廃墟の城のノクターン(らんちゃむ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

■続きはお仕事の後で

 戦いに赴き人々を救うウィンクルム…の前に、彼等は一人の人間と精霊だ。
日々の殺伐とした気分を一新しようという事になり、休日を満喫するある日……。
楽しく会話する二人の前に、見覚えのある女性が現れた。
「あれあれ、お出かけですか?」
「お疲れ様です…そっちもお出かけですか?」
受付で顔馴染みの女性スタッフが笑顔で声をかけてきた。
普段とは違う私服を着て「私もお休みです」とVサインをしてみせる…ふと、手に持っていた一枚の紙が気になった精霊は、それはなんだと問いかけた。
「実は今日タブロスの方にある博物館に行こうかなーって思ってたんですよ!なんでも数百年前の王家のお妃様のミイラが見れるんだとか!」
 目をキラキラさせるスタッフに、少し顔がひきつる。
だがすぐにスタッフは「私は骸骨に興味無いんです」と頬を膨らませる。
「お妃様のいた国…もう無くなった国なんですけどね?なんでも昔この辺りにあったらしいので凄く興味あるんですよ!お洋服もそのまま保存されてるとかで…不思議ですよね、この辺りに王国があったかもしれないんですよ?」
楽しそうに笑ったスタッフは腕時計を見て「そろそろ行かなくちゃ」と二人に手を振った。

…この辺りにあったかもしれない、数百年も前の国。
少し、ほんの少し興味を持ったものの、精霊に腕を引かれた貴方はまた今度行こうと記憶の隅に置いた。


■その人は虚ろな瞳で

「それにしても暗いなあ」
 早く帰って温かい晩御飯を味わって、仕事終わりの一杯にありつきたいと嘆く調査員に、同行していた調査員のウィンクルムは笑い返す。
何を言ってるんだと返したいが、調査員である彼がそう嘆いてしまうのも仕方ないのだ。
…薄暗く、光さえ差さないこの深い森の中から一分一秒でも早く出たいので、自分達も同じだから。
動物の息すらはっきり聞こえるそこは、静寂などという綺麗な言葉で表現するにはもったいない…もっと恐ろしく、不安を掻き立てるような空間だった。

がさり、調査員達は茂みを抜け開けた場所へと辿り着いた。

「お、やーっとお月様のお目見えか…じゃあとりあえず今日はここまでに」

背を向ける調査員に頷こうとしたウィンクルムは、何かの視線に気づき…武器を構える。
その動作に驚き振り返った調査員が見たのは、敵意を向ける何か

ではなく

「……女?」
「………」
月明かりの下、ただ静かにこちらを見つめる女性がいた。
 女性は紫色の美しいドレスの裾を掴むと、こちらに向かって頭を下げる。
武器を構えた事を詫びるウィンクルム達に女性はぽつり、と言葉をこぼした。

「私を つれてって」
「え?…アンタまさか迷子か?」
「私を つれてって」
「こんな深い森に迷子なんざ妙だな…見る限りじゃ貴族っぽいけど、誘拐でもされたか?」

調査員の質問に答える事無く、彼女は要件だけを述べるばかり。
困ったと頭を抱える調査員をよそに、ウィンクルムはふと女性へと視線をむける。
…光の宿らない虚ろな瞳は、とても悲しそうに見えた。

「つれてって…私を……あの城へつれてって」
「あの城…?」
女性の瞳に映るのは、月明かりに照らされる不気味は廃墟の城だった。


「…あの城でノクターンが、ノクターンが聴きたいの」

あまりにも悲しげな表情に、何故か胸が締め付けるような……そんな気がした。

解説

お疲れ様です!お休み満喫どうでした?
今回は貴族の女性からの依頼らしいですね、お城までの護衛をよろしくお願いします!

■目的
森の奥で出会った貴族の女性らしき人物を廃墟の城まで送り届ける

ノクターンが聴きたいだなんて、オシャレな事言いますよねえ…あれ、でもあんな所にお城なんてありましたっけ?
うちの調査員は地形も調べられないんですかまったくもう!情報無いじゃないですか!
…まあでも、生息するモンスターや盗賊の情報はそんなに危険性が無いので、大丈夫だとは思います。

■廃墟の城

皆さんがいる森の奥から廃墟の城までは一本道みたいですね。
お城の中まではこちらで情報が無いので何とも言えませんが…
外見から判断すると、『お城の上の部分ががっつり壊れていて、風通し良さそう』ってくらいでしょうか?
まあでも古そうなんで、足元には注意してくださいね。

■貴族の女性
実は『お城につれてって』としか言わないので名前も素性もさっぱりなんです…ですが誘拐の可能性や、記憶喪失などの万が一を踏まえて皆さんでお城まで案内してあげて下さい!
もしかしたら何か思い出して話してくれるかもしれませんし。
…うーん、でもノクターンが聴きたいって、ピアノとかラジカセとかあるんですかね?

