プロローグ

二人は常夏の国、パシオンビーチの船着き場へと降り立った。

目の前の青い海に浮かぶのは
白い船体が美しい豪華客船、グレート・メアリー号。
その優雅な姿と充実した施設はあまりにも有名で旅行雑誌にたびたび取り上げられており
宿泊予約は一年先までいっぱいという人気ぶりだった。

二人が持っているのは、その豪華客船のスイートルームへの宿泊チケットだ。
先日買った福袋に入っていたのを運よく引き当てたのだった。



早速、波の打ち寄せる桟橋を渡り船着き場へと向かうと
船着き場には、既に白い制服を着た乗務員がおり
二人から荷物を受け取ると大きな船の中へと運び込む。

そのまま、荷物は宿泊予定の部屋へと運ばれ
二人は白い壁と赤い絨毯で統一された船内を
乗務員に丁寧に説明してもらいながら案内してもらうことになった。




「こちらは娯楽室になります」
　乗務員が示したのは、茶色の扉だ。
ドアノブとドアプレートは銅でできている。

「各地のボードゲーム、カードゲームをご用意させていただきました」

　乗務員が開けた棚の中にはチェス、将棋、トランプなど馴染み深いものから
あまり見ないようなものまで、ありとあらゆるゲームが並んでいる。
隅に置かれたダーツの矢は壁にかかったダーツボードで遊ぶためのものだろう。

「窓際には各地のお酒を取り揃えましたラウンジバーも併設しております
ノンアルコールのものもございますので、お酒をお飲みになれないお客様は
お申し付けください」

　娯楽室の窓際には、小さいながらも品ぞろえのよさそうな
落ち着いた雰囲気のラウンジバーが備え付けてあり、
艶やかな黒が美しいカウンターは黒檀で隅までしっかりと磨き抜かれている。




「こちらは音楽室になります
楽器の演奏を楽しめる他
あらゆる楽曲をお聞きいただけるようになっております」

　廊下を進み二枚目の茶色と銅の扉の先、
防音の壁に囲まれた音楽室には様々な楽器が並んでおり
見るも触るも自由だという。

楽器を演奏できる者は勿論、演奏ができなくとも音を鳴らすのも楽しそうだ。

高級そうな音響機器も並んでおり、好きな曲を流して寛げるよう、
椅子とテーブルも用意してあった。




「こちらは図書室になります
お好きな本をお好きなだけお読みいただけるようになっております
また、お部屋にお持ちいただくことも可能でございます」

三枚目の茶色と銅の扉を開けると、
背の高い本棚にぎっしり詰まった本と本棚の間に設けられた読書スペース。

船内で多量の本を長期間保管することは難しいので
タブロス市内の各図書館から様々な本をレンタルして置いているとのことだ。

試しに、この間市内の図書館に無かった本を探してみると
数冊見つけることができた。

……夕食後にでも読みに来ようかな。



「それからこちらが」

　乗務員が手で示したのは、今までとは違う白く塗られた扉だった。

今まで案内された銅の扉とは違い
ドアノブは金色、ドアにかかったプレートも金色だ。
プレートには"302”と書かれている。
「神人様のお部屋になります
お隣、303号室は精霊様のお部屋でございます
ルームキーをどうぞ」

　言葉と共に二人に渡されたのは真鍮でできた金の鍵。
それぞれの部屋番号が刻印されているのが見て取れる。
乗務員に隣の部屋へと連れられて行ったパートナーを見送り早速部屋に入ってみると、目の前には海を一望できる広い窓。
大きな一枚ガラスはがっちりと壁に嵌め込まれており
開けることはできないものの、遮るもののない風景は
まるで海の上を飛んでいるような錯覚を起こさせる。
右の壁際にはキングサイズの赤い天蓋付きベッド。
赤に金の刺繍が施されたベッドカバーの下は
暖かそうな羽毛布団とふかふかの枕が用意されていた。

広い部屋の中央には革張りのソファセットが用意され
ローテーブルには白磁に金の縁取りのティーセットと
小さなバスケットに並べられたクッキー。

左の壁際には樫材でできたデスクが置かれていた。
デスクの上にはアンティークな雰囲気のダイヤル式の電話があり
これで外部や船内の人間と連絡をとれるようだ。
デスクの横に、先ほど預けた荷物が丁寧に置かれている。

