キィキィKEY(あき缶 マスター)

プロローグ

●古道具屋筋の自治会長、ゲンゴの懇願
 A.R.O.A.職員に連れられてきた老人は、タブロス新市街にある古道具屋筋で自治会長をしていると名乗った。
「ゲンゴと申しますじゃ。ウィンクルム様方、どうか助けてくだされ」
 昨夜、古道具屋筋に、盗賊とデミワイルドドッグの集団が襲撃してきたという。
 デミオーガ事件と聞いて、ウィンクルム達は背筋を伸ばした。ただ事ではない。
「幸い、店の人間らに大きな怪我はなかったですじゃ。しかし、売り物の骨董品が殆ど奪われてしまいましてのう」
 売り物がなくては、商売が出来ない。命があってもジェールがなければ生き地獄だ。
「どうか商品を取り戻してくだされ。出来れば、デミオーガも退治してくだされば……」
 ゲンゴは、そのためならば協力も努力も惜しまないと言い、自分が知っている限りの情報を話し始める。
 デミワイルドドッグは三匹。盗賊は男ばかり五人で、武装は安物の剣。
「それから、なにやら青く光る玉を持った若い女が一人おりました。アヨンとか呼ばれておりまして、気の強い美人でしたな……」
 彼らは品物を奪った後、長居は無用と森のほうへ逃げて行ったそうだ。
「こっそり後をつけました者がおりまして、彼奴らが森の中の廃屋に入っていくのを見たそうですじゃ」
 なんて危ないことをするんだ、とゲンゴの隣に付き添っていたA.R.O.A.職員が、目を剥いて叱りつける。
 ゲンゴは頭を下げるが、あまり反省はしていないようだ。
「へへえ、すみませぬ。しかし、ワシらとて、命と同じくらい大事な掘り出し物を奪われては、いても立ってもおられませぬ。少しでも皆様のお力になりたく……」
 と、ゲンゴは、簡単だが分かりやすい廃屋までの道のりを地図にして渡してくる。
 ウィンクルムたちが受け取ると、すぐに地図の二枚目に気づいた。二枚目は盗品リストだった。このリストに載っている品物を奪い返せということらしい。結構沢山ある……。
 さすが商人ちゃっかりしているなぁ、と感心しながらも、他に何か気になったことはないかとウィンクルムは尋ねる。
 するとゲンゴは天井を睨み、顎を撫で撫で、唸りだした。
「うぅ~む、そうですなぁ……。ワシの気のせいかも知れんが、アヨンという女の命令にデミオーガが従っているような感じでしたなぁ。
 ――あ、そうそう。そのアヨンとやら、しきりに『古い鍵を探せ』と叫んでおりました」
 オーガでない存在にデミオーガが従うなど信じがたいが、アヨンが持っていたという玉が、かの『邪眼のオーブ』だとすれば納得がいく。
 仮に彼女が『邪眼のオーブ』を所持しているとすれば、アヨンは、オーガを信奉するマントゥール教団の関係者である確率が高い。
 そして、アヨンが古い鍵を探しているというのも気になる。
 全てがマントゥール教団の意思なのであれば、更なる調査も必要だろう。
 A.R.O.A.職員はゲンゴを帰した後、依頼を担当するウィンクルムたちに、アヨンについて調査せよと付け加えるのであった。

解説

●成功条件:骨董品の奪還(デミオーガ退治は努力目標です)

●敵
 デミワイルドドッグ 3匹
  デミオーガ化した野犬です。爪や牙で攻撃します。
  嗅覚は鋭く、性格は姑息。危険な状況になれば、逃げます。

 盗賊団 5人
  剣技で戦う若い男たちで、アヨンに惚れて、言いなりになっています。
  絵に描いたようなチンピラですが、実は虚勢を張っているだけです。
  危険な状況になれば、逃げます。

 アヨン
  ヒステリックな若い金髪の美女です。盗賊団のマドンナ的存在。
  アヨンには戦闘能力がありませんが、
  邪眼のオーブで、デミオーガを操っています……?

