討伐依頼 山神の祠にて(はるた マスター)

プロローグ


 ウルソはタブロスから馬で半日ほどの山の中に、息子とともに住んでいる。最寄りの村までは歩いて一時間ほどの場所だ。それより近くに人家はない。そんな不便な場所に住むには理由がある。ウルソ一家は代々、山の神を祭る祠を守っているのだ。

「父さん、俺ぁちょっくら祠に行ってくるよ」
 息子マッジの言葉に、ウルソは顔を上げた。
「祠へ? なにか問題でもあったのか?」
「村の警備のやつから連絡があってな、どうやら女が一人逃げ込んだらしい。ほら、聞いてるだろ? 少し前に村で流行っていた悪いクスリ。あの元締めさ。下っぱは全部つかまたが、トップ一人取り逃がしたんだと。あの洞窟ん中は道が複雑だからな、捕まえるのに道案内してくれって言われたんだ」
 念のためにと猟銃を抱えた息子のマッジを送り出したのが、昨日の昼過ぎのこと。
 しかしその日の夕方。
 マッジは警備の男性とともに、村の病院に運ばれた。腕に肩にと、獣の噛み跡をつけて。

「ウルソさん、大変だ、マッジが!」
 ウルソは報告に来た警備の人間とともに、村の病院に駆け付けた。
「父さん……」
 マッジは包帯が巻かれた腕を小さく上げて、ベッドの中からウルソを見上げている。
「お前、大丈夫か? 女を追って祠に行ったんだろう? どうしてこんな……」
 予想よりは元気そうではあるが、ベッドに横たわる体からは薬の香りがして痛々しい。ウルソは顔を歪めた。しかしマッジは「こんな怪我、大したことない」と気丈に声を返す。
「それより女が心配だ」
「クスリの元締めの女か? 見つからなかったのか?」
「父さん」
 マッジが呼ぶ。
「俺ぁ、子供んときから父さんと一緒に祠に通っていたが、あんなものを見たのは初めてだ。角の生えた犬……デミ・ワイルドドッグだよ」


「……ということがあり、みなさんにお願いに参った次第です」
 A.R.O.A.職員を前に、ウルソはそこで一度、話を切った。
「デミ・ワイルドドッグは……中には角のないワイルドドッグもいたようですが……息子と警備の人間に一斉に襲いかかってきたそうです。一昨日、私と息子が祠に行ったときは、なにもいませんでした。それ以降集まったのか、私たちが訪れたときには偶然どこかに行っていたのかはわかりません。……しかしそうなると、逃げ込んだという女が心配です。祠は洞窟の奥にあります。そこには祭事の道具をしまう小さな部屋があるので、気づいて隠れていてくれればいいのですが……。いくらクスリの元締めをやっていた女とはいっても、命は助けなければ。お願いします。デミ・ワイルドドックを退治して、女を連れ帰ってくれませんか」
 ウルソは職員に深く頭を下げた。
「洞窟は道が入り組んでいるので、私が案内いたします。暴れたところで崩れるような強度ではございません。祠さえ壊れなければ、あとは村の者と私たちでどうでも修復いたします。女の救出とデミ・ワイルドドッグの退治を、どうかお願いします」

解説

●目的
女性を救出すること。
デミ・ワイルドドッグとワイルドドッグ(全部で15匹ほどの予定です)を退治すること。

●条件
祠を破壊しないこと。
同行のウルソは50代男性。猟銃を扱えますが、一般人ですので万が一の危険に合わせないように注意してください。

●その他
祠はウルソの家から歩いて十五分ほどの山の中に位置しています。
洞窟は頑丈で、崩れることはありません。
内部は道が混み入っていますが、ウルソがいれば迷うことはありません。明かりはウルソが持参します。

ゲームマスターより

いかにしてデミ・ワイルドドッグの集団と戦うかがポイントになります。
一匹ずつ倒すもよし、一気にまとめて倒すもよし。
ウルソは自分も戦おうと動き回りますので、巻き込まないように注意してください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ヴァレリアーノ・アレンスキー

