒波が侵入者を阻む孤島。禍々しい奇岩がそびえ、怪鳥が鳴き交い蝙蝠が飛ぶ。
海底の岩のくぼみに身をくぐらせ、エルレインは島の中へと進んだ。暗く、どこか寒々しい空気にエルレインは総毛立つが、耐えて進む。
「魔女さま!」
エルレインは洞窟の、まるで皆既月食の月のような血色の不気味な灯りに向かって叫んだ。
のそりと灯りに人影が映る。
「……久々の来訪者が誰かと思えば……」
胡乱な目をした魔女、初瀬=秀は不機嫌そうに呟いた。
「こんなところに来ちゃいけないと、お前の兄君は言わなかったか」
「そ、それは……」
エルレインは一瞬恥じるように目を伏せたが、しかしすぐに顔をあげ、訴えた。
「魔女さま、私はあの陸の王子さまに恋い焦がれているのです」
「はん?」
馬鹿にするような目で秀はエルレインを見下す。
「どうか私に王子様と同じ、足を下さいませんか!? 人魚のままではあの方には近づけないのです」
「足がつけばもうここには戻って来られない。それを承知で言っているのか」
エルレインは僅かに怯んだが、震えながらも深くうなずいた。
「……も、もちろんです。私は悩みぬいて、ここに覚悟して来たんです……!」
(恋ねぇ……)
秀はけたたましく笑いたい気分だったが、なんとか耐え、後ろの薬品棚をあさる。
(若いというのはいいものだな、恐れを知らない)
――愛などあるものか。
とある紫の小瓶を取った秀の目は暗かった。
「これをやろう。……愛だけで全てが解決するというのなら見せてみろ」
「えっ」
瓶を振ってみせる魔女の言葉にエルレインは首を傾げたが、
「いらないのか、飲めばその魚の尾びれが足になる魔法の薬だぞ」
「いります! いります!!」
と言われて慌てて瓶を受け取った。
「あてがあるのか?」
「いいえ……でも、足がなければ近づくことすら……」
「ハハ、その美貌だけでなんとかなるとでも。温室育ちの可愛い姫君は哀れだな」
成功を信じて疑わないエルレインの透き通った瞳から目をそらし、秀は呪詛を唱える。
「お前に綺麗な足をあげよう、お前に美しい声をあげよう。そしてその天性の美貌をもってして、それでもひと月の間に王子と添い遂げられねば、お前は海の泡になる」
「ありがとうございます、魔女様」
エルレインは喜んで孤島を出て行く。
その呪詛のおぞましさなど、全く考えていない様子で。
人魚姫を見送った秀は、その世間知らずを鼻で笑った。
船を見かけた海域の浜辺でエルレインは戸惑いなく瓶の中身を飲み込んだ。
薬はエルレインの意識を奪うほどの激痛を与えながらも、人魚の足を人間のそれに変えてくれた。
痛みが引き、エルレインが気づいた時には既に夕暮れ近くになっていた。
はっと起き上がり、真っ先にエルレインは己の下肢を見る。鱗の覆われた魚のそれではなく、つるりと白い美しい二本の足が生えていた。もはや人魚ではない。見まごうことなき人間だ。
「あ……、ああ!」
感動に打ち震え、エルレインは立ち上がる。よろりとまだ慣れぬ二足歩行に難儀しながらも、エルレインは生まれたての子鹿のような危うさながら浜辺を後にした。
王子というからには、城に居るのだろう。とエルレインは街を行く。
海の中では衣服はいらない。装飾のためのオーガンジーの服だけを身にまとう彼女は、この地上では異様であった。だがエルレインは、周囲の奇異の目に気づかない。
街のあちこちには華やかなポスターが掲示されていた。
「あっ、これは……!」
エルレインにポスターに記載された文字は読めなかったが、写真はあの王子だと確信できた。
「……いったいどうしたのあんた、そんな薄物一枚で。捕まっちゃうわよ。良かったらこれ使いなさい」
ポスターを掲げていた古着屋の店主らしき女性が見るに見かねて、ワンピースとサンダルを手に、エルレインに声をかける。
「ああ、ありがとうございます。……あの、これ……」