■調査員支給品
今回はこっちで「懐中電灯」を支給しておきますね!いくら風通し良くて月明かりで照らされるとは言え、暗い所は暗いですし…何度も言いますけど、足元や頭上には十分気をつけてくださいよ?


以上が今回の詳細になります!気分一新出来たし頑張っていきましょー!
…え?私も一新出来たんだから頑張れって?
もー聞いて下さいよ、あの後博物館に行ったらドレスもミイラも見れなかったんですよー…

なんでも泥棒が入ったとかでケースが割れていたんだとか……もー散々でしたよ。

ゲームマスターより

暗い中だと目をくわっとしたくなる。どうもらんちゃむです
目が悪いので伸ばした手が見えなくて「私の手無い!」という謎の遊びを編み出した所です。
……微塵も楽しくないですよ?

今回は廃墟の城をお嬢さんとお出かけ。
なんて言葉はいい感じですけど住処にしてる盗賊やらなんやらいるかもしれないですし、警戒は怠っちゃダメですよ?
にしてもなんで廃墟の城なんかでノクターン聴きたいんだ…上流階級の方の思考は理解出来ぬ…。

それじゃあ私はスタッフと本部にいますね!
え、一緒に行きませんよやですねえ…おばけとか出たら嫌ですもん!
美味しいポトフでも作って待ってますのでそれで許してくださいな。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  ノクターンは夜に想う曲と書くんでしょう?
想いを馳せる何かが、お城でなら分かるのかな
無事にお城まで送り届けよう。それが俺に出来る事だから

城までの道程は女性より少し前を歩く
懐中電灯で周囲を照らし安全確認、木々を揺らす物音を警戒
戦闘時は前衛に参加。女性へ被害が及ばないよう距離を取る
逃げる敵は追わず安全を最優先に。異変はすぐに共有

城内入る前に深呼吸
足元や頭上に注意払い、物音立てないよう静かに進む
手摺りや壁など脆そうな箇所は触れない

演奏時、邪魔にならない程度の音量でCD一緒に流す
無理に詮索はしないけれど聞き役が必要なら喜んで
…笑顔が見れたら、それが何よりの答えかな

☆申請
電池式小型ラジカセ
ノクターンのCD


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  これはもしや帰りたいと言う事だろうか?
なら、心も満足させてあげるべきだな

◆城へ
女性を囲み守って、城を目指す
「ノクターン…静かな曲ですよね」
「城には想い出が?」

「魔法みたいなものです」と安心させトランス
トランス光とライトが光源だ
鎧の殺気感知も使い足元も頭上も警戒
襲撃は彼女をオーブ盾で庇い細剣で応戦

◆城で
建物の崩壊にも注意し、目的の部屋に向かう
*足元が崩れてたらロープを張りにかけ移動
*穴に落ちた人もロープで救助

探し物をするならライトで探す

廃墟が昔日の面影を取戻しても驚かない
彼女の思い出のように動いてみよう
「ノクターンは踊る事も可能だよ」

彼女の昔語りを心に刻む

★帰還後博物館に行き、昔に思いを馳せたい



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  スキル:演奏、礼法
(幽霊いやそんなことある訳ない…
世間話でもして不安を取り除こう)
■答えがなくても詰まっても穏やかに

タイガ、あまり見ちゃ失礼だろ
迷われてさぞ不安でしょう。安心してください
ノクターン好きなんですか?
あ。幼少に習っていたので懐かしくて
暫くピアノは触ってないんですけどね
今は…趣味でオカリナを嗜む程度です

■皆がノクターンがわからなければサビを吹いて教える
聞いたことない?オカリナでするのは初めてだから印象違うかもしれないけど

ノクターンいいですよね。合奏してもいいですか?
よかったらで構いません
音本来を楽しむなら独奏が一番ですし

※心を乗せて吹く
■ピアノを弾く事になったら少し練習後、思い出して



鳥飼(鴉)
  お1人でどうやって、こんな森の奥まで来たんでしょうか。
ドレスも汚れていないような……?
いいえ。それより、まずはあの城に行かないとですね。

隊列は鴉さんと女性の後ろを護ります。
灯りでこちらの位置はバレバレでしょうし、何がいるかわからないので周囲に気を配ります。
トランスは、敵が出たときにします。

森の中でも、城の中でも足元に気をつけます。
マグナライトでなるべく皆さんの足元を照らしますね。

「ノクターンを聴きたいということですけど。よろしければ、僕も歌って良いでしょうか」
駄目なら歌いません。
歌って良いならセラフィムさんが独奏したいようなので、その後に歌わせて貰います。

