イチイには姉がいた。美しく賢く、そして強い魔力を持ち、『神人に最も近い娘』と評判だった。 両親はもとより誰もが姉を賞賛し、尊敬し、崇拝し、その反対に、いつもイチイは放っておかれていた。 その日は姉の14歳の誕生日だった。 姉が欲しがった月光草の花をようやく手に入れたのは、もう真夜中近くになっていた。何度も転び、ボロボロになりながらも走って家へ急いだ。姉の喜ぶ顔を思い浮かべ、扉を開けた途端、むせかえる血の臭いがイチイに押し寄せた。 何かを引きちぎる音。咀嚼音。獣の唸り声。興奮した荒い息。そのときやにわに雲が晴れ、部屋に月明かりが差し込んだ。 『オーガ!』イチイの叫び声はオーガの咆哮にかき消された。まるで新しい玩具を見つけたように、オーガが何かをポイと投げ捨てた。 壊れた人形のように転がった父と母を目にした瞬間、イチイの視界が真っ赤に染まった…。
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