【バレンタイン】バレンタインの魔法(木口アキノ マスター)

プロローグ

住宅街の外れに、老朽化したアパートがあった。
 取り壊しも検討されていたそのアパートを買い取ったのは、若きイルミネーション・アーティストの女性、ステファーナ。
 彼女は季節やイベント毎にアパート全体を美しいイルミネーションで飾り、近隣住民の目を楽しませていた。
 ステファーナはある日、イルミネーション設置中に3階の窓から落ちるという事故に遭った。
 彼女の身体はじきに回復したのだが……。

「わたし、あの事故で愛という感情が壊れてしまったんだわ」
 馴染みの喫茶店で、婚約者だった男性を前に、ステファーナは言った。
 目の前の男性を確かに愛していたはずなのだ。なのに事故以来、愛というものがどんな感情だったか、全く思い出せなくなってしまった。
 彼が嫌いになったわけではない。今も大切で、そばにいるのが心地よい。
 だから、一旦婚約を解消したものの、今もこうして一緒にいる。
 けれど、愛しているかと問われると答えが出ない。愛情という部分だけ、記憶喪失にでもなったみたいだ。
 さらに問題はもう1つ。
 ステファーナのイルミネーションが、次第にかつての彩りを失いつつあること。
「スランプなんて誰でもあるわ」
 友人たちはそう言ってくれるけど。
 ステファーナも友人たちも、うすうす感じていた。
 ステファーナのイルミネーションが魅力を失ったのは、彼女が愛を忘れたからだと。
 プルルルル、と携帯電話が鳴り、恋人は、ちょっとごめん、と言いつつ席を立つ。
 どうやら仕事の電話のようだ。
 ぼんやりと、彼が戻って来るのを待つステファーナに、ウエイトレスをしている友人のリサが声をかける。
「あら、浮かない顔ね。ため息までついちゃって」
「いやだ、わたしまた、ため息なんか……?」
「やっぱり、例のことで悩んでいるの?」
「ええ、だって……」
「ん~、じゃあさ、今度の休みに、買い物に付き合ってくれる?」
「買い物?」
「そう。気分転換になるだろうし。チョコレートを買いに行きたいの」
「チョコ?」
「そうよ。私、カカオの精から貰うチョコレートの他に、自分で選んだチョコレートも贈りたくて」
 ああそうか、バレンタインデーが近いのだ。
 ステファーナの元にもカカオの精からのチョコレートは届くだろう。だけどステファーナは、恋人にチョコレートを渡す気分にはなれない。今の自分にそんな資格はないと思うから。
 そんなステファーナに、リサは話を続ける。
「今年のバレンタインは、やっぱりフィールレイクかしら」
「フィールレイクと言ったら、『祈りの泉』?」
 フィールレイクは人工の5つの島に橋を渡した巨大な湖。中央の島にある『祈りの泉』は大切な人と訪れると永遠の愛が誓われるとされ、恋人たちに人気のデートスポットのひとつだ。
「そうよ。バレンタインデーだけ特別に、夜6時から12時まで、不定期に泉の色がピンクにライトアップされるんだって」
「ふうん。きっときれいね」
「お客の女の子たちが噂してたんだけど、泉の色がピンクの時に愛を誓うと2人の絆が深まるそうよ。あなたも彼と行ってみたら?ロマンチックな雰囲気の中でチョコを渡せば、ときめきが蘇りそうじゃない」
「そう、かな……」
 リサがステファーナにこんな話をしたのには思惑があった。
 祈りの泉で他のカップルがチョコレートを贈り愛を語り合っている様子を見れば、ステファーナも愛する気持ちを思い出すのではないかと。
 幸せな恋人たちは、魔法の力を持っているとリサは思うのだ。周りの人の胸にも、誰かを愛する心を生まれさせ、そして幸せにするという魔法を。
 バレンタインには、きっとこの魔法の力が強まるはず。
 リサは友人たちにもこの話を打ち明けた。
 すると、いつの間にかステファーナのイルミネーションのファンにもこの話は広がり、誰からともなく、ある計画が持ち上がった。