素直に衣服を身に着けたエルレインの様子で、文字の読み書きが出来ないのだと悟った女性は親切に説明してやった。
「これはね、この国の王子様の結婚式の告知だよ。隣国の姫様と結婚なさるそうだよ。きっと盛大なパレードになるんだろうねぇ。姫君がどんなおかたなのか、気になるねぇ」
「えっ……」
エルレインは目の前が真っ暗になる思いがした。
(もうひと月したら王子様はお姫様と結婚してしまう……)
店主の制止を振りきって、エルレインはまた歩き出した。向かう先は、高くそびえる城であった。
エルレインは思い知る。
「足を持ってしても。……それでもあの方には釣り合わない……」
この国の常識も知らない。この国の文字も判らない。そして王子に会う手段もほとんど持たない。城に入ろうとしても、衛兵にすげなく追い返されてしまった。
魔女が言っていた意味をようやく悟る。エルレインの美声と美貌、そして天性の明るい可憐な性格があろうとも、国の次期主たる王子には会うことすら叶わないのだ。
だが、故郷を兄を捨ててまで、エルレインはこの地にやってきたのだ。
ひと目でいい、王子に会いたかった。
会って、エルレインという存在に気づいて欲しかった。
●尊きものを見せよ
「エルレインを知りませんか」
「……急に賑やかなことだ。妹の次は兄君か」
孤島に現れた海王を見て、秀は肩をすくめた。
「妹の次……? やはりエルレインはここに来たのですね!?」
イグニスが勢い込んで尋ねると、秀はニヤと笑った。
「流石、海王様だ。察しが良い」
そして秀は、無謀なる人魚姫の恋路について懇切丁寧に呪いのことも含めて、全てイグニスに教えてやった。
「そんな……王子にだなんて。いっそ相手が王子でなければチャンスもあったかもしれませんが」
イグニスは顔を曇らせた。
「あれが望んだのだ。私は健気な恋する姫君に手を貸しただけ。責められる咎はないはずだがな」
意地悪く秀は笑ってみせる。
「妹は何も知らない、ただ誰かを愛すること以外は」
イグニスは秀にすがりつく。
「孤島の魔女、あれは貴方の魔法でしょう。どうか、あの子を助けてくれませんか」
「は、兄君は可愛い妹の恋路が心配か」
魔女はしばし考えていた。どうしてやるのが一番小気味良く海王を絶望させられるだろうか、と。
そしてゆっくりと言い渡す。
「良いだろう」
「ああ! ありがとうございます!」
と海王が喜びかけたところで、すかさず秀は付け加えた。
「ただし条件がある」
――この私に教えよ、愛の尊さを。
条件を聞き、イグニスは首を傾げて復唱した。
「愛、ですか?」
「そうだ。出来るものならな」
悪の謗りを受け、疎まれ、半ば封じられるように孤島で千年生きる定めの魔女は、悪人らしく言い放つ。
そして巨大な砂時計をイグニスの前に突き出した。灰色の砂は今にも落ちきらんとしていた。
「この砂が落ちきるまで千年……それまでに愛を知らず、愛されもしなかった場合、私は灰になる。もし人魚姫が泡になる前に私が灰にならなければ……エルレインを救ってやる」
だが、美しき海王は頷いた。
「かしこまりました」
出来るわけがない、魔女はそう高をくくり、嘲るようにイグニスを眺めていた。
その頃、叶の国の城では婚礼の儀のための用意が着々と進められていた。
慌ただしく動きまわる使用人たちを眺め、叶はあくびを一つ。
「色気のない王子様だね。好きな人ひとり居ないだなんて」
隣で控える騎士は、ただ無言だ。
だが叶は気にせず、口を動かし続ける。
「愛の無い結婚から、愛が生まれる日がくるかなあ? なかなかの希望的観測だよね。今のところ、僕からはまっったくそういう感じの感情は湧いてこないんだけど」
姫君の言葉に、ちらりと桐華は視線を動かした。
ばちんと視線が咬み合う。
「でも、国のため仕方のないこと。だよね、桐華。君が僕に言ったんだよ。だから仕方ないよね」
叶はゆっくりと噛んで含めるように桐華に言う。
「ああ、仕方ないな」
