プロローグ

風を切る音がしてしばらく。
見上げた夜空に、大輪の火の粉の花が咲いた。


二人は、豪華客船グレート・メアリー号の甲板に立っていた。
甲板上はこの間宿泊した際に見た時とは姿を変え
白いクロスの掛けられた丸テーブルが所狭しと並べられている。
テーブルの上には、一流のシェフがその腕を如何なく発揮した
ありとあらゆる料理が載せられ、辺りに美味しそうな匂いが漂っていた。

また、甲板の隅にはこの日の為に世界中から取り寄せられた
多種多様な酒を提供するバーも設えられ
カウンターに座ってゆっくりグラスを傾けるのも悪くなさそうだ。

あとほんの数時間で、このグレート・メアリー号の進水式からちょうど一年。

記念のカウントダウン立食パーティーのチケットは
各界著名人や有力貴族でさえもなかなか手に入れられなかったと聞いた。

その入手困難なはずのチケットが手に入ったのは、本当に幸運だと言わざるを得ない。
まさか、立ち寄ったショッピングモールの福袋に入っているとは思いもしなかった。


賑やかな甲板の上を見渡せば、美味しい料理に舌鼓を打ちながら
有名絵本作家・チャームと、画材の研究の第一人者・レヨンが談笑していたり
甲板の隅のバーでは、格闘家キーノとゲーム開発ディレクターのうっちーが
美味しいお酒に喉を潤しながら次回製作する格闘ゲームの話題に花を咲かせていた。

有力者、権力者が多数出席すると聞いていたので
二人も正装し、心行くまで船上パーティーを楽しむ事にした。



賑やかな喧騒に疲れた二人は、パーティー会場から少し離れたところで
少し休憩することにした。


夜空には丸い月が浮かび、暗い海の上にその光を投げかけている。

遠くの方から、パーティーの司会者たちの声が
夜風と波の音にのって、途切れ途切れに聞こえていた。
……あの司会者も、テレビでよく見るお笑いコンビ"鍋ーズ"だ。
片方は魚のマスクを、もう片方は豆腐の着ぐるみをすっぽりとかぶっており
ハイテンションで話すその素顔はだれも知らないと噂されている。

司会者たちの合図で、パーティー会場から一斉にカウントダウンの声が聞こえ始めた。

3、


2、


1、


"ゼロ"の歓声とともに、夜空に大きな花火が再度打ちあがる。
きらきらと輝く火花に照らされ、鏡のような夜の海も七色に煌めいた。




部屋に戻り、二人は今日のパーティーのことを思い出していた。
何をして過ごしたか、どんな会話をしたのか
記憶が鮮明なうちに、日記に書き留めておこう。

解説

夜の船上立食パーティーです。
時間は、20時?0時までくらい。

*服装
正装です。
指定いただければそのように
お任せいただければGMの好みで書かせていただきます。

*食べ物
古今東西、およそ思いつく限りの食事が並んでいます。
一流シェフが腕を振るった、豪勢で美味しい料理です。
周りには人がたくさんいて、とても賑やかです。

*飲み物
甲板の隅にあるカウンターで、各種お酒・ソフトドリンクを扱っています
食事会場からは少し離れていますが、バーテンが一人常駐しています
静かではありますが、人の出入りもあります。

*休憩
バーの反対側、会場から少し離れたところに
休憩がとれるよう椅子が置いてあります。
あまり人は来ないようで、人ごみに疲れた時には心穏やかに過ごせるでしょう。

0時とともに、船の1歳の誕生日を祝う花火が盛大に打ちあがります。

ゲームマスターより

クルーズ二度目当選おめでとうございます!
あの確率を二度……いったいどんな強運なんでしょう。
あごに宝くじを買っていただきたい。お願いします。

なんだか見たことのある人がたくさんいるパーティー
心行くまで楽しんでくださいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  折角の2度目のクルージングなのですが、二人の間に流れてる空気は微妙です

パーティーの中には、自分が以前に顔を合わせたことがある競馬関係者もいてチャンスだったんですが…
今の自分にとっては夢より精霊との関係のほうが重大なことで話しかける余裕はありませんでした

ぐるぐる考えているうちに頭が重くなってきて
休憩を取っても気が晴れないので、パーティーは早めに切り上げて部屋で寝る事にしました
途中でディエゴさんが部屋に入ってきましたが…今は話する気分じゃないので寝たフリしてます。

わざとらしくないように少し時間を置いて、ディエゴさんを0時の花火打ち上げを見に行こうと誘います
「今起きた」とか言って。

 暗い海と星明り。
その静けさとは対照的に、グレート・メアリー号の甲板は煌煌と照らされ喧騒に満ちていた。
薄水色のパーティドレスにボレロを羽織ったハロルドは
賑やかなパーティー会場を浮かない顔で見て回っている。
その隣に、精霊の姿はなかった。
辺りを見渡せば、人波の向こう甲板の隅のバーカウンターに
黒のタキシードを着たディエゴ・ルナ・クィンテロの背がちらりと見える。
が、こちらを振り向く気配もない。

はあ、と溜息を一つ。
別に喧嘩をしたりしたわけではない。
だが、なんとなく一緒に行動する気にならないのは、やはりこの間の一件のせいだろう。
履きなれないヒールを鳴らして歩きながら、ハロルドはまた、はあ、と溜息を吐いた。
どんな顔をしてディエゴと話せばいいかわからない。
ディエゴもなんとなく戸惑っているようだが、それを打開する術がない。
もう随分と長いこと考えこんでいる気分だ。
それくらい、ディエゴとのことはハロルドの心の大半を占めていた。

