プロローグ

●ようこそ花の旅へ！
「わぁ……」
　目の前に広がる光景に、思わず声を漏らしたのは２人のうちのどちらだっただろうか。
　ここはバレンタイン伯爵領『妖精の庭園』。
　４代前の伯爵が愛しい婚約者に贈ったこの広大な庭園には、時を超えてなお数限りない美しい花々が咲き誇っている。
「成る程、壮観だな。さしずめ花の絨毯といったところか。どこまでも続いているように見える」
「一日かけても回り切れない、かも」
「だろうな。中々に豪勢な旅行だ」
「本当に当たるんだね、福引、とか」
　そうして２人は、およそ春の花なら何だって見つけられるような立派な庭園を、春のうららかな日差しの下存分に満喫した。

　庭園の探索に夢中になっているうちに日は落ち、２人は用意されたホテルの部屋へと向かう。
　隣合わせの２人の部屋は、どちらもシックながらも高級感に溢れたスイートルームだ。
　荷物を置いて、貴方は部屋の外で持つパートナーの元へ。
　ディナーの時間が、近づいてきていた。

　ディナーは、『花の旅』をモチーフにした特別コース。
　ハーブリキュールを用いた太陽の色の食前酒で先ずは乾杯。
　貴方やパートナーが未成年ならば、代わりに情熱的な赤色のハーブコーディアルを。
　前菜には黄色の花が咲いたようなミモザサラダ。
　ビーツを用いたスープは思わず笑みが零れるようなキュートなピンク色。
　メインは肉料理と魚料理のどちらにしようか？
　赤身牛サーロインのステーキに白身魚のポワレ。
　いずれもエディブルフラワーで綺麗に飾られて、目にも楽しい。
　そしてデザートは、薔薇のアイスクリームに薔薇のジャムを添えて、とびきりリッチに。
　ゆったりとした食事の時間を終えれば、どちらからともなく笑みが零れる。

　食後は、腹ごなしを兼ねてホテルの中庭にある薔薇園の散策を。
　薔薇のアーチを潜って、２人きりで過ごす格別な時間。
　仄かに光放つ不思議な薔薇に導かれながら、交わす会話はとびきりのものとして２人の心に残るはず。

（……あれ？）
　パートナーと別れて自室に戻った貴方は、サイドテーブルに勿忘草模様の洒落た日記帳が用意されていることに気付く。
　どうやら、この旅の思い出を形に残せるようにという計らいのようだ。
　それもまた面白いかもしれないと、貴方はオリーブグリーンのインクのペンを手に取った。
（さて、何を書こう……）
　貴方は、今日の出来事を一つ一つ思い返してみる。

――貴方の心には、どんな思い出が残っていますか？

解説

花の旅、当選おめでとうございます！
素敵な旅行になるよう力を尽くさせていただきますので、よろしくお願いいたします！

プロローグの最後に日記が登場しますが、プランは日記形式でなく、いつも通りに書いていただければと。
日記を書く時のように、今回の旅行で特に心に残った時間を切り取っていただければ嬉しいなぁという気持ちが、勿忘草の日記帳になりました。
ですので、自室に戻った後、日記を書かなくても問題ございません。

シーンとしては主に、
１．日中の『妖精の庭園』
２．ホテルの自室（ディナー前）
３．ディナーの時間
４．ディナー後の薔薇園散策
５．ホテルの自室（薔薇園散策後）
が考えられるかと思います。
文字数節約のため、薔薇園散策のシーンなら４というように、番号ご活用いただければと思います。
複数のシーンをチョイスするのもOKですが、例えば『妖精の庭園』とディナーの時間を描写希望の場合、１と３、と表記した後にプランを書くのではなく、１の後に『妖精の庭園』に関するプラン、３の後にディナーの時間に関するプランを書いていただけますと、よりご希望に沿ったリザルトを執筆できるかと思います。

また、プランの文字数は通常通り、リザルトの文字数は多めですので、アドリブが多くなるかと思います。
大切なキャラクターさん達のイメージを壊さないよう丁寧に、また心を込めて執筆いたしますので、よろしくお願いいたします。

ゲームマスターより

改めまして当選おめでとうございます！
今回の旅行を担当させていただきます、巴めろです。

楽しい時間になるようにと、あれこれ考えながらプロローグご用意させていただきました。
この旅行が心に残る素敵な時間になるよう全力を尽くしますので、よろしくお願いいたします！