  網を多めに持参

依頼遂行は絶対
強くなる為の糧となるならば幾らでも

女の救出を最優先
女が居る可能性が高い祠へ向かう

トランス状態になり警戒態勢
注意深く辺りを見渡す

ドッグが襲撃したら網をドッグ達に投げ、
その隙に一気に祠へと走る
8体網にかける算段
ウルソにもドッグを撹乱させる手伝いを頼む
ドッグの足止めはサーシャに任せる

女を無事救出したらウルソ同様護る
自身より優先

ドッグ退治に応戦
一体ずつ相手する
胴や足を狙う


戦闘後、何故急にドッグ達が集結したのか
薬が関係あるのか
女に心当たりがあるか問う


台詞
ドッグを祠へ絶対近づけずに徹底的にやれ、サーシャ
ウルソ達は俺から離れるな
命ある限り人はやり直せる、今度は真っ直ぐ生きてみろ


天空天使
  ヴァレリアーノ・アレンスキーさんと協力して
女性の救出とウルソさんの安全を1番に考え行動し
女性を救出後ウルソさん達の傍で応戦する

洞窟までの移動中に砂を集めて、石を1数個拾っておく
洞窟にたどり着くまでの時間は寝ている

洞窟内部では基本的にウルソさんの少し前方を歩く

敵を発見した場合の行動は
敵が気づいた場合
ウルソさんが前に出過ぎないように注意する
近づいてきた敵に砂による目潰し、石を投げたりする

敵が気づいていない場合
全体に合図を出し小石を自分達のいない方向に投げて相手の気をそちらに向けて誘導する

敵が多数の場合
違う通路に誘導し敵を分断またはその場より遠ざける
その間石以外に大きな音を出さないようにする


●洞窟前にて

 ウルソの案内で訪れた洞窟は、大岩の切れ目から始まっていた。ここまで来る間に、デミ・ワイルドドックどころか、犬の一匹も見ていない。
「どういうことだ?」
 ヴァレリアーノ・アレンスキーが呟くと、ウルソは猟銃を抱え直しながら「そうですなあ」と辺りを見回した。
「マッジはいきなり襲われたようなことを言っていましたから、こっちも覚悟をしていたんですけどね」
 言いながら、ちらちらとメンバーに視線を向ける。10代の少年が3名と、保護者のような年齢の者が1名。A.R.O.A.が手配した馬車に乗っている間は作戦会議だので頭の回る子供だとは思っていたが、それにしても、だ。
 言わぬでも、考えていることは全て顔に出ていたらしい。
「汝はずいぶん正直な性質のようだが、余計なことは言うものではない」
 アレクサンドルがウルソの横に立つ。そしてそれ以上は言わず「アーノ」と呼びかけた。
「そろそろ天使を起こしてもらってはどうかね。彼はずいぶん知識が豊富のようだから、彼と話すのがよいだろう」
「ということだ。起こせ」
 ヴァレリアーノは天空天使を背負っている天空影に言った。
「まあ、そろそろ起きないといけないよな」
 影は天使を背中で揺らす。
「おい、いつまで寝てるんだ。そろそろ起きる時間だ」
「うーん……もう着きました?」
「着きました、じゃない。ヴァレリアーノがお前に話があるみたいだぞ」
「僕に?」
「ウルソの息子が襲われたと言っていたのに、ここに来るまで何も出会っていない。それはどういうことだと思う?」
「さあ……。でもあなたは、ここに逃げ込んだ女性がデミ・ワイルドドックと関係があると思っていたのでは? それだったら、洞窟内部に入った途端……」
「襲撃か」
「……の、可能性はありますよね。マッジさんもそうやって襲われているようですから」
 ヴァレリアーノと天使は、そろって首をかしげた。
「こんなとこで考えてたって仕方ないだろう」
 影が手に持っていた布袋を天使に押し付けて言う。
「こっちには途中で拾った砂も石もあるし、ヴァレリアーノがウルソの家から持ってきた網もあるし。作戦会議は馬車の中で十分したし」
「多数の襲撃があった場合は、網で捕獲し、動けなくしてから退治。細い路地なら小石を投げて誘導し、最悪の場合は砂を投げて敵の目をつぶす……だったな」
 アレクサンドルが道中ヴァレリアーノと天使が立てた作戦を復唱する。
「すみません、僕、あまり戦いが得意ではないもので」
「そのために俺がいるんだろう」
 影が胸を張った。
「そういうことだ」とアレクサンドルも斧を手にとる。
 そのとき、オオーン、と犬の鳴き声が聞こえ、一同は顔を見合わせた。
「洞窟の中から、聞こえましたね……」
 ウルソが暗い入口に視線を向ける。天使も同じように目を向けた。
「デミ・ワイルドドックは鼻が利きますから、もしかしたらもう僕たちに感づいているのかも知れません」
 それに応えるように、再びオオーン、と声が上がる。
「行くぞ」
 先頭はヴァレリアーノ。その後にアレクサンドル、天使、ウルソと続き、後ろを影が守る。