今回のパーティーは、あちこちに見知った顔が見えた。大概が競馬関係者だ。
自分の夢のことを思えば挨拶くらいはしておく方が良いのだろうが
今はディエゴのことで頭がいっぱいでそんな気にはなれない。
自分でも驚くほど、他のことに意識を向ける余裕がなかった。

考え込んでいるうちに、なんだか頭が重くなったように感じられて、
ハロルドは、喧騒を避けて甲板の隅にあるソファに座り休憩を取ることにした。

船体を撫でる波の音と、優しく輝く星の明かりが疲れた頭に優しく囁きかけるが
ハロルドの気分は晴れない。
重かった頭は、どんどんと重さを増しているような気さえする。
このままここにいても、状態は悪化するばかりかもしれない。
ハロルドは、パーティーを早めに切り上げて部屋に戻って休むことにした。

部屋に戻り、ハロルドは靴を脱ぎ、ボレロを放ってベッドに倒れこんだ。
柔らかなベッドが、重たい頭を優しく包んでくれる。
靴とボレロは後で片付けよう。今は、この頭の不快感を何とかしたい、と
ハロルドは三度目の溜息と共にゆっくりと目を閉じた。


ディエゴは、ふらふらと覚束ない足取りで船内へと戻っていくハロルドを見て
心配になり、バーテンに適当に声をかけると後を追った。
何故俺に声をかけないんだ、と苛立ち交じりに考え、
そういえば公の場でエクレールと離れて行動するのは初めてかもな、と思い当たる。
話しづらかったのだ。
だから、ずっとバーで酒を飲んで、エクレールを避けていた。
前回船の上で聞いた勿忘草の花言葉とハロルドの想い。
それに返事をした方が良いのか。
仮に返事をするとして、何を言えば良いのか。
考えれば考えるほど思考の泥沼から抜け出せず
自然とハロルドとの距離を開けてしまっていた。

ハロルドに対してディエゴが抱いている気持ちはディエゴ本人も説明がし難い。
確かに自分の傍にいてほしいと願う大事な存在ではあるが、
それは、好き、とか愛してる、なんて言う単純な言葉では表現できないほど
複雑に入り組んでいて、それがまたディエゴを悩ませる。
ディエゴは、自分があまり気持ちを言葉にするのがうまいわけではないことをよくわかっていた。

階段を下り、廊下を歩いて、ディエゴはハロルドの部屋の前にたどり着いた。
オートロックの部屋のはずだが、なぜかドアがほんのわずか開いている。
もしかして、中で倒れているのでは、と、最悪の事態が脳裏をよぎり
ディエゴは気持ちばかりのノックをすると、返事も待たずに室内へと入っていった。

ベッドサイドの薄暗いランプに照らされた室内は、特に変わった様子はない。
ソファの横の床に、先ほどまでハロルドが来ていたボレロがぐしゃりと落ちていた。
……たぶん、ソファに置こうとして失敗したのだろう。
拾って畳んでやろうと一歩踏み出したディエゴのつま先が何か硬いものに当たった。
ごとり、と音を立てたそれは、よく見れば、ハロルドが履いていたハイヒールのようだ。
これがドアに挟まっていたため、きちんとドアが閉まらなかったのだろう。
当の本人はベッドで丸くなって眠っているように見える。見えるだけだが。
なんて不用心な、と思いながらディエゴはボレロを畳んでソファに置き、
ハロルドに背を向けるようにしてベッドの端に腰掛けた。

うとうとと、夢とうつつの狭間を漂っていたハロルドは、
部屋に誰かが入っていた気配で覚醒していた。
"誰か"はハロルドが脱ぎ散らかした靴を揃え、放ったボレロを畳み、
寝たフリをしているハロルドを見下ろして呆れたような溜息を吐いた。
その聞きなれた呼気音は、確かにディエゴのものだ。
ディエゴはじっとハロルドを見下ろした後、ベッドに腰を下ろしたようで
ハロルドの体が少し揺れた。
今は、話をする気分じゃない、とハロルドは思った。
だって頭が重いのだ。考えすぎて。誰かさんのせいで。
自分の寝たフリがディエゴに通じないであろうこともハロルドはわかっている。
これは、話すつもりはない、というポーズだった。

ディエゴは、唐突に理解した。
上手く伝えよう、きちんと話そうと思うから、何と表現していいのかわからなくなるのだ。
別に、エクレールが以前貸付けてきた小説みたいに長々と喋る必要はなかったのだ、と。
クサいのは柄じゃないからな、と胸の内で思い、ディエゴはハロルドに背を向けたまま
ぽつりと呟いた。

「お前の気持ちを受け入れる」

 静まり返った室内に思いのほか大きく響いた声は、強い意志が宿っているように感じられた。
身じろぎしないハロルドに、それだけだ……おやすみと声をかけ、
ディエゴはきちんと鍵がかかったことを確認して出て行った。

ディエゴの足音が遠ざかった瞬間、ハロルドは身を起こした。
先ほどまでの頭の重さが嘘のようにすっきりしている。
時計を見れば、船上の花火まではまだ時間がありそうだ。
ハロルドはボレロを身に着け、ハイヒールを履いて、
わざとらしくない程度にしばらく時間をおいてからディエゴの部屋に向かう。
控えめに白いドアをノックすれば、何だ、と返答が返ってくる。
私です、と応じれば、ドアの向こうで気まずそうな空気が流れたのがわかるが
構わず言葉を続ける。

「今起きたんですが、ディエゴさん、一緒に花火を見に行きませんか
……ほら、せっかくのパーティですし」

 ハロルドの言葉に、漂う空気が少し和らぎ、金のドアノブがゆっくりと回った。



エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 個別
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ 特殊
難易度 普通
報酬 なし
リリース日 04月04日
出発日 04月08日 00:00
予定納品日 04月17日

参加者


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