廃墟の城でノクターン。物悲しいですね。



新月・やよい(バルト)
  ●準備
最初に相談
配列はバルトが前衛
僕は少し下がって女性の傍に
安全重視で行きますよ

●行動
深夜は何かでそうで面白いですよね
怪奇って大好きです(顔下から光ぴかー
夜とか苦手な方がいたら鼓舞します
皆一緒ですから大丈夫

女性も訳あり?記憶喪失?
お名前を知りたいですが…お城についたらわかるかな?
代わりにお姫様とお呼びしましょうか

道中は物音、声、気配はするか時折耳を澄ます
城前にきたら足跡チェック
生き物の出入りの痕跡を探しますね

城の中では楽器や楽譜を探してみましょう
お城の名前もわかると良いな
蝙蝠や鳥もいるかも。頭上注意

●戦闘
中衛
女性や後衛に敵の攻撃が届かないよう妨害
状況把握、援軍注意ですね
トランス判断は相棒任せ




「私をあの城へ連れていって」
 そう呟いた女性はドレスの裾を掴んで丁寧に頭を下げた。
城までの同行を依頼された一同は貴族の女性を囲うように周りに立って、森の中を移動する事に決めた。
アキ・セイジが少し待って欲しいと言うと隣に立つパートナー、ヴェルトール・ランスの肩を叩いた。

「コンタクト」

インスパイアスペルを唱えトランスをした二人を淡い光が包み込み、やんわりと周囲を照らしだす。
月明かりだけしか光源のない森の中では、とても目立つ。
始めてウィンクルムの力を目の当たりにしたのか、女性は目をパチパチとさせ首を傾げた。
「魔法みたいなものです、ご心配なく…それじゃあ行きましょう」
深く暗い森の中、淡い光を漂わせ一同は月明かりに浮かぶ城へと向かい始めた。


 城への道は人が歩けるように整備されてはいない獣道。
鋭い枝や大小疎らな石…足元を隠す雑草によってとても歩きにくい道になっている。
辺りを警戒しながら進む道中は、誰も声を出さなかった。
「……」
依頼主が何も言わず、ただ少しでも早く城に向かいたいのが伝わってきていたからだ。
女性の服は森の中には不釣合いで、時々よろめく事もしばしば。
「危ないし、俺が運ぼうか?」
女性の腕をとんとん、と叩いたランスが問いかけると、始めて女性は口を開いた。
…淡いピンク色の唇が、ゆっくりと動き出す。

「…見知らぬ殿方に抱かれるわけには、まいりません」
「え?…いや、でも服もボロボロになるし」
「服などお飾りに過ぎません…お気遣い感謝いたします」

女性は枝にひっかけてボロボロになっていくスカートの裾を見て言った。
貴族の言葉とは思えない返事にランスはぽかん、とするものの危ないのには変わりない。
出来るだけ危ない目に合わないよう、配慮する事にした。

「…やっぱり、見つかりますよね」
「仕掛けてはこないがついてこられるのは…ちょっとなあ」
かさり、かさりと音がする。
それはこの場にいる誰もが分かっていたが、闇の中からこちらを覗き好機を待つソレ等は仕掛けては来ない。
じっと息を潜め、一同の歩に合わせ後をついてきていた。
羽瀬川千代の言葉に、傍を歩くセラフィム・ロイスがどうするかと頭をかく。
こちらからの戦闘は出来るだけ避けたい…今はウィンクルムだけでは無いからだ。
彼等に守られるように歩く女性は、ただ森の向こうに見える城を見つめていた。
突然走りだすわけにもいかないと一手を考えていた一同に、指示の声が飛び込んだ。

「耳を塞げ」

ラセルタ=ブラドッツの傍にいた者はすぐに耳を塞ぐ。
女性も言われた通りに手で耳を塞げば、ラセルタが頭上に向けて二発発砲した。
突然の銃声に闇の中からはガサガサと大きな音が鳴った後…静まり返る。
ラセルタの威嚇射撃は正解だったようで、一同を追う気配は消えていた。
「野犬…か何かみたいでしたね」
「動物は銃声を嫌う…これでついて来られる事は無いだろう」
耳から手を放して大丈夫ですよとジェスチャーする羽瀬川に、女性は手を放しラセルタに頭を下げた。