二人共にその受け答えで、胸の中のもやを増やすのだが、二人はそう言い合うしかなかった。
「本当に嫌なら」
「ん?」
「止める。それで姫が守れるなら、喜んで罪人になる」
「……」
叶は顔を逸らした。
●さよなら幸福また来て地獄
聯と叶の結婚式の日、まだ太陽も登りきらぬ冷たい空気が支配する早朝。
聯は寝付けずに城の外を供も付けずに歩いていた。
一人になりたくて抜け出してきたのだ。
(これで……良いのか)
聯はひと月前に顔合わせした時、隣国の姫君にさらりと告白されたことがずっと心に引っかかっていた。
姫君と騎士は好き合っている仲だというのに、国のために聯と結婚するのだという。
「相手に想い人がいようがなんだろうが、関係ない……んだよな? この場合……」
聯はこの一ヶ月何度も自問自答した言葉を繰り返した。
自分だってこの婚姻を望んだわけじゃない。
「だいじょうぶ……だ、多分…………」
そもそも、聯にはどうしてやることも出来ない。自国の利益をなげうって、隣国の姫君を優先など、乱心したと思われるだろう。
ふいに聯は美しい歌声を聞く。
「……あ?」
ふと聯がその方を見ると、みすぼらしい服とサンダルを着た美しい女が沈みかける月に向かって悲しく歌っていた。
「なんだ? ……この辺じゃ見かけねェな」
聯は彼女が気になって、歩み寄る。
歌姫はきょろきょろと何かを探しているようだった。よく見れば彼女は月ではなく、その手前の聯の城を見つめているのだと分かった。
「誰か探して……んのか? あれ」
城の庭師とでも逢引するのだろうか、まさか歌姫がエルレインだと、エルレインが聯を探し求めているのだとは露とも考えない聯は、ちょっとした好奇心を抱いてエルレインに近寄った。
「アンタ、こんなとこでなにしてんだよ……」
バッと聯の声に振り向いたエルレインは、いきなり現れた王子に驚き、声を失う。
エルレインは、なにか言わなくてはと必死に口を開く。
「……あ……あのっ、私……!」
と口をぱくぱくさせてようやくそれだけ言えたのだが。
聯が不審げに眉を寄せたのを見て、体を震わせ踵を返した。
「い、いえっなんでもありません……!!」
脱兎の如く、エルレインは走り去っていってしまった。
「あ? 変なヤツ……」
聯は首を傾げ、エルレインが去っていくのを見送ったが、そろそろ城の者が起きだしてくる頃だと慌てて戻っていった。
せっせと孤島にやってくるイグニスに、根負けしたのか魔女はこんなことを話し始めた。
「昔話をしてやろう」
かつて陸の男に恋をした娘がいた。
娘は魔法の力を持っていて、男はそれを愛したのだ。男は甘い言葉で娘をたぶらかし、栄誉がほしいと囁いた。
だが悪意を知らぬ娘は、男の望むまま、禁忌のまじないに手を染めた。彼はその力をもって、王冠を手にした。
「栄誉を手にした男はどうしたと思う?」
秀はイグニスを覗きこみ、凶悪に笑ってみせた。
王は、陸で一番の美女、何も知らぬ小娘を娶り、海の娘を捨てたのだ。そして禁忌を破った娘は、すべてを失った挙句、神に呪いをかけられた。
「わかるだろう、海の王。愛などあるものか、裏切りを受けるならば灰になる方がましだ」
「その意味も。その価値も。貴方はとうにご存じのはずだ。貴方はその王になる男を愛したのでしょう?」
愛されなかったとしても、禁忌に手を出すほどに娘は男を愛したはずだ。とイグニスは言う。
「本当に愛などないというならば、なぜその話を私にしたのです?」
秀は黙りこむ。
そしてしばしの沈黙の後、秀はイグニスに尋ねた。
「それでも尚。愛するというか、醜い私を」
「……それでも尚。いえ、だからこそ。私は貴方を愛しましょう。妹の為でなく、貴方の為でもなく。私の心の赴くままに」
へらりと秀は笑った。今までで最も邪気のない笑みだった。
「……酔狂だな」
しかし砂時計の砂は落ちきっていた。
「優しき王よ」