●場所
 タブロス郊外の森にある、朽ちかけた小屋。
 廃墟でしたが、盗賊団の仮のアジトになっていて、盗品が積まれています。
 小屋の中は全員で戦うには狭く、戦闘で盗品が壊れるおそれがあります。

●用語について
 邪眼のオーブ:デミオーガを服従させることができる玉。大きさはメロンくらいで青白く光る。
 マントゥール教団:上級オーガを神と仰ぎ、世界はオーガに支配されるべきという教義のもと活動する秘密結社。その存在を知る者はまだ少ないです。

ゲームマスターより

はじめまして、あき缶です。
これからお世話になります、どうぞ宜しくお願いします。

アドベンチャーエピソード第一弾は、なんだか怪しげな香り……。

どうぞ、お気をつけて行ってらっしゃいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  宗教団体に曰くつきの一品、美女に盗賊、極めつけのデミオーガ
いやぁ、楽しいねぇ、実に楽しい

潜入は夜を待って、闇に乗じて
用意できそうなら灯りと古めかしい鍵を持参
基本は骨董品の奪還を重視
必要なら、他の子の潜入の手助けになるよう、外に誘い出し
鍵ちらつかせて見たら寄ってきてくれないかな
骨董屋の店主から譲り受けた鍵だけれど、お探しの物はひょっとしてこちら?
それっぽい事を言ってみておこう

戦闘は極力避けて、アヨンだけを狙って捕えたい所
教団の事も聞きたいし
…だけどまぁ、デミオーガ放置ってわけにも行かないし、
可能な限りは、犬の子だけでも殲滅したいねぇ
他の子に、明確な目的と方針があるなら手伝うよ
人の子は、無事でいて


雛苺 礼音(ヴァルティア・オーズ)
  【心情】
「何とも気になる事件だよなぁ。ま、深入りすると面倒そうだから、とりあえず依頼だけ済ませちゃうか?」

【行動】
最初はメンバーと離れずに団体で行動。
廃墟に到着したら、中にコッソリ忍び込んで
骨董品を運び出し取り返す。それなりに量があるので
あれば、まとめて持っていけるように袋をいくつか用意。扱いは慎重に。

【戦闘】
バレて戦闘になった際は、「古い鍵」をネタに
盗賊たちを外に誘き出す。
可能ならアヨンを人質にとり、盗賊側の隙を作る。
「悪いな、お姉さん。こっちも仕事なんでな」
動きの鈍った敵を殴るなりして昏倒させれれば、こっちのもんだ。

【邪眼のオーブ】
アヨンから奪うことで、デミオーガを操れないようにしたい。

ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  所有品
地図、大鎌、ランプ、袋

盗まれた骨董品を全て奪還する
依頼遂行は絶対
強くなる為の糧となるならば幾らでも

骨董品もだが「古い鍵」が気になる
アヨンに直接問い質す

無駄な戦闘は避け寝静まった夜を狙う
廃墟の中を注意深く様子見
足音を立てず中へ
素早く骨董品を袋に詰める
邪眼のオーブも意地でも奪う
気付かれたらアヨンの喉に鎌の切先を向け逃がさないよう腕を掴む
アヨンを人質に取り外へ出る