●洞窟内部へ

 ウルソが準備した明かりは、今はアレクサンドルが手にしている。もし網で敵を捕らえたならば、それを倒すのは彼に任せるとヴァレリアーノと天使が作戦を立てたからだ。彼が一番戦闘能力が高いから、残る。そして他のメンバーと共に行く影は、シノビなので夜目がきく。適材適所の良策と言えよう。
 しかし、だ。
「結構暗いですね」
 今回が初めての冒険となる天使は、少々怯えているようだ。かさり、と虫でも這う音にすら敏感に振り返る。しかしその度に影が、平気だと目配せをした。ウルソの目には不安が見える。大丈夫なのか、この子たちは。思うが、彼らがA.R.O.A.に派遣されたウィンクルムであり、アレクサンドルに注意を受けたからこそ、黙っている。
 オオーン、とまた声がする。オオーン、オオーン。1匹や2匹とは到底思えない声は、洞窟中に反響した。
「これじゃ、どこからくるかわからないな」
 アレクサンドルの言葉に、ヴァレリアーノが彼を見上げた。その瞳は何かを言いたそうにしているが、それだけでわかるような間柄にはなっていない。
「なんだね?」
 わずかに腰を曲げて、アレクサンドルが問う。しかしどうやらそれだけでは足りなかったらしい。
「もっと!」
 アレクサンドルは苦笑しながら彼に従い、しゃがみこむ。
「委ねよ、夜の帳に紛れし契約の名の元に」
 ヴァレリアーノのまだ少年の声が唱えたそれは、インスパイアスペル。彼とアレクサンドルが結んだ契約の言葉だ。
 ヴァレリアーノが、いかにも渋々といった表情で、アレクサンドルの頬に口づける。しなくてはならないことだからしてやる、と無言ながらも語っているようだ。直後、彼ら二人は、薄いオーラのようなものに包まれる。
「これが、オーガをも倒すというウィンクルムの力……」
 ウルソが驚き目を見開く。
 トランス状態になったヴァレリアーノは、注意深く辺りを見渡した。任務遂行は絶対だ。強くなるための糧となるならば、いくらでも危険に身をさらす。胸の十字架に手を触れた。覚悟があるからこそ、ここで情報を見落としてはならない。
「ウルソ、もし奴らが別々の場所から来たら、かく乱を頼めるか。その隙に、俺が網を投げる。サーシャは奴らの足止めだ」
 オオーン、オオーン。声は次第に近くなる。
「そっちだ!」
 きょろきょろとあちこちへ視線を向けていたウルソが振り返る。
「ウルソさん、後ろへ!」
 怯えた声ながらも叫ぶ天使の前へ、影が無言で一歩踏み出す。
「来たようだ」
 アレクサンドルが言うのと、集団でやってきた敵に、ヴァレリアーノが網を投げるのが、同時だった。
「ドックを祠へ絶対近づけずに、徹底的にやれ、サーシャ」
 ヴァレリアーノの声に、影の声が重なる。
「走れ!」
 皆は一斉に洞窟の奥へと走った。
 その場に一人残ったアレクサンドルは、自身のバトルアックスを手に、去った一行を見送った。あたりにいる敵の数を数える。
 捕らえたのは8匹。そして、捕らえ逃したものが2匹。
 2匹は果敢にもアレクサンドルに向かってくる気のようだ。その野生の目を見、アレクサンドルは高揚する。斧に自らの魂の半分を憑依させ、刃と一体化した腕を胸の前に掲げた。ぺろと唇を舐める。
「無謀にも我に襲いかかるのはどちらが先かね?」
「ガウッ!」
 飛びかかってきた獣を、一閃。横なぎに払い落す。もう一匹はそろそろと足元を這うように近づいてきた。尖った牙が足を噛む前に、斧の刃を叩き落とす。キャン、と鳴いて、二匹の犬は地に倒れた。その横で網に手足をからませ、デミ・ワイルドドックたちが喉を鳴らしている。
 先に進んだ一行の足音が聞こえなくなっている。アレクサンドルは地面の上に横たわり、暴れている獣を見下ろした。
「さあ、鮮血の華をさかせましょうかね」
 バトルアックスを振りおろす。
 重量があるから、当たればダメージは大きい。しかし当たらない可能性も否定はできない。2匹ずつをまとめて退治し、あと2匹となったとき、問題は起こった。ずっと網をかじっていたワイルドドックが1匹、罠を抜け出したのだ。追いかけようとしたが、こちらにはまだ1匹残っている。
 大斧の刃を撃ちおろし、アレクサンドルは一行が進んだ方向に歩き始めた。