悲しげに微笑む秀は色を失い、パラパラと散っていく。
「!」
驚き手を伸ばすイグニスだが、魔女はその手を取ることももはや出来ない。
「……叶うならば。もっと早く出会いたかった」
荒い風が吹き、灰が舞い散って水面に浮かんでいく。
「一人で行かせるわけにはいきません」
イグニスは散っていった灰を見やり、腰に佩いた剣を抜いた。
「愛した人を振り向かせることのできなかった愚かな男が、お供いたしましょう」
切っ先を己にむけ、ぞぶりと胸に差し込む。
「生まれ変わったその時は。必ず貴方を幸せにします、哀しき魔女よ」
そして時計は『ちょうどひと月』を告げる。
海の王が孤島の浜で命を失った頃、街の片隅で泡が弾けたという。
「国のため、しかたがないんだ」
と叶は言ったが、その目は決して納得できていなかった。
そう考えていた桐華は賛美歌を聞きながら、そっと腰の剣を抜く。
誓いのキスを、と神父が言った瞬間、桐華は王子に躍りかかり、正確に胸を刺し貫いた。
突然の狼藉に場が混乱する。喧騒の中、桐華は叶を見る。
叶は悲しげに見返して、そして婚礼衣装を脱ぎ捨てるなり、混乱のさなかを駈け出した。
「叶!」
桐華の声を背で聞き、叶は呟く。
「だってどうせ、どんな偶然が重なったって、騎士と姫が結ばれる事は、無いんだから」
一人で語り継ぎ、一人で祈る。
叶に出来ることはそれだけだ。
桐華はすぐに捕縛された。
おそらく騎士は死刑になるだろう。桐華は諦念のなか、目を閉じた。
――待ち続けたかったのだけれど。叶わないようだ。
「幕は華麗に、めでたしめでたし」



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 3 / 3 ~ 3 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 09月08日 |
| 出発日 | 09月19日 00:00 |
| 予定納品日 | 09月29日 |

2015/09/18-23:41
ん、そしたら呪い解かない方向でいくわ。聯はありがとな。
さて、どんな結末になるのやら。
2015/09/18-20:37
…呪い解くか解かないか特に決めてなかった、な…。
けど、さくっとプラン読み返したら、
魔女が呪いを解かないで泡になるっつー感じの流れになってた。
2015/09/18-19:55
ハッピーエンドでなくったっていーじゃないいーじゃなーい。
望まれない幸福ってこう、なんかちゅーにな響きがして僕は好きです。
かくいう僕のプランもめでたしめでたしで締めちゃうけどめでたいわけじゃないです。
バッドともハッピーともメリバとも言い難い感じになりました。
どんな風になるのかな!まー、いたっていつも通りの僕らなんだけど!
2015/09/18-19:06
んー、聯がバッドよりならそっちに合わせるかな
魔女が呪い解かないパターンとか、
王子と結ばれたのに人魚に戻すパターン(魔女の嫌がらせもしくは海王の有難迷惑)
とかあるがどういう感じかざっくり教えてもらえるとありがたいかなーと。
ちなみに魔女組は愛を知っても知らなくても
最終的にどっちも死ぬ予定、メリバ寄りのバッドか?
2015/09/18-12:28
あー……一応、思いつくがままにプラン、書いた。
結局オチはバッド寄りになってる。
出発時間が近くなったら微調整したりするけど、オチはそのまんまの予定…。
2015/09/17-21:37
じわっと出発も近づいてきてるし、ざっくりとプラン纏めては見たよ。
僕のやつは、皆がどう動いても対応できる感じになってるから、お二人は好きにしちゃってくれて構わないよー。
まぁ、方向性とかはっきりしそうなら、要らない部分削って少し足しての修正は入ると思う。
どちらにしても急いで聞きたいことは無いからゆっくりじーっくり考えてくれて大丈夫だよってことで!