先に他の敵に気付かれたら一旦外へ出て戦闘態勢を取る
二手に分かれ森の中へ誘導
オーブ奪還失敗の時はドッグ狙う
ドッグの攻撃は受け流し躊躇いなく鎌を振り下ろす

台詞
ヒスキーな美女は俺好みではない
観念しろ、洗い浚い吐け
「古い鍵」とは?お前の目的は

●梟
 草木も眠る丑三つ時。
 夜行性の生き物達の光る目が、茂みの奥へと遠ざかっていく。梟が侵入者を咎めるように鳴く。キィと小動物が夜の食事を邪魔された抗議の悲鳴を上げて走り去る。
 夜の森に足を踏み入れたウィンクルム達は、ヴァレリアーノ・アレンスキーと叶の用意したランプの灯りを頼りに、話しに聞く盗賊のアジトたる廃屋へと進んでいた。
「宗教団体に曰くつきの一品、美女に盗賊、極めつけのデミオーガ……いやぁ、楽しいねぇ、実に楽しい」
 黒いハンチングのつばを下げつつ、叶はニコニコと言い、ねっとばかりに自分の精霊、桐華に視線を流した。
 鬱陶しそうに頬にかかる髪をいじりながら、桐華は眉を寄せることで回答とする。
 それを見て叶は笑みを深め、精霊の肩を軽く叩いた。
「君の素敵な活躍を期待してる☆」
 ますます桐華の眉根が寄った。
 精霊として適合したと聞いて、ナイト的なポジションを想像していたら、守る相手が年上の男だった。しかも飄々としていて、食えないタイプ。
 まだあまり自分の運命を受け入れられていない……とまではいかないが、しっくりきていない。
それにしても、鍵を探して骨董品ばかり奪っていく盗賊団……。普通ならば金品や人命を奪うだろうに、なぜ。
「何とも気になる事件だよなぁ。ま、深入りすると面倒そうだから、とりあえず依頼だけ済ませちゃうか?」
 疑問には思いつつも、雛苺 礼音は深くは考えない。重大な事件につながっていきそうな匂いがただようも、それに関わるのは別に自分じゃなくていいはずだ。
 灯りを持ってこなかった礼音は、叶やヴァレリアーノが掲げる光が頼りだ。
 単独行動せずに、一緒に動いていてよかったな、と真っ暗な森を目の当たりにして痛感する。
ゲンゴから聞いていた盗賊のアジトという廃屋には、ぼんやりと光りがあった。
「……中にいるな」
 中の構造が分からないが、こっそり忍び込んで骨董品を取り戻す礼音の作戦が、首尾よく行く可能性は低くなった。
「かなりヤバくなったら、助けに来てくれよ」
 礼音が精霊に頼む。
 精霊ヴァルティア・オーズは、面倒そうに金の瞳をちろりと神人に向け、息を吐いた。
「雛がかなりピンチになったらな」
 もちろん、そういう役目なので礼音が危なくなれば、身を挺してでも守るつもりではあるが、ヴァルティアは勢い込んで任せろという性格ではないのだ。
「雛っていうな!」
 ヴァルティアが呼ぶ苗字の略称は、なんだか男には可愛らしすぎて礼音は苦手なのだ。いつものことながら抗議すると、気が高ぶっていたか、深夜には大きすぎる声量が出てしまった。
「うるさい。気づかれる」
 冷たく至極真っ当な言葉を返される。
「……うぅ、雛じゃない……」
 ごもっとも、としょぼくれるものの、抗議は続ける礼音。
「気づかれる前提で動くべきだろうな。アヨンを人質にする作戦を採用する」
 少年だが、大人びた口調でヴァレリアーノは呟く。
 ウィンクルムソードの柄を握り、いつでも抜けるように構えながら、じりじりとヴァレリアーノは廃屋へと進んでいく。
 本当は大鎌を装備したかったが、手に入らなかった。A.R.O.A.からの支給品で我慢するしか無い。
 彼の後ろを保護者然としてアレクサンドルが続く。
 まだ武器を持っておらず、シンクロサモナーの憑依技も使えないが、徒手空拳でなんとかなるだろう。
 ヴァレリアーノが行ったので、礼音も続く。
 ヴァルティアは外で待機している。彼の隣に叶と桐華も待機している。
 叶はポケットから古びた鍵を取り出した。
「これでおびき寄せられないかな」
 何の変哲もないただの錆びた鍵だが、これでアヨン達が釣れれば御の字だ。
 桐華も忍者刀を握る。
 少し引き抜くと、ランプの光に反射して、鋭い切っ先が輝く。
「頼もしいねえ」
 軽口を叩く叶、ヴァルティアも感心したように目を瞬かせた。
「お、良い物持ってるな。なんかあったら頼む」
 自分はアレクサンドル同様武器がない。忍者刀を持っている桐華がいると、少し気は楽だ。