 バレンタインデーに、祈りの泉でパートナーにチョコレートを贈り、ステファーナにも愛という気持ちを思い出させよう。
 大丈夫、きっとうまくいく。
 チョコレートを贈り愛を語り合うのは幸せな魔法。
 その魔法が多ければ多いほど、きっとステファーナにも魔法がかかり、彼女は愛を取り戻すことができるはず。

 さあ、あなたも一緒にステファーナに魔法をかけませんか?
 バレンタインデーに、『祈りの泉』で互いの気持ちを語り合い、想いを形にしたチョコレートを贈ってください。カカオの精にもらったものでも、手作りのものでも、市販品でも構いません。あなたの想いが詰まっているのなら。
 そしてあなたが幸せと思えるバレンタインを過ごすことができれば、あなたとパートナーの絆が魔法となって、ステファーナに奇跡を起こしてくれることでしょう。





解説

 舞台となるフィールレイクには、貸しボートやレストラン、売店があります。
 貸しボートは70Jr、レストランは和食の「響き」とイタリアンの「アルピニ」がどちらも100Jrから250Jrで利用できますので、バレンタインを盛り上げるように利用してみるのもいいかもしれませんね。



ゲームマスターより

あなたが幸せなバレンタインを過ごすだけで良いのです。あなたの「幸せ」が誰かを「幸せ」にする魔法になるのです。
 あなたとパートナーの初めてのバレンタインデーです。まだお互い知らないこともあるでしょう。これを機に気持ちを伝え合い、あなたとパートナーの距離が少しでも縮めることができれば嬉しいです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

音無淺稀(フェルド・レーゲン)

フェルドさんが私を必要としてくれた事、今A.R.O.A.という居場所を下さった事…本当に感謝してます

その感謝を、形にしたいと思うんです

丁度カカオの精霊さんから頂いたチョコレートもありますし…折角ですからこちらを使って何個かカップケーキを作ってみましょう

カップケーキなら、そこまで難しくないから…失敗しないで済みそうですし

チョコレートを湯銭して溶かして…どれくらい作れるでしょうか?

袋一杯に詰めてフェルドさんの目と同じ青いリボンで巻いて

「私を…必要として下さって…契約して下さってありがとうございます」

って伝えたいな

フィールレイクにお呼びして…一緒に湖を散歩しながらお渡しできたらいいのですが…



淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
イヴェさんにデートに誘ってもらえるなんて…。
その…なんだか照れちゃいますね。
もちろん嬉しいですよ。
神人と精霊というのを抜きにしても仲良くなれるのはよいことです。
バレンタインっていうのもあってチョコレートを準備したのですが…手作りなのでちょっと不格好で…受け取ってもらえるといいなぁ。それで喜んでもらえたならとっても嬉しい。