室内に入ってすぐ、右手にも一つ白い扉があり、開けるとユニットバスになっている。
備え付けのアメニティは、他の宿泊施設でも見るものの他に
海の塩とハーブを使った数種類のバスソルトが用意されていた。



室内の確認を終え廊下に出ると、
同じく自室から出てきたパートナーがデッキに行ってみようと提案した。


乗務員が案内してくれたのは、自室を出て右の廊下の先だ。
上りと下りの短い階段がひとつずつあり
上りの階段の先には銀のプレートの付けられた水色の扉が見える。

「こちら、上りの階段の先が船上デッキ
下りの階段の先がご夕食会場となっております
ご夕食の時間は18時から21時まで
18時30分までであれば窓から夕陽が
20時以降は海に浮かぶ月がご覧いただけます

それでは、ご不明な点があれば
なんなりとお申し付けくださいませ」

そう伝えると乗務員は一礼し、階段を下りて行った。
……夕食の準備があるのだろう。


デッキに通じる重たい扉を開けると、波の音と潮の香りが直接肌で感じられた。
天気も良く、青い空と青い海に二人は歓声を上げる。

いつの間にか船は出港していたようで
先ほどまで立っていた桟橋は遥か後方に流れている。

常夏の太陽の下、二人でカモメに餌をやったり波間を船と共に泳ぐイルカを眺めたりしてるうちに
あっという間に夕食の時間となってしまった。

夕食は、海の幸を使ったフルコース。
新鮮な魚介と海藻を使ったサラダに焼き立てのパン
デザートのソースの一滴にさえシェフの腕の良さが表れており
二人は窓際の席で沈む夕日を眺めながら美味しい料理と会話を楽しんだのだった。

その後も、各施設で遊んだり、
パートナーの部屋に行ってゆっくり語り合ったり。
バスソルトを入れたお風呂にのんびり浸かり
ふかふかのベッドで波の音を聞きながら眠って
一日のんびりと過ごし、英気を養った二人は船着き場の桟橋に降り立った。

「あー、いい船だった、久しぶりにのんびりできたな
……ちょっと帰りたくないな」

　悪戯っぽく笑いながら満足そうなため息を吐くパートナー。
そっと後ろを振り返ると白い大きな船は来た時と変わらず悠然と波間に揺れていた。

「……他にも、宿泊していた人たちはいるのかな」

「いるんじゃないか、福袋、いっぱい売れてたし」

「他の人はどんな風に過ごしたのか
ちょっと興味あるね」

「そうだな……聞いてみるか」






あなたはどんなひとときを過ごしましたか？

解説

クルーズ大当たり、おめでとうございます！
優雅な船上のひとときをお過ごしくださいませ。

●時間帯
デッキに出る時間帯によって、見られる景色が変わります。
選べる時間帯は4種類！
お好きな時間帯を一つご指定ください。

A早朝…温かい海から昇った水蒸気が冷やされるため
朝靄とそこから昇る朝日、潮を噴き上げるクジラが見られます

B昼…青い空と白い雲、船と一緒に泳ぐイルカの群れが見られます

C夕…夕焼けと飛び交うカモメが見られます

D夜…濃紺の夜空に浮かぶ月と夜光クラゲで青く光る海が見られます

●使える施設

1ラウンジバー付き娯楽室
2音楽室
3図書室

になります。
立ち入れないのは、厨房、操舵室、機関室等の
スタッフ専用スペースです。

ゲームマスターより

クルーズ当選おめでとうございます！
頑張って書かせていただきますね。

今回は、文字数がいつも以上に厳しいかと思いますので
アドリブ可の場合は特に記載は要りません。
不可の場合のみ、×をプランの最初にでもご記入ください。
また、時間帯や場所の指定も記号で構いません
早朝+音楽室ならばＡ２と言った具合で大丈夫です。
それでは、いってらっしゃいませ！