●釣果
 廃屋の扉は、油をもらわなくなって久しいのだろう。ガタガタキイキイときしんで開いた。
 だが、扉のすぐ側で眠りこけている盗賊たちの眠りは深いとみえる。
 扉が開いても、外気が吹き込んでも、まだ気づく様子はない。
 盗賊は五人、デミ・ワイルドドッグを抱いて暖をとりながら雑魚寝で熟睡中だ。
 そして彼らの奥に、骨董品の山に寄りかかって眠っている美女、アヨンがいた。
 骨董品もアヨンも、盗賊を越えていかねば辿りつけない。
 どれだけ静かに袋の中に骨董品をおさめても、骨董品の山に寄りかかっている以上、アヨンは必ず起きるだろう。
 状態の難しさに、ヴァレリアーノは眉を寄せる。
 アヨンを人質に取るのも、骨董品を奪うのも、覚醒した盗賊とデミ・ワイルドドッグに阻止されそうだ。
「こりゃ、鍵をネタにおびき出すしかないな」
 礼音が腹をくくる。
 骨董品は逃げない。盗賊たちをどうにかしたあとでも遅くはないはずだ。
 礼音達は一旦廃屋から出て物陰に隠れ、叶に合図を送った。
 心得たとばかりに頷いて、叶は鍵をこれみよがしに掲げ……。
「あーっ、こんなところに古い鍵がー!!」
「なんですってえ!?」
 飛び起きたアヨン。
「あんたたち、鍵は全部送ったって言ってたじゃない!!」
 とアヨンが盗賊を蹴り起こしつつ、ひっつかんで光らせる青い玉こそ、
「邪眼のオーブ……!」
 ヴァレリアーノの視線が鋭くなる。あれを奪還することこそ、彼の目的だ。
「取り返しに行きなさいよぉおっ!!」
 ヒステリックに叫ぶアヨンに、状況をまだ全部飲み込めていない盗賊たちは、言われるがまま、小屋から飛び出す。
「お、きたきたぁ!!」
 わくわくと叶は笑顔で掲げた鍵を振り回す。
「ほらほら、お探しの物はひょっとしてこちらー?」
「返せー!」
 ワンワンと吠えるデミ・ワイルドドッグと、低品質なのが目に見えてわかる剣を振りかざす盗賊が叶に殺到する。
 追いかけっこだ、楽しいねぇ、とヒョイヒョイ飛び回って、寝起きの敵を翻弄する叶は桐華にウインクを送る。
「お仕事だよ、桐華。頑張って僕を護ると良い」
「好き勝手……」
「ほら、年上は敬うものでしょう? 神人は護るものでしょう?」
 桐華の周りを駆けまわりながら、叶が朗らかに言ってのける。
「ちっ、こんな腹黒野郎ほっといても死なないさ……」
 とぶつくさ言いながらも、桐華は忍者刀を引きぬいた。
「神人?! ウ、ウィンクルム?」
 盗賊がうろたえる。
 その瞬間、廃屋の入口付近で女の悲鳴が上がった。
 アヨンだ。
「たぁすけてぇえん!!」
 愛らしく救いを求める美女に、
「悪いな、お姉さん。こっちも仕事なんでな」
 礼音がウィンクルムソードの切っ先をアヨンの喉元に押し当てながら、囁く。
「アヨンちゃん!」
 盗賊が慌てて、アヨンの方へと方向転換しようとするのを、アレクサンドルが殴り飛ばして押しとどめる。
「お相手はこちら」
 にこりと妖精族特有の優雅な微笑みを向け、もう一度アレクサンドルは固めた拳を盗賊の顎に見舞う。
 アヨンを救おうとするなら、彼女を押さえつけている礼音だけでなく、隣にいるヴァレリアーノも襲うはずだ。それは彼の精霊として、静観できない。
「離せ離せ離せええええええええええええええええ!!!!」
 盗賊の救いが得られないと分かるやいなや、狂乱と言っていいほど暴れるアヨンに、うんざりしたか苛立ったかヴァルティアは言い返す。
「ピーピーわめくな女」
「……どっちが悪役かわからないな」
 礼音はヴァルティアを咎めるでもなく肩をすくめ、はずみで首を切らないように気をつけながらアヨンを押さえつける。
 その時、アヨンのオーブが一層光った。
 叶を追い回していたデミ・ワイルドドッグが、礼音に向かって走ってくる。
 しかし、すかさず犬を追ったヴァルティアが次々蹴り飛ばした。討ち漏らした分も、ヴァレリアーノの剣が退ける。
「これは渡してもらう」
 一連の流れで、確かにオーブがデミ・オーガを操っていると悟ったヴァレリアーノは、アヨンのオーブをもぎ取る。
「キィイイイアアア! かえせええええ!!」
 アヨンは足をばたつかせるが、やはり男と女の力の差は歴然で、礼音の拘束を振り切ることは出来なかった。
「……ヒスキーな女だ。好みではない」
 ヴァレリアーノが、怒り狂う女を見上げ、ため息を吐く。
 奪ったオーブを見て、
「よし、やった。そのまま犬を操り返せ!」
 と礼音が言う。素直に、ヴァレリアーノはオーブを持ったまま念じてみる。
 ボワリと光り、礼音を狙っていたデミ・ワイルドドッグは方向転換。
 桐華や叶、アレクサンドルと戦っていた盗賊たちを襲い出す。しかし、三匹全部が盗賊を狙いに行ったのではなく、一匹は森の奥深くへと行ってしまう。
 それでも、急な犬の裏切りに盗賊は少なからず混乱した。ウィンクルムそっちのけで、犬をなんとかしようと剣を振り回す。
 デミ・ワイルドドッグから神人を護るべく行ってしまった精霊の分も、奮戦していた叶と桐華は、攻撃の手が緩んだことにほっとする。
「人の子は、無事でいて欲しいんだよね」
 殺しきれるほどの実力はまだないが、弾みというものもあるから、あまり盗賊と戦いたくない叶だ。
「桐華が美女にうつつを抜かす暇もなく、彼女が本性を露わにしてくれてよかったよ」
 叶は、ギャアギャアわめき続け、森の静寂を粉砕しているアヨンを見やる。
 心外だ、と口には出さずともありありと顔に出ている桐華に気づかず、叶は呟く。
「もし美女にでれでれしたら、拗ねて暴れて泣いちゃうつもりだったからね」
 そんな大人は自分でも嫌だなぁと苦笑し、叶は袋を取り出し、廃屋へと進む。
「じゃ、僕は骨董品奪還してくるから、あとは頼んだよ。君は戦闘がお仕事でしょ。あ、あと他の子のお手伝い、してくれると嬉しいな」
 今日の仕事は、盗賊の退治ではなく骨董品をゲンゴ爺さんに返すことだ。
 犬と戦うことに必死な盗賊には、ウィンクルムに刃を向ける余裕は当面無いだろう。もし余裕ができたとしても、もう精霊に一任していいくらい消耗しているはずだ。
 一方的に指示し、叶はスタスタ行ってしまった。
 はぁとため息を吐き、桐華は神人を見送る。
 冷めた目で桐華は攻防を見ていたが、同士討ちも限界だったか、盗賊たちは森の外へと逃げていった。それを追おうとするデミ・ワイルドドッグを、忍者刀が仕留める。
 盗賊がだいぶ削ってくれたから、デミ・オーガとは思えないほどあっさりとトドメを指すことが出来た。
 髪をかきあげ、桐華は任務完了とばかりに刃を鞘へ収める。