「…!」
「…どうかしましたか?」
「い、急ぎましょう…早く、早くあの城へ」

頭を下げた時に聞こえた小さな悲鳴をラセルタは聞き逃さなかった。
何かあったのかと声をかけると、少しだけ焦る仕草を見せる女性…城へ急ごうと言って背を向けてしまった。
…引っかかる。
胸の中にある疑問と不信感を悟られないよう、彼もその後を追うように進み始めた。

「……おや?」
「どうしたんですか、鴉さん」
「主殿、珍しいものが落ちていましたよ」
足元を照らしていた鴉が自分の持つライトに反射するそれを掴んで鳥飼の前に見せる。
彼の黒い手袋からするりと垂れていたのは、きらりと光る糸のような……

「…髪?」
「どうしました~?もうすぐお城ですよー」
「あ、すみません!…鴉さん行きましょう」
足が止まってしまった二人に声をかける 新月・やよいの声に鳥飼が慌てて追いかけるように走りだす。
手のひらに垂れる髪に視線を向ける鴉は、ふっと息を吹いた。
ひらりと舞う細い髪にいつものように笑みを向けて
「…抜け毛にしては、少々多すぎだと思うのですが、ね」
ぽつりと呟いた言葉とともに、髪を闇の中へと捨てた。



「思ったよりでっかいな!」
「森の中に比べると明るい…月が近くにあるからか」
 先頭を歩くバルトと火山タイガが上を見上げると、廃墟の城は確かに存在した。
廃墟、と名がつくのには少々もったいないほど、大きくそびえ立つ入り口に一同は見上げるばかり。
新月は門をじっと見つめる女性に視線を向ける…まだ依頼された時と同じ、悲しい目をしたままだ。
目の前には行きたいと言った城があるというのに表情一つ変えない女性が、少しだけ気になった。
「もうすぐ入れますから」
「……ええ」
辺りを調べは始めた一同…どうやら門は既に機能していないらしく、入り口の傍に人が通れるほどの穴が開いていた。
そこから城の中へ入る事にする。
「さあこっちですよ、お姫様」
そう言った新月が手を差し伸べるように向けると、女性の瞳が揺れる。
その表情に、差し出した本人である新月も驚いてしまった。
まるで今にも泣き出しそうだった悲しい瞳が、月明かりを照らして輝いて見えた。
鬱屈とした暗い瞳が月明かりに照らされ、青空のような目になる。

「…どうして」
「え?ああ失礼、名前を知りたかったんですけど…そういえば依頼の時には名乗っていなかったな、と」
何か問題でもあっただろうか、癇に障っただろうか?
そう思った新月だが、口元を抑え目を細める女性を見てその考えは消えていた。
ゆっくりと新月の手を取ると、女性は穴を通って中へと入る。
「懐かしい呼び名」
「懐かしい?」
「…いつまでも私をお姫様だなんて呼ぶのは、一人だけでしたのに」
どうして知っているのかしら?
ほんの少しだけ、ほんの少しだけだが楽しそうにしている女性を見てぽかん、としてしまう。
にこやかな女性を見た一同は、新月に「何を話してああなったのか」問いかけるが、本人もよく分からず首を傾げた。

「不思議な人です」


 城の傍で優しく輝く月があるというのに、玄関は光一つ差さない暗く静かな場所だった。
ライトを地面に、壁に…そして天井に、細心の注意を払って奥へ奥へと進んでいく。
途中の分かれ道や分岐路は、全て女性の指示通りに進んで行った。
上へ、上へと進む中、女性の足が止まる。
前を歩いていた火山とバルトも、その異様な様変わりに武器を構えた。
「…血の匂いだ」
足元に敷かれた絨毯が赤黒く染まり、所々に染みを作っている。
傍にある壁や椅子にも飛び散った血痕の跡があり、それは残酷な事が行われた後のようだった。
屈んで絨毯に触れたアキは、剣を抜く。
「まだ乾いていない、新しいものだ」
「…大丈夫、僕達が護りますから」
ふらふらとよろめく女性を鳥飼が支えるように受け止め、大丈夫だと言った。
その言葉を言い終わるよりも先に、向こう側の扉が乱暴に蹴破られる。
ぞろぞろ現れた人は、鈍く光る刃先を一同に向けていた。