●最奥の小部屋

 は、は、と短い呼吸が暗い洞窟内に響いている。
「そこを右です!」
 ウルソは後ろから、一行の行き先を指示した。先頭はヴァレリアーノが進んでいる。言われるままに右に折れる。複雑に折れまがり別れてはいるが、道が広いのは幸いだった。そして最初以降、ドックが出てこないことも。きっとアレクサンドルがうまく足止めしてくれているのだろう。
「あとは、道なりに、まっすぐです」
 荒い息の合間にウルソが口にする。そのまま直進して5分ほど。
「あ……」
 ぜえぜえと息も絶え絶えな天使が「扉が!」と洞窟内には似合わぬ木製の物を指差した。
「ここ、が、こべっ、や」
「喋れてないから喋るな」
 天使の背中を影が撫ぜる。
「洞窟内で、迷っているのではなければ、ここにいるでしょう」
「鍵は?」
 ウルソにヴァレリアーノが短く問う。
「かかっていません。ここまでの道のりが複雑ですから、かける必要がないのです」
「でもそれなら……」
 女がたどり着いている可能性は低いのではないか。ヴァレリアーノが考えたことと同じことに、天使も気づいたらしい。
「……クスリの、女性、いてくれると、いいですね。もし……いないとなると、あのワイルドドック相手では、おそらく」
 呼吸が戻り、ゆるりと首が振られる。そんな彼を見、ウルソが一歩前に出た。
「私が扉を開けましょう」
「お前でなくては開かないのか?」
 扉に手をかけていたヴァレリアーノが、その動きを止めた。いいえ、とウルソは答えたが、眉間にはしわが寄っている。言いづらそうに、先を続けた。
「もし女性がワイルドドックに襲われたあとに逃げ込みでもしたら、あなた方にそれを見せるのは酷ですから」
「そんなの、俺は平気だ」
「でも、平気って顔してませんよ」
 ヴァレリアーノに、優しい指摘をするのは天使だ。
「さっきからその顔の傷に触れて……いいえ、人の過去の踏み込むのはやめた方がいいですね」
 天使は静かに笑んで、ウルソを見やる。
「開けてください、ウルソさん。その扉、重そうだし」
「ええ、そうでしょうとも。木製ですが、この扉は厚くてとても重い上に、ちょうつがいが壊れかけてましてね、開きにくいんです。そろそろ直さんとなあと思っていたところだったんですから」
 ウルソは扉の取っ手を掴んで、ぐいと押した。しかし。
「……あれ? 開かない」
「え?」
 一同が顔を見合わせる。
「……ワイルドドック達が入って来ないように、中に何かを置いて、扉が開かないようにしているのかもしれません」
「ということは、女は中に」
「いるでしょう、たぶん」
 ヴァレリアーノと天使が言い、ウルソを見上げた。
「体当たりをします。みなさん、どいてください」
 ウルソは扉から数歩離れた。年少者たちはみな、通路の脇に並んで彼を見ている。助走をつけて体で当たるのならば、体重が多い方がいいに決まっている。自分達では要が足りないことはわかっているのだ。
「行きますよ」
――オンオンオン!
「まだいたのか!」
 影は自らの武器カットラスに手をかけた。