●真
 うまくデミ・ワイルドドッグを操れなかったヴァレリアーノは、困惑し、オーブを見下ろしていた。
「コツがいるのか? それとも……」
 これは『本物』の『邪眼のオーブ』ではないのか……。
「なにしてくれんのよぉおおお!!」
 絶叫して、またアヨンが足をぶん回した拍子に、ヴァレリアーノは蹴り飛ばされ、手に持っていたオーブは大木にぶつかって粉々になってしまった。
「あはははは、いい気味ぃいい!!」
 アヨンは美しい容姿がすっかり台無しだ。
 頼りにしていたものは全て失ってしまった。アヨンがヤケを起こしているのもしかたなかろう。
「アーノ! すまない、間に合わなかった」
 足早に、倒れ伏す少年にアレクサンドルが近寄り、抱きかかえるように助け起こす。
「オーブが…………」
 服は汚したが、特にダメージは受けていないヴァレリアーノは、痛がる様子もなく歯噛みしながら立ち上がった。
 服を叩きながら、少年は気を取り直す。
「まぁいい。オーブは奪った。次に移ろう」
「あ、骨董品は返してもらうよー」
 ご苦労とばかりに、戸口付近で暴れるアヨンを押さえている礼音達に手を振って、叶が廃屋の中に入っていく。
「ハン! もうあの中はゴミばっかよ! ゴミ回収ならご自由にっ!」
 アヨンはふてくされ、涙目でうずくまる。
「ゴミばっか……?」 
 骨董品自体には用事がないのだろうか。
 もう暴れないと分かって、拘束していた力を抜いた礼音が聞き咎める。暴れる女を抑え続けて、すっかり疲れてしまった腕を振り振り、礼音はアヨンを見下ろす。
 彼女の行動はやはり裏があるのだろうか。ややこしい事態の前触れなのだろうか。
(面倒そうだな)
 礼音は袋を広げ、叶と一緒に骨董品の奪還作業に加わることにした。
 アヨン自体は戦闘能力がないに等しい。放置していても問題ないだろう。
 それに、ヴァレリアーノが尋問したい様子だ。ならば適材適所、彼らに任せるのがいい。
 念のため、ヴァルティアにアヨンの監視を頼み、礼音は廃屋へ足を踏み入れる。
 物品は、骨董品だ。価値はわからないが、何かあってトラブルになるのは避けたい。
 叶と礼音は慎重に袋へ宝物だかガラクタだか分からない品々を入れていた。
「……おかしいな」
「ん?」
 壺、皿、絵画に巻物、木工細工……。多岐にわたる骨董品の中に、ことごとく鍵がない。
 奪われた品々のリストには鍵らしき物品名もあるのに。
「さっき、送ったってアヨンが言ってたな……。もう鍵はどこかに移動させてしまったのかな」
「どこかって、どこだよ……」
 顔を見合わせる二人。マントゥール教団……という単語が脳裏をよぎる。
 教団が鍵を探しているならば、何か理由があるはずだ。
 それも、決していい結果を産まない理由が――。