絆を結びましょう。そして恋をしましょう。
私はイヴェさんと親しくなれるのを楽しみにしています。



第1章 バレンタイン前日
 バレンタインデーが近づくと、街の中はふわふわした空気に包まれているみたいになる。
 街を散歩中の音無淺稀とフェルド・レーゲンの横を、ラッピングバッグを携えた女性が幸せそうに通り過ぎていく。
 淺稀は女性のラッピングバッグを目で追った。
(私は、どんなラッピングにしようかな……)
「オトナシ?」
 フェルドの青い瞳が淺稀をのぞき込む。
「あっ、はい、何か?」
「最近なんだか、よくぼーっとしてるな」
「えっ、そんなことないですよ」
 フェルドは訝し気な表情をする。
「それより、フェルドさん」
 淺稀はフェルドの気を逸らすかのように話題を変える。
「明日なんですけど、私、昼間は少し用事があって」
「そうか、じゃあ僕も手伝おう」
「いっいえいえいえ、いいんです!私ひとりで!」
 淺稀の慌てぶりに、フェルドは再度眉をひそめる。
 いつもはおっとりしてどちらかというとのんびりした淺稀が慌てるなんて、何かあるんじゃないだろうか。
「用事って?」
「え~~と、秘密です」
 にっこり笑う淺稀。
「……そうか」
 フェルドは淺稀のことを信用している。その淺稀が秘密というのなら、それ以上追及はしない。
「でもね、夜は、フェルドさんに会いたいんですが……良いですか?」
 良いもなにも。フェルドは淺稀と契約を結んだ精霊だ。淺稀の希望で自分ができることなら、なんだって叶えるつもりだ。
「もちろん」
「じゃあ、あの、フィールレイクって知っています?そこに、来て欲しいんです」
 淺稀は少し頬を紅潮させる。
「?わざわざ待ち合わせなくても、迎えに行くが」
「だ、ダメですっ。いろいろ準備があるんですっ」
「準備?」
「と、とにかく、フィールレイクで待ち合わせですっっっ」

 一方。
「サク、明日の夜、フィールレイクに行ってみないか?」
「明日、ですか?」
 A.R.O.A本部で文献を読みつつオーガの勉強をしていた淡島咲は、突然のイヴェリア・ルーツからの誘いに、本から顔を上げ目を見開く。
 それを否定の表情と受け取ったのか、イヴェリアはすぐに
「ああ、都合が悪いのなら、別にいいんだが」
と言う。
「いいえ、そんなことないです」
 咲はふるふると首を振ってから、瞳を輝かせる。
「フィールレイクでは明日、泉をライトアップするイベントがあるそうです。私も行ってみたいと思っていました」
「そうか。迷惑でないのなら良かった」
「迷惑だなんて!むしろ、その……嬉しい、です」
 そう言ってから咲は、自分の頬がだんだん熱くなるのを感じた。
 契約以来、どうもイヴェリアは咲との距離を測りあぐねている感じがする。咲としては、もっともっとお互いのことを知りたいと思っているのに。
 そんな折に、イヴェリアからの誘いだ。嬉しいに決まっている。
「じゃあ、明日はデートですね」
 咲は自分で「デート」と言ってしまって、ますます頬が熱くなった。
 イヴェリアはなぜかくるりと咲に背を向け、
「ああ、そういう風にも、言うな」
と歯切れの悪い返事をした。
 イヴェリアの頬も染まっていることに、果たして咲は気付いただろうか?