2015/09/14-09:26
ナチュラルに魔女を選択していた自分が恐ろしい。
だがしかし折角なのでもう魔女でいこうと思う。
結末はあれだよな、
全員それぞれの相手と結ばれる:ハッピー
添い遂げようとして死ぬ:メリバ
添い遂げられずに死ぬ:バッド(原典)
みたいなイメージだった。これと一部の組だけ成就するパターンとかな。
結末丸投げもいいんじゃないかと思うが
俺がうっかりすると各所に影響を及ぼしかねないんだよなそういや
(魔法関連全部魔女のせい)
んー、とりあえず流れ考えてみるわ。
2015/09/13-20:43
じゃあ、こういう解釈で、良いか…?
人魚:エルレイン
王子:聯
魔女:初瀬
海王:イグニス
姫君:叶
騎士:桐華
んで、結末は…なんかハッピーは行かねェ気がする…。
だからって…メリバだと行きすぎな気もするし……。
まぁ…バッドが丁度良いんじゃないかとか、思ってたり、する…。
オレは騎士に殺されるなら抵抗はせずに死ぬ、未来しか思い浮かばねェ…かな。
2015/09/13-11:17
秀君がお姫様じゃない……だと……。
それはさておき、二人のイメージだと、魔女と海王がチェンジするだけなんだねぇ。
ふふ、それなら折角だし、二人のイメージに沿って決めちゃえばいいよね。
そんでもって魔女と海王のところは、ご本人イメージ優先していいんじゃないかなーと思う。
なーんとなーく、魔女か海王ーだったら、僕も秀君が魔女の方かなって思うし。
エルレインさんの人魚はかわいー感じになるのかなー。
と言ったところで、一先ずはパートナー同士で結ばれたらハッピーエンドな感じの配役になったけど、
物語として一番難解な関わりがありそうなのは、王子の聯君と、隣国の姫の僕かなー?
お望みのエンディングがあるならプランの方少しはすり合わせた方が良さそうな気もするね。
ちなみに僕に成り行きを任せると騎士が王子を殺すのを見届けて狂わずに逃亡パターンか
騎士が王子を殺す前に僕が騎士を殺して一緒に死ぬパターンにしかならない気がしてなりません!
ハッピーとバッドとメリバの境目が今一つピンと来ない僕でもあるのでー、
いっそ結末は丸投げして各々が良かれと思うプランにしてもいいんじゃなかろうかと考え始めている所。
そちらは如何だろー?
2015/09/13-01:17
イメージ、か……。
オレのイメージだと…
人魚姫:エルレイン
王子:聯
魔女:イグニス
海王:初瀬
姫君:叶
騎士:桐華
こんな感じ…? ってか、ほぼ初瀬さんと変わらねェ…か?
2015/09/12-18:59
お、揃った揃った。初瀬とイグニスだ。
叶は毎度だな、聯は前回ぶりだけど絡むのは初めてか。よろしくな。
んー、希望か。
とりあえず結末は何でも来い。全員ハッピーエンドでもバッドエンドでも。
まあまずは配役だよな。
合いそうな役、ってのも面白そうだ。
個人的には、
人魚姫:エルレイン
王子:聯
魔女:秀
海王:イグニス
姫君:叶
騎士:桐華
が真っ先に思い付いた。
完全に俺のフィーリングだから皆のイメージも聞いてみたいな
2015/09/12-11:56
…どーも…あー、日暮聯。
……。まあ、よろしく。
エルレイン:
こんにちはっレンたんとエルレインですー
初瀬さんたちはこないだぶりで、叶さんたちはお久しぶりですねっ
よろしくお願いします。
…私達もなんでも大丈夫、なんです。
こだわりとかも特にないです。
初瀬さん達もこだわりとかないようでしたら、
誰にどんな役が似合うかで決めちゃってもいいと思います。
結末は……どんなものでもっ!
決まらなかった場合のダイス、賛成ですっ!
2015/09/12-01:03
揃ったー!わぁい。
というわけで毎度お騒がせしてる叶と愉快な桐華さんだよ宜しくねー。
秀君達はいつもお世話になってまーす。聯君達は、ビーチで日光浴しに行くときにあったよね。
早速だけど、配役決めないとあれもこれも始まらない感じなんだけど、ご希望あるー?
すり合わせはどの辺までするかーとかも僕は基本的に強い希望無いんだけど、
ハッピーでもバッドでもメリバでもどーんとこいだよ。
なんなら最終手段ダイスでせーのでも一向に構わない!