●結
 精霊たちに監視され、すっかり抵抗の意思を失ったアヨンに、ヴァレリアーノは詰問を始めた。
「観念しろ、洗いざらい吐け」
「うるっさいわね、クソガキ」
 禁句を言われ、ヴァレリアーノが殺意に近い怒りを覚えた瞬間。
「マントゥール教団の一味なのかね?」
 アレクサンドルの穏やかな口調での質問が遮った。
 食えないやつだ、と怒りをそらされたヴァレリアーノは、精霊を睨む。
「で? ……だったら何」
 アヨンからはそっけない肯定。
「教団のことを教えてもらおうか?」
「ハッ、それくらい自分で調べたらぁ?」
 捨て鉢な態度でアヨンは鼻を鳴らす。もう殺されてもいいくらいのヤケクソ状態なのだ。
「古い鍵とは? お前の目的は?」
 ヴァレリアーノの質問が続く。
「集めるように言われただけ。なんでもいいから古い鍵を集めろって。以上~」
 だめだ、これ以上の情報は本当に彼女も知らないのだろう。
 どれだけ脅したり誘導尋問をかけたりしても、アヨンはこれ以上の情報を口にしなかった。
 彼女は、いわゆるトカゲの尻尾。切り捨てられる前提で使われていた人材ということだろう。
「リストの骨董品はほとんど取り返したよ。鍵はなかったけどね」
 礼音達が大きな袋を担いで、出てくる。
 大量にあったらしく、袋はあと三つほどあった。精霊たちも袋を担う。
「……」
 ヴァレリアーノは自分の剣とアヨンを交互に眺めた。
 アヨンは鋭いウィンクルムソードの切っ先を、涙目で睨みつけている。
 情報を出しきった彼女はもう用済みだ。殺してしまってもいいだろう。
「……やめてあげよう」
 しかし、叶がヴァレリアーノの肩に手を置き、ゆっくりと頭を振ってみせた。
「人の子には無事でいてほしいんだよ」
「……」
 確かに殺す理由もない。ヴァレリアーノは剣を収めると、
「どこへなりとも行け」
 とアヨンに言い捨てて、森を抜けるべく歩き出す。
 彼を先頭に、袋を担いだ残りのウィンクルムも街への道を辿り出した。
「……鍵はなかったけれども、ほぼすべて取り返したのだから、成功と言っていいだろう。商人にピロシキを振る舞ってもらえるよう頼んでみようね」
 アレクサンドルがヴァレリアーノをねぎらうように声をかける。
「……ふん」
 好物の名前を出され、歳相応に心が踊ったが、そんな様子はおくびにも出さずにヴァレリアーノはそっぽを向いた。