第2章 それぞれの、想いを渡そう
 バレンタイン当日のフィールレイクは、いつになく人が多い。恋人たち、そして恋人未満の者たちが互いの想いを胸に湖を眺めている。
 淺稀とフェルドも、フィールレイクの5つの人工島をゆっくり散策する。
 淺稀のバッグの中には、5個のカップケーキが出番を待っている。
 昨晩カカオの精から届いたチョコレート。
 そのまま渡すのもいいけれど、自分の気持ちをチョコレートに織り込みたい。
 そう思った淺稀は、カカオの精から届いたチョコレートを湯せんして溶かして、カップケーキを作った。
 一人暮らしが長かったから、料理だってひととおりできる。
 けど、フェルドの為にチョコレートのお菓子を作ろうと思うとなんだかとても緊張してしまって。
 失敗するのが怖かったから、上手に作れる自信のあるものにしようと考えた結果、カップケーキになった。
 カップケーキは袋に詰めて、フェルドの瞳と同じ、青いリボンを巻いて飾った。
 さて、これをいつ渡そう。
 そう考えただけで心臓が早鐘を打つ。
 カップケーキを渡したら、フェルドはどんな顔をするだろう。そう考えていた時は楽しかったのに。
 いざ渡そうとすると、どうにも緊張してしまう。
 だって、淺稀はフェルドと契約を結んでからまだ日が浅いのだ。
 本当にフェルドが喜んでくれるかなんて、自身がない。
「オトナシ?」
「はい」
「大丈夫か。具合でも悪いのか」
「そんなこと、ないです」
 ドキドキしたり考えたりし過ぎて挙動不審になってしまっていたようだ。
「少し休もう」
 淺稀の具合が悪いものと思ったらしいフェルドは淺稀の腕をひき、ベンチに座る。
 そこは丁度、中央島の祈りの泉の前。
「あ……きれい」
 ライトアップされた祈りの泉は、淺稀たちが座るのを待っていたかのように、美しい桜色に変わる。
 周囲から、歓声が起こる。
「本当だ」
 いつもは年齢より大人びているフェルドが、ライトアップされた祈りの泉を見て子供みたいな笑顔になった。
 フェルドの笑顔に、淺稀の心は安らぐ。
 そうだ。もちろんフェルドには喜んでもらいたいけれど。
 それより大事なことがあるではないか。
 淺稀は自然に、バッグからカップケーキを取り出し、フェルドに差し出した。
 フェルドはきょとんとしてカップケーキと淺稀を交互に見つめる。
 淺稀はにっこりと笑う。
「今日、バレンタインですから」
 自分の想いを、チョコレートに込めて届けよう。
 それが一番、大事なこと。
「ばれん……たいん?」
 もしかしたらフェルドは、バレンタインというものをよく知らないのかもしれない。
 知っていたとしても、自分に関係あることとして認識していなかったのだろう。
 きょとんとした顔のまま淺稀を見つめる。
「大切な人に、自分の気持ちを伝える日です」
(私の、フェルドさんへの気持ちは……)
「私を……必要としてくださって……契約してくださって、ありがとうございます」
 淺稀はこれまでの生活を思い出した。一人ぼっちだったことが多かったけど、自分の生活に不満なんてなかった。
 でも、フェルドと出会って、A.R.O.Aという居場所ができて、初めて気づいたのだ。
 私……寂しかったんだ。
 だから、フェルドには本当に本当に、感謝している。
 自分の居場所があって、自分を必要としてくれる人がいることが、こんなに幸せだったと教えてくれて。
 その気持ちを、伝えたい。
「これ、オトナシが作ったのか」
「はい」
「今開けても良いのかな」
 淺稀は頷く。
 丁寧にリボンをほどいて、袋を開けたフェルドは、カップケーキを一つ取り出して淺稀に手渡す。
「一緒に食べよう」
「え?」
「一個だけ。他は全部僕が食べたいから」
 照れているのか、いつもよりもっとぶっきらぼうにフェルドが言う。
 そんなフェルドに、淺稀はふふっと笑った。
 2人は一緒にカップケーキを齧る。
 2人だと、チョコレートだって何倍も美味しくなる。それも、フェルドと出会って知ったこと。
「オトナシ」
「はい?」
「僕だって、感謝している」
「カップケーキ、喜んでもらえました?」
「いや、ケーキもそうだけど」
 口数の少ないフェルドが一生懸命に言葉を紡ごうをしている。
 自分のために、言葉を紡ごうとしている。それだけでとても嬉しくて。
「僕も、オトナシがいて、感謝している」
「ありがとうございます」
 淺稀は自分の胸から、ふわぁと温かい何かが空気に溶けていったような気がした。