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ（ヴェルトール・ランス）

今年の運を使い果たしたんじゃなかろうか… へぇ良いこと言うじゃないか（感心 ●昼デッキ イルカを見たりカモメにパンを投げたりして遊びつつ過ごしたい 動物に詳しいランスのイルカの解説も楽しみだ イルカの家族か あれが子供かな？（身を乗り出し …ととと、サンキュ（にこ ランスの真っ直ぐな好意が恥ずかしくて、ツンってみたり（余計に喜ばせる気が 強引にハグられるけど…まあ…誰も見て無いからいいか ハグだけだからなっ（主張 ●食事後ラウンジ、そして自室へ 風呂浴びたらドアベルが鳴る 風呂に入ったとこだって言ったろ？（苦笑 手土産に頷いて招く 夜の海を見ながらワインでもあけよう いつのまにかうとうとしてしまいそうだ 酔いが回ってきたのかな

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　常夏のパシオンビーチ。

「今年の運を使い果たしたんじゃなかろうか……」

　白亜の豪華客船を目の前にして、既にアキ・セイジは自身の幸運に驚いていた。
テレビ、雑誌、あらゆるメディアで見ていたあの客船が、目の前に堂々たる姿を見せていたのだ。

「でもさ、幸運は寂しがりだから次の幸運を連れてくるんだぜ」

「へえ、良いこと言うじゃないか」

　だからめいっぱい楽しもうぜ、と笑うランス・ヴェルトールは
心なしか普段よりもやや気持ちが高揚しているように見えた。

幸運な船旅のためか、アキと一緒に過ごす休暇のためか、或いは両方か。
どれにしろ、ランスが楽しそうで良かった、と
少し微笑んだセイジは、ランスと共に船の中へと足を踏み入れた。


　「おい、セイジ見ろよ！イルカだ！」

　乗務員の案内を聞き終え、二人は早速海の見えるデッキへと出た。
大海原を走るグレート・メアリー号の甲板の上、
動物好きのランスは海の上に輝くイルカの背鰭を見つけ、セイジを呼ぶ。

セイジは、楽しそうなランスの笑顔を見て自然に頬が緩むのを感じ、来て良かった、と思った。

「ランス、あんまりはしゃいで転ぶなよ」

「大丈夫だって。それより、ほら！」

　ランスが指した先には、イルカの群れが船に寄り添って泳いでいた。
体が大きな一頭と、小柄なイルカが数頭いるようだ。
動物に詳しいランスに、セイジがあれこれと質問し、ランスは分かりやすく答えてやる。


「イルカの家族か。あの小さいのが子供かな？」

「ああ、そうだな。
イルカは、子供が小さいうちはああやって母親と一緒に行動するんだ」

「へえ、さすが、詳しいな」

　ランスの言葉に感心しながら
イルカの子供を見ようと甲板の手摺から身を乗り出した途端、
船が少し揺れ、セイジはぐらりとよろめいた。

ととと、とバランスを失いかけたセイジの体にランスが腕を回し、ぐいと引き戻した。

「危ないぞ」

「ああ、サンキュ……」

　礼を言おうと顔をあげるが、セイジが思った以上にランスの顔が近くどきりと心臓が跳ねる。
ランスもそれに気がついたようで、嬉しそうに、ハネムーンだな、と笑いかけた。

「だ、誰がハネムーンだ、ばかもの」

　ランスの真っ直ぐな言葉に照れ、それを隠すように暴れてみせるが、
ランスの腕から逃げるどころか、ますますしっかりと抱きすくめられてしまう。

誰も見て無いから良いかと抵抗を諦めると、
頭上からもうちょっとこうしていたいな、というランスの声が聞こえ、
調子に乗るなと拳で引きはがした。

「うう、愛が痛い」

「バカなこと言ってるなよ、そろそろ夕食だ」

　ランスから離れたセイジが先に立って階段を下りて行く。
ランスは慌ててセイジの後を追った。






豪華な夕食を終え、寄る所があるというランスと別れて、セイジは自室に戻る。

風呂に入って日頃の疲れを癒し、部屋着に着替えてソファで寛いでいると、
自室のドアが軽い音でノックされた。

セイジ、と呼ぶ声はランスのものだ。
セイジがドアを開けるが、出迎えたセイジの姿を見て、ランスは顔を赤くする。

「セイジ……無防備すぎだろ、なんて格好で出てくるんだよ」

　湯上りの肌に部屋着一枚、解かれて無造作に下ろされた鴉色の髪はまだしっとりと濡れている。
髪を拭くためだろう、肩にはタオルがかけられていた。
だが、セイジは気にした様子もなくランスに笑いかけた。