依頼結果:成功
MVP

名前:ヴァレリアーノ・アレンスキー
呼び名:アリョーシカ、アーノ 
  名前:アレクサンドル
呼び名:サーシャ

 

エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 02月16日
出発日 02月25日 00:00
予定納品日 03月07日

参加者

会議室

  • [11]雛苺 礼音

    2014/02/24-22:26 

    んー、OK。それもそうだな……最初の単独行動は避けよう。

    俺も、外に誘き出す案として、叶の「古い鍵」の情報を持ちだすって案は名案だと思う。
    鍵は適当に用意して、それをちらつかせてみる感じで行こうか。

    ああ。人質を取った際のデミワイルドドックへの対処は、
    ヴァルティアに頼むよ。ジョブ的にも、そういうのは得意そうだしな。

  • カナは初めましてだ。協力願う。
    目的はあくまで骨董品奪還だな。
    アヨン人質については異議がないからその方向で。

    敵の本拠地に一人で忍び込むのは俺は賛成しかねるな。
    敵の人数が多い上に何かあった時の対処を考えると少しリスキーだ。
    廃墟に近づくまで皆で一緒にいた方がいいだろう。
    外での戦闘になった場合、二手に分かれて戦闘するのは良いと思う。

    カナの「古い鍵」らしい別の鍵を餌に外へ誘き出す意見は良案だな。
    廃墟から出てこない場合は是非やって欲しい。

    アヨンを人質に取った際にドッグが襲ってきた場合は、
    礼音の精霊に取り押さえてもらえれば大分助かる。

    あと邪眼のオーブが奪えなかった場合、俺は盗賊よりドッグの対処を優先する。

  • [9]雛苺 礼音

    2014/02/23-20:11 

    連投失礼。

    アヨンは精霊に捕まえさせるか、俺でも油断しなければ取り押さえられると思う。
    邪眼のオーブは……奪って、ちゃっちゃと犬を操れればいいけど、
    変なコツとか必要だったら難しいかもなぁ。

    オーブの遠隔操作能力の可能性も考慮して、アヨンを取り押さえる人以外に
    デミワイルドドックが襲ってきたときに対処できる精霊も
    取り押さえる人の近くにいた方がいいかな。

  • [8]雛苺 礼音

    2014/02/23-20:08 

    カナは初めまして。今回はよろしく頼む。

    うん、骨董品の奪還に重点を置いた作戦で行こう。

    こちらの存在が知れて戦闘になった場合のために、
    アヨンを人質に取ることも考えよう。
    敵側にこちらの存在がバレる前に、アヨンがいる位置を事前に把握しておくとか。
    いざってときに、すぐ捕まえれるようにしておいた方がいい。
    何なら1人くらい、寝所にコッソリ忍び込んでおくでもいいし……
    盗賊とはいえ、女性相手に外道過ぎるか?まー、依頼だし仕方ないよな。