 祈りの泉が桜色に輝く中央島で、カップルたちがいっせいにチョコレートを贈り始めた。
 そんな中、そわそわしている2人がいる。
 咲とイヴェリアだ。
 咲は手作りのチョコレートを持ってきている。
 自分の想いを込めたチョコレート。
 でも、作り終わってから冷静に見てみると、少し形が良くないような気がする。
 味だって、自信作と言えるかと問われると、はいそうですとは答えられない。
 イヴェリアはこれを受け取ってもらえるだろうか。喜んでくれるだろうか。
 おとなしくカカオの精からもらったチョコレートか市販のチョコレートを持ってきたら良かった。
 それになんだか、今日のイヴェリアはいつもに増して口数が少なく、ぎゅっと閉じた唇からは厳しささえ感じられる。
 なにか、良くないことがあったのだろうか。
 そんな不安が、チョコレートを渡したいという気持ちにブレーキをかける。
 一方イヴェリアは、これまでバレンタインなどとは無縁で生きてきたのに、少しだけ期待してしまっている自分の気持ちをどうしたらいいのかわからずにいた。
 それに、バレンタインだからといってこんなところに誘って、本当に咲は嬉しかったのだろうか?
 湖の散歩など、退屈なだけだったら?
 しかもこんな夜に出歩かせて、寒かったり疲れたりしていたら?
 それに、このデート中に、自分は知らぬ間に咲を不快にさせるような言動をとってはいないだろうか?
 不安は次から次へと押し寄せる。
 そう、それが、イヴェリアの表情が硬い原因であった。
 なにせこれまで恋愛というものは自分に無関係だと信じて疑わずにいたのだから。
「イヴェさん……、祈りの泉、きれいですよ」
 一心に考え込んでいるイヴェリアに、咲はおずおずと言う。
「え、あ、ああ」
「でも、ピンク色のライトアップ、終わっちゃいましたね」
 見ると、さっきまで桜色だった泉は、今は青色に照らされている。
「……」
 一番盛り上がるであろう時間を逃したイヴェリアは、落胆を表に出さぬように無表情に努める。
「仕方ないな。食事でも、どうだ」
「良いですね。ここ、和食のお店がありましたよね」
「イタリアンを予約したんだが」
 2人同時に「和食」「イタリアン」と、違う言葉を発したため、イヴェリアは固まる。
 咲は和食を食べたかったのに、自分はイタリアンを予約してしまったのか、とまた新たな不安が湧き上がる。
 そんなイヴェリアの気持ちが伝わったのか、咲は慌てて言う。
「もちろんイタリアンも良いですよねっ」
「すまない」
「え?なにがですか」
 突然謝られ、咲は驚いた。
「俺の勝手で、こんなところに誘ってしまって」
「え?」
「もう少し、サクの希望を聞くべきだったんじゃないかと、今更ながらに思っている」
「なんだそんなこと」
 イヴェリアの様子がずっとおかしかった理由が見えてきて、咲はほっとした。
 イヴェリアは、手作りのチョコレートを喜んでもらえるだろうかと不安に思っている自分と同じなのではないか。
 そう思うと、ふいにおかしさがこみあげてくる。
 自分たちは案外似た者同士なのかもしれない。
「フィールレイクは、私も来たいって言ったじゃないですか」
「いや、だが……」
「イヴェさんはどうしてこの場所を選んだんですか?」
 微笑みながら咲は尋ねる。
「……湖を見ていると、気持ちが安らぐ」
「そうですね。静かなのに、時折はっとするほど美しくって。なんだか、引き込まれちゃいますよね」
「サクみたいだ」
 イヴェリアはふっと微笑み小さく呟く。
「え?」
「いや、なんでもない」
 咲はくすっと笑う。
「イヴェさん、湖が好きなんですね。私もです。イヴェさんが好きな場所は、私も好きな場所ですよ」
 まだ知り合って間もない自分たちだけれど。今日だけで、共通点がいくつか見つかった。
(私、この人ともっと絆を結びたい)
 咲はそう思った。
 2人でしばし湖を眺めてから、イヴェリアは咲に向きなおる。
「水辺の夜だ、寒いだろう」
「いいえ、むしろ少し温かいみたい」
 確かに、不思議な温かさを咲は感じていた。イヴェリアと一緒にいるからだろうか。
「食事の後で、もう一度祈りの泉に来ましょうか」
「しかし……」
「私が来たいんです。イヴェさん、この祈りの泉って、大切な人と来ると、永遠の愛が誓われるそうです。そして今日、泉がピンクに輝いているときは、その力が強くなるんですって。だからもう一度、絶対、来ましょう」
 咲はバッグからチョコレートの包みを取り出した。
 そしてゆっくりと、告げる。
「イヴェさん。絆を結びましょう。そして……」
 恋をしましょう。声に出さなくても、きっとこの想いは届いてる。
 2月のまだ冷たい空気の中、咲の胸がなんだかほわっと温かかった。
 先ほどから感じている不思議な温かさの正体が、咲にはわかった気がする。
 こんな風に、たくさんの恋人たちから温かさが生まれているのだろう。そしてこの場所に静かに優しく降っている。だからこんなに温かいに違いない。