「人のアジトで何してんだ?あ?」
「ここがお前達のアジト?冗談だろ?」
「勝手に押しかけておいてそりゃねえだろ?…ぶっ殺すぞ」

血走った目をぎらつかせ殺気を放つ男に、ウィンクルムは怯まない。
男が奥の部屋にいた仲間を呼び出し、一同を指差して笑う。
「遊んでやれ」
その一言で、戦いは始まった。
鳥飼と新月が女性を連れ後退し、飛びかかってくる男達から距離を置いた。
「てめえら!逃げるのか!」
「どっち見て…言ってんだよ!」
後退した相手に目を向けて、背後へと意識が回らなかった男は振り返る。
宙に浮いた火山が視界に飛び込んでから先、男の記憶は無くなった。

「盗賊が我が物顔で住んでいるとは思わなかった…わけでもないけどな」
「んだとこの野郎!」
 ため息を吐いたバルトめがけて刃を振り落とす男。
刹那、目の前にいたはずのバルトめがけて下ろした刃は床へと突き刺さっていた。
引き抜こうと力を入れた直後、背後から溢れる…殺気。
「しまっ…」
振り降ろされる両手剣の一撃を、男は避けきれずその全身で受け止める事となった。
脆くなっていた床と共に下に落ちた男は、情けない姿でのびている。
「…悪く思うなよ、こっちも守るもんがあるんでな」

「この先の為に」
 トランスを行った鴉は暴れまわる盗賊の中へと向かい、罰ゲームを発動する。
ピコピコと音を鳴らして頭を叩かれる男達は身を屈めてピコハンを避けようと必死だ。
「この隙だらけな感じ、いいですよね」
「いっでえ!」
「痛いですか?それは失礼…じゃあこうですかね」
目の前でピコハンを避けるのに必死な盗賊を足払いし腕を捻って抑えこむ。
痛い痛いと騒ぐ盗賊にすみませんと笑った鴉は、手足をロープでキツく縛って蹴飛ばしてみせる。
先程よりも大きな声で痛い!と叫ぶ盗賊に、にこやか笑みを絶やさず見下ろした。
「あなたの前でも同じように痛いと言った方がいるんじゃありませんかね」
「ッ!」
「…少しくらいいいでしょう?だってあなたは生きてるんだから」
手足の自由を奪われ転がった男の目の前にあった、赤黒くなった絨毯…そこで何が行われたかなど、聞くまでもない。
自分を見下ろすようにして微笑んでいる鴉に、男は身を震わせて反撃するのをやめた。

 ウィンクルムの攻撃に圧倒され動けなくなった盗賊達を、ラセルタはロープで拘束し邪魔にならない場所に放り投げる。
女性の方へ視線を向ければ、鳥飼や新月、セラフィムと一緒に盗賊の攻撃から守っている羽瀬川と目があった。
「大丈夫」と動く彼の口元を見て、小さく頷く…が、少し視線をずらせば別の表情が見えた。
震える手を自分の手で抑え、目を見開き部屋の惨状を見つめる女性は…今にも泣きそうな表情をしていた。

「何処見てやがるんだテメエ!ボスたる俺様を無視なんざあ死にてえのか!」
目の前に飛び込んできた盗賊の男は刃を振り回す。
攻撃を受け流し間合いを取ろうと離れれば、男の刃は壁のいたるところを傷つけていった。
赤黒く染まったカーテンが破け、綺麗だったはずの壁が切り傷と血痕で荒れていく。
「…虫酸が走る」
「あ?なんだとテメエ!もういっぺん言ってみやがれ!」
まくし立てる男に答えるように、仕込み刀を男の利き腕に叩きつける。
衝撃で剣を落とした男に立ち上がる隙を与えないうちに鳩尾にもう一撃を加え、バランスを崩させた。
「ごっ…のやろぉおおおお!」
「…もういっぺん言ってみろと言ったな」
呻くようにのたうち回る男の背後に周り首元に仕込み刀をあてがう。
情けない悲鳴をあげた男に、ラセルタは冷たい視線を送りながらもう一度言ってみせた。
「物の価値も分からぬまま、人様の城を踏み荒らす者には虫酸が走ると言ったんだ」
「ぐっぞ…があああ!」
煩いとだけ付け足し男の首元を叩けば、盗賊のリーダーはあっけなく気絶してしまった。
顔をあげるともう戦いは終息を迎えようとしているらしく、女性も泣きそうな表情では無くなった。

「…さて、どうするんだ?これ」
「帰りに荷車か何かがあったら拝借して連れて行こう…それまで放置だ」
手足を拘束され伸びきった盗賊達をまとめ、一同は本来の目的である奥の部屋へと進んでいった。