「風呂に入ったとこだったんだ。
どうした、何か用か？」

「ああ、そうそう一緒に飲もうと思って」

　セイジの言葉に、ランスは我に帰ると手にしたアイスバケツを掲げて見せた。
その中に入ったラウンジバーからもらってきたボトルワインを見て、セイジはランスを自室に招き入れた。



　夜の海が見えるソファに座り、二人でワインの入ったグラスを傾ける。
外の小さな光がよく見えるよう、明かりはベットサイドのランプだけにした。

交わす言葉は少なくても、お互いがこの時間を大事に思っていることは、手に取るようにわかる。
オーガとの戦いから解放されたひとときは、二人の日々の疲れを癒していった。

夜の海の上、空に無数の星が瞬いているのが見える。
流れた星に願いを込めれば、その願いが叶うのだったか。
ランスは星が流れはしないかと、空を見上げてじっと待った。

願い事は決まっている。

ちらりとセイジの方を見れば、セイジは特に気にした様子もなく、ワインを味わっていた。
窓の外に目を戻し、ランスは星を待つ。

どれくらい待っただろう。
暗い空を眺めるのに慣れてきたランスの目が、不意に空を駆ける光の筋を捉えた。

慌てて、手を組み合わせて目を閉じ胸のうちで願い事を三回唱える。
目を開けると流星は既に消えていた。

上手く唱えられたかな、と空を見上げるランスの耳に、ふと、穏やかな寝息が聞こえ振り向くと、
酒が入ったためか、セイジがソファの背にもたれてうたた寝をしていた。

「セイジ？」

　声をかけても、反応はない。
ただ、規則正しい寝息だけがランスの声に応えていた。

「セイジ、こんなところで寝ると風邪ひくぞ」

　まだ髪も乾ききってないのに、と、揺り起こそうと肩に手を伸ばして、ランスは動きを止めた。
　星明かりに照らされ、眠るセイジ。
その、薄く開かれた唇に目が吸い寄せられた。

だから、無防備すぎるって！

　心の中で叫んだ声は、当然ながらセイジには届かない。
そっと、セイジを起こさぬよう身を屈めて、ランスは彼の唇にゆっくりと自身の唇を近づけた。

心臓が大きな音を立てている。
この音でセイジが起きてしまうんじゃないだろうか。

ちらりと視線を向けるが、セイジが目覚める気配はない。
頬に、セイジの吐息がかかる。

あと数センチで唇が触れ合うと思われた瞬間、ふ、とセイジの寝息が乱れた。

慌てて体を離したランスは、喉から飛び出しそうな心臓を抑え動悸が収まるのを待つ。
セイジは少し体勢を変えたくらいで、相変わらず起きる気配はない。

ランスは再度、セイジの唇に顔を近づけるが、少し冷静さも戻ってきたのか、
セイジが起きている時に彼の目を見て触れ合いたいと感じた。

だが、無防備な彼を見られるのは自分だけであるという優越感もまた、抗い難い魅力がある。
少し迷ったあと、ランスはセイジの肩にかけられたタオルの端を持ち上げ、自分の唇に押し当てた。

そのまま、そっと。

壊れ物を扱うかのように細心の注意を払って、
眠るセイジの唇に、タオル越しの口づけを落とした。

タオル越しでもわかるその柔らかい感触に、
もっと強く、と願ってしまう心をなんとか抑え込み、ランスはゆっくりと身を起こす。
息を殺して様子を伺うが、セイジが目覚める気配は無い。

ランスはほっと安堵の溜息を吐いた。
今の行動が知られたら、愛が痛いでは済まないかもしれない。

自分の身に起きた事にも気づかず、気持ちよさそうに眠っているセイジを見ながら
ランスは少し眉尻を下げて笑った。

ソファに沈む体をゆっくりと抱え上げ、ベッドへと運ぶ。

「こ、これはっ……！」

掛け布団をかけてやろうと体を離した瞬間、はだけた胸元が目に飛び込んできて
またしてもランスの理性が揺らぐ。

慌てて目を逸らし、手探りで布団をかけてやると
ランスはベッドサイドのランプを消して、そっと部屋を出る。

ランスの背後で、オートロックのドアがカチリと音を立てて閉まった。

参加者

• アキ・セイジ（ヴェルトール・ランス）