終章 バレンタインの魔法
 フィールレイクのイタリアンレストラン「アルピニ」にも、多くの恋人たちが訪れていた。
 ステファーナも恋人と共にこの店に足を運んでいた。
 フィールレイクに来てから、なんだか不思議と、胸に温かさを感じる。
 想いを伝え合う恋人たちを見てきたからだろうか。
 楽しげにプレゼントを渡す者や、真剣な想いを伝える者、そして、まだ初々しさが残る者も。
(そういえば、さっきの子たち、可愛かったな……)
 ステファーナは、ベンチでカップケーキを食べていた2人を思い出した。
 その2人とは、もちろん淺稀とフェルドだ。
 まだちょっとぎこちなくて。それでも、相手がそこにいる、それだけで嬉しいという気持ちが、見ているだけで伝わってくるような2人だった。
 ステファーナは目の前の恋人を見つめる。
 自分にもあの2人のような頃があったはずだ。
 いや、今だって。この人が、一緒にいてくれることが嬉しいし、感謝している。
 もしかしたら愛というものは、難しく考えなくてもいいのかもしれない。
 今はこの気持ちを大切にするだけで。
 ステファーナがそんなことを考えていると、「アルピニ」に、また新たな客が訪れる。
 黒いチャイナ服に黒髪の青年と、柔らかな黒髪に蒼い瞳の少女。イヴェリアと咲だ。
 2人の間は微妙に距離が空いていて、でも、少しだけ触れ合った指先から、確かにお互いを大切に思っていることがうかがえる。
 この2人はきっと、これから少しずつ、絆を作りあげていくのだろうとステファーナは思った。
(いいな、こういうの)
 そう思った自分に、ステファーナは驚いた。自分の心が、人を愛する感情を欲し始めている。
(今なら、また、わたしとこの人とで絆を作り始めることができるかもしれない)
 愛は漠然としていて時にその姿を見失う。けど、確実に誰の胸の中にもあって、いつか芽吹き育っていく。
 ステファーナは恋人を誘った。
「ねぇ、あとで祈りの泉に行かない?」
 恋人たちから生まれた温かな「魔法」が降り注ぐ場所へ。
 きっとステファーナは魔法にかかる。愛を知る魔法に。

 祈りの泉はこの日深夜まで、何度が桜色にライトアップされた。
 そのたびに、多くの恋人たちが想いを交わし、絆を深めた。
 その中にステファーナと恋人の姿があったのは、言うまでもない。
 もちろん、咲とイヴェリアの姿も。

 バレンタインから数日後。
 ステファーナが住むアパートのイルミネーションは、またかつての彩りを取り戻した。
 いやむしろ以前よりも美しく、人々を魅了した。
 あの日フィールレイクに溢れていた、恋人たちから生まれた「温かな何か」。
 それはきっと、魔法の力を秘めた「誰かが誰かを愛する心」。


依頼結果:大成功
MVP:なし

エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 02月16日
出発日 02月21日 00:00
納品日 03月03日

 

参加者

会議室

  • [1]音無淺稀

    2014/02/20-20:06 

    音無淺稀と申します!
    ふつつか者ですが、精一杯頑張りますので宜しくお願いします!

    皆が幸せになれれば素敵ですね♪


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