 今扉を開ければ、女性を危険にまきこむことになりかねない。しかしデミ・ワイルドドックがもし複数で来たら、扉の内に隠れるほうが得策かもしれない。開けるべきか、開けざるべきか。悩んだウルソが動けずにいると「開けてください!」と天使が叫んだ。
「大丈夫、ここには影がいます! それに、ヴァレリアーノだって、僕だって」
 ヴァレリアーノが剣の柄を握り、天使は抱えていた布の袋に手を入れる。小石と砂が入っている、例のものだ。
「……わかりました」
 ウルソは再び扉に向き直る。
「オンオンッ!」
 駆ける敵は視界に1匹。影が走る。突進してくる獣を、本来ならば跳躍して避けたいところだ。しかし後ろには、天使たちがいる。影はカットラスを逆手に持ち、獣の高さに刃を合わせた。見た目通り動物の知能しかない敵は、避けることなど頭にないのだろう。グオオ!  と、低いうなり声をあげて、襲いかかってくる。
 それを影は、曲げた腕を持ち上げることで切り上げた。しかしそれだけでは足りなかったようだ。肩口から血を流しながらも、ドックはグルグルと喉を鳴らしている。
 前足から長く伸びた凶器が、影の足元を狙う。させるものかと獣の体を蹴りあげて、今度は上から切りつける。敵が地面に倒れる。
 影はほう、と息を吐いた。足が少々爪にかじられたが、大した怪我ではない。
「そっちはどうだ?」
 振り返った瞬間。ウルソの三度目の体当たりで扉は開いた。
「なんだ、これは!」
「火事?」
「まさか……」
 ヴァレリアーノ、天使、ウルソの順に声が上がる。扉からは、もくもくと白い煙が流れてきた。ひどい香りだ。例えるならば……いや、例えられない。どんな毒草を燃やしたらこんな香りになるのか。影は鼻から下を手で覆った。ヴァレリアーノも、天使もそれに倣う。ウルソだけはしばらくその煙を嗅いでいたが、やはり鼻を手で覆い「クスリだ!」と叫んだ。
「これは村で流行ったクスリの匂いです! あのクスリは煙草と同じ要領で吸うんですが、こうして燃やしても効果があるんです」
 ウルソは煙の立ち込める中に立ち入った。何もなければ、彼を待つこの数分を、誰もがひどく長いものに感じただろう。しかし、静かにウルソを待っているだけの時間は与えられなかった。
「オオーン、オンオンッ」
 聞きたくもない声が、また、聞こえてきたからだ。
 天使が自分と同じ顔をした影を見る。影は一度大きくうなずき、天使の前に立った。
「今度こそ、俺の出番か」
 ヴァレリアーノがすらりと剣を抜く。
 現れた敵は5匹だった。どれも角はない。普通のワイルドドックだ。
「さて、どいつから倒そうか」
 ヴァレリアーノが言うのを、影が手で制する。
「子供はでしゃばるな」
「は? 誰が子供だと?」
「こんなところで喧嘩はやめてください!」
 袋の砂を手に握りしめ、天使が高い声を上げた。
「……なら、真面目に聞こう。天使は武器を持っていない。お前は一人。最初のように網はないぞ。小道もないから、通路に敵を誘導する作戦も不可能だ。それで俺に戦うなと? 馬鹿げた話だ」
「影君は、きみを危険にあわせたくないんですよ。大丈夫、僕も戦えます。ほら、石もあるから投げられますし」
「お前ら、話している時間はないぞ」
 影の言葉が終わるより早く、獣が一気に襲いかかる。