それでは、どうぞ良い旅を！

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ひろの（ルシエロ＝ザガン）

１ 他に人いないの、落ち着く。 あの花、あるかな。 「えと、パンジー……。紫で、真ん中が黄色の」 たぶん、「一番好き、かな」 「ルシェは、好きな花。何？」 「薔薇かと、思った」 そっか。似合う花と、好きな花は違うんだ。 でも。ルシェなら、大体似合いそう。 ４ 光ってる。 あ、オレンジの薔薇。（ルシェの服を引く 「これ、ルシェの目の色と似てる。きれい」 （首を傾げて差し出し、硬直 「あり、がとう」 誕生日でお礼、とか。初めてだ。（顔が赤くなる 「そう、だけど」（そっと見上げ いいの？「迷惑じゃ、ない？」 「無理とか……」 なら「よろしくお願い、します」 で、いいのかな。 （ルシェ、なんか嬉しそう） （手に感触、残ってる。……びっくりした）

---

●彼女が愛する花に想う
（他に人いないの、落ち着く）
　辺りに満ちるとりどりの花の甘い香りをすぅと吸い込んで、ひろのは深く息を吐いた。春をそのまま形にしたような見事な花園は貸し切り状態で、今この光景を目にしているのは、ひろのとルシエロ＝ザガンの２人きりだ。
（気持ちが楽、かも。ルシェは、一緒にいていいって言ってくれる、から）
　ぼんやりと思いながら、咲き誇る花々の鮮やかさが眩しくて、ひろのは思わず目を細めた。そんなひろのの様子を横目に見遣り、ルシエロは密かふっと口の端を上げる。傍らのひろのが緊張の色を纏っていないという事実は、ルシエロにとって気分のいいものだった。そんなふうに思われているとは露知らず、ひろのはどこまでも広がっているかのように思える庭園へと、
（あの花、あるかな）
　なんて考えながら視線を巡らせる。花園を彷徨うその視線の意味に気付いて、ルシエロは傍らの少女へと端的に問いを零した。
「何を探している？」
「！」
　心の動きを不意に言い当てられたことに驚き、ひろのは目を丸くして、ルシエロの整ったかんばせを見上げた。それから、口を開いてぽそりと問いへの答えを返す。
「えと、パンジー……。紫で、真ん中が黄色の」
「パンジーか……」
　この並びなら、と思案に目を細めるルシエロ。そうして彼は、そう経たないうちに答えを導き出した。
「それなら、向こうの方だろう」
　言うなり花園の小道を歩き始めたルシエロの後を、ひろのは慌てて追い掛ける。そんな少女へと歩調を合わせて、また傍らに並んだ彼女へとルシエロはタンジャリンオレンジの視線と問いを向けた。
「紫のパンジーが好きなのか」
「えっと、たぶん。一番好き、かな」
「そうか」
　何でもない顔をしてひろのの答えに応じながら、ルシエロは胸中で苦く微笑する。
（まさか、花を羨む日が来るとはな）
　そんなことを思うルシエロの名を、隣を歩くひろのが呼んだ。視線を移せば、たどたどしいように零されるささやかな問い。
「ルシェは、好きな花。何？」
「オレの好きな花？　白百合だ」
　彼らしい少しの迷いもない答えに、ひろのが焦げ茶の瞳を瞬かせる。彼女がびっくりした様子なのを不思議に思って、ルシエロは僅か目を眇めた。
「何を驚く」
「薔薇かと、思った」
　ルシェには薔薇がよく似合うから、とひろのの唇から小さく言葉が紡がれた後、花園に落ちる短い沈黙。そして、
「似合う花と好きな花は違うだろう」
「そっか。似合う花と、好きな花は違うんだ」
　２人の声が、綺麗に重なる。驚いたひろのが思わず口元を抑えて、それを見てルシエロはくつくつと喉を鳴らした。その笑い顔に、ひろのの視線が吸い寄せられる。
（でも。ルシェなら、大体似合いそう。ルシェはきれいだから）
　彼が好むという白百合も、薔薇も、『妖精の庭園』に咲き誇る、他のどんな花たちだって。ルシェにはきっと似合うはずだと、ひろのは一人で得心し、こくと頷いた。と、その時。
「ほら、ヒロノ」
　ルシエロが、ひろのの名を呼んだ。指差す先には、ひろのが求めたパンジーの花が誇らしげに幾らも咲き乱れている。
「わ……」
　ひろのの唇から漏れる、短い感嘆の息。どことなく嬉しそうなひろのの様子に、ルシエロも表情を柔らかくした。
（パンジーか。花言葉も含め、ヒロノにはぴったりだが）
　思い浮かべたパンジーの花言葉は、彼の心だけが知っている。