  • [7]叶

    2014/02/22-13:08 

    はーい続けてごめんねぇ。
    アヨンを人質に取れたら良いなぁってのは同意。
    調べろとも言われてるんだし、身柄を確保できるのは良いよね。
    オーブちょろまかして、犬の子従えられれば、盗賊も迂闊に仕掛けてこれないだろうし、
    仕掛けてきても相打ちで数減って万々歳じゃない。

    …ま、さすがに悪人でも人の子が死んじゃうのは後味悪いし、
    お互い程々に済めば、幸いなんだけどねぇ。

  • [6]叶

    2014/02/22-13:04 

    や。遅まきながら、混ざらせて貰うよ。カナって呼んであーげて。

    さてさてえぇと、うん、骨董品の奪還がそもそもの依頼なんだし、そこに集中するので賛成。
    こっそり潜入できたらとってもありがたいけど…
    戦闘も想定して、かつ、盗品周囲を手薄にしたいし、やっぱり廃墟の外には出て貰いたいかな。
    あちらさんは「古い鍵」とやらを探してるんだし、それっぽい感じの鍵をちらつかせたりすれば、
    誘き出すのも可能なんじゃないかなーとか、思ってる。

  • 確かに雑魚とは言え、敵の数が多すぎる。
    俺も骨董品だけ奪還する方向へなるべく持っていきたい。

    ただ、戦闘になる可能性の方が高いとは見てる。
    アヨンを人質に取るって手は良案だと思う。
    盗賊共の気をひきつけるのと身動き取れなくさせるにはもってこいだろう。
    邪眼のオーブは奪っておきたい。
    そしたらドッグもこちらの味方につけられるしな。
    骨董品奪還の際、隙あらば邪眼のオーブも奪うことも書いておく。
    邪眼のオーブが奪えなかった場合はドッグ殲滅に動く。

    廃墟に近付けない場合は森や暗闇を利用しての戦闘か。腕が鳴る。
    この場合は二手に分かれよう。

  • [4]雛苺 礼音

    2014/02/21-20:59 

    連投失礼。文字数が足りなかった。

    戦闘になったら、うーん……そうだなあ、外に誘き出すのは必須として、
    うまいことアヨンから、邪眼のオーブとやらを奪い取った後、彼女を人質にとって、
    「彼女の命が惜しくば骨董品をすべて元あった場所に返せ!」的なことを言うとか。
    盗賊共はアヨンに惚れてるらしいし? ……無理があるかなぁ。
    彼女に気を取られた盗賊共を、後ろから殴って昏倒させてもいいかもしれない。
    戦うならば、確実に敵の数を減らしたい。

    しっかり守られていて近づけない状況の場合は、
    敵がバラけるように誘導してから、
    夜闇と森の木を利用して影から奇襲するのも良さそうだ。

  • [3]雛苺 礼音

    2014/02/21-20:59 

    雛苺礼音だ。よろしくな。

    敵の数は、デミワイルドドック3匹、盗賊団5人、アヨンか。
    強さは別として、今のところ、こちらの2倍以上の敵数なんだな。

    今の人員じゃ、デミオーガや盗賊全員を相手するのは難しそうだ。
    夜にこっそり忍び込んで、骨董品だけ奪還したいところだな。

  • Добрый…今晩はだな。
    ヴァレリアーノ・アレンスキーだ。名を呼びたければ好きに呼べ。
    俺はあくまで依頼された骨董品の奪還に尽力を尽くす。
    無駄な戦闘は避けるため、夜に廃墟へ向かうつもりだ。
    だが、盗賊共がこちらに手出しをするならば話は別だ。

    廃墟は狭い。故にもし盗賊共に気付かれた場合は外に誘き出した方が良さそうだな。
    現状、二人しかいないから何とかなるかもしれないが、骨董品が壊れては困る。
    あと、自分の身は自分で守れ。俺が心配する必要はないと思うが(ふっ


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