「…そういえばノクターンが聞きたい、とか」
静かになった城の中、セラフィムが女性に問いかけた。
城でノクターンが聞きたい、彼女は依頼時に自分達にそう言ったのだ。
月明かりの差し込む部屋を探索中、セラフィムは隣に立つ女性に手元にあったオカリナで一節吹いて聞かせる。
顔を上げた女性に、少しなら出来るんだと言えば、彼女はパチパチと小さな拍手を送った。
「素敵」
「ありがとうござます…ノクターンはいいですよね」
「ええ…大好きですの」
大好き、そう言った女性の小さな笑みにセラフィムは良かったら自分が演奏をしますと提案した。
「え…あなたが?」
「オカリナで、ですけど」
手元にあるオカリナを見せるセラフィムに、女性はピアノならあると答えた。
大きなピアノがあるからそれで弾いて欲しい…今度は女性からの提案だった。
「おっと?ノクターンの楽譜を見つけましたよ~」
棚の下に隠すように挟まれた木箱の中から楽譜を見つけた新月は、セラフィムに差し出す。
確かにノクターンの楽譜だと確認し、一同は女性の目的地である奥の部屋…玉座の間へと到着した。

「玉座の間…ここに来たかったのですか」
「……」
アキの問いに女性は答えない、ゆっくりと扉を両手で押して中へと入っていく。
待ち遠しかったのだろう、あまり気にせず女性の後を追った一同は

息を呑んだ。

「っ!」
「おい…なんだよ、あれ」
薄暗い玉座の間…その奥にぽつんと置かれた椅子に座る何者かがいた。
崩壊した天井から差し込む光が…玉座だけを照らすように差し込んでいるせいか、その姿はハッキリを見えた。
寂れた王冠、赤黒く染まったマント…ポッカリと口をあけ、うなだれるように座る…黒ずんだ骸骨。
声も出ない一同をよそに、一歩、また一歩と女性は玉座へと歩み寄っていく。

「…ああ…ああ…」
「どうなってんだ…まさかあの骸骨見に来たのかよ」
動揺する火山に、セラフィムがそんなはずはと答えようとした…ふと、視界に光る何かが見える。

玉座の骸の前に膝をつきを、震える声を絞り出して女性はそう言った。
…次の瞬間、ポーンと軽快な音が、部屋に響き渡る。
セラフィムの見た光る何か…それは月明かりに照らされた白いピアノだった。
廃墟の城の中にあるとは思えない程白いピアノは、今も美しい音色を鳴らす事が出来ている。
「…それじゃあ、始めますね」
女性に向かって微笑んだセラフィム、奏でられた旋律に女性は涙を浮かべた。

玉座の間に響き渡るノクターン。
女性は玉座に座る骸に手を差し伸べ、その顔を優しく包み込む。
「…貴方が平気だとしても、私はとても、寂しかった」
ゆっくりと顔を上へ向けると、女性は涙を浮かべピアノの旋律に目を閉じた。
「…ほら、またあの時のようにノクターンを聞ける日が来たでしょう?」

ピアノの旋律に合わせ、鳥飼がそっと歌い始める。
歌声と重なったノクターンに、女性は一同に向かって嬉しそうに笑ってみせた。
「ほら、あんなに素敵な歌声も一緒に」

…少しばかり恐怖を感じる、幻想的な空間だった。
最後の一節を引き終わり、手をゆっくりと離したセラフィムは顔を上げる。
女性は涙をながしたまま骸をみつめるままだった。

「…あの」
「やっと」
「やっと、会えたわね」

そう言った女性の顔が、腕が…スカートから見えた足がパラパラと剥がれ砂のようになって落ちていく。
玉座の骸にしがみつくように腕をからめた女性は、一瞬こちらを向いて目を細めた。
…月明かりに照らされた目は、嬉しそうに見える。

「ありがとう 素敵なノクターンだったわ」

女性の着ていた美しいドレスが、床に落ちる。
確かに存在していた 此処にいたんだと火山がぽつりと呟いた。
玉座の傍にある、白と黒の粉を見つめ一同は呆然としていた。



「…廃墟の城に謎の美しい貴婦人、まるで小説のようだと思っていた」
 数日後、報告を終えた一同はスタッフの協力の元大忙しの数日を送ることとなった。
依頼主である女性だったものと玉座に座った骸の回収、廃墟の城の再調査。
城に居座っていた盗賊グループの報告書など大忙し大慌てな数日。
やっと終わった今日、一同は全員である博物館へとやって来ていた。
…以前、休日に出会ったスタッフの言っていた数百年前の王家の妃のミイラが展示されていた場所だ。
館長は事情を言えず口ごもっていたが、数日前の騒動を聞いて貴方達ならば、と口を開いてくれた。
「…防犯カメラに映っていたのは、硝子を蹴破りふらふらと歩き出すミイラでした」
「ミイラが動いた、ドレスを掴んで出ていったなど誰にも言えません…まさか、あの男の元へ帰っていたなんて」
「失礼、あの男…とは玉座の間にいた」