●言祝ぎと静けき口付けを
（光ってる）
　きらきらしいようなディナーを終えて、２人はホテルの中庭、静かな夜の薔薇園を歩いていた。道行を照らす光の薔薇は降り注ぐ月光を溜め込んだかの如き珍かさで、ひろのの視線を惹き付ける。咲き誇る薔薇の中に、ふと、ひろのは良く見知った色を見留めて立ち止まった。
（あ、オレンジの薔薇）
　見惚れるほどの美しさまで、傍らを歩く彼の眼差しのようだ。ひろのは気付かず歩みを進めようとするルシエロの服の裾を、思わず引いた。歩みを止め、振り返るルシエロ。
「どうした、ヒロノ」
「これ、ルシェの目の色と似てる。きれい」
　薔薇を指差すひろのの横顔が、花たちの放つ淡い光の中で嬉しそうに輝いて見えたから。胸がきゅうと詰まるような心地がして、ルシエロは密かに細い息を吐いた。そうして、
「ヒロノ、左手を」
　静かに名を呼び、促すように短く言葉を零す。不思議そうに首を右へと傾けて、けれどひろのは、何を問うこともなしに言われるがまま左の手をルシエロへと差し出した。ルシエロはその手をそっと自らの手に取って、彼女の掌と薬指の付け根にその唇を優しく寄せる。唐突に触れた温度に、目を見開いてそのまま石のように固まるひろの。唇を離したルシエロが、硬直する少女の手は握ったままに、タンジャリンオレンジの双眸を真っ直ぐにひろのへと向けた。唇から、零れる言葉は。
「遅くなったが、１６歳の誕生日おめでとう。ヒロノに会えた事を嬉しく思う。生まれて来てくれてありがとう」
　紡がれた言葉に、ひろのは焦げ茶の瞳をぱちぱちと瞬かせた。目元を和らげたルシエロが、ふっと息を漏らす。
「今日のオマエは驚いてばかりだな」
「だって、ルシェが」
「人聞きが悪いな。なんなら、ちゃんと染み込むようにもう一度言ってやろうか？」
「大丈夫、だよ。全部、覚えてる」
　応じて、手渡された言葉を胸の内に繰り返す。先程触れた熱が体中を巡るような心地がした。頬が火照るのを感じる。
（誕生日でお礼、とか。初めてだ）
　くすぐったくて、けれど、貰った言葉がどうしようもなく愛しかった。どきどきする胸を抑えてルシエロの言葉を反芻しながら、ひろのは俯きがちに、けれどしっかりと感謝の気持ちを伝える。
「あり、がとう」
　満足そうに、ルシエロが笑んだ。そして彼は、またひろのを驚かせることを言ってみせる。
「それでだ。ヒロノ、オレの家で暮らさないか」
「ルシェの、家で？」
「ああ。いつまでも宿泊施設に居る訳にもいかないだろう？」
「そう、だけど」
　言い淀み、ルシエロをそっと見上げるひろのの顔には不安の色が覗いていた。いいの？　とその顔が問うているので、ルシエロは彼女を安心させるように大丈夫だと目で語る。その眼差しに少し安堵した様子のひろのの口から、問いが零れた。
「迷惑じゃ、ない？」
「いいや？」
「無理とか……」
「してない」
　はっきりと言い切られて、ひろのは口元に指を当てて思案する。ルシエロが、そう言ってくれるのならば。
「よろしくお願い、します」
　これでいいのかな？　と思いながら、ぺこりと頭を下げる。「ああ、よろしくな」と頭上から声が降った。顔を上げれば、機嫌良く笑む整ったかんばせがひろのの瞳に映る。
（ルシェ、なんか嬉しそう）
　勿論それはひろのの諾の返事に起因するものなのだが、ひろの自身はその理由に気付かない。けれど、ルシエロが嬉しそうなのはひろのにとっても胸をあたためることだった。和らいだひろのの表情に、ルシエロもその双眸を細める。
「そろそろ戻るか、ヒロノ」
「あ……うん」
　応えれば先を歩き出したルシエロの後を追おうとしてふと足を止め、ひろのは左手を握って、開いて。
（手に感触、残ってる。……びっくりした）
　触れた温度がまだ染み付いているような感覚に、ひろのは寸の間心を飛ばす。そんな彼女の方を振り返って、ルシエロもまた束の間の思案に耽った。
（もっと触れたいが、加減が難しいな）
　けれど長期戦の準備ならできていると、ルシエロは密やかに口元に弧を描くのだった。

参加者

• ひろの（ルシエロ＝ザガン）