 ウルソは煙立つ部屋の中、目の痛みに耐えながら女を探していた。燃えているクスリは真っ先に見つけて火を消したから、この煙もそう時間が立たないうちに消えるだろう。
 地を這うように手で探り、やっと女を見つけたが、当の本人はぐったりと意識を失っていた。
「まさか、クスリで……?」
 ウルソは女性を抱き上げた。猟銃を一緒に持つのは危険だから、ここに置いて行くしかない。
 なるべく呼吸をしないように気をつけて、ウルソは扉から外へ出た。
 そこで戦いが行われていることなど、知らないままに。

「ガウウ……!」
 部屋から出た途端、目があった獣の姿にウルソは面食らった。
「ああ、やはり女はここにいたか!」
 ヴァレリアーノが駆け寄り、彼と女性の前に立つ。
「ウルソ達は俺から離れるな」
「僕もいますからね」
 天使が袋を手に、そろそろと近づいてくる。
 そんな彼らの前では、影が一人で戦っていた。デミ・オーガ化していないワイルドドック相手とはいえ、一度に5匹を相手にするのは難しい。取りこぼした1匹がこちらに向かってくる。ウルソは猟銃を取り出そうとしたが、女を抱えるために部屋の中に置いてきたことに気づいた。
「くそっ」
 舌打ちをし、取りに戻ろうとするが間に合わない。そのときだ。
「えいっ!」
 少々かわいらしい掛け声とともに、天使が敵の顔に、砂を投げつけたのだ。
「キャンッ!」
 古典的な技だが、どうやら目を直撃したらしい。獣は一瞬足が止まり、その体にヴァレリアーノが剣を下ろす。
 小柄な体ではアレクサンドルのように叩き斬ることはできない。足や胴にそう深くはない傷をつけることがせいぜいだが、相手が移動できなくなれば、とりあえず問題はあるまい。
「えい、えいっ!」
 そんな犬に、天使が石を投げつける。しかしワイルドドックも甘くはなかった。最期の力を振り絞り、オーン、と吠えたのだ。影と対峙してきた仲間のうちの1匹が、こちらへと向かってくる。
 タンタンと地を踏む足がゆっくりなのが、せめてもの救いか。
 ヴァレリアーノが剣を構え、天使が石を握り、3匹を倒した影が身をひるがえしたとき。
 ガアアン、と壁が鳴った。
「アーノ、あまり一人で無茶はしないで欲しいのだよ」
 洞窟の暗がりの先、壁に斧と化した腕を撃ちつけ、派手な音を上げて。
 アレクサンドルが立っていた。
 ドックは一瞬動きを止めたが、すぐにヴァレリアーノと天使を狙う。アレクサンドルが走る。影がカットラスを投げる。
 背中に片手剣の刺さったワイルドドックを、バトルアックスが叩き斬るという形で、デミ・ワイルドドックおよびワイルドドックの退治は完了した。

●エピローグ

 女は洞窟を出た後に意識を取り戻した。
「どうしてワイルドドック達が集結したのか、なにか心当たりはあるか」
 女はしばらくぼけたような顔をしていたが、ヴァレリアーノが問うと「情けないよ」とうつむいた。
「ここに逃げ込んだはいいけど、犬がクスリの葉の匂いで集まってくるもんだから、あの小部屋に隠れたんだよ。怖くて怖くて、クスリをかがずにはいれらなかった。まさか助かるなんて思わなかったよ」
 うなだれた女の肩に、ヴァレリアーノが小さな手を置く。
「命ある限り人はやり直せる。今度はまっすぐ生きてみろ」
 女は一瞬キョトンとした顔をし、うなずき、そして――ウルソに聞く。
「この生意気な子供らは、なんなの?」
「子供じゃない!」
 叫び声は、ヴァレリアーノと影の二人分。
 さらにヴァレリアーノは「Невежливо」と続ける。
 まあまあとなだめる声は、アレクサンドルと天使の二人分だ。
「これでマッジにいい報告ができる」
 皆の騒ぎは放置して、ウルソは高く青い空を見上げた。



依頼結果:成功
MVP:なし

エピソード情報

マスター はるた
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 03月08日
出発日 03月15日 00:00
納品日 03月19日

 

参加者

会議室

  • 天使も色々意見を言ってくれて助かった。
    俺の方こそ礼を言う、Спасибо

    俺もプラン提出済だ。
    無事、依頼を遂行出来ることを祈って(銀の十字架に軽く口付けし

  • [11]天空天使

    2014/03/14-17:27 

    プランを提出してきました。

    今後ともよろしくお願いします。

  • [10]天空天使

    2014/03/13-22:19 

    了解しました。

    意見もありがとうございます。
    正直どうしようか迷っていたんでどれがいいか言ってもらえて助かりました。
    では音での誘導は僕のプランに入れておきますね。
    価値があると言っていただいたので砂は洞窟までの途中に一定量確保しておいた設定にして小石は洞窟内に落ちているものを拾って確保しようと思います。