アキの問いに館長が頷くと、同じように展示されていた一枚の絵画を指差した。
絵画には気難しそうな男がこちらを睨みつけるように描かれている…その隣には、見覚えのある女性が。

「…あの人!」
おもわず声を出した鳥飼が見たのは、自分達が送り届けた女性に似た人が描かれていたから。
だが少し違うのは、絵の中の女性は血色よく、幸せそうに笑っている事だ。
「この王はとても頑固でして、当時周りに合わせない事で他国から恨みを買っていたようです」
そしてある日、王は国を滅ぼされる運命を迎える事となった。
最後の最後に妃を遠くの地へ逃がそうと妃に嘘をついて遠くへ出かけさせたと文献に書いてあると館長は言った。
…そしてその道中、妃は王の言った地へ行く前に盗賊に襲われたという事も教えてくれた。
「数百年前の王家のミイラ…闇市場からやっとの事で救う事が出来た途端の出来事でした。」
「…城の調査はしなかったんですか?」
あんなにすぐ近くにあったのにと言った羽瀬川に、館長はハンカチで汗を拭いながらお恥ずかしい話しですが…と語りだす
なんでもあの森一帯にあったはずの城は何処を探しても見つからなかったのだと言う。
だから数日前に突然現れた城を見てビックリしたのだと言った。

「…待っていたのか」
「かも、しれないな」

ランスの呟きにアキは頷いた。
大切な人を、あの城でずっと待っていたのかもしれないと思った一同に、館長も深く頷いていた。
結果、二人の混ざり合った遺骨はしかるべき場所で供養されるとの事。
この悲劇を今の人達に知って欲しいから、もう少し展示は続けると館長は言った。
博物館を出る最後、本当にありがとうござましたと涙を見せる館長に一同は手を振った。

「…良かったんですよね、きっと」
「森の道中で落ちていたあれも、魔法が解けるサインだったと思うと納得です」
帰り道、まだ昨日の事のように思えると誰かが言えば、確かにそうだと誰かが言った。
やんわりと髪を撫でる風が吹いた事で、ふと空を見上げれば…青い空が広がっている

『ありがとう 素敵なノクターンだったわ』
最期の瞬間、嬉しそうに微笑んだあの目と同じ色の空。
空耳かもしれないが、微かに聞こえた柔らかな声にふっと笑みがこぼれた
さて帰ろうか、歩き出す一同の背中を押すように またやんわりと…風が吹いた。



『願いを聞いてくれて ありがとう』



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター らんちゃむ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 冒険
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月30日
出発日 05月05日 00:00
予定納品日 05月15日

参加者

会議室

  • [11]新月・やよい

    2015/05/04-23:57 

    こちらも提出完了です。
    気負いせずに、楽しんでいけたら良い・・・かな?
    そうそう、バルトが『おう、こちらこそよろしくな』って笑ってました。
    よろしくお願いします。

  • [10]セラフィム・ロイス

    2015/05/04-23:43 

    ん。こちらも提出すんでるよ
    謎はあれど難易度が簡単だし、よっぽどじゃない限り問題ないか
    疑問は疑問としてプランにいれたし平気だと思う

    皆、当日はがんばろう

  • [9]アキ・セイジ

    2015/05/04-22:55 

    プランは書けたよ。

    森の中も廃墟の城も暗い。
    なので、ぼんやりした明かり代わりにもなるし、トランスして動こうと思う。
    「魔法みたいなものですよ」と女性に了解を取ってさ。
    支給のライトにプラスしてってことな。

    うまくいっていると良いな。

  • [8]セラフィム・ロイス

    2015/05/03-22:36 

    タイガ:『(耳ぴこーん!)シンクロサモナー仲間!よろしくな!』
    はいはい。よかったね

    >演奏に関して
    幼少にピアノを習っていたからブランクはあるが弾けるから、一応
    って、吹きがたりって(苦笑)
    えー・・・努力はしようか?腕前披露すればいいのか、合奏で発揮すればいいのか
    初めは独奏で聞きたいな。申し出は申し出で