  • 早い返答助かる。分割も気にしなくていい。

    女を救出後、ウルソ達の傍で基本応戦する形だな。
    俺もこのようにプランに書いておく。

    ドッグ達の対処についてだが、先制攻撃が出来れば有利だな。
    先に俺達が気付いたら小石で音を出し、違う通路に誘導して分散させる作戦は良いと思う。
    通路は入り組んでるみたいだが、洞窟内の広さがどれだけか分からないので上記の案を推したい。
    是非天使にやって欲しい所だ。
    全てのドッグを退治するのも依頼条件に入っている為、結局探し出して倒さねばならないが。

    自分は敵が先に気付いた場合を想定して網を投げるプランを書いておく。
    砂などで目隠しも単純だが効果的かもしれない。
    やってみる価値はあるだろう。

  • [8]天空天使

    2014/03/13-21:14 

    字数制限で二つになりましたすいませんでした。

  • [7]天空天使

    2014/03/13-21:12 

    少し考えた程度なら
    行動としてはドックが気づかない間に少数発見できた場合は、洞窟内の小石などで別方向に気を引いた後すぐ先制攻撃でしとめる。
    または内部が入り組んでいるようなので、討伐先延ばしになりますが小石などを投げ音を出すことで一度違う通路へ誘導するぐらいです。

    物を使うアイディアはヴァレリアーノ・アレンスキーさんのように縄などで撹乱させるか砂や砂利などによる目隠しまたはなるべく匂いの強いもので嗅覚に訴えかけることがいいと思います。

    武器の件教えていただきありがとうございます。
    素手はまずいですね。
    何かそろえようと思います。

  • [6]天空天使

    2014/03/13-21:11 

    女性発見後の行動は基本的にウルソさん達の傍を離れないで大丈夫です。

    多数のドッグに関してはすいません案は今のところ1つくらいしかないです。
    狭い通路に追い込まれたふりをして誘い出し一度に攻撃してくる数を減らし攻撃できる範囲を少なくして防衛対象を守りやすくする。
    ただこれは地形がこうでないとできません。

  • 俺一人になるかと思って冷や冷やしたが、人が来て安心した。
    Очень приятно、天使。協力願う。
    力み過ぎず依頼達成を目指せばいい。俺の方こそ宜しく。

    優先事項は同じだな、了解。なら一緒に小部屋へ向かおう。
    その時、ウルソにも来てもらう方向で。
    女を救い出せたらウルソ同様、守護対象とする。
    俺達は基本ウルソ達の傍を離れない方向でいいか?

    ドッグの数が多いので俺は網などを持っていき、
    少しでも撹乱する予定だが天使はどうする?
    もっと良案があれば遠慮なく言って欲しい。

    また、天使の精霊にもショップで見繕って、何かしら武器を持たせた方が良いと思う。
    以前、依頼に参加したとき持たせないで行ったら素手攻撃だったからな…

  • [4]天空天使

    2014/03/13-19:19 

    僕の行動予定もここに書こうと思います。
    目標と条件から防衛対象が2名いるので、その2名には同じところにいてもらった方が防衛しやすいと思います。
    なので僕も女性の救助を優先したいと思います。

    僕に戦闘能力はあまり期待できませんので、戦闘のほとんどは影君に任せます。

    想定している居場所は、祠内部の外から来た人にはすぐに発見されない小部屋や大きい物の影などではないか?と考えているのでそこを探そうと思います。

    僕、足手まといにならないように一生懸命頑張ります。

  • [3]天空天使

    2014/03/13-18:31 

    初めまして天空天使(ソラノエンジェル)です。

    初めて参加する新参者ですがどうぞよろしくお願いします

  • まだ俺しかいないようだが、状況整理も兼ねて俺がやろうと考えてる事も書いておくか。
    依頼達成必須条件を加味するならば、俺は女の救助を最優先する。
    一刻を争う、女一人取り残されてるなら人命優先だな。
    ドッグを抑えるのはサーシャに任せよう。
    小さな部屋にいると想定してそこに向かう。

    敵は一斉襲撃したとの事だから、
    逆をつけば一網打尽に出来る可能性もあるか…
    網などで動きだけでも多少食い止められれば別だな。

    ウルソは勝手に動いて死なれても困るから一緒に来てもらうとするか。

    しかし何故一昨日はドッグ達がいなかったのに、急に集まったんだ?
    まさか女が所持してた薬をドッグ達に飲ませて手懐けたとか…?
    …考えすぎか。


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