    >歌
    いいんじゃないかな。アレンジで歌詞をつけるのもあるようだし

    >CD
    タイガ:
    『おお。それは考え付かなかった
    ちっと思ったが『聴きたい』つってるな。ただの言い方の可能性もあるけど
    弾きたい、んじゃないのなら別で考えるのもありかも
    訳ありか、別の誰かの演奏に魅了されてるのか』

    >楽譜、楽器
    うん。他にもみつかるかもしれないし良いと思う

    >隊列
    希望は、道中は会話をするため女性の隣か、近くかな
    タイガはーーどこでも構わないが、前衛タイプだし前にたとうか?森では
    建物は踏み抜きそうだしもっと注意力ある人に頼みたい(苦笑)

    と建物についたら二手ほどに分かれるか?探査に
    いらないかな・・・?

    >進行
    なるほど。セイジの言うとおりか
    『つれてって』と望んでいるなら場所も分かるはずだし目的地につく分には問題ないかな
    撃退して進むのも異論ないよ。安全第一でいこう

  • [7]新月・やよい

    2015/05/03-22:02 

    皆さん初めまして。
    新月と申します。相棒はシンクロサモナーのバルト。
    よろしくお願いいたします。

    僕も安全重視が良いかなと。
    何のお城だったのかとか、ヒントがあるかもしれませんし。
    女性に怪我をさせてはいけませんから。

    演奏はできそうにないので、
    代わりに楽器や楽譜がないか注意して歩こうかと思います。
    お役に立てると良いのですが。

    整列は、バルトが近接なので、彼女の横側か前を歩こうかなーって考え中です。

  • [6]鳥飼

    2015/05/03-21:23 

    そうですね。僕も足元に気をつけて歩こうと思います。
    隊列は……、女性の後ろを護りますね。

    僕も演奏はできませんけど。
    歌詞のある曲なら、事前に女性に聞いて。
    歌っても良いなら歌おうかと思ってます。

  • [5]羽瀬川 千代

    2015/05/03-14:05 

    羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    新月さんとバルトさんは初めましてですね、どうぞ宜しくお願い致します。

    急ぎの要件では無いですし、安全第一で進んでいけたらと。
    お城の中の老朽化した床などを踏み抜いたりしないように…。

    俺たちは演奏に関して詳しくないので
    セラフィムさんやスキルのある方にお任せという形になりそうです。
    一応ピアノが無い、壊れている可能性を想定して
    ラジカセとノクターンのCDの申請だけしてみようかなと思っています。

  • [4]アキ・セイジ

    2015/05/03-10:55 

    ロイスはオカリナの吹きがたりでよろしく(無茶振り)

    道中は女性を中心に俺達で周りをさりげなくガードしながら進む感じかな?
    足元と頭上には注意しよう。魔物も野生生物も野党もいるかもだしな。
    鎧の殺気感知能力とランスの動物学も使って警戒はおこたらないつもりだ。

    万一敵に襲われたら、彼女をガードしつつ撃退するのでいいかな?

    城に入ったら上を目指そう。
    彼女が、行くべき部屋を知ってるだろう。

    そういえば、ランスが、「女に森の移動はきついかもなあ」って気にかけてる。
    「木の根で転んだり足をくじいたら大変だ。歩きづらいようなら、背負ってやるかな。」
    だとさ(ふふ

  • [3]鳥飼

    2015/05/03-08:49 

    お久しぶりです。セラフィムさん、タイガさん。

    やよいさんとバルトさんは初めましてですね。
    僕は鳥飼と呼ばれてます。こちらはトリックスターの鴉さん。
    皆さん、よろしくお願いしますね。

    僕達が今いる森の奥から、廃墟の城までは一本道なんですね。
    そして森の中は薄暗くて光が差してない、と。

    気をつけるのは森での移動と。
    廃墟の城の中での移動でしょうか。

  • [2]セラフィム・ロイス

    2015/05/03-02:41 

    どうも。僕セラフィムとシンクロサモナーのタイガだよ
    新月とバルトは初めまして。鳥飼たちは久しぶり。他の皆もよろしく頼むよ

    〆切が5日出発なんて時間少なかったんだね。今気づいた
    えっと・・・
    懐中電灯は支給されるし、女性の話を聞きながら城を目指すでいいのかな
    隊列とどういうところに気をつけて進むだとか決めようか?

    タイガがまあハンティングやサバイバル、(設定のマタギ)
    があるから周りを注意できたらいいな、って思ってる
    あと僕が演奏レベル5だから・・・・・・音楽の話できたら、適うなら合奏できないかとも
    オカリナだけどね

  • [1]アキ・セイジ

    2015/05/03-